天与呪縛観察日記   作:てんてりす

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窮鼠猫を…其の四

 

 

 場面は少年と呪術師二人が睨み合っている場面へと戻る。

 

 現在こちらは少年を殺すと決めた呪術師と、いまだそれを迷う呪術師。それを眺める少年の構図が出来上がり膠着状態へと陥っていた。

 なぜ膠着しているのかと言えば、呪術師たちは片方が迷いに迷っているために攻勢に出れずに動けない。少年は攻勢に出る理由がないため動かない。そんな単純な理由だった。

 

 この状況が続くことが拙いと判断した浜田は何度か少年へと矢を飛ばすが全て防がれる。次は矢の数を増やし6本同時に少年を囲むように放つが『絶』に遮断され少年には届かない。ならばと、目にも止まらない速さで矢を放つが、それも少年を覆うほど大きな『絶』が現れ難なく防ぐ。

 難なくと、その場から一歩も動かずに、眉一つ動かさずに、全ての浜田の攻撃を淡々と作業のように防いでいく。

 その一つ一つの事実が浜田の自尊心をゴリゴリと削っていく。少年が小学生というのもあるのだろう。浜田は何とか少年に一撃決めてやろうと頭に血が上っていた。

 

 このまま呪力切れで倒れるかと思われたが、それを歌姫が制止する。

 

 「駄目です、浜田さん。そんなに滅多矢鱈に攻撃しても彼には届きません」

 

 その言葉に「お前のせいで一人で攻撃してるんだろ!!」と怒鳴ろうと振り返る。が、歌姫の顔を見てやっとか、と安堵の感情により文句がどこかへと消えてしまう。何故ならそこには、依然戸惑いはあるもののやることはやると決めた、覚悟を決めた歌姫がいたからだ。

 

 「何を考えてるかは知らないが、遅い」

 「すいません」

 

 どこか歌姫には覇気がないが、浜田はいないよりはマシかと考え口を紡ぐ。

 

 「殺るぞ」

 「…はい」

 

 二人が戦闘態勢に入る。それと同時に少年も臨戦態勢をとる。まさに一触即発。

 

 その瞬間だった。

 

 少年の首にぶちぶちと皮膚を破りながら()が出現する。

 皮膚が破れる痛みから少し顔を歪める少年と、その不可思議な光景に一瞬戸惑う呪術師を置いてけぼりにする様に口は言い放つ。少年が待ち望んでいた一言を。

 

 

 

そこから北へ直進しろ。そこに『わたくし』がいます

 

 

 そう言うと口は消えて少年の首には傷だけが残る。

 二人の術師は口が現れた現象と、言葉の意味を考えてしまう。

 

 「どういうわけ──」

 

 浜田のその言葉は最後まで言い切れない。

 少年が浜田の目前まで迫る。

 その速さに浜田は舌を巻くが、流石は一級術師というべきか慌てる事なく近づいた少年を見据え防御の用意をする。

 

 この時、浜田はごく僅かだか慢心、そして油断があった。その理由として少年が術式を使わずに右腕でこちらを攻撃して来ようとしている事が丸わかりだったからだ。

 少年の周りには黒い球体は無く、術式を使うような呪力の変動もない。それと呪術師、というよりかは呪力操作ができるものは拳や脚で攻撃する際その攻撃をする箇所に呪力を無意識に集めてしまう。それ自体は悪いことでは無い。だが、何処から攻撃が来るのかが丸わかりになってしまう。そのため卓越した術師にもなってくると呪力操作は流れるように行われ、いつの間にか拳に呪力が集まっていたと言った状況を作り出すことができる。

 しかし、目の前の少年の呪力操作は子供にしてはマシだが浜田の目からすれば一目瞭然だった。

 

 浜田は落ち着いたまま少年が殴ってくるであろう横腹に呪力を集め、なおかつ横腹を腕で守る。いくら呪力量が多かろうとこれで一撃でやられる事はないだろう。それが浜田の考え──だった。

 

 少年が腕を振り殴ってくる瞬間浜田は察した。

 

 

 あぁ、これは黒い火花が散ると

 

 

 それは浜田の経験からくる予知に近い勘だった。

 

 自身は発生させた事はないが他の誰かが発生させた所を浜田は何回か見た。同期の一人だったかが何回か発生させていたような気がする。その時は何かは分からないが完璧だと思った。後々考えて見たが呪力の流れ、インパクトのタイミングそれが完璧だと黒閃は発生するのだと理解した。

 だから何回も何回も試した。トライアンドエラーを繰り返し何度も考えた。けど結局できはしなかった。心が折れた時の事は覚えていない。だが諦めたその日自分は向上心を失ったと覚えている。自分には隣に立つ資格がないことも、守れない事も理解した。

 

 (なぜいまそんな事思い出したんだ?)

 

 浜田は少年の拳を見据えそんな思いに耽る。

 

 (案外走馬灯だったりしてな)

 

 浜田は防御を捨て攻勢に出ようと弓を展開する…瞬間にはすでに浜田の横腹へ少年の拳が叩き込まれる。

 

 

 そして浜田が予見した通り少年の拳からは黒い閃光が放たれた。

 

 

 浜田は公園のフェンスまで吹っ飛ばされ、そのフェンスを破壊しながら近くの民家に突っ込んでいった。

 

 

 歌姫は浜田が吹き飛ばされるまでの一部始終を目の端で捉える。

 

 (速すぎでしょ!?)

 

 歌姫が少年の方へ身体を向けるが、すでに手遅れだった。

 

── 極ノ番『不可進』──

 

 胸の前に黒い球体が現れる。

 歌姫は一番にこの術式を警戒していた。何せあの五条が避ける選択肢を選ぶ程のものだ。だからこそ歌姫はその球体の前でピタリと身体を硬直させてしまい、隙を晒す。

 そして少年に足を払われる。

 

「え?」

 

 払われる、と言うがこの時歌姫は自分の足が吹き飛んだと錯覚した。余りにも綺麗に足が地面と離れたからだ。

 

 綺麗に足を払われた歌姫は背中から地面へと倒れる。

 そして胸の上に黒い球体がグッと軽く歌姫を押さえつける様に乗る。

 直ぐ起き上がろうとするが、身体を上にあげようとした力がスッと消える。

 

 「なにこれ!?」

 

 フリーな腕を動かして球体を掴んで退かそうとするが、球体に力を加えた瞬間にその力が消える。足もジタバタとさせたり何とか動こうとするも肝心な身体への力が軒並み消えてしまう為起きられなくなってしまっていた。

 地面を掘ればワンチャンスあるかもしれないが、残念なことにここにいるのは少年と歌姫のみで掘ってくれる人などいない。俗に言う詰みである。

 

 そんな歌姫を見下ろした後、少年は口が言ったように北へ向かおうと一歩踏み出した──瞬間少年に目掛けて岩が飛んできた。

 

 少年は反応が遅れ術式では無く飛び退き回避する。

 直ぐに反撃を繰り出そうとあたりを見渡すが見当たらない。するとまた岩が岩やフェンス、遊具を避けながら少年目掛けて四方八方から飛んできた。今度はそれを少年は術式の『絶』を使い防いでいく。

 

 少年は今自分を攻撃してきている術式内容を考察する。

 

 あきらかに俺への誘導弾。岩に札が貼ってある。何発も撃ってきているのに弾切れの気配が感じられない。岩の大きさは均等では無い。あらかじめ用意していた?時間経過で発動?全て自動で?いや、それは無いかもな。俺に向かってくるだけだったら家や他のものに当たっている。それに射撃はあの巫女服の近くだったにも関わらず撃ってきた。着弾地点も綺麗に巫女服を避けている。だったらそれぞれ手動で?一人で複数人で?いやそれよりもどこから俺を?

 

 少年は当たりを見回す。しかし、それらしい人物は見当たらない。が、()()()()()()()()()()()()

 黒い球体を新たに作り、電線の上、公園に生えている木、離れた家の屋根に向けて飛ばす。すると「グェッ」と言う鳴き声と共に烏がボトリと落ちたり、宙を舞う。するとそれと同時に絶えず飛んできていた岩が在らぬ方向へ飛んで行き、ピタリと攻撃の波が止まる。

 

 その瞬間少年は北へ向かい走る。

 

「あの子は北の方角へ向かっています!!」

 

 声の方に目線だけ向けると携帯を耳に当てた歌姫がいる。大声で言っているのはこの付近にいる呪術師たちに簡易的に教えているのだろう。めんどくさい事をしてくれる。

 

 少年は公園を出て近くの家の屋根に登る。そして、自分の遥か上空に烏がいる事を確認する。アレを狙って落とす事は少年には容易い。しかし、一匹落としたところで直ぐに代わりの烏が来るだけだ。あの烏を操るのにどれだけ呪力を消費するかは分からないが、極ノ番である此方の方が呪力消費は多いだろう。少年は舌打ちをして屋根伝いに北に向かう。

 

 

 

 北に向かい始めて数秒でまた岩が飛んでき始めた。恐らく目が復活したからだろう。しかもいやらしい事に北に行きにくいように飛んでくる。更に岩に紛れて時々烏が特攻してくる。しかも変則的に飛んできたり『絶』で防ごうにも壁を避けて飛んでくるため『不可進』でないと防げない。

 岩も烏も少年を殺すには至らない。

 けれども少年を足止めするには十分だった。現に少年の足は止まる。

 

「ウザすぎる」

 

 だが、それは打開のための停止だった。

 

 少年は烏迎撃に使っていた『不可進』に捕まり空へ飛ぶ。それはもう高く。ここら一帯が見渡せる程高く飛んだ。そして見おろす。すると辺りにポツポツとスーツを着た人間が岩に呪力を送っているのが見えた。それぞれ距離の離れているそいつらを狙っている時間の余裕は無い。狙っているのはたった一人。

そして少年は見つけた。明らかに佇まいから違う白髪の女を。

 

「見つけた」

 

 少年はその女目掛けて『不可進』を掴んで突っ込む。

 その間烏が飛んでくるが『絶』で防ぐ。少年自身が突っ込んでいるのだ。烏が軌道変更する暇などありはしない。無様に死んでいく烏を横目に少年は女の前に降り立つ。『不可進』は慣性すら消すため少年が地面に激突すると言う事は無い。じゃあ何故少年がこの移動方法を今の今までしなかったかと言えば単に呪力消費量がとんでも無いのだ。少年が掴まれるほどの大きさの物を作る、更にそれを長時間高速で動かすともなれば直ぐに呪力は無くなってしまう。これから五条とやり合う予定の少年にはあり得ない選択肢だった。

 しかし、この女は別だ。姿を晒していたのは少年に索敵能力が無いと考えていたからだろう。ここで一気に決めなければ身を隠され一生エマの元に辿り着けない。だから少し無理をしたのだ。

 

 少年は一言も発する事なく白髪の女に肉薄し殴りかかる。

 

 それに対し女も無言で布で巻いて隠していた斧を少年に振り下ろす。

 相打ちかと思われるかもしれない。だが斧は黒い壁に阻まれる。そして少年の拳はそのまま女の横腹に届く。

 

 女の身体が少し浮きつけていたインカムが落ちる。それを少年は踏み潰す。女の方は横腹を抑えながら後退する。決まったかと思われたが、少年は女への警戒度を跳ね上げる。

 

「ふむ、君の真似をしてみたけど…案外悪く無いね」

 

 女が抑えていた手を離すとそこから潰れた烏がぼとりと落ちる。少年は戦闘態勢をとり、女は携帯を取りだした。

 その意外な行動に少年は呆気に取られてしまう。同時にしまったとも思った。

 

「冥冥だ。例の少年と対面している。応援を頼むよ」

 

 少年は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「これが君にとって一番されたく無い事だろう?だからやってみたんだ」

 

 携帯をしまいながら冥冥は優しそうに微笑み、少年へ斧を向ける。

 

「君と正面切って戦うのも面白いだろうけどこれが最善の手だ。それと一応降伏を勧めておくよ」

 

 少年と冥冥の周りの民家にバサバサと羽音を鳴らしながら烏が何十匹も降り立つ。

 

「君の敗北は五条 悟がこの場に帰ってくること。勝利の条件は五条 悟を倒す事。フフッ…どう足掻いたって詰んでるよ。下手な事をして自分の立場を危うくする事はお勧めしないよ?」

 

 烏に紛れ何人かスーツの人間が彼方此方から集まってきている。ざっと見た感じ5人程。家の中だったり、塀の裏にいる。同時に相手するのは愚策。けど各個撃破なんて無理難題。逃げたいが、逃げたところで烏の監視付きのエンドレス岩避けタイムに突入して時間を稼がれ終わりだろう。

 

 少年は大きくため息を吐き両手を上にあげる。俗に言う降参の姿勢だった。

 

 

 「『泥』」

 

 

 そしてその両手からドス黒い泥が溢れた。

 

 







どうもお久しぶりです。
少し早く投稿できました。

あとこのままだと後半その5ぐらいになりそう。話数管理ぐらいしっかりしたいですね。
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