記憶はない。人間性も若干ない。元気しかない。 作:ささかま
白の戦い方と言えば、敵に気づかれない距離、あるいは背後を取り吸血し、得た血で血鬼術……によく似た錬血を主力としたものだ。
白がしのぶと一緒だと戦いやすいと証言した事がある。それはどうやら一定距離に居る敵が毒に侵されて居ると、相手に触れなくても冥血が溜まるから、とのこと。原理は分からない。
当人は自分のブラッドコード、ようは固有の血液型、彼女の特性がそういうものなのだそうだ。
得物に毒を付与する事も出来るという。白曰く、「非力だから、あまり重い武器は持てないから、ほとんど練血で削る」と注釈がつくが。
並みの男よりも恵まれた体格の彼女に「非力とは?」と首を傾げたが、そもそもの身体能力が鬼のそれと同じく人間離れしているのだから、彼女達レヴナントに用意された武器は、常識からかけ離れた物だったのかもしれない。
当人は不死の戦士として、戦闘をしていた記憶もないので自分が何を握って居たかも覚えていないので判然とはしない。
相応しい得物も不明な為、彼女は専ら練血を用いた補助の立ち回りをしている。それが冗談の様な高火力をしているので、正直『補助』という表現はあまり正しくない。
敵の命を削ぎ取った上で。砲弾にして放つ砲台の様なものだ。しかも動き回り、何なら人間の盾の役割を果たせる。根本的な問題として殺す事は出来ないが、牙装で串刺しにされた時点で弱い鬼等は殆どの行動を封じられる。
近接で打ち合う事は、少し苦手なようだ。
どちらにしろ、人の戦い方とは程遠い物だ。
悍ましさの滲む戦闘を行う吸血鬼は、はじめに拾って来た蟲柱の後を付いて回り『使える』事を証明した。
次に、他の柱の任務に同行しどの程度の脅威にまで使用に耐えうるかの検証を行った後に、一般隊士への任務への使用、大抵の鬼に対して有用と判断された。
運用に際して、人外染みた外見や鬼殺隊内での忌避感等、当人の『明るすぎる』性質などもあるが、今の所大きな問題はなく、隊士の人的被害が押さえられている。……人間と喋る事を好み、無意味にひょこひょこ跳ねまわる吸血鬼の性格と反りが合わない場合は、若干心的被害を被る事にはなるが、人命には代えられない。
大々的にその存在を明言されてはないが、隊内で人づてに『蝶屋敷の白いの』と言うように一部では懐っこい、外国産の猟犬程度には親しまれていた。
任務に白を同行させた隊士が、蝶屋敷へ返す時にお八つや握り飯等を餌付けよろしく与える事もあった。
それを原因とする小さな騒動があったりもしたが、『吸血鬼』というおどろおどろしい名称からは考えられない程、彼女が能天気だったのが功を奏したのかもしれない。
今日はギユウくんと出かけました。
いろいろ戦ってみましたが、やっぱりわたしが日輪刀持って一人で動いた方が効率がいいと思う。
カナヲちゃんにもシノブちゃんにもサネミちゃんにも「刀は向いてない」って言われたけど。型とか分かんないけど、動かなくなるまで燃やして最終的に首を切ればいいんでしょ?
いつかは死ぬならロストより簡単だと思う。
「人間の血を必要としないレヴナントは居ないのか」と聞かれたとおもいます。何ていうか、主語とか省いても意味が伝わる言葉って受け手側の技量にも寄るから大変。
取り敢えず、その欠陥を取り除いて完璧な兵士を作ろうとした結果がクイーンの暴走。
わたしはどの時点で死んだか分かんないけど、その暴走でいっぱい吸血鬼も人間も死んだし、討伐戦でもいっぱい吸血鬼が堕鬼になったり灰になった。それでも完璧な兵士はつくれなかった。
という話をしました。
そうか、としか言われなかったけど、鬼の兵士化とかの構想有るのかな?
ここはちゃんと政府が機能してるみたいだし、不死の兵士とか絶対欲しがると思う。出資とかされないのかな。
あと、やっぱり柱の人と出かけるとあっと言う間に終わっちゃうから、ばらけて殺しに行った方がいいと思う。
ギユウくんはあんまりお喋りしないから、ちょっと困りました。
会話が出来る存在で、敵対もしていないのに、会話が無いのは苦手です。
気まずかったけどわたしは今日も元気でした。
最近はシノブちゃん以外の柱の人と一緒に出掛けてましたが、今日はふつうの人?と一緒でした。階級があるそうですが、ややこしいので直ぐにでてきません。
手帳にフルネームを書いてもらいました。新しい知り合いが出来て嬉しいです。地元の話をしてくれました。わたしはヴェインの話をしました。あまり面白くなかったかな。変な国があるんだな、と言われたけど日本も十分変だと思う。
沢山はなせて今日もわたしは元気です。
そしてやっぱりわたし一人の方が効率はいいと思います。
あと、それなりの数の鬼の食べ比べをして分かった事があります。
シノブちゃん達と一緒に行った先の鬼は冥血がめっちゃいっぱい貯まるけど、乾きはあまり癒されない。綺麗な色の花がいっぱい咲いてる山の、食べちゃいけなかった鬼は冥血が殆ど堪らないけど、乾きは治まる。
たぶん、皆が言う弱い鬼の血は人間の血に近くて、強い鬼?いっぱい人間を食べた鬼?はロストの血みたいに渇きに何の効果も無いっぽい。
この仮説でいくと、根源の鬼から吸血したら一回でパイル何連射できるかとても気に成ります。ちょっとわくわく。
でも残念ながら、きぶつじなんたらさん(後ろのページに字を書いて貰いました)はなかなか出会えないそうです。チュパカブラとどっちが遭遇率ある?と聞いたら、何それ、と言われました。
昔話題に成ったそうですけど、今の子は知らないのかな?ジェネレーションギャップ?
初めて会う人はわたしを見てすごくびっくりします。見た目が死体っぽいから仕方ないけど。あとデカイから。
それだけでなく、同族の血を欲する生き物というのは普通に怖いのだと思います。生き物というか、死骸に寄生する寄生生物が生かしている死体ですからね。
わたしも嫌ですが、レヴナントの改良は失敗しているので仕方がないです。
今回で少し疑問だった事いっこ解明しました。
ずばりヤドリギが無いここで機能停止した場合、わたしはどこで再結合するんだ?と不思議にしてましたが、たぶん、機能停止の瞬間に一番意識が向いて居た場所みたいです。何でかは、ぜんっぜん分からないけど。
とりあえず、人間と一緒に戦ってる時にわたしだけ戦線離脱に成らなくて良かったです。ちゃんと人類を守れました。
帰って来てからもう一度検証しようと、意図的に霧化する為に杭を探して居たら、シノブちゃんにめたくそに怒られました。
よく考えなくてもシノブちゃんの自宅でしたね。ここ。でも、一瞬血まみれになるとは思うけど零した血も一緒に再結合すると思う。わたしの血液だって、寄生体が巡らせてるものだし。
検証は断念しました。
そうだ。もう一つ、驚いた事にわたしって最初からシロという名前じゃなかったんですね。
かなり派手に体を壊したので、念のため手帳を見返していたら、わたし蝶屋敷でシロという名前になってたんですね。完全にその辺り一連の記憶が破損していたみたいです。
とても嬉しそうな文面がありましたが、一切実感が沸きませんでした。この感覚を思うと、自我を全て失うのはどれだけ寒々しいことなんでしょう。
手帳への記録は有効です。
ただ実感も、当時の感情も付随はしませんが。他人事のような、記録としか感じないのは残念です。
残念に思っても、わたしは今日も元気でした。死に機能停止しましたけど元気です。
アオイちゃんにとても怒られました。
けちょんけちょんに怒られました。昨日の今日で怒られました。いい年して自分より小さい子に本気で怒られるとちょっとへこみます。わたしの年齢は相変わらずなぞですが。
一緒に出掛けた鬼殺隊の人がくれたおにぎりを食べて居たら物凄く怒られました。
「普通の食べ物が食べれるなら早く言ってください!」とめちゃめちゃに怒られました。
わたしが死骸だと言っていたので、物を食べるとお腹の中で腐ってしまうと思ってたみたい。死体だけれど寄生体によって脳や心臓は動いて居るので、消化器官だって刺激があれば普通に機能するもの。
でも食べれるけれど、無いと死ぬ訳ではないし、食べ物って嗜好品ってイメージがあるから、なんか、そこに有っても食べなきゃという気がしないから仕方がない。
食事時に自分の分が無いのを不思議に思わなかったのか、とも怒られながらしょもじでぺしぺしされました。
人間は食べないと死ぬから、普通の事なので別に疑問に思わなかったと言ったら一層ぺしぺしされました。「物凄い意地悪してたみたいじゃないですか!」と言ってましたが、別に思いません。
でも今日からわたしもご飯を食べ始めました。お米は少し苦手です。
ところでおにぎりの黒い所って本当に食べても平気な場所だったんでしょうか?心配です。ノリは食べ物、と聞きましたが黒いので、なんだか怪しいです。
ヴェインではやはり洋食なのか、とごはん中に話題に出ましたが、わたしはヴェインでの生活を殆ど覚えていません。でもトマトおでんパンという食物はありました。
そう言ったら全員が「正気か?」という目をしていました。やはりあれは狂気だったようです。
ご飯は慣れませんが、沢山話せて楽しいです。今日も元気でした。
耳馴染みの無い言葉の歌を白が歌っている。
この鬼とは違い、日光が弱点と成り得ない吸血鬼が、相変わらず陽光に全身白でちらちらと反射させている。
ここ二月程彼女を観察している人間は気づいた。
白は記憶が何も無いというが、それは彼女自身に関する事ばかりなのだ。生前、蘇生後、戦いやその後の自分の行動、日本へ渡ってくるまで。そんな事ばかりの記憶を失っている。
現にしのぶからすれば異質な程『進歩』のある医療知識や、吸血鬼の成り立ち、彼女の生きたヴェインでの常識等は、情報の断片から知るしかない周囲の人間でさえ分かる程に詳しい。
それと、この国の物ではない歌や踊りなどはだいたい無意識なようで、詳し過ぎる知識やその歌の詩などをどこで誰と、或いは誰に学んだのか、と聞けば首を傾げる。
対人関係の記憶もごっそり無くなっているらしい。
それも手伝って、出会う人間全てに過剰な程に寄っていくのかもしれない。
そんな相変わらずに人懐っこい大きな犬染みた彼女だが、ここしばらくは鬼を狩る他にもしのぶの手伝いに精を出していた。意外な事に、白は探究するということが得意で、手技も悪くは無かった。
落ち着きなく跳ねまわり、誰彼構わず話しかける姿と全くかみ合わないが、それが事実だった。
「今日は随分と物悲しい歌なんですね。白さんの国の歌ですか?」
「え! どうでしょう!? これ、えっとこれ……何でしょう!? たぶん、レクイエムと……おやすみなさいを歌う歌です。大切な人に、もう、ゆっくり安心して眠って……と言っていました?」
無意識に歌っていたようで、問いかけられてようやく自分が口にしていた詩を認識した様に、小さく跳び上がる。そしてほとんどの中身が空に成っている記憶の引き出しを漁る様にして、随分と曖昧な結論しか見つけ出せなかった。
普段は少しでも白の記憶残量が増えればと(それこそ一度派手に死亡し、記憶の欠落という現象を目撃すれば)、更に会話を続けようとするのだが、今日はそれ以上を尋ねる事は無かった。
白は何か彼女を不快にさせる様な歌詞だったかと、慌てて脳内で半ば無意識に紡いでいた歌詞を再生させる。最近では様々な人間と共に鬼を狩に行く事が増え、鬼殺隊の人間は『安寧の眠り』を祈る者が居るのだと理解している。
ただしのぶは、また別の事を思考していた。
白は死を恐れはしないが、自我喪失に怯えている。死ぬ事も出来ずに渇きに彷徨い続けるだけの存在に成るという性質を忌避している。
無理やり蘇らせられた死者を、縁も所縁もない戦いに『使って居る』という罪悪感が折に触れては浮かび上がって来る。
歌詞の言葉は聞き取れなかったが、『おやすみなさいを歌う歌』という言葉には思う所があるのだ。彼女が戦い続ける以上、常に付きまとう『恐れ』から解放し、眠らせてやるべきなのではないかと……。
先日改めて伝えられた吸血鬼の殺し方も相まって、そんな思考が巡るのだ。
異国の不死者の見解を聞きたいと言われ、しのぶのまとめた鬼についての手記を辿っていた手を止め、白がぽつりと零す。
「ロストは、完全に自我を失って居ますが、鬼は普通に話しますよね」
「そうですね」
「鬼は自我があるのに怖くないんですかね。自覚できないままに忘れてしまった、大切だったかもしれない仲間を傷つけちゃう可能性に、怯えないんですかね」
「……そんな事、気にもして居ないんじゃないですか。鬼なんですから」
ほんの一瞬のみ全ての表情を落とした後に、いつもの穏やかな微笑みを湛えてそう言い切った。
良く考えてみれば、わたしの知っている事や、無意識に話せる常識は、知っているから知っているとなっていました。が、文化的な歌や物語については考えてもみませんでした。
でも知っているものは、知っているのだから仕方がないです。思い出は付随しないだけです。
でもあの、レクイエムだけは、誰かの姿がついてきます。
でも、あれはきっと夢です。
だって、夢でなければおかしいです。霧の向こうにはとても恐ろしいバケモノが居るはずなんです。だから赤い霧は、わたし達を守っ閉じ込めているから。
だから夢です。
霧の向こうが、とても美しい緑の景色が広がって居るのなんて、夢に決まってます。
淀みのない遠くに広がる空に、綺麗な水がありました。瘴気が無いのも、きっと夢だから。わたしの脳が作り出した妄想だから。
大地を貫いた棘に似ているのに、その色がヤドリギの様な白銀をしている物が遠目に見えるのも、わたしの願望だから。
そんな綺麗な世界に、黒い服の金色の目をした子が歌ってたんです。綺麗な世界で一人っきりで歌ってたんです。その子が歌っていた『鎮魂歌』だけが残ってるんです。
シノブちゃんと同じように、たくさんであったにんげんのように。とてもさみしそうに。
それでもその金の目が怖かったです。
静かに悲しそうなその子が怖かったです。
その子がただ穏やかに、もう世界を閉じたいと言って居たのが怖かったのかも。疲れ切った笑顔で、大切なものを全て奪った世界諸共心中をはかるような、冷たさで。金色の目が見た事ない、ない筈のバケモノのようでこんな夢の話はやめよう
追記
あんまりシノブちゃんと出かける事が無くなって、ばらばらに遠出したりすると数日会えなくなります。
また新しい知り合いが増えるのは嬉しいですが、皆と話せないのは寂しいです。
こういう執着を持つほど自我喪失が恐ろしく成るんですね。
任務に出る前に、シノブちゃんが皆とお揃いの蝶の髪飾りを着けてくれました。
もし沢山死ぬ事があっても、忘れしまっても、帰って来れるように、だそうです。迷子札の様もの、と笑っていました。でもわたしはレヴナントです。同族の血に飢える生き物です。死骸に寄生体を埋め込んだ、決して生きている人に戻る事の無い■■■■■。
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手帳をもらいました!
ここにいろいろな事を書いていこうと思います!
わたしは今日も元気です。
うそです。
ちょっとげんきでないです。血がたりません。わたしは一体どれだけしんだのでしょう。なぜこんなに死んだのでしょう。覚えていることを、これ以上わすれないように書いておこうと思います。
わたしはレヴナントです。名前はシロ。名前は、血だらけの写真に書かれていました。この血は人間のものの様です。でも写真は、確認出来る限りは、全員レヴナントです。このなかの誰かの物ではなさそうです。
それくらいしかわかりません。
同じ釜の飯を食った仲、という表現を知りました!
そんな同じ釜の飯を食った?らしいドーマくんも、何でわたしがそんなにころしに来たのかは分からないそうです。たくさん殺したのはドーマくんらしいです。なぜわたしはそんなにドーマくんと殺しあいっこしてたのでしょう?
なにがあるか分からないので、クイーンや吸血鬼について知っていることは次に全部書いておきます。
もしまたたくさん殺されてばらけたら、この手帳をよんでください。
手帳に書いた事すら空気中においてきちゃったら、諦めて元気にいきてください。
血がたりなくて、手もうまくうごかないので、もうすこし血をもらってきょうはねます。おしえてもらったこともあしたにまとめましょう。
あしたは元気に生きたい過ごし明日もわたしはわたしでありますように。
それにしても近くに話をしてくれる人がいてほんとうによかったです。わたしが自我を持ったわたしであることを証明してくれる人がいたことは本当にこううんでした。
なにもかも忘れていますが、わたしという個をにんしきしてくれるひとがいるので、きっとあしたは元気です。
Wikipediaによると、チュパカブラの初の目撃情報は1995年2月ごろだそうです。