憧れのウルトラマン(旧ウルトラマン転生短編集) 作:あっ察し
巨大ヤプール
「な、何故…貴様はあの時消滅したはず!?」
ーーーデァッッヅーーー
巨大ヤプールの胴を貫いた巨人の腕が引き抜かれる。
風穴の空いた胴を抑えて体勢がくの字におりながらよろけて尻餅をつく巨大ヤプール。
その無様な姿を見つめる巨人の目には隠し切れない怒りの感情が宿っていた。
光の巨人の前腕に光が集まり、あたりの塵やほこりに反応してスパークする。
巨人のその動きに自らの敗北を悟ったヤプールはここから逃げ伸びる為に言葉によって巨人を惑わせようとする。
巨大ヤプール
「こ、このまま俺を殺せば、貴様はこの空間から出る事は二度と叶わんぞ!!
この異次元には我らヤプールと我々の生み出した数多の超獣がいる、どんなからくりかは知らんが、少なくとも一度はお前を倒した戦力がここにはあr…。」
眩い光が焼き焦がすように邪悪な影に衝突する。
十字を作るように重ねられた巨人の腕から閃光が上がったかと思うと光の本流が迸る。
言葉の途中にも関わらず巨大ヤプールに向けて放たれたそれには凄まじい熱量と激情を物語っていた。
知的生命体の負の感情を糧に存在を確立している二次元人ヤプールにとって巨人が抱くその負の感情は極上の餌だ。
濁り混ざり凝り固まっているのにどこかドロドロとしたその負の感情は本来別宇宙の地球人が持つ物と同じそれが光の巨人からも感じ取れる。
だが、それを塗り潰す様な眩い光がヤプールの感覚を埋め尽くして行く。
やがてヤプールのいた場所には焦げ跡だけが残っていた。
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キリエル人
「流石は、星の怒りと言った所だ。」
突如スカイホエール号の戦闘指揮所に現れた男に船員は警戒を示し、銃を構え静止する様に怒鳴る。
その声に謎の男は両の掌を、挙げて抵抗の意思が無いのを示す。
キリエル人
「あぁ、驚かせてしまって済まない。
まず私は味方だ、そして、我々はキリエル。救世の資格ある者を見定める者です。」
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異次元の空間に爆炎と閃光の嵐が吹き荒れる。
今、赤い荒野の上で光の巨人とヤプールの生み出した怪獣軍団との死闘が繰り広げられていた。
黄金の粒子を迸らせて、銀と赤に輝く巨人は周囲を囲む超獣達の攻撃を巧みに交わし、時に利用しながら立ち回る。
地上の様々な生物と兵器を合体させた恐ろしい合成獣である超獣は本来生物が持つ恐怖を感じ無い、それ故にいくらその体にダメージを受けていても完全に活動を停止させるまで攻撃を止める事は無い。
破壊の為だけに生み出された獣は感情を奪われ心を失いただ目の前の標的を排除する兵器と化す。
一筋の熱が巨人の頬に走り体に黒いラインが現れる。
迸るエネルギーと同様に、その鉄仮面には慈悲の涙を、その体にはある種で無垢な命を奪う罪を背負う。
四肢を吹き飛ばされて尚も突進攻撃を仕掛ける超獣を受け止める。
それを好機とみて一斉に融合している兵器を使って巨人を攻め立てる超獣達。
轟音と爆炎の後には活動を停止した残骸だけが残り、その光景に見失った標的を探そうと首を振る超獣達を異次元の遥か上空から光の巨人が見下ろしていた。
しばらくして、あたりには静寂だけがあった。
そして巨人は異次元の赤い空間に溶けるようにその姿を霧散させていく。
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キリマ「救世の資格がある者?」
突然艦内に現れた謎の男はニヤリと笑いそうキリマの方を見て、語り始める。
曰く、この悲惨な状況を止めようとする者達にその資格はあるという。
曰く、その者は勇敢であり、大きな力を行使する事が出来る。
曰く、最高の結末では無く、最悪の選択が出来る者に真の資格が与えられるという。
幾人もの隊員に包囲されながらも男は緊張する様子も無く言葉を紡ぐ。
キリエル人「そう、あなた達は今一つの時代の終わりに直面しているのです。あなた達の目の前にいるアレはあなた達自身が生み出した明確な”闇”そしてあなた達はそれを大いなる力でもって消し去ろうとしている。」
生きる為に命を奪うという行為は決して、悪では無いと男は言う。
過ちをのり超える為に過去を消し去る事は、過去に追われる事を覚悟する必要がある。
キリエル人「そして、今この瞬間にその全てを選びえる事が出来る者を私は見定め、救った。その彼をここに呼び戻しましょう。」
男が言うと共にその手の平を虚空へとさし伸ばす。そして虚空からゆらりと現れた穴を通って恐る恐るといった様子でヘルメットを着けた男が現れる。
「だ、大統領!!」
だれが言ったか、先ほど謎の巨人に機体と共に救出された大統領が謎の穴を通って現れたのだ。
大統領「これはまた、面妖な・・・まあ、ダークワールドを通ってくるのとそう変わらんか。」
落ち着いた様子で艦内に帰還した彼に数名の隊員が近寄りすぐさまバイタルのチェックを行う。
どうやら、機体の墜落のGで多少の眩暈はあるが命に別状は無かったようだ。
大統領「それで、あなた達キリエル人は私に救世主になれと、そう言いたいのかな?」
悪魔で、平静を保つように話した大統領の声は、言葉を発し終わるときのほんの少しだけ震えていた。
キリエル人「ええ、その通りです。あなたは正しき事を行い、泥に塗れる覚悟のあるお方です。」
我々は、あなたの手伝いをし来たのだと。
いくら我々の力をもってしても、あの怪獣は食い止める事が限界であり、倒す事は出来ないと。
しかし、あなた達があの怪獣を倒す手段を持っているのであれば、手助けは出来ると。
コンダ長官「君の言葉を信頼する根拠と、我々にあれを止める手段はあると思うのかい?」
警戒心から問いを投げるコンダの言葉に男は、我々の同胞はこの星にもいる。と言い、あなた達が持つ最終兵装についても把握していると話す。
その言葉にコンダの顔は苦い顔をする。
大統領「コンダ、既にアレの使用は決めたはずだ。待たせて悪いな、キリエル人だったか?既に私は覚悟を決めている。その上で、もし手を貸してくれるというのであれば、お願いしたい。」
謎の存在ではあるが、命の恩人でもある。
私は、少なくとも、命の恩人をあまりに警戒するのは得意では無いからなと大統領は乾いた微笑みを見せる。
キリエル人「素晴らしい!あなたは今我々キリエルが認める救世主となった。その覚悟に我々は全力を持って君達に手を貸すとしましょう。」
男は真面目な顔になると、その目が怪しく光る。
そして突如炎に覆われた後に跡形もなく男は消えた。しかし、艦内全員の頭に直接男の声が響く。
怪獣と組み合う謎の巨人は徐々に押され気味ではあった者の力を振り絞りムルロアを地上へと落としその高熱の火炎を放ち続ける事で動きを封じる。
最終兵装を確実に怪獣に命中させる為に、キリエルがアレを食いとめる事、そして、私がここに来た理由は、あの怪獣、ムルロアを止めようとした者が、力及ばず倒れ、私にその意思を託したからだと伝えた。
船員たちの頭に荒れた大地の上で怪獣を食い止めようと力を奮うも、及ばずに光の粒子へと散るあの巨人のイメージが流れ込む。
完全に霧散するその間際に彼は救難信号を放った。
それをキャッチした我々はここに駆け付けた。と・・・。
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再び肉体を再生しながら飛翔し怪獣ムルロアは巨人に対して体当たりを仕掛ける。
その力に思わず巨人は吹き飛ばされ、地上へと落ちる。
苦しみにのた打つ巨人の隣へと降り立ったムルロア巨人何度か足蹴にした後仰向けとなりされされた巨人の腹部を踏みつける。
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ある者はその映像に悲痛な顔をした。その光景に泣き崩れる者がいた。
彼は、愚かな我々を見捨てず、最後まで守ろうとしてくれていたのと・・・。
どうか、彼の無念を晴らす手伝いを私たちにさせて欲しい。
最早この船にキリエルを疑う者はだれ一人としていなかった。
キリエルを信じる事は出来なくても、あの巨人を疑う事は誰も出来なかったからだ。
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キリエルの巨人はムルロアが踏みつけるために上げた足をその場に固定するように掴んだ。
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最終兵装のロックが解除される。
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突然の巨人の行動に違和感を感じたムルロアは上空を見上げると、そこには恐ろしいエネルギーを充填している艦隊が目に入った。
慌ててその場から離れようとムルロアはもがくが、キリエルの巨人はムルロアを離そうとはしない。
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その発射装置の前に男は立ち、引き金を引いた。
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その時、悪魔が凄惨にほほ笑む姿に誰も気づく事は無かった。
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光の本流が放たれるその瞬間、キリエルの巨人はムルロアの足を離し、虚空に生み出した穴へとその体を落とした。
ムルロアは一瞬の自由を得た者次の瞬間には降り注ぐエネルギーの本流にその身やかれていた、既にただれていた肉体はだんだんとドロドロに、その翼はは焼け焦げて塵となっっていく。
断末魔にも思える金切り声のような怪獣の鳴き声が辺りに響く。
最終兵装”フォトンストロームは降り注いだ大地をその光をもらって消滅させる。
限界まで被害を抑えたそれでも、都市のひとつや二つであれば簡単に飲み込み全てを無に帰してしまうのだ。
地上に命中すると共に大きな爆発を伴いながら、すべてを吹き飛ばすその時を、引き金を引いた男は瞬きせずにその目に焼き付けようとした。
圧倒的な光量に目が焼き付こうとも、最後まで光の本流が放たれている大地を直視する。
しかし、視界の全てを焼き付きが多い、一時的な失明の状態になるその時に、男はあたたかな光を見た気がした。
そして視界を失った男の耳にいつまでも爆発の音が届く事は無かった。
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悪魔は異次元にてその顔を壮絶に歪めた。
何故貴様がここにいる!!
もう少しで、計画は完遂するはずだった。
なのに、ほこりを払うように振り払った障害が何故今になってまた、このタイミングでここに舞い戻ってくるのだ!!
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光が止んだ時、その余波から黒煙は吹き飛びぽっかりと空いた雲の切れ間から青空が覗いている。
巻き上げられた砂ぼこりに降り注いだ太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。
本流の爆心地だった位置には砂ぼこりが舞ってこそいたが決して大きな破壊の後は見られなかった。
徐々に待っていた土煙が晴れて、光を反射する巨大な透明の膜が現れる。
オペレーターが何かを感じ艦内のモニターで全員に爆心地の拡大映像を写し出す。
皆が待ちわびた影がモニターに映る。
身体の至る所に切り傷のような跡が走り金色の粒子が散っていた。
それは幾度も見た、彼が傷を負った時の光景だった。
巨人の背後には、蹲る様に身を屈めた怪獣の姿があった。
天空に向けて彼は両手の掌を広げたままつき上げていた。
その足は大地にめり込む程に強く踏ん張りを聞かせていた。
この光景を見た者達全てに静寂が訪れた。
そして、光の膜に罅が入り、ゆっくりと割れたガラスが崩れるように落下したそれらは地上につく前に光の粒子となって消えていく。
それと同時に”彼”はゆっくりと膝を突き、天に伸ばしていた手を下ろして肩で息をしながら蹲る怪獣へと振り返った。
ゆっくりと立ち合がりゆっくりと、手を”ムルロア”に対して伸ばす。
光の巨人に気づいたムルロアその顔を上げ巨人を見上げると威嚇するように吼える。己の身体が滅ばぬ限り、その憎しみは消えないのだとでも言うかのように・・・。
そして、勢いよく立ち上がり、鋏のような腕を振り上げ突進するように襲い掛かりその凶器と化した腕を振り下ろす。
ムルロアの振り下ろした刃物のような腕は巨人に突きささることなくギリギリで静止していた。
そして、その瞳のような器官から黒く濁った液体があふれ出す。
零れ落ちたそれは大地を溶かした。
幾度も幾度も嘆くように悲しみの鳴き声が辺りに響き渡る。
そんな怪獣の涙をそっと巨人の手がぬぐい、宥めるように肩を掴む。
いくらか落ち着いたムルロアの手をとり、彼が受け取ってきた光をそっと流し込む。
みるみると、ムルロアはその姿を変えていった。
それは純白の姿をした蝶を思わせる翼を持つどこか女性的で美しい姿を持つ巨人”ムルロア”が立っていた。
星の命を守り育てていた彼女の真の姿がコレなのだろう。
戸惑うムルロアに光の巨人はそっとうなづく。
そしてゆっくりと飛翔し天に昇っていく。
空にぽっかりと空いた穴へムルロアとともに向かい、そして空に消えていく。
少しして、あたりに光り輝く鱗粉が降り注いだ。
その粉は地球中に瞬く間に広がると黒煙を吹き飛ばしていく。
そして世界の各地から白い蝶の幻が飛び去っていく。
この日惑星ヤブラツは時代の節目を迎えた。
頑張って続きかきます。
来週でトリガーロスしそう。