秘密兵器鋼鉄魔法少女くん   作:久夢道生

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蜘蛛の糸の先端に釣り針をつける

 真夜中の防衛隊東の1地区寮の一部屋、姉の桜が来たためにだいぶ狭くなった部屋で、三岳美月はパソコンに向かう姉の背中を見つめながら思案していた。

「ふぃ~、報告書終わりぃ~……ん、美月、どうしたのぉ? そんなところに突っ立ってぇ」

「……ロボットの事なんだけど」

「何か仮説でも思いついたぁ?」

「いや、そうじゃなくて、ただの思い付きだから……」

「思い付きでも何でもいいから言ってみてほしいなぁ。何かしら刺激になるかもしれないからねぇ」

「……正直、今の状況ならもっと詳しい人に聞いたほうが早いかなって」

「それはロボット工学者を呼べってことかな? 一応、中央の調査メンバーには入ってるけどぉ」

「そうじゃない。多分あのロボットに関してだけは一番詳しいはずの人」

「多分? 面識はあるのかい?」

「ない、けど、いなきゃおかしい立場……」

「……なるほどねぇ、言いたいことはわかったよぉ。でもどうやってぇ?」

「人手と、中央の協力と、あと茜さんとミナさんがいれば、たぶんできるはず」

「ふぅん、具体的にはぁ?」

「それは──」

 二人の話は日付が変わるころまで続き、やってみる価値はあるだろうということでまとまった。

 

 

 

 唐突な話になるが、今の大樹の外見は世間の価値基準に照らし合わせると“かわいい”という分類になる。どれくらいかといった話になると個人個人に差が生じるものの、中には銀髪でちょっと背が低めでぱっと見おとなしそうなかわいい少女が一番という人もいるだろう。

 そして、そういった好みの外見をもつ人に出会った時、たとえ面識がなかったとしても直接声をかけて、何らかの関係性を持とうとするヤカラもいる。すなわち、ナンパである。

「だいじょぶだってお嬢ちゃん。ただちょっと近くのファミレスで話そうってだけなんだからさ」

「えっと、その……」

「もしかしてお金ない? 奢ろっか?」

 大樹は人ごみの中、突然見知らぬ男に話しかけられたことにより、混乱に陥っていた。ただ自分は買い物に行こうと駅に来ただけなのにといったあまり意味のない愚痴と、どうすればここを切り抜けられるのかという思考がごちゃ混ぜになって脳を縛り付けていた。

 このように自分一人での解決が難しい状態の時、一番手っ取り早い打開策は冷静な第三者の介入であるのだが、赤の他人を助けに行くのは精神的な壁が大きい。

 なので、願うべきは顔見知りが通りすがる事なのだが、過去の面影のない今の姿では旧友が反応することはないだろう。

 結論として、大樹が頼れる人は片手ですら余るほどしかいなかった。

「あら、遅いと思ったら、こんなところにいたのね。ほら、とっとと行くわよ」

 そして、一時の幸運として──普段の彼であれば、とんでもない不運として──今現在の彼を知る人と会えたのである。

「ちょっと待てよ、今俺はこの子と話してんの」

「知らないわよ、そんなこと。待ち合わせしているから邪魔しないで頂戴」

 噓を交え強引に会話を打ち切りながら大樹の手を引っ張り、人ごみをうまく壁にして男を引き離すその少女の顔には、確かに覚えがあった。

「えっと、ありがとうございます。大沢さん」

「千代でいいわよ、ゆり」

 以前、迷子と勘違いされた時以来の大沢千代である。

「それで、ゆりは今日何しに行くのかしら?」

「買い物です。少し甘いものでも買おうかなって」

「へぇ、それじゃあ時間はあるわね」

「まぁ、そうですけど……」

 残念なことに、まだ大樹は混乱していた。今の彼には蜘蛛の糸が釣り糸にすり替わったことに気づくだけの余裕は無かったのである。

「晴香とカフェに行くって約束したの。せっかくだからゆりとも話がしたいわ」

「はい……はい?」

 

 頭の中で多少の整理がついたころには、自分が結構まずい状況に置かれていることもなんとなく理解した。時間があると自分で認めてしまった以上、早々に打ち切って退散するのも不自然だ。

 とりあえず今のところは挟まれないように注意しつつ二人の少女の仲睦まじい様子をできる限り引き出すことを目標にする。

「ゆりちゃん、久しぶりだね!」

「……はい、お久しぶりです」

 苦いのが得意ではないからと頼んだオレンジジュースを口に含みながら、対面に座る新垣晴香に答えを返す。彼をここまで案内した千代は晴香の隣だ。

「それにしてもナンパかぁ。ゆりちゃん、大丈夫だった?」

「大丈夫でした。千代さんに助けられたのもあって、無理に触られたとかはないです」

「たじたじだったのよ。放っておけなかったわ」

 とりあえず今の内は会話に乗る。そしてちょうど良さそうな時に二人の思い出話に誘導するのだと考えていた。

「ところで、ゆりちゃん」

「なんでしょう」

「ゆりちゃんってスマホ持ってるの?」

「そうですね……」

 しかし、返答しようとしたところで、先手を取られたことに感づいた。

 もし、ここで馬鹿正直に返事をしてしまったら、何らかの連絡先を交換しようと持ち掛けてくるだろう。そしてそのまま引きずられるようにして二人の関係性に組み込まれてしまうに違いない。

 一応、あえて取り込まれて百合を間近で見ることができる友人ポジションを目指す道筋もあるかもしれないが、失敗して仲良し三人組になるのは避けたいものだったし、何よりそんな打算だけでお近づきになるのは相手にも失礼だという心情があった。

「えっと、持ってないです。親にそういうのはもう少し大人になってからって言われていますから」

 とりあえずは見た目相応の家庭環境を作り上げてごまかすことにした。

「そっかぁ、それじゃあ今日は百合ちゃんのことたくさん聞かせて!」

「……はい、わかりました」

 どうせ架空の“花沢ゆり”なのだから問題はないと思い、その提案を受け入れた。

 

「そうなんですよ……妹は飴を見つけると自分で食べる前にわざわざ……私に確認しに来るんです。“ねぇね、食べていい?”って」

「へぇー、仲がいいのね」

「そう、ですね……」

 矛盾がないように気を配りながら話すために、とぎれとぎれになる大樹の言葉を、二人は急かすことなく聞き入れてくれている。

 大樹自身もまた、時々交える本当の過去話も、ほとんどを占める架空の作り話も、興味を持って受け止めてくれるのをうれしく、そして少し申し訳なく感じていた。

「お待たせしました。ストロベリーパフェと、チーズパフェ、ショートケーキになります」

 そこに店員がやってきて、甘味を運んできた。千代がストロベリーパフェ、晴香がチーズパフェ、大樹がショートケーキを、それぞれ頼んでいた。

「あ、ありがとうございます」

「……ショートケーキはこっちです」

「ごゆっくりどうぞ~」

 千代と晴香の前にパフェが、大樹の前にケーキが並ぶ。三人それぞれ手に食器を持つと、そろっていただきますと言った。

 早速ケーキの先端を切り、小さく開けた自身の口に運ぶ。しっかりと口を閉じて口の中に広がる甘さを堪能してからふと対面の二人を見やり、

「「んむ」」

 目の前で互いが互いのスプーンを咥えているのを確認して、

「ん、美味しいわね」

「次苺もらうね」

「ンぐッッ」

 むせた。

「ゆりちゃん、大丈夫?」

「平気です……むせただけです……」

「水持ってくるわね」

「大丈夫です……」

 手元のオレンジジュースをグイっと飲み干して、大きく息を吐く。そして、そのまま二人に尋ねた。

「お二人は、いつもこれを?」

「そうね、一緒に食べに行くときはたいてい半分交換するわ」

「っ……ふぅー、でも、わざわざ相手のスプーンを使う必要ないじゃないですか。ほら、間接とはいえ……」

 当たり前のように距離感の近さを見せびらかしてくる二人を前にして、大樹の化けの皮は少しづつはがれ始めていた。しかし、はがれてしまえばこれまでの努力が意味のない者になってしまうため、必死になって取り繕っているのである。

「だって、わざわざ持ち替えるのも不便だからね」

「もうずっとやってきたんだから、今更どうってことないわ」

「うぅ……常識……!」

 この話題はまずい。そう考えた大樹は別の話題を探す。そうして目に留まったのは、晴香の髪に絡んだリボンであった。

「ところで晴香さん、その髪のリボンって……」

「ん? ヘアリボンの事?」

「はい、そういうのってどこで買うんですか?」

「えーと、ショッピングモールの……どの店で買ったのかな、千代ちゃん」

「えっ、晴香さんが買ったんじゃないんですか?」

「私が買ったのよ。ちなみに三階の西側ね。今度案内してあげる」

「……それは何か記念日の贈り物とか?」

「別にそういうわけではないわ。ただ常日頃からそういう遊びをしているだけよ」

「遊び……ですか?」

「ええ、二人並んであれがいいこれがいいって話すのも悪くないけど、自分の買うもの全部相手に任せたほうが面白いでしょ? ね、晴香」

「うん、千代ちゃんはいいセンスしてるから、毎回楽しみなんだ!」

 それがとどめだった。彼の頭の中では今目の前で紡がれた神話を記憶するために語彙が駆け巡り、それが口から出かかったその時、着信音が二つ、同時に鳴った。千代と晴香が反応して、自身のスマホを確認する。

「あ……ごめん、ゆりちゃん。もう時間になっちゃった」

「私たちの分は前払いしてあるから、ゆっくりしていってちょうだい」

 顔を見合わせてからそう言って二人は席を立ち、早足でカフェを出ていく。大樹が己と格闘している間に、二人はすでに食べ終わっていたらしい。パフェのカップは二つとも空っぽだった。一方、ケーキはまだ先端しか欠けていなかった。

 とりあえずもう一切れ、フォークで切り分けて口に運ぼうとすると、腰のポケットから振動を感じた。番号は家の固定電話のもので、それは家にいるマートンからの電話だった。ぐるりと周りを見渡してから、口元を隠して小声で応対する。

「はい、大樹です。手短にお願いします」

『トラジストが現れた、東の1。そっちはどこにいる?』

「最寄り駅です。改札前で合流しましょう」

『よし、以上だ』

 電話を切って、深く息を吐く。とりあえずは、目の前のショートケーキをすぐに食べ終わろうと、切れ端の乗ったフォークを掴みなおす大樹であった。

 




 心配をかけました。病気とかではないです。
 あまり外に出るのが褒められない時勢ですが、ずっと外に出ないのも色々崩れてダメなんでしょうね。せめてベランダに出て日光浴びるぐらいはしとかないと。
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