秘密兵器鋼鉄魔法少女くん   作:久夢道生

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人工知能はシャイになれるのか

「ん、姉さん、会議終わったの」

「うん、今さっき終わったとこぉ。パソコン使う?」

「大丈夫、そこに座ってていいよ」

「わかったぁ、それじゃあ、もうちょっと作業するねぇ」

 三岳の姉妹、美月と桜は、共に東の1地区担当の魔法少女のために用意された寮にいた。部屋の主である美月はともかくとして、元々中央で研究員として働く桜はここでは場違いともいえる。

 もちろん、桜は何の理由もなしに美月の家に泊まり込んでいるわけではない。今、トーキア政府の中で最も熱い話題である仮称“鋼鉄”、すなわち、魔法少女とトラジストの戦いに現れるロボット軍団の正体を探るため、情報の最前線である防衛隊についていくためである。

 この動きは独断ではあるものの、政府の調査会と遠隔で情報交換をしているため、実質公認のようなものだった。

「会議、どうだった?」

「それがねぇ、もっと面白くなりそうなんだよぉ」

「何があったの?」

 美月は、つい先日発生した極めて小規模なトラジストの群れの掃討に参加していたが、その事後処理の中でロボットと接触を果たしていた人がいることは姉から聞かされるまで認知していなかった。そのため、今回の接触がどれだけイレギュラーかもまだ把握していない。

「まぁまぁ、説明する前にこれまでのロボット軍団のことを復習してみようかぁ。まず、これまでロボットが戦場に現れる時はどんな風だったぁ?」

「上空からの落下、それも複数。着地するまでは回避行動は取らない」

「そうだねぇ、しっかり地に足を着けてから、すごい勢いで大暴れする。じゃあ、掃討が終わったらぁ?」

「基本的にはすぐに上空に飛び上がる」

「うんうん、あのロボットには飛行機能が備わっているように見えないから、魔法としての機能の一環だって言われているねぇ。それじゃあ最後、コミュニケーションはぁ?」

「成功したことはない。一応、北のほうに現れた時、余裕のあるチームが意思疎通を図ったけど、無視されたんだよね」

「そうそう。だから、今までロボットは出撃、殲滅、帰還の三つのサイクルのみを行う魔法だと解釈されてきたわけだねぇ。実際、いくつかのプロセスを欠かさず行うことで発動したりぃ、機能したりする魔法はそんなに珍しいものじゃないわけだしぃ。美月の魔法もそうでしょぉ」

「そうだね」

 美月の魔法は視界に入れた物体を自在に変形させる能力である。これを利用することでそばにあるがれきを壁にして道を封鎖したり、或いはトラジストを直接変形させて引きちぎったりができるわけだが、この能力を行使するためには、物体を視界に入れて、その中から変形させたい物体に注目して、変形した後の形をイメージするという三つのプロセスがある。

 また、魔法を行使するために条件が求められる場合もあれば、魔法の効果そのものに複数の段階が存在する場合もある。それこそこれまでロボットに当てはまるとされてきた出撃、殲滅、帰還の三段階は、召喚を行う魔法ではもっともスタンダードな条件である。

 ここまで考えた時点で、美月は桜が言わんとすることを察した。

「……そうじゃなかったってこと?」

「あたりぃ、そこまで分かったところで本題に入ろっかぁ」

 桜は座り方を整える。

「今回の接触は今までとはかなり異なるんだぁ。まず、現れたロボットは一体だけでぇ。しかも走って来て走って帰ったっていうじゃないかぁ」

 しかもだよぉ、と続ける。

「会話もできてぇ、おまけにプレゼントまで渡せたって言うんだからぁ、もう一気に進展してびっくりだよぉ」

 それまでの認識とはまるっきり違うロボットの行動に、美月も驚いた。

「それって本当?」

「映像も残ってるから確実に本物だねぇ。もっとも、会話というよりは呟いた程度のものだったらしいけどぉ、どちらにしろロボットは喋ることができるということが重要なわけでぇ」

「つまり、ロボットはサイクルに基づいて動いていない?」

「走って来るところまではまだかろうじて説明がつくけどぉ、それ以降は無理だねぇ。プロセスに則って行動するということはぁ、すなわちそれ以外の行動はしないってことなんだけどぉ、そしたら話すこともしないだろうしぃ、プレゼントにも反応しないだろうしぃ、その場から歩いて立ち去る必要もないわけだぁ。帰るならとっとと飛び上がってければいいからねぇ」

「ということは、魔法少女が直接操作している?」

「かもしれないねぇ。まぁ、今はまだ断定はできないけどねぇ」

 と、その時、桜のお腹が、くぅ、と鳴いた。一瞬二人が余韻に囚われる。先にはっと気づいた桜が軽く咳払いをすると、

「あぁ、ともかくぅ、次把握すべきことはロボットが会話を行う条件を知ることだねぇ。そうすればロボットからいろんな情報を直接聞き出すことができるからねぇ。……それじゃあ、ご飯にしよっかぁ」

「うん、何がいい?」

「肉じゃがぁ」

「……わかった、じゃあ、ちょっと待ってて」

「はぁい」

 なお、この寮には食堂が備え付けになっており、いつでも食べにいけるのだが、美月は桜が来てからできる限り自炊するようにしていた。

 彼女はそれについて他人に尋ねられると、姉さんが食べたいものが食堂にないかもしれないからとか、顔見知りだらけの寮に急に見知らぬ人が現れると気まずいからとか、様々なことを言うのだが、それを口に出すときは決まって焦ったような物言いになるのであった。

 

 

 

 現在人類の生存圏として残っている都市はそれぞれ領地奪還についての指針を持っているが、このうち、もっとも保守的な指針を示しているのがトーキアである。更なる土地の確保よりも、今ある土地を確実に守ることを優先するため、都市の拡大は緩やかなものである。

 ただ、もっと加速してできるだけ早く“日本”を取り戻すべきだという主張は根強い。すでに欧州でトラジストが初めて確認されてからかなりの年月が経過しており、それ以前の生活を知る世代の人々が高齢化を迎えているためである。

 そのため、間に合わなくなる前に自分の故郷に戻りたいといった願いや、混乱の中で失われていった技術や文化を早く取り戻すために土地的な余裕を確保するべきという意見が切実性を増してきており、それを政府側も認識し始めたのか、近年になって奪還作戦の頻度は上がり始めている。

 

 

 

「……なんですかね、あれ」

「帽子だな」

 障壁の外、がれきの街の外れに、ロボットを見上げる銀髪少女とぬいぐるみがいた。

「……呼び出した時にはありませんでしたよね」

「そうだな」

 二人が見上げるロボットのてっぺんには、用意した覚えも見た覚えもない帽子が引っかかっていた。

「拾ったんでしょうかね」

「わざわざそんなことするだろうか……うーむ」

 そもそも、このロボットはある種の意思表示、すなわち、どんなに小規模な戦闘においてもロボット軍団は助太刀にやってくるということを示すために、一体だけ呼び出して送り込んだものだった。

 つまり、大樹とマートンの意思を反映するならば、このロボットは一直線に魔法少女たちのもとへ走り、少しだけ顔を見せてすぐトンズラするだけでいいのである。

「とは言え、大樹にできることは人工知能を持ったロボットを呼び出すだけで、コントロールはできないからな。実際、むこうでどんな状況になっていたかは推測するしかない。魔法少女から距離を取るために必要なものだったとかもあるだろう」

「それはそうですけど、でも、帽子が逃げるために必要な状況ってありますかね?」

「あー、ないだろうな、少なくともこの巨体じゃあ、先っちょにひっかけるだけの帽子は何の役にも立たないだろう」

「ちょっと見てみましょうか、マートンさん、お願いします」

「よし、わかった」

 そう言ってマートンは高く浮かび上がり、帽子に届く位置まで近づいた。

「それじゃあ、失礼して……」

 そう言いながらマートンがさらに近づいたその時、ロボットが突如ボディを後ろにそらし、そのままの勢いでバックステップをした。

「あー……」

「えっと……」

 ついさっきまで微動だにしなかったロボットがいきなり見せた行動に、二人は呆気に取られていた。

「……気を取り直して」

 再びマートンが帽子に近づくと、今度は地面を滑るようなサイドステップで再び距離を開けられる。

 再び近づく、間に手を差し込まれ、近づけなくなる。

 再び近づく、寄った分だけ後ろに下がり、そもそもの接近を許さない。

 しびれを切らして突貫する。ボディを半身にそらし、ギリギリ触れない程度に避ける。

 折り返してもう一度突貫。帽子を手で抑えながらその場でしゃがみ、頭上を通り過ぎて放物線を描いて落下していくぬいぐるみを静観する。

「何がしたいんだ! まったく!」

「マートンさん、落ち着いてください! とりあえず帽子は諦めましょう!」

 おちょくられていると感じていらだちを募らせたぬいぐるみを抱きしめて宥める銀髪少女であった。

「取られたくないんだったら言えばいいだろう! 黙ってちゃなんにも分からないだろう!」

 と、マートンは叫ぶ。ロボットは直立不動でだんまりである。

「そういえば、ロボット単体が何か言ってるの聞いたことないな……」

 と、このやり取りを見ていた大樹は呟く。確かに、彼の耳にはロボットが戦闘に参加する時と離脱する時にアナウンスのような音声が聞こえることはあったものの、特定のロボットが発した声は聞いたことがなかった。

「ふー、確かに、ロボット同士でコミュニケーションをしているところも見たことがないな」

 ようやく冷静になったマートンが付け足す。やがて二人は最も合理的な結論にたどり着く。

「まあ、この様子を見るに、そもそも発声機能自体がないのだろう」

「そうですね。会話出来たらコントロールもできそうだったんですけどね。それで、あの帽子は何だったんでしょう」

「わからない、としか言えないな。奪われることに抵抗を見せるのも含めて不思議だが、我々のプランにはさして影響はないだろう」

「それじゃ、帰りますか。この後はぐっすり寝ますよぉ」

「居眠り運転はするなよ、ともかくお疲れさまだな」

 そう言って大樹はマートンをリュックに入れて電動バイクにまたがり、目の前にある階段を降りて地下鉄駅へと向かった。

 それを見届けた帽子付きのロボットは、改めて帽子をかぶりなおすと、空へと飛び上がっていった。

 

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