少しの間感想返信が滞ります。余裕ができたときにまとめて返信しますのでお願いします。
週一更新が保てないので不定期更新に移ります。ごめんなさい。
≪────追跡、追跡────≫
「あわわ! ストップ! ストップ! その巨体じゃ入れませんよ!」
「そうだぞ! それと、地下潜るよりも私たちで障壁開けるほうが早いからな!」
「これからどうするかは美月さんの指示次第ですからね! 勝手に追っかけないでくださいよ、ミナ先輩!」
「さすがにわかってるって!」
地下鉄に入るつもりで無理やり体をねじ込もうとする巨人を止める茜とミナを横目に、晴香は桜と話していた。ついさっき逃した銀髪少女のことについてである。
「へぇ、あの子と面識あるんだぁ」
「はい、といっても、二回だけですけど」
「“ゆりちゃん”だっけぇ、彼女のことはどれだけ……おっとぉ」
そこに、美月が歩いてくる。その足取りには明らかな落胆が見て取ることができた。視線は桜の足元付近をさまよっており、普段の冷静な様子とは違う、例えるなら悪いことをしてしまったことを隠せない子供のようだった。
「晴香さん、話はあとでゆっくり聞くからぁ、今は休んでていいよぉ」
「えっと……はい、わかりました」
晴香も美月の様子に気づいたため、深入りすることなく千代のもとへと向かった。桜が美月に向き直ると、美月は一歩離れたところで足を止める。
「姉さん、えっと、えっと……ごめんなさい」
「ん~、私からしてみれば謝る理由が見当たらないけどぉ?」
「……作戦が、失敗したから」
「そんなことないよぉ、むしろ大成功だからねぇ」
「だって、親玉に逃げられた……もう少しでうまくいったのに」
「……いい、美月?」
桜は一歩近づき、美月の肩をつかんだ。そのままひざを折って美月の視界へと潜り込む。妹の名前を呼ぶその声は普段の力の入っていない声ではなく、相手に届けるという意思が込められた、はっきりとした声だった。
「確かに、ロボットの親玉を捕まえることはできなかった。けど、それ以上に多くのことを知ることができたの。親玉の背格好とか、移動手段、そして非常時の対応。ただやみくもに探し回るだけじゃ得られない情報を、たくさん知ることができた。どれも彼女を追いかけるのに役立つもの。これが成功じゃないならなんていうの?」
「でも、そういう情報も本人を捕まえていれば必要のない情報になっていたはずで……」
「想定通りの結果はいつでも得られるものじゃない。未知を相手にする以上、どれだけ最良を尽くしても、どこかで予想外が起こるのは避けられない。大切なのは理想的に行かなかったことを悔やむことじゃなくて、得られた結果が何を意味するかを考えること。いつまでもあの時ああすればって言ってても、何も進まないからね」
「……うん」
美月がうるんだ目に手を当てながら顔を上げたのに合わせて桜は立ち上がり、抱きしめる。
「まったく、どうしてこんなに完璧主義になったんだろうねぇ」
鼻先辺りに据えられた頭頂部をゆっくりと撫でながら、桜は呟く。当然、密着している美月の耳にも届いていた。
「……だって」
「うん?」
「姉さんに、喜んでもらいたかったから」
「……可愛い妹だなぁ! もぉ~!」
背中に回す腕に力を込め、頭を撫で繰り回す。すっかり普段通りの脱力声に戻っていた。
その時、
「うわあ⁉ 倒れた⁉」
「どうした⁉ ぶっ壊れたのか⁉」
そんな会話とともに、何かが砂利の上を滑る音がした。桜も、腕の中の美月も慌てて振り向くと、一体のロボットがボディをこちらに向けて寝そべっていた。
「茜さん、どうしたのぉ!」
「わかりません! いきなり倒れました! 巻き込まれてはないです!」
「そっかぁ! とりあえず事情を聴いてぇ!」
「了解です!」
しかし、その必要は無かった。茜が黒帽子に話しかけるよりも先に、倒れたロボットはゆっくりと起き上がると、桜たちの方へと歩いてくる。
そのまま二人を影に収めると、音を立てずに膝立ちに移った。
≪────初めまして、ミツキ、サクラ。お二方に、指揮権を、付与します────≫
「……へぇ、それはまたどうしてぇ?」
突然のことに、美月は動けず、桜は反射的に理由を問う。
≪────それは、我々の、守るべき存在であり、従うべき存在だから、です────≫
「茜さんとミナさんも?」
≪────はい────≫
「……なるほどぉ、二人一組で認識してるんだねぇ?」
≪────はい、親交の深い二人に、指揮権を、付与しています────≫
「そっかぁ、まぁ、詳しいことはこの後ゆっくり聞くからぁ、とりあえずよろしくねぇ」
≪────よろしくお願いします────≫
その言葉の続きがないのを確認してから、桜は美月に語り掛ける。
「あはは、予想外にいいことあったねぇ。また一歩前進だぁ」
そう言ってまた頭を撫でる桜に返事をするように、美月はキュッと抱きしめ返した。
とある二階建てのアパートの一室、広げられたカーテンの隙間から、片目だけで外を見る銀髪少女がいた。
「……まだここは気づかれてなさそうです」
「そうか、一応は助かったな」
室内に目を戻せば、畳を転がるぬいぐるみ。楽しげ、とは言えない、重苦しい雰囲気だった。
「……なあ、大樹」
ぬいぐるみは転がるのを止め、ぼそりと呼びかける。
「はい、なんでしょう」
「仮に、あの場で捕まっていたとしたら、君はどうしていた?」
「どうしたんですか、急に」
「それだけじゃない。私はいずれ、君を彼女たちの前に突き出さなければいけない」
「……」
「ずっと先延ばしにされていた問題だ。特に君にとって。その信念とは相反する行為を、いずれしなきゃいけない」
「今更ですね」
「ああ、本当に今更だ。それだけ自分勝手だったんだな……今もか」
お互いに言葉を探り、しばしの間無言が続く。先に口を開いたのは大樹だった。
「少なくとも、普通に魔法少女のチームに入ることは避けたいです。防衛隊にしろ、攻撃隊にしろ。僕が壁に化けられたらまた違うんですけどね」
「ははは、壁に化けるとは、面白い冗談だな」
マートンは少し気分がよくなったのか、右に半回転、元に戻って半回転と、ゆりかごのような動きをする。
「いえいえ、百合好きにとっては大真面目ですよ」
「……そうなのか。ともかく、普通にチームに入らない方法を考える必要があるということだな」
「すると……研究したい人に付きっきりとか? ほら、男から魔法少女になった訳アリの塊なんですから、気になる人はいると思いますよ」
「いや、研究に協力するからと言って、ずっと研究所に押し込みっぱなしにされる可能性は低い。基本的には現場の邪魔にならないようにするからな。特に防衛隊や攻撃隊は基本現場が第一だ」
「そうですか。かと言って戦闘にかかわらない場所に配置されても、持て余してしまいますから……言うこと聞かなくて暴れられても僕には止められませんからねぇ……」
それを聞いたマートンは、ぴたりと動きを止めた。
「確かになぁ。手綱を握れないのは怖いところだな……いや、うーん」
「なんでしょう?」
「少し引っかかってな……我々の言うことを聞かないのはいいとして、何故魔法少女達にはついていくんだ?」
「さあ、取り入ろうとしているんじゃ……ああ、そうだ! ロボットが百合に挟まろうとする問題もどうにかしなきゃじゃないですか!」
一度気づいてしまうとあれもやばい、これもまずいと芋づる式に問題が出てくる。思考の中に積みあがってくる課題に埋もれるように、大樹はパニックになりかけていた。
「落ち着け大樹、問題を整理するんだ。パソコンのメモ帳機能に書き出す事にしよう」
「わ、わかりました」
「粗方書けたら解決すべき順に並べておけ、いいな?」
「はい」
大樹はパソコンの電源をつけて、椅子に体重を預けた。