秘密兵器鋼鉄魔法少女くん   作:久夢道生

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甘いものが苦手な人だっている:下

 駅構内の中でも特に色が強調される三つの門。その内、正面から見て右手の青い門と左手の赤い門に挟まれた黄緑色の門──すなわち多目的──の先にいくつか並ぶ立派な引き戸の一つを開き、中に滑り込む銀髪少女。

 素早く鍵をかけ、部屋に備え付けてある荷物置きのテーブルにリュックを下ろす。ジッパーを半分ほど開けたところで、中からぬいぐるみがぬっと顔を出した。

「……失敗したな」

「……そうですね、僕の話し方が下手でした」

「君だけの責任じゃない。私だってばれないようにスマホを手渡すぐらいできたはずだ。つまり、まあ、これは予見できた落とし穴に気づけなかった互いの失態だ。だからそんな、一人で背負って気に病むな」

「はい……」

 花沢大樹とマートンはつい先ほど、想定外の事態に見舞われたために、体制の立て直しを図っていた。何があったのかといえば、魔法少女の二人組に迷子の女の子と勘違いされてしまい、思い付きの方便を垂れ流した結果道案内されることになった、ということである。

 もし銀髪少女が見た目通りの女の子であれば何ら問題はなかったであろう。しかし、実際には魔法少女との接触は絶対に避けるべき立場だったために、こうして気が動転したまま安全圏へ一時退避したのである。

 ましてや相手は仲がよさそうな二人組の魔法少女。大樹にとっては触れてはいけない繊細極まる芸術品である。それが音を立てて迫ってきたとなれば、恐怖するのも無理はない。

「今から離れるっていうのは……」

「難しいな、魔法少女相手に不審な行動をすればマークされる可能性がある。私たちとロボットの情報が同じ組織に渡れば、誰かの気まぐれで紐づけられるかもしれない。あくまでも可能性だが、ない方が安心だろう」

「と、なると……」

「大樹にとっては生死にかかわるだろうが、すまない、耐えてもらうことになる」

「ですよね……」

「大丈夫か? やっていけそうか?」

「頑張って耐えますよ。ただ、しのぎ切ったら家でふて寝させてもらいますからね」

「ああ、かまわないとも。それでだな、思いつきではあるがいくつかの防御策を考えてみた」

「防御策ですか?」

「そうだ、あのお節介の二人組が道案内だけで終わるとは思えん。できる限り割り込んだような感覚を持たないためにも、こちらから注意をそらす手段があったほうがいいだろう」

「なるほど、それで、何をすればいいんですか?」

「まずは位置取りに気を使って物理的に挟まれないようにするんだ。椅子には座らず、なるべく壁を相手に譲って三角形に位置取れ、そして話題をこっちから振るんだ。できる限り二人の掛け合いが中心の長話を引き起こせるやつをな。思い出話あたりがいいだろう。そうやって脇に徹するんだ。そうしても傷を負うことは避けられないだろうが、致命傷にはならないだろう。いいな?」

「はい、やってみます」

「それじゃあ、また会おう」

 そう言ってマートンはリュックに引っ込んだ。大樹はジッパーを閉じ、軽く息を吐く。

「……よし」

 そうつぶやくと、意気揚々……とは言えない、どこか不安に引っ張られているような足取りで魔法少女たちのもとへと歩き出した。

 

 

 

 魔法少女の所属はある程度細分化されている。東西南北に大別した後、それぞれの方角をいくつかの区画に分け、一区画ごとに5チームを割り当てて防衛に当たらせている。基本的には3チームで日常的な警備を行い、残りの2チームは休養になる。

 また、領土の拡張や障壁外の探索を担当するチームは別に存在しておりそれらは全て政府直属で管理されている。

 

 

 

「馴れ初め、かぁ」

「はい、随分と仲が良さそうなので」

 新垣晴香と大沢千代の二人は、電車に揺られながら花沢と話をしていた。もっとも、花沢の恐怖心は改札前の時よりも幾分和らいだようで、今度は魔法少女という存在に興味を持ったのか、積極的に質問するようになっていた。

「そうは言われても、私たちは実家が隣同士で赤ん坊からの付き合いだから、覚えてない、としか言いようがないわ。晴香はどこまで覚えているかしら?」

「う~ん、幼稚園の昼ごはんでニンジンを押し付けあったことぐらいまでかな」

「そんなことあったかしら。確かに、お互いニンジンは嫌いだったけど……」

「あった、と思う。どうなったかまでは覚えてないけど」

「あっ、もしかして晴香が私をぶん投げた時のこと? でも、ニンジンが原因だったかしら」

「あれ、投げちゃったのはドロケイの時だったと思うけど、ほら、千代ちゃんが檻の中に入ってつかまったふりをしてたから、ずるだぁ、ってなって」

「そっか、それは覚えているわ。幼稚園の時はどっちもヤンチャだったものね。二人でポカポカ叩きあっていた時に、突然ひっくり返されちゃったんだもの」

「そうだよね、じゃあ、ニンジンの時はどうなったっけ」

「……だめだわ、思い出せない」

 花沢から馴れ初めについて質問されたところで、晴香と千代は思い出話に花を咲かせることとなった。お互い覚えていること、片方しか覚えていないことが矢継ぎ早に飛び出し、その都度頷きあったり、否定しあったりを繰り返す。

 このことを晴香は面白く感じていた。自分と千代はずっと一緒にいたはずなのに、お互いが覚えていることは所々食い違う。おそらく、千代の方も同じように思っているのだろう。二人とも花沢のことをすっかり忘れてお話に夢中になってしまった。

「そう! それでたこ焼き器が川に流されちゃって……あっ、ゆりちゃん、ごめんね、ずっと二人だけで話しちゃって」

「えっ、あー、いえいえ、お構いなく。新垣さん。えっと、二人ともとっても楽しそうに話すものですから、その、尊い……じゃないな、眩しい……もちょっと気持ち悪いかな。ともかく、こっちも楽しく聞けるっていうか、飽きないっていうか……あっ、もちろん、そのまま続けてもいいんですよ? というより続けてください。たこ焼き器の末路が気になるので」

「それじゃあもったいないよ、せっかくゆりちゃんも一緒なんだから、もっとゆりちゃんとお話ししたいなって。他の質問でもいいよ」

「そうですか……」

 そう言って花沢は少し考えると、

「お二人はどんな魔法を使うんですか?」

 と聞いた。しかし二人が返事をするよりも先に車内アナウンスが見当はずれな答えを返す。その返事は目的地のショッピングモールの最寄り駅についたということを知らせていた。

「晴香、ゆり、降りるわよ。続きは歩きながら話しましょう」

「そうだね」

「あっ、はい」

 

「それで、私たちの魔法についてだったわよね?」

「そうです。魔法少女は魔法を使って戦うってことは知っているんですけど、どんな魔法を使うのか気になって」

 駅からショッピングモールの地下までの直通路を歩きながら、千代の一言によって話は再び魔法に戻ってきた。

「そうね、私の魔法は比較的シンプルかしら。炎を生み出して、好きなように操ることができるわ。ここじゃあ危ないからやらないけど」

 そう言った千代は晴香に視線を向ける。それを受け取った晴香は口を開いた。

「私の魔法も千代ちゃんと似たようなもの。私の場合は炎じゃなくて水だけどね、水圧で切ったりするの」

「なるほど、比較的ってことは、もっとややこしい魔法もあるんですか?」

「大有りよ、それに、ややこしいというよりかはへんてこな魔法ね。いくつか例を挙げれば、何か決めポーズを取ると背中側で大爆発が起きるとか、お菓子を食べると兵士が出せるようになったりとか、後は……これ別に機密じゃないわよね?」

 千代はそう言って晴香に耳打ちをする。

「そうだね、大雑把な部分なら平気だよ」

 と晴香は頷いた。それを確認した千代は続きを話す。

「後は、空からロボットを落としたりとか」

 それを聞いた瞬間、花沢は足を止めた。

「ほへぇっ」

 そして、変な鳴き声をこぼした。千代には聞こえていなかったようで、話は続く。

「特に最後のロボットは、ここだけの話、誰もそんな魔法を使う子を知らないわ。そもそも魔法かどうかも決まったわけじゃないけど」

「そう、だから今政府は調べているの。こんな強い魔法を使える人を野放しにしておくのはだめだって……ゆりちゃん?」

 話を継いだ晴香は、花沢の歩き方が急にぎくしゃくしたものに変わったことをすぐさま見抜いた。

「ゆりちゃん、大丈夫? どこか具合悪かったりする?」

「あっ、いえ、その、ピンピンしてます。それで? その、ロボット? でしたっけ? について? 何かわかったりとか? したんですか?」

「ううん、全然」

「そうですか、そうですか」

 花沢は深呼吸を深く、二回行うと、また平静を取り戻したようだった。

「しかし、魔法って結構面白おかしいものなんですね。てっきり、皆お二人みたいに何か炎とか水とかを操って戦うものだと思っていました。どうして魔法ってそんなにバリエーションがあるんでしょう?」

「残念ながら、私たちにはわからないわ。研究職の人たちにとってもかなり難しい話題らしいから、解明されるには時間がかかると思うわ」

「そうですか」

 三人は直通路を抜けて、人でにぎわうショッピングモールに出た。地下はどうやら食品売り場になっているようで、真っ白な光からわずかにひんやりとした空気が漂ってくる。

「あの、道案内、ありがとうございました」

 花沢はそう切り出した。

「たまたま行き先が一緒だっただけなんだから、気にしないでいいわ」

「あはは、どういたしまして。それで、どうする? 一緒に見て回る?」

 二人はそれぞれ返事を返し、晴香はこの後の話をする。

「いえ、平気です。買い物は一人でゆっくりしたいので。帰り道も覚えてますから、一人で帰れます」

「そっか、じゃあ、ここでお別れだね」

「そうですね、では、さようなら」

「さようなら。また会ったら、今度はゆりちゃんの話も聞かせてね」

「あー、考えときます」

 軽く言葉を交わし花沢と二人は正反対の方向に別れた。なお、もしこの時二人が振り返っていれば、ゆっくり買い物をすると言っていたはずの花沢が全力で走っている珍妙な光景が見れたのだが、あいにく、晴香も千代もこのショッピングモールのどこに行くかを話し合って気づかなかったのであった。

 

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