秘密兵器鋼鉄魔法少女くん   作:久夢道生

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予習と急用

『えー、ただ今、線路上に異物が検知されたとのことで、確認作業を行っています。全線で運転を見合わせております。運転の再開は未定となっておりますため、バスでの振り替え輸送を行っております。何かわからないことがありましたら、お近くの駅員までご相談ください』

「はぁ……」

 ホームに響くアナウンスに操られるように階段へと集まる人々を横目に、待合室でくつろぐチームシラカバのリーダー、穂高茜──休日を終えて帰路の途中である──は不安に埋もれていた。彼女が率いるシラカバというチームは、つい最近結成されたばかりのチームであり、先日初出撃を終えたばかりだった。

 チームの連携は悪くなく、比較的軽い被害で済んだので、チームとしては上々の仕上がりだったのだが、しかし、リーダー個人にとってはうまくいったとは言えない初陣だった。やっていたことは味方の状況を他のリーダーに共有していただけで、さらにそれだけに集中するあまり戦況に追いつくことができていなかったという自覚があったからである。

 この調子で与えられる仕事をこなせるのか、チームメイトに余計な負担を背負わせることになってしまわないか、もしかしたらチームメイトに影で愚痴を言われたりしていないかと、考えれば考えるほどに不安は大きく、重くなっていく。

「今日はゆっくり帰ろ……」

 堂々巡りから抜け出そうと動き出す。待合室から出れば、規則的な電子音が響く中、誰もいないホームが広がっている。電光掲示板を流れる文字を読み取れば、しばらく電車は来ないであろうことが分かった。

 しばらくホームをほっつき歩いていたその時、ポケットのスマホが振動した。画面をつけると、メールが一通入っていた。“ミナ先輩”という差出人から

 “もうすぐ復帰! ”

 というタイトルで届いたメールには、リーダーとしての初仕事をねぎらう一言から始まり、怪我が完治して退院できたこと。すぐに魔法少女として復帰するということ、同じ東の1を担当しているから、日程が合えばまたゆっくりお話ししようということが書かれていた。

 茜は、ちょっと考えた後、すぐに返事を書いた。退院を祝う一言から始めて、実はリーダーとして上手くできなかったこと、それ故にちょっと落ち込んでいるので相談に乗ってほしいということを正直に書いた。

「……よし」

 気が沈んだときは誰かと話すのが一番。メールが送信されたのを確認した茜は早速何を話そうか考えるのだった。

 しかし、直後に入ってきた緊急の無線連絡により、そんなことを考えている余裕はなくなってしまったのだった。

 

 

 

 トーキアの地下には、かつてこの都市が東京都心と呼ばれていたころから存在する地下鉄網が広がっている。

 旧都地下鉄と総称されるその迷宮は欧州を壊滅させた未確認生命体──トラジスト──がゆっくりと勢力圏を拡大させ始めたという一報が届くと同時に大幅な延伸が図られた。

 トラジストが日本に上陸した際に市民を安全に避難させるための輸送路としてでだけではなく、反攻作戦を行う際の拠点として、さらには地上がすべてトラジストに奪われてしまった場合の生活圏としてなどを想定してすすめられた計画は、しかし想定よりも遅い工事の進行と、想定よりも早く化け物が上陸してしまったために中途半端な運用をせざるを得なくなり、かろうじて首都圏まで伸びた路線の大半は期待された効果を発揮することなく放棄された。

 

 

 

「つまり、この地下鉄網を使えば障壁の外に出られるってことですね?」

「あぁ、そうだ」

「でも、トラジストが入らないようにしなくちゃいけないんだから、外に出るのも難しいんじゃないですか?」

「……あの化け物は鍵を開けられるだけの知能を持っていない。それに、あくまで生物にしか興味を示さないからな。金属扉で蓋をするだけで十分ってことだ」

 薄暗く、少々息苦しい線路上を、銀髪少女とぬいぐるみが懐中電灯片手に歩いている。

「結構詳しいですね」

「基礎教養だからな……ちょっと待った」

 ぬいぐるみの指示で足を止める。大樹にはただの通路だったが、マートンには何かが見えているようだった。

「魔力を使った警報装置だな、抜け穴を作るぞ」

 そう言ってマートンは空間にある何かをいじり始める。後で大樹が聞いたところによれば、探知するためのワイヤーの代わりに使われている魔力の線を別の魔力につないで遠回りさせることで人が通れるだけの穴を作ったとのこと。大樹はぼんやりとしか理解できなかった。

 警報装置を抜けてしばらく歩くと、真っ暗なホームに出る。

「よし、ここで出るぞ」

「……はい」

 少し疲れたのか、口数が減った大樹とマートンはホームに上がる。懐中電灯を頼りに周囲を見渡せば、無機質なホームの中でもひときわ仰々しい鉄扉が目に入った。

「あれですか?」

「そうだ」

 近づいてみれば、鍵がかかっているだけでなく、ドアノブの部分もかたい縄で縛られていて、開けられるようにするにはかなりの時間を費やすことになった。

「よし、ほどけたぞ」

「それじゃあ……よいしょお!」

 少女は扉に全体重をかける。

「ふっ! ぬぬぬ! ぬあぁ!」

 しかし、ほんのわずかしか動かない。ちょっと休んでまた押して、ちょっと休んでまた押して。繰り返してようやく人一人分の隙間ができたころには、すっかり目をまわしてへたり込む銀髪少女であった。

 

「風が……気持ちいい!」

 久方ぶりと思える外に出た大樹は、荒廃したビルの隙間から星空を吸い込む心地よさを覚えていた。自然の星明りだけの夜というのは大樹にとっては全くの未知だったのだが、かすかに懐かしさと形容されるような肌感覚を受け止めていた。

「それじゃあ、試しますか?」

「よし、頼む!」

 大樹は夜空を見上げ、問いかける。しばらくすると、星に紛れるようにしていくつもの流星が落ちてきた。

 

ズドン

 

「おおぅ」

「感覚をつかんだな! ただ、まだ距離感はつかめていないようだ!」

 実際、初めての時よりも軽く念じただけで呼び出すことができた。が、どうも位置がばらばらで、いくつかのビルを崩してしまった。

「えっ、好きなところに落とせたりとかできるんですか?」

「そうだ! 魔法は一定の範囲の中で自由にコントロールできるぞ! ただ、今は無理に考える必要はないな!」

「えっと、じゃあ、形も変えたりとかもできるんですか?」

 大樹はそういって目の前に落ちてきたロボットを指さす。白一色のそれは人が一人中に入れる程度の岩に角ばった手足をくっつけた、ずんぐりした形をしていてちょっとした可愛らしさを見るものに感じさせていた。

「そうだが……そうだな、ちょうどいい、何か変形したものを出せるか試してみてくれ」

「変形したもの……変形したもの……」

 

「一回り小さくなっただけ……か?」

「そうですね。もっと小さくとかできるかな……」

 

「おっ、サイズも形もほぼ人型だな」

「アンドロイドってやつですかね。しゃべってはくれないか」

 

「ん? がれきしか降ってこないぞ? 何をイメージしたんだ?」

「えっと、チューリップ……」

 

「またがれきだな、今度は何だ?」

「扇風機と本棚ですね」

 

「犬型ロボットはできたな」

「色とかも付けられるかなぁ……目も口も白一色だと陶器で作ったみたいだ」

 

「鳥のロボットもできたが……すぐに飛んで行ってしまったな」

「念じて誘導とかは……できませんね」

 

「これは……バイクだな、免許は持っているのか?」

「いえ、持ってないです。ただ、どうせこんなところで取り締まってくる人なんていないんですから、気にすることもないでしょう?」

 

「うーむ、大体傾向がつかめたぞ。キーポイントは“自立制御”だな」

 数多の雑品を前にして、マートンは結論を出していた。

「ロボットとアンドロイドと動物はわかりますけど、バイクもそうなんですか?」

「ああ、自動運転だ。ほら、君が何も考えていなくても勝手に走っているだろう?」

 そういってマートンが指さした方向には、誰も載せずにその場をぐるぐると回るバイクがあった。

「君の魔法は、自ら考え、結論を下し、必要な行動をとるAIを作り出す力、といったところか。呼び出せれば一体一体細かく管理しなくていいのは楽だが、大樹の意思で制御するのが難しいのが難点だな」

 バイクはハンドルをつかめば手動で運転することができた。しかし、ロボットや動物は一度呼び出すとまるでいうことを聞いてくれなかった。

「そのうち、必要に応じて僕から指示が出せるようになればいいんですけどね」

「まぁ、今のままでも十分強力だからそれはおいおいだな。とりあえず知りたいことは知れた、帰ってゆっくり休むぞ!」

 そういって踵を返そうとしたその時、

『トーキア本部より通達! 東側より大型のトラジストが上陸! 現在東の1から5で警戒作業に当たっている人員はそのまま防衛準備に移れ! 地区を問わず非番のチームは東の1に集合!』

 と、マートンの胸元の無線機から声が沸いた。

「……予定変更、ですかね。あそこのバイク、捕まえますか?」

「……いいや、新しく呼び出せばいいだろう」

「……ああ、そうですね」

 ようやく休める。そう思ったときに用事ができると、やるやらない以前にやるせない気持ちになるものである。

 

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