秘密兵器鋼鉄魔法少女くん   作:久夢道生

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意外と筆が進みました。
なお、セリフでも言わせましたが、主人公の話すことはあくまで主人公自身の個人的な信念であり、何者かの意見を代弁しているわけではないことを理解してください。


いつも通りとサプライズの方針

「こちらトーキア東の1! トーキア東の1! トーキア本部に増援要請! とにかく頭数をよこしてちょうだい!」

『了解、30分耐えてくれ』

「ラジャー! だぁーっ! チームヒイラギ! 気合い入れるわよ!」

 人類の生存圏の一つ、トーキアの東にて突発的に始まった防衛作戦。最も近い地域を管轄していたがゆえに臨時で指揮を執ることになった魔法少女、大沢千代は、消耗戦と化した現状にいらだちを募らせていた。

 今回、彼女達が相手取ったのは増殖する能力を持ったトラジストだった。一体一体は苦も無く倒せるものの、次の瞬間には三体になって襲い掛かってくる。これが非常に厄介な性質なのだ。

『きゃあ! こ、こちらチームシラカバ! 一人被弾! 下がらせます!』

『あー、こちらチームクスノキ、既に一人離脱させた。事後で済まない』

「各々ギリギリまで前線を下げていいわ! 負傷を避けることを優先して!」

 じりじりと体力を奪われる中で、徐々に負傷者も目立ってきた。動ける人員とトラジストの増え方を勘案すると、30分持たせるのは厳しいと言わざるを得ない。現に彼女達はトラジストの流れを制御できなくなっており、魔法少女同士の連携は分断され始めていた。さらに、トラジストに囲まれて、完全に孤立してしまった少女もいた。千代のチームメイトにして親友の、新垣晴香のように。

「わっ!」

「晴香! 伏せなさい!」

 そこで千代は自らの魔法──炎を発生させて、操る魔法──を放ち、晴香を囲むトラジストを器用に焼き払う。指示どおり伏せてやり過ごした晴香は素早く立ち上がり、千代に向かって駆け出すが、そこに黒い塊が滑り込んできた。

「きゃっ!」

「あぁ! くっそ!」

 化け物に足首をつかまれ転ばされてしまう晴香。援護をしようとした千代の方にもトラジストが飛び込んできて、互いに自衛に専念することになった。しかし、晴香は目前に迫った生理的嫌悪を刺激するぬめりを持った黒一色の異形に怖気づき、動けなくなってしまっていた。

「ひっ……ち、千代ちゃん……」

「晴香ぁ! あぁ、もう! 邪魔よ!」

 払っても払ってもすぐに別の個体がへばりついてくる。千代の焦りが頂点に達し、晴香の足をつかんでいた異形が二つに裂け、内へ内へと引きずり込み始めたその時、

 

ズシャァァ

 

 と、突然砂埃が巻き上がった。

「うっ⁉ぐ、ゲホ、ゲホッ!」

 目が開けなくなり、咳が止まらなくなっても、千代は最後に見た状況を頼りに晴香のいるであろう方向にゆっくりと歩きだす。周囲にいたはずのトラジストに襲われることもなく進むと、足先に何かが当たる感触がした。

「ゲホッ、くぅ、は、晴香?」

「うぅ、千代ちゃん……私は大丈夫……」

 千代が薄っすらと目を開けると充満する砂煙の中に、起き上がろうとしている晴香であろう人影と、その足に引っかかている棒のような何か──すなわち晴香を転倒させ、あまつさえ食べようとしたトラジストの腕単体──が見えた。

 急いで晴香に手を貸して立たせる。互いに肩を組み存在を確かめて、とりあえず撤退だと踵を返そうとしたその時、まぶた越しに何かが光っていることに気づいた。再び隙間をつくり見てみると、ちょうど目の前から青白い光が一筋伸びていた。

「……晴香、備えて」

「……うん」

 呟くようにして言葉を交わすと、いつでも魔法を放てるように身構える。この距離では背中を見せるには近すぎる。そして、未知の存在を都合よく味方だと思えるほど魔法少女は楽観的ではなかった。

 光がゆっくりと昇っていく。それと同時にギギギギ……ときしむ音が響きだし、緊張を呼び寄せる。しかし、それを破ったのはどちらでもなかった。砂煙を突き破って化け物が襲い掛かってきたのである。光の軌道に気を取られていた二人は反応がわずかに遅れてしまい、あっという間に囲まれるのを許してしまった。

「くっ! 突破するわよ!」

「了解!」

 魔法を使い、一点突破に賭けようとした瞬間、二人の両側を橙色の閃光が突き抜けていった。閃光は何体かのトラジストの上半身を削り取っていった。図らずも突破口が生まれた二人はすぐさま化け物の包囲を抜け出して全速力で撤退を開始した。爆音に包まれる中、道中で分断されてしまっていたチームヒイラギのメンバーとも合流することができた。

「千代さん!」

「チームヒイラギ! このまま拠点まで突っ走るわよ! シラカバ! クスノキ! 聞こえる⁉」

『は、はい! こっちもできる限り早く拠点に戻ります!』

『こちらチームクスノキ。ちょっと待って……誰かカメラ、カメラは持っていないか?』

「記録は後回し! 撤退優先! わかった⁉」

『あぁ、わかった……』

 通信を切った後、後ろを振り向くと、白一色の無骨な巨人が肩上から橙色のレーザーをまき散らしつつトラジストを手で捕まえて握りつぶしていた。

(あれは……ロボット、かしら?)

 しかし今は確かめるには余裕がない。すぐに向き直ると、チーム全員を見れる最後尾で撤退を再開した。

 

「東の1各員、状態報告! 怪我をしている子は増援に回収してもらうわ! 少し休憩したら動ける残りでできる限りさっきのロボットの証拠を探すわよ! いい?」

『了解!』

 やってきた増援に現在の状況を話し、今回対応に当たったチーム全体に今後の方針を伝えた千代は、ベンチに座る晴香の隣にゆっくりと腰かけた。それに合わせて晴香から水筒を手渡される。素早くふたを開けると、豪快に飲んだ。

「だぁ~」

「お疲れさま」

「ほんとよぉ……」

 しばしの沈黙の後、晴香が口を開く。

「……千代ちゃん、その……」

「……気にしてないわよ」

「……そっか」

 最小限で話は終わる。千代は晴香が理由はどうであれ、あの場面で孤立してしまったことに負い目を感じる性格であることを充分理解していたし、晴香は千代が想定外の出来事は仕方ないと割り切り、とりあえず擦り傷程度で済んだことを喜ぶ性分であることを充分理解していた。

「……10分で起こして」

 そう言って千代は晴香の膝に頭を乗せた。晴香は千代の頭をなでることでそれに返事をする。千代が深い呼吸に身をゆだねたのを確かめると、空いている手で近場の一人を手招きし、“純魔石”を用意してもらうよう小声で頼んだ。実に半生以上、赤子からの付き合いである二人の、確立された休息のひと時であった。

 

 

 

 “フェーリ”は、自ら魔法を使うことができない種族である。その代わりに、魔法の力の源である魔力を直接視認し、触れることができる。彼らはこの能力を利用することで圧縮された魔力の塊である“純魔石”を作り出す。

 純魔石は特定の触媒と組み合わせることで疑似的に魔法を発動することができるほか、魔法少女が経口摂取することで失った魔力を素早く補充することができる。甘くておいしいらしいく、魔法少女にとってはご褒美のようなものとなっている。

 

 

 

 とある二階建てのアパートの一室。一人暮らしとしては十分な間取りの畳部屋に、銀髪少女とぬいぐるみが転がっていた。

「はぁ、はぁ、危なかった……」

「いきなりどうしたんだ、大樹……何かトラウマでも刺激されたのか?」

「いや、そういうわけじゃないんです。ただ、生死にかかわる問題だったんです」

「どういうことだ? 正直、訳が分からないまま急に取り乱して怖かったぞ」

「……百合の間に挟まる男は死ね。ということです」

「百合? 挟まる? どういうことだ? 花に挟まるとは?」

「えっと、百合っていうのは花じゃなくて、女の子同士が仲睦まじく過ごしている、或いは発展して愛が育まれる様子のことで……挟まるっていうのは、割り込むって言い換えたほうが分かりやすいですかねぇ……」

「つまり、仲睦まじい女子たちの輪に後から入り込むのがつらいと? それのどこがまずいんだ?」

「大問題ですよ!」

 大樹は体を素早く起こし、マートンに詰め寄った。

「いいですか! 百合はですねぇ! 不可侵であるからこそ美しいんです! 少なくとも僕からしてみれば、男として生まれた時点で遠目から見守ることのみを許された神聖な理想郷なんです! そこに我が物顔で割り込んであるものないものかっさらっていくような野郎なんざ、赤の他人の家に勝手に上がり込んだ癖に開口一番酷い悪口をまき散らす奴ほどに無礼ですよ!」

「…………そ、そうか……人間の男というのは、みんなそうなのか?」

 マートンは困惑していた。なんせ、今まで自分の研究に集中して他のことには全く触れないできたのだから、人間についてはからっきしなのだ。

「いーえ、これはあくまで僕の信念です。さすがに他人に強制するほど身勝手じゃあありませんよ。ただ、少なくとも僕は百合に挟まるのには耐えられないってことはわかりましたか?」

「ああ……そうか、君の体は女の子になったが、心は確かに男だもんなぁ……わかった、尊重はするよ。私としては、なるべく注目を集めてほしかったのだがなぁ」

「あ、そこについてなんですけど一つ案があるんです」

「なんだ?」

「マートンさんは、要は、今までさんざん笑ってきた周囲を見返したいんですよね」

「そうだ、よく覚えていたな」

「あー、それで、必ずしもこっちからばらす必要はないと思うんですよ」

「どういうことだ?」

「今の状態、僕の存在は全くの未知なんです。味方であることはかろうじてわかるけれど、こんな能力を持った存在は知らない。当然、正体は研究や捜索の対象になるでしょう。魔法少女に見識を聞いたり、再現かなんかも試みたりするでしょうし、トーキアにいる女性を全員調べたりするかもしれません」

「まぁ、そうだな……なるほどぉ?」

「そうです。それだけ頑張っても手掛かりはほぼゼロ。男が魔法少女になってるなんて可能性はハナから除外しているんですから。なのにあのロボットは何度でも現れる。そうやって研究者達が苦汁をなめたところで……」

「私が君を成果として報告すると!」

「そうです! 衝撃的でしょう?」

「フハハハハ! いいじゃないか! いいじゃないか! 採用だ! 実にドラマチックなことを思いつくじゃないか! 今後ともよろしくな、大樹!」

「はい! 送迎は頼みましたよ! マートンさん!」

 大樹がそう言った瞬間、マートンは動きを止めた。

「あー、実はだな……あの移動方法、しばらく使えないんだ……その、魔力が尽きてしまってな……」

「えっ、それじゃあ」

「しばらくは、徒歩か、公共交通機関だな……」

 不平を訴えるように、大樹の腹の虫が鳴った。

 




初めて百合描写をしました。良いと思ってくれたらうれしいのですが。
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