天与呪縛観察日記 作:てんてりす
最後まで読んでクレメンス
【●月〆日】
エマに文字や言葉を教え始めて今日で半年になる。
もともと学習能力が高かったから文字を教えるのには大して苦労はしなかった。今では筆談で会話出来るようになった。俺の言葉もしっかり理解しているようで試しに『おすわり』や『お手』と言ってみたらその通りに実行した。
だがエマはそこまで出来ていて何故か言葉を発することは無い。相変わらず『あー』とか『ゔぁー』しか発しない。
エマに直接聞いても『縛られている』としか返ってこない。まあ、ただでさえよく分からない存在なのだ。俺の知らない概念が有るのは当たり前だ。ということで今日からは俺が生徒となりエマに色々教えてもらおう。
問題はエマが知ってるかどうかなのだが
わたししってる こと おしえればいい?
びっくりした。エマが筆談と勘違いしたのか乱入してきた。おれは普段声出して会話しているんだがな?
ごめんなさい
エマを引き離してきた。
最近エマは人間味というか自分で動くことが増えてきた。今まではずっと俺の後ろをついて来ていたが、最近では部屋をうろうろしたり母親や父親の周りぐるぐるしたりする。俺はそれを別段注意しようとは思わない。何かを感じ、考えて行動する事は悪いことではないからな。なんか娘を見ている父親のような気持ちだ。
またエマがこちらにじりじりと寄ってきている。今日はこのくらいにして寝るとする。エマに教えてもらうのは明日からにする。
【●月々日】
今日は大きく進展があった。あの半年前に見た化け物の正体や呪力、呪術というものについてエマに教えてもらった。
因みにエマが何故知っているかは分からない。だが貴重な情報を貰った。あの化け物は『呪霊』といって人の負の感情によって漏れ出した呪力の集合体のようなものでとんでもなく害が有るらしく人を殺したり食ったりするらしい。いや怖すぎな。この事で正式に分かったが、エマがいなくなるのは町中の呪霊を皆殺しにしているからだったようだ。
それとエマ自身の正体も分かった。
どうやら『天与呪縛』というものらしい。天与呪縛とは、生まれた瞬間に強制的に何かを犠牲にして特別な力を手に入れると言う生まれながらの呪縛の事を指すらしい。そして俺の特別な力とは勿論エマの事だ。
エマに何が出来るのか聞いてみたが『自分を描き変える事ができる』とか言っていた。
何を言ってるのか一個も分からん。まあそこらへんは実験を繰り返して確認して行こうと思う。
エマが天与呪縛という事は分かった。だが不思議な事が一つある。
俺は何を犠牲にしたんだ?
俺の身体は五体満足でエマ曰く呪術師達が持っている術式という特別な力も持っている。呪力もあるし呪霊も見える。考えれば考えるほど俺は何も失ってない気がする。
まあここもおいおい探していこう。今のところ考えている仮説としては一番マシなものが臓器の一部、最低なのが寿命だ。正直失ったものに関してはどうしようも無いので調査の優先順位は今のところ低い。
明日からはエマと一緒に呪力の訓練とエマの呪術の実験をやっていこうと思う。
今日はもう寝る。明日が楽しみだ。
【●月↑日】
今日は呪力操作の訓練をしたが結構簡単だった。エマに出来を聞いてみたらそこそこだと言われた。意外と辛口だ。
呪力操作は簡単だったので術式をやって見たんだがこれまた意外にさらっとできた。能力は『自分を中心に決めた範囲からあらゆる物を侵入させない』というものだった。能力だけ見たらチートだ。何せ俺が術式を発動してしまえば誰も俺に触れる事が出来ないからだ。
だがこの能力大きな欠点がある。
それは酸素や光、その他諸々までも遮断してしまうのだ。つまり俺はこの能力を使っている間範囲内の酸素のみしか吸えないし、光が遮断されるので視界が真っ暗になるのだ。
うん。弱い。とても弱い。守れるのは良いが周りの状況が光が遮断されるせいで全く見えないからいつ解いたらいいか分からないし、中に籠城しようものなら酸素不足で死んでしまう。
現実的な考えとしては一瞬だけ展開して防ぐ事かな?中々に練度がいるな。
俺の術式は雑魚だったが逆にエマの能力はめっちゃくちゃ強い。試しにそこら辺にいたすごい弱い(らしい)呪霊に使ってもらったら一瞬で呪霊が殺された。見て思ったがアレは『描き換える』の範疇を超えていると思う。なんせエマの腕が龍になって呪霊を噛み殺したのだ。
いや正直なに言ってるかわからないと思うが俺も何が起きたのか分からん。エマに聞けば「腕をあの呪霊を噛み殺す龍に描き変えた」のだとか。いや意味がわからんし強すぎだろ。
流石に良く分からなかったので詳しく教えてもらった。
どうやらエマの術式の名前は『千変万化』という術式で、対象はエマ限定なのだがエマの身体を質量保存の法則やらを無視してどんな大きさでも変化出来る。例を挙げるとするなら腕を鳥の羽に変えて空を飛んだり、腕を刀に変えて斬ったり出来るみたいだ。強い。
正直これだけでもチートなのだが、なんでもエマ曰く自分の呪力量すら変化させる事が出来るらしい。流石に呪力の上限を上げることが出来ないらしいがどれだけ呪力量が減っていても一回でも術式を発動する事が出来れば呪力量をマックスまで回復することが出来るらしい。
コイツチート過ぎるな。
エマが致命傷を負ったとしよう。普通ならそのまま死ぬだけだがエマは自分を描き換えて傷を負う前の状態に戻ることができる。これだけだとエマに教えてもらった『反転術式』と言った普通の回復方法と変わらないがエマの場合呪力まで回復するのだ。つまりどんだけ負傷しようとも、どれだけ呪力を消費しようともエマが倒れる事は無い。
まあ倒すとするなら回復させる暇を与えず一撃で殺しきる事だがほぼ不可能だろう。
ここまで見たらエマの術式は強い程度の術式に見えるがエマの術式の本当に壊れているところは『エマ自身の性質、或いは本質を変えられる』ことだ。
これまた分かりづらいが、例えば壁に向かって歩けば人はどうなると思う?
当たり前だが壁にぶつかり止まってしまう。だがエマは自身に『壁をすり抜ける』という性質を無理矢理付与して壁をすり抜けることができるのだ。
他にも『触れた術式を無効化する』なんていう夢物語も可能らしい。
うん。俺が修行する意味が無いな。
だがまあ一応弱点や発動条件もある。
発動条件はエマがエマに触れる事、弱点…というか欠点なのだが『触れた相手を殺す』などと言った事はできないらしい。どうやらエマ以外にエマの術式の影響を与えるにはある程度限界があるようだ。
ここまで壊れているのだから相手の変化ぐらい出来そうなもんだがエマ曰く『私は私から発生している性質を押し付ける事はできるが、他人の本質や性質、魂の在り方を変える事は不可能』なんだとか。
難し過ぎて何言ってるか分からん。
一応俺の見解としては相手に術式を使って火傷を負わせる事は出来ないが、術式を使って炎を発生させ相手に火傷を負わせることは出来るとかそんな所だろうか?
まあ取り敢えずエマがとてつもなく強いという事は分かった。それについては特に問題はない。
問題があるのは、こんな強力な術式を持ったエマを俺は何を犠牲にして手に入れたかだ。本格的に心配になってきた。
やっぱりどう考えても答えはでない。
今日はもう寝る。
【●月▶︎日】
なんか黒い呪力が出た。
エマ曰く『黒閃』というラッキーパンチの様なものらしく、込められた呪力よりも大きな呪力が発生し相手に大ダメージを与えれるらしい。因みに5回連続で出来た。何となくだがコツを掴んだ気がする。
エマにも出来るか聞いてみたら『描き変えて常に黒閃が発生する存在になれる』だそうだ。お前やっぱ壊れてるよ。
実戦で見してくれたが相手の呪霊がかわいそうに見えた。だって黒閃一発目で顔が潰れて、黒閃二発目で下半身らしきものが吹き飛び、黒閃三発目で跡形もなく消しとんだ。俺もあの術式欲しい。
今日は黒閃の練習で疲れた。もうねる。
【●月◀︎日】
なんか術式使う人に襲われた。
まあボコボコにして殺したが。
自分でも少し気持ち悪いのだがいくら正当防衛とはいえ人を殺したのに何も感じないのはどうかと思う。普通こういうのはトラウマになったりするもんだろ。
もしかしたらこれが俺の失ったものかもしれない。
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振り返るといつもの筆談用のスケッチブックを持ったエマが俺の顔を覗き込んでいた。
「なあ、エマ。アイツはなんだったんだ」
アレは呪詛師って言われる悪いヤツら
「ヤツら?って事はまだいるのか?」
エマはコクリと頷きスケッチブックを見せる。
普段はワタシが皆殺しにしている。けど今回は修行の一環としてワザと此方に誘導した
「エマって相手を誘導とかもできるのか?」
小さい呪力を出して無理矢理誘導した感じかな。アイツら弱い者イジメ好きだからすっ飛んでくるよ?貴方もまた今度別の呪詛師で試してみる?
「いや、めんどくさいからいいや」
やっぱり何とも思わない。普通なら俺に人を殺させるように仕向けたエマを怒るのだろうがエマに対して不快感も怒りも感じない。むしろ感謝するぐらいだ。
俺は再び机に身体を向け日記を書き始めようとペンを握ると、後ろからエマが抱きついてきた。
「……どうした?」
エマは俺に抱きついたまま俺の日記に文字を書く。
エマのこと怖い?
「いや全く。むしろ可愛いぐらいだ」
殺すの怖い?
「特に何も感じなかった」
もっと殺したい?
「勘違いしないで欲しいが別に俺は殺しが好きなわけじゃないぞ。相手が殺しに来たから殺しただけだ」
残念…
「…エマは殺しが好きなのか?」
貴方を守れてる実感が得られるから好き
エマが殺戮マシーンになりそうでお父さん不安だよ。これからは殺しを控えさせ…いやそれはダメだな。呪詛師達をこの世に生かしておくのは駄目だ。不利益しか無い。呪詛師自体警察やら国の力が及ばない存在だ。エマがパパッと殺した方が世の為人の為だ。
「エマそろそろ離れてくれないか?日記が書けない」
分かった。じゃあ私はこれから呪霊と呪詛師を皆殺しにしてくるね。でも、何かあったら遠慮せずに呼んでね。直ぐに飛んでくるから
「りょーかい。あぁ、でも朝までには帰ってきてくれよ。明日の修業は反転術式をメインにやりたいからな」
エマは俺の頭を優しく撫でた後身体を霧の様に霞ませて何処かへ行った。
「やっぱりエマの術式便利だよなー」
まあ文句言っても仕方ないけどな。
俺は心の中と口で文句を言いながら日記に向き直った。
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草木も眠る丑三つ時。そんな時間に森の中を一人の男ががむしゃらに走っていた。
「ハァ……ハァッ!…いっ、イヤだ!死ぬのは!」
その男は何かから必死に逃げているようで、高そうなスーツが枝に引っかかり破れても気にも留めない。それに目も潤んでおり大の大人としては大分恥ずかしい姿だ。
「何なんだよ!あの化け物は!?」
悪態をつきながらも必死に殆どの呪力を足に回し常人ならざる速さで森の中を駆け抜ける。
どうやらこのスーツの男は呪力が使えるようだ。
だがその男の呪力を嘲笑うかのようにその男よりも遥かに速い影が二つ男の後ろに迫って来た。男はその影に気づき青い顔を更に青くする。
男は直線方向に逃げるのは不味いと思い右に曲がろうとするが右には既に男と並走している影を見つけた。まさかと思い左を見ると左にも男と並走する影が…。
どう見ても男は万事休すであった。
「こんなの聞いてない!!聞いてな…ッ!?」
どうしようも無いやるせなさと絶望から悪態を叫んだ瞬間男はこけた。
それはもう派手に空中に放り出されたかのようにこけた。
普通なら直ぐにでも立ち上がる場面だが。男はもう立とうとも思えなかった。なにせもう男には立ち上がるために使う腕も、立って走る為の足も全てなくなっていたのだから。
(……腕や足って取れても痛くないんだな)
極限状態なのか男はそんな呑気な考えを自分の血で赤くなった枯葉を見ながら考えていると身体がぐるりとうつ伏せから仰向けにされる。
(あぁ…星が綺麗だ)
そして男は襟首を何かに掴まれズルズル引き摺られて行き、木の幹に縋るように座らされる。座らせると言うよりかは立て掛けられたと言う方が合っているかもしれない。
(なんだ今更…こんな事してなんの意味……が」
男が目を開けると頭部が人の手になっている犬や猫の様に四足歩行の呪霊が四匹いた。大きさは大型犬ぐらいの大きさで、身体に血がついていることからおそらく男の四肢を奪ったのはこの呪霊で間違いはないだろう。
だが男は手の呪霊では無くその呪霊の前に立っている顔に札を数枚貼り付けた女の呪霊に驚いていた。
なにせその女の呪霊はスケッチブックを持って男に文字を見せていたからだ。
あなたはここに何しに来たの?
「………」
男は驚きのあまり声が出ない。
なにせ今まで呪霊が人間にコミュニケーションを取ろうとした事など聞いた事がない。あるはずもない。
話したら助けてあげる
ページが一枚めくられる。
話さないなら殺す
「ッ….話す!話すから殺さないでくれ!!」
男は必死に命乞いをする。
すると女の呪霊はスーツの男に近づいて来た。男はもうだめだ、と思い目を瞑るが女の呪霊は男の肩に軽く触れた後、元の位置に戻った。
男は何かされたのかと怯えながらも恐る恐る目を開けた。すると腕と足が治っていた。
(これは…反転術式か!?)
男が驚愕の目を向ける中、女の呪霊は手の犬型呪霊にスケッチブックを見していた。そのスケッチブックを見た呪霊達は指示が書いてあったのか森の闇の中に消えて行った。
(あの呪霊達はコイツの指揮下にあるのか?あの手が頭の呪霊は呪力量からしても最低でも二級、下手すれば一級だ。そいつらに指示を出せる呪霊…まず間違いなく特級呪霊だ…なんとかしてこの情報を持ち帰らないと)
あなたはここに何しに来たの?
女の呪霊が再びスケッチブックを見せる。
「お、俺はここに呪霊がいると聞いて祓いに来た」
狙いはわたし?
「い、いや!違う!お前じゃない!」
じゃあどれ?
「情報では鳥型の三級程度の呪霊だと聞いた。お、お前のような人型呪霊が居るとは聞いていない」
わたしは貴方達呪術師達の間で有名?
「そ、そんなわけないだろ!人型の呪霊がいるなんて『窓』ですら観測したことないんだ!」
息を乱しながらだが男は慎重に言葉を選んで答えていく。目の前にいる呪霊はその気になれば反撃をする暇さえ与えず殺される。そう確信しているからこそ焦らず丁寧に話す。
少しでも気を苛立たせて仕舞えば自分は死んでしまう。そんな恐怖から男は頭をフル回転させる。
(恐らくこのままコイツの質問に答えていけば見逃してくれる筈だ。コイツのさっきの質問で確信した。『有名か?』と言う質問はコイツが目立ちたくないと言う気持ちが現れている。つまり事を荒立たせなくて良いように、良くてコイツの事喋ったら殺すと言う脅し、最悪縛りを結ばれて逃される。良し!これで生きて帰れる!!)
男は自分の生還を確信した。
じゃあもういいや
「は?」
男は首を傾げた。
そしてそのまま頭が地面についた。
「え?」
女の呪霊は男の落ちた頭を踏みつけぐちゃりと潰した。
それと同時に森の闇の中から再び頭が手の犬型呪霊が出てくる。犬型の呪霊達は女の呪霊に触れられると吸い込まれるように女の呪霊に取り込まれていった。
そして残った男の身体を呪力の塊で跡形もなく消しとばし女の呪霊は森の闇の中に消えて行った。
最後また読んでくれてありがとうござました。
因みにオリ主の失ったものは感情ではありません。
それと失うだけがデメリットではありません。もしかしたら与えられることで発生するデメリットもあるかもしれませんね。
感想くれると嬉しいです