2カ月後。
ランチタイムの終わりどきに「麺や マナブ」の行列に並ぶ貴音の姿があった。
「7…8…あ、どうも。いつもありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
すっかり顔なじみになった店員と挨拶を交わす。
「本日は間に合いましたでしょうか?」
「ギリギリ大丈夫です。もう少し早く来ていただければ余裕をもってご案内できるんですが」
「そうしたいのは山々なのですが……仕事の都合でどうしてもこの時間になってしまうもので」
店員は軽く頭を下げ、もう少々お待ちください、と言い残して店に戻った。
店の換気扇から漏れ出す玉ねぎの芳ばしい香りを吸い込みながら、貴音はこの2カ月で起きた出来事を思い出す。
ひとつは、水木喜太郎の失踪。
喜太郎は妻と離婚したのち複数の愛人を抱えていたが、そのうちの何人かがDVの被害を訴えた。
しかし当の本人は裁判所の呼び出しに一切応じず、ほどなくしていくつかの週刊誌が「2カ月ほど前から行方がわからなくなっている」と報じた。
仮にこのまま姿をくらまし続けるのであれば原告の主張がほぼ認められることになり、大企業の御曹司として大手を振って歩くことは二度とできなくなるだろう。
もうひとつは、貴音の出演していたドラマの成功。
特に貴音が演じた巫女は、おぞましい恐怖を振り撒きながらも何故か目が離せなくなる妖しさ、そして普段の貴音とのギャップが大いに話題になった。
中でも評判が良かったのは『生贄として捧げられた人間の血で髪を梳かす』シーンで、これはもともと血を盃に入れて啜るだけだったものを貴音の提案で差し替えたものである。
無論、貴音がなぜそのような着想に至ったのかを知るものはいない。
(ふふっ…)
思わず笑みがこぼれる。
(あのような目に遭いながらもちゃっかりそれを利用して…わたくしも随分と悪い女になったものです)
あの日、地下駐車場で待っていたのは普通の代行運転業者で、鬼龍や龍星のことはなにも知らなかった。
鬼龍に渡された電話番号もすでに繋がらなくなっていた。
2人で食事をした中華レストランはもぬけの殻で、近所の住人から店主が夜逃げしたのだと教えられた。
以来、貴音はスケジュールに調整が効く日には決まってこの時間、このラーメン屋を訪れている。
――良い目だ。俺を畏れているな。
――それでいい。お前には地獄で生きる素質がないことの証拠だ。
(いいえ。わたくしは畏れたのではなく、魅せられたのです。あなたの瞳に宿る“悪”に)
「お次のお客様、どうぞー」
「はい。待ちかねました」
店に入ろうととした貴音だが、ふと背後に気配を感じ、後ろを振り返る。
人影はなかった。
(今、たしかに…誰かがいたはずなのですが)
優れた格闘家は、通り過ぎるだけでその場所に自らの力の痕跡である“
貴音にとって、そのような格闘家は1人しか心当たりがない。
(また、お会いできるでしょうか?)
答えるものは、ない。
「お客様―?」
「あ、すぐ参ります」
のれんをくぐり、貴音は醤油の匂いが立ちこめる日常へと帰っていった。
鬼龍をメインにした二次創作を作るぞ!と思い立ったはいいものの、当の本人は猿展開の連続による弱体化が激しくポッと出のキャラ相手に大苦戦するくらい弱くなっているため、どういう役割を持たせるべきか大いに悩むハメに…。
最終的に、せっかく二次創作やるのならカッコイイキャラが書きたい!という欲求に素直に従うべきと判断し、TOUGH初期や外伝の頃の鬼龍をベースにとことん美化してお話を考えることにしました。
書いている最中もあれこれ悩むことが多かったのですが、そんなときは猿先生に倣い「えーいなにをゴチャゴチャ考えとるんじゃっ!ノリと勢いでどうにでもなるわっ」と切り替えることで乗り切ることができました。やはり40年以上漫画家を続けている方の手法は参考になります。
また、作中に出した落花生油のラーメンは昔好きで通っていた店の記憶がもとになっています。
現在は閉店して幻の味になっているとか……人生の悲哀を感じますね。
冒頭で触れたアイマスOFAですが、なぜ今まで放置していたんだと後悔するくらい面白いです。まあかつての私がDLCにお金使うことに抵抗がある人間だったからなのですが。
真美や律子等、765プロには他にも好きなキャラが多いので機会があればまたアイマス二次創作に取り組んでみたいですね。