「よぉし、皆いるねぇ」
障壁の外、崩れた一軒家が並ぶ場所で、三岳桜は周囲を見回す。
そこには今日の警備担当の3つのチームの内の二つ、カシワとクスノキだけでなく、本来ならば非番であったヒイラギとシラカバの面々も何人かいた。残りの非番メンバーは警備を続けるチームの補佐に回っている。
「それじゃあ美月ぃ、再確認お願いねぇ」
「うん」
名指しされた美月は皆の視線が自身に向いているのを確認してから話を始める。
「えっと、まずはご協力ありがとうございます」
一礼をして続ける。
「あらかじめ説明した通りなんですが、今回の増援要請はうそのものです」
実際、ここに集まった魔法少女達の雰囲気には、戦場に赴くような緊張感はなかった。
「では何をするのかというと、皆さんが度々遭遇するあのロボット軍団、それを呼び出しているであろう親玉を捕まえようという試みです」
とはいえ、と続ける。
「この作戦にかなり不確定な所があるのも事実です。そもそも親玉の存在が確定しているわけでもないですしね。なので無理はしないようにお願いします」
その言葉を聞いていたチームシラカバのリーダー、茜はこの場で一番無理を理解していないであろうチームカシワのミナに視線を向ける。その視線の意味を理解したらしく、ミナはそっと視線をそらした。一応知ってはいるらしい。
「本題に入ります。まずロボットが現れるのを待ちます。どんなに些細な戦闘にも出張ってきますから、ここは問題ないでしょう。そしたら……」
茜とミナに意識を向けて続ける。
「茜さんとミナさんに、ロボットのコントロールを掌握してもらいます。何故かはわかりませんが、彼女たちはロボットに何らかの命令が出せるので、それを使って親玉のところまで案内してもらいます。拒否されたらそこまでですが、それもそれで研究の一助になります」
美月は改めて全員を見渡す。そこにはパフェを食べ終えてから直行してきた千代と晴香もいた。
「残りの皆さんには追跡をしてもらいます。魔法は威嚇程度にとどめて、けっして怪我はさせないようにお願いします。それでは、ロボットが現れるまで待ちましょう」
「おぉ、来たねぇ」
桜の言う通り、空からいくつもの隕石が落ちてくる。少し遠めに着地したロボットたちに、茜とミナが駆け寄った。それに合わせて、ロボットの群れからも黒い帽子をかぶった個体が出てくる。
「よっ! 元気してたか!」
「えっと、ロボットに不調とかあるんでしょうか」
相変わらず親友と接するかのように振る舞うミナに素朴な疑問をぶつける茜。それを見たロボットはそのボディをできる限り二人に寄せて、
≪────Hello──Mina──Akane────≫
と、明瞭に返した。そこにノイズはなく、また抑揚の制御も完ぺきとは言えずとも進化した声だった。
「えっ⁉ ミナ先輩、聞いてましたか今の⁉」
「ああばっちり! でもなんて言ったんだ? 名前を呼ばれたのはわかるけどさ」
「ハローですよ! 英語の挨拶です! 訓練校の教養科目で習ったはずでしょう!」
「いやー、使う機会ねぇなーって思って忘れたわ。にしても、以外と女の子な声してるな!」
実際、ロボットが発した声は、その鋼鉄の巨体には見合わない柔らかさとロボットらしい冷静さを備えていた。この声に正しい抑揚が乗れば、クールなお姉さんを想像することができるだろう。
「私たちの会話から声音と抑揚を学習したんですかね? まあそれはそれとして、作戦を続けましょう」
「んぉ、そうだ、日本語は喋れるのか?」
「聞いてますか先輩!」
≪────はい──英語、よりも、不完全では、ありますが──≫
「おぉ、助かるわ!」
「できるんですね……じゃなくて! ロボットさん、お願いがあるんです」
茜はロボットのかすかに光る単眼と視線がぶつかったのを感じる。
「あなたを呼び出した人のところまで、案内してください」
≪────畏まり、ました──≫
そう言ってロボットは巨体を起こし、空を見やる。茜が青白い光がさす方向を目で追えば、ポツンと一つ、ドローンがあった。
「あれは……偵察用ドローン? でも、なんか違う……」
≪────確認、しました、あのドローンを、追従、してください──≫
それと同時に、ドローンがまるで自身を主張するようにその場で一回転する。そして、傾いて移動を始めた。
「あれについて行きゃあいいのか! よし、行くぞ!」
「美月さん! うまくいきました! 頭上のドローンに従ってください!」
「はい。ありがとうございます」
こうして、ドローンを先頭に魔法少女の集団が走り出す。ロボット軍団もそれにゆっくりとついて行った。
「おい、これは……」
「どうして……」
トラジストが現れたという無線を盗み聞きした銀髪少女とぬいぐるみは、地下から出てすぐにロボットを呼び出すと、振動を続けるバイクにまたがったまま、早速ドローンを飛ばして現地の様子を確かめる。しかし、手元の画面に映し出されたロボットの様子に困惑することになった。
≪────Hello──Mina──Akane────≫
『えっ⁉ ミナ先輩、聞いてましたか今の⁉』
『ああばっちり! でもなんて言ったんだ? 名前呼ばれたのはわかるけどさ』
「喋っている……」
「僕たちの前ではうんともすんとも言わなかったのに……何故?」
ロボットは会話が可能であるという事実は、二人にとっては想定外なものであった。それだけではない。ロボットの目の前に立つ“ミナ”と“アカネ”の態度は、このロボットに対する警戒心がなくなるほど接触を繰り返していることを暗に示していた。
「……まずい、どうしよう」
それを察知した大樹は、そこから一つの仮説にたどり着く。
「何がまずいんだ、大樹」
「このロボット、百合の間に挟まろうとしているのでは?」
「どういうことだ」
「二人の口ぶりからして、このロボットと彼女たちは何度も会っているようです。おそらく、ロボットの方から近づいたのでしょう。あんなパニックをばらまく存在に進んで近づく人は相当のチャレンジャーですよ」
「そして、それに答えたのがこの二人ということか」
「はい。……特に“ミナ”さんとはかなり打ち解けた様子ですから、この調子だと戦場に現れるたびにこのロボットが“ミナ”さんにべったり付きっきりになる可能性が大きい。すると、多かれ少なかれ“アカネ”さんと触れ合う時間が減るわけです。
関係性が崩壊するとまではいかなくとも、二人だけの関係がなくなっていくのは避けられないでしょう。仲の良い三人組を否定するわけではありませんが、僕からしてみれば今回のケースは異物がずかずかと踏み込んでいるようなものです」
大樹の推察は前提から間違っている。しかし、二人とロボットの出会いがミナの挑戦的どころか命知らずともいえる行動から始まったことを想像するのも難しい話である。
それに、彼はロボットの積極性も過大に見ていた。実際のところは、ミナと茜の従者のように受動的に動く存在であり、そこには二人の関係に割り込もうという意図はなく、むしろ守ろうとするものだった。
「とにかく、何とかしてあのロボットを制御できるようにするか、あの黒帽子のロボットだけをはじくようにするか……できるものなんですかね?」
「そうだなぁ……ん?」
そこでマートンは、ドローンから送られてくる映像に、がれきしか映っていないことに気づく。
「大樹、ドローンをいじったか? どうやら勝手に動いているようだが……」
「あれ、本当だ。特に触ってはいないはずなんですけど」
画面に付属しているコントローラーを手に取り、上昇、回転、方向転換と指示を送る。しかし、画面に反応はなく、がれきの街を直進する様子だけが映り続ける。
「ん、操作が効きません。壊れたんでしょうか」
「いや、何かに向かっているようだ、ほら、小さく映っているぞ」
画面の中央にぽつりと小さな点が映り、徐々に大きくなってくる。
「これは……女の子ですね、銀髪で、ちょっと小さめの……」
「今の大樹みたいだな」
「後傍らにいるのは……羊のぬいぐるみでしょうか……いやマートンさんですよねこれ」
二人はそろって空を見上げる。遠くから確かに自分が飛ばしたドローンが迫ってきていて、
「なんでわざわざここまで?」
「……いや、大樹、その奥だ!」
そのドローンについてくる形で少女達が走っていた。この状況下、結論は一つのみである。
「魔法少女だ! 逃げるぞ!」
「はい!」
素早く逃走に取り掛かる大樹は、バイクのハンドルを握ってアクセルをかける。しかし手ごたえはない。
「えっ、なんで⁉」
何度も発破をかけるが微動だにしない。つけっぱなしにしていたエンジンもいつの間にか切れていた。
「動かないか! ならば走って逃げ……それもダメか! ロボットが来ている!」
「えぇ⁉ どうするんですか!」
「……仕方ない! テレポートを使う!」
そう言って大樹のリュックに飛び込むと、文庫本ほどのサイズの箱を取り出す。そこにはテレポート二回分の魔石と触媒が入っている。
「自宅まで飛ばす! 離れるなよ!」
「わかりました!」
マートンが箱をいじると、まばゆい光があたりを包む。目の前が白む中、
「ゆりちゃん!」
と、聞き覚えのある声がして、思わず顔を見上げる。視界が真っ白になる直前に、今日見たばかりの顔が目に入り、自身が置かれている状況が想像以上に悪いことを悟ったのだった。
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今後も行き当たりばったりですが、よろしくお願いします。