文無し傭兵は金が欲しいッ!   作:アイス&コーン

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この話はベル君が傷つく描写があります。見たくないという方は見ないのをおススメします。


ロキ・ファミリア

「はぁ、マジかよ。あそことんでもねぇ地雷だったじゃねぇか」

 

 オレは今、オラリオの冒険者ギルドを目指して歩いている。

 話がいろいろありすぎて、オレの頭じゃ理解してねぇのもあるんだが、簡単にこれまでの経緯を話そう。

 まずオレは神ミアハの馬車に乗りオラリオへ行った。門のとこには入門審査っつうのがあって、それで行きは居なかったオレが居ることに疑問をもった門番と軽く口論になった以外は特に問題はなかった。ちなみにその時はまたも神ミアハに助けてもらった。あの人にはなんか感謝しかねぇな、いつか恩返ししなきゃいけねぇ。

 それでオラリオに入ったはいいんだが、そこから馬車を返しに行った二人が帰ってくると、ナァーザは超絶不機嫌になっており、神ミアハは「これは仕方ないのだ、ナァーザよ。それよりもお前に怪我をさせずに済んでよかった」と、ナァーザを窘めていた。ま、馬車借りて何もせずにオラリオに帰ってきたんだから、大赤字だったんだろうなと想像するのは容易いことだ。

 若干そのあともナァーザがうざかったが、それまではよかった。オレも憂鬱な気分にならず、「もうここに入っちまおうかな」と考えるほどには居心地がよかった。

 が、神ミアハから自分たちのファミリアの問題を語りだしたところで、今までの気持ちは霧散していった。

 説明が面倒だし細かいところは忘れたから端折(はしょ)るが、曰く、このファミリアには借金が存在し、その額はなんと数千万ヴァリスにも及ぶこと。そしてその月々の支払い額を払っておりファミリアの家計は火の車であること。しかも、その月々の支払いですら必要額まで払えておらず、毎回その借金したところまで頭を下げに行っていること。

 他にもいろいろ理由やらなんやら説明されたが、話す気はない。面倒だからだ。

 

 さて、ではこの話で最も重要なところはどこだろう。いや、聞き方を間違えた。オレが気にしてるのはどこだろう。わかるだろ? なんせオレはそこの説明しかしてない訳だしな。

 ま、答えは簡単だ。借金があること、それもとんでもなく莫大な借金が。もしを考えても意味はねぇだろうが、この借金がもし数百万ヴァリス程度ならオレはこのファミリアに入団しただろう。そんだけオレはこの神に恩を感じてるし、ナァーザもまぁなんだかんだ言って優しい奴というのはわかったし、結構マジで気に入ってたんだよ。借金があるという話を聞いても、いくらかを聞くまでは心は揺らがなかった。

 ただ、額を聞いてオレは軽く卒倒して、今のところいつになったら返せるかわからないということを聞いて完全に諦めた。

 そっからは礼を言った後、「ファミリアには入らねぇが、必ず恩には報いる」と、それだけ言って強引に別れた。

 そして今、という訳だ。話してたらギルドに着いたし、早いとこファミリアを紹介してもらおう。地雷じゃないファミリアを、な。

 

 ギルド内は喧騒に満ちていた。右も左も前も、全員オレより強いだろう冒険者たちが、ギルドの受付にいたり、掲示板に貼ってある、多分クエストを見ていたり、ソファで休んでいたりと、各々が自由に行動している。

 これが冒険者が、と軽く感嘆する。確かにオレが今まで見てきたどの冒険者たちより強そうだと思った。だが同時に、()()()()()()()()()()()かもと感じた。これは嬉しい誤算だった。オレでもやっていけると、直接見て感じたのだ。オレは必要以上に冒険者というものを過大評価していたと反省した。

 おっと、そんなことばかり考えていると受付嬢のところに人が一人、また一人と並んでいくのが見えて慌ててオレも列に並んだ。

 見た感じ一人一人に時間をかけているという事も安心した。これなら意外と早いかも、と思って。

 

 そして約10分後にオレの番がきた。

 

「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどういった御用でしょうか」

「ああ、実は冒険者になりたくてな。ファミリアを探している」

「どういったファミリアをお探ししているのでしょうか? 良ければ詳しくお伝え頂ければ、こちらの方もあなたの条件にあったファミリアをご紹介できますが」

「いや、詳しくは伝えられねぇんだが、ダンジョン探索をするファミリアで、なんかでかい問題がないみたいなファミリアだったらどこでもいい。というか、そういうのを含めてそっちのおすすめを聞きたいんだが」

「はい、そういうことでしたらお力になれると思います。少々お待ちください」

 

 パタパタと受付嬢が駆けていき、少しして冊子のようなものを抱えてこちらにそれを渡してくる。

 

「こちらをお読み頂ければ大体のことがわかると思われます。地図も載っていますので、そちらに記載のあるファミリアにお尋ねください」

「おう、これを読めばいいんだな。ありがとよ」

 

 オレはそれを貰い受け、ギルドを出る。

 後ろからありがとうございました、と声が聞こえてきたので、振り向かずに軽く手を振って応えた。

 

「さて、有名どころから回っていくか」

 

 なになに? 都市最強二大派閥、フレイヤ・ファミリアにロキ・ファミリアか。これならオレも聞いたことあるぜ。この二つなら人員も多いから新人育成とかも豊富だから安全だろう。ベストはこの二つのうちの一つだな。

 

「ここから近いのは~、ロキ・ファミリアの方だな。先にこっちに行くか」

 

 オレは自分の中で方針を決めてからロキ・ファミリアへ向かった。

 歩いてから数十分、程無くしてロキ・ファミリアホーム、黄昏の館に到着した。が、そこでは一人の少年と、門番らしき者が何か言い争っていた。

 

「ですから、ロキ・ファミリアの入団試験を受けさせていただきたいんです! お願いします!!」

「ダメだダメだ! お前みたいな弱そうなやつに、このロキ・ファミリアの試験を受ける資格はない! さっさと帰れ」

「お願いします! 僕ロキ・ファミリアに入団したいんです! 見るだけでも見てくれませんか?!」

「しつこい奴だな! この天下のロキ・ファミリアとお前とでは釣り合わないと言ってるんだ! これ以上しつこいようなら叩き出すぞ!」

 

 そうやって怒鳴られれば少年の方は怯んでしまい、俯いてこちらの方へ駆けだしてきた。

 だからオレは通り過ぎようとしていた少年の襟を掴んで引き留めた。

 

「ぐぇっ!?」

「あ、すまん。大丈夫か?」

 

 つい襟を掴んで引き留めたが、潰れたカエルみたいな声を出されて心配になって声をかけた。

 ていうか、軽いな。女みてぇだ。

 

「ゴホッゴホッ...だ、大丈夫です。ん゛ん! それよりも、僕に何か用ですか? その、お金とかあんまり持ってないですけど」

「てめぇは一体何言ってんだ。別にカツアゲしようと思って引き留めたんじゃねぇよ。まぁいい。それよりも、おい! そこの門番!」

「あ? 何だよ? まさかお前も入団希望者か?」

「そうだと言ったらどうする? 試験を受けさせてくれるんだよな?」

「いや、お前のような礼儀を知らない者に試験を受ける資格はない。お前には教養が足りないと見える。なによりその態度、天下のロキ・ファミリアに敬意はないのか? いつまでも門の前に居座られると邪魔なんだよ、さっさと失せろ」

「これはおかしなことを言うじゃねぇか」

「...何?」

 

 オレは意識して相手を煽るような口調をつくる。

 

「『ロキ・ファミリアは試験の合否によってのみ入団を決める』って、この冊子には書いてあるんだが。まさか()()()()がオレたちの合否を決める訳じゃねぇんだろ?」

「門番...如き、だと? てめえ! 喧嘩売ってんのか!?」

「あぁ? 喧嘩なんざうってねぇよ。ただ冊子にそう書いてあったから教えてやっただけだろ? なにキれてんだ、沸点低すぎじゃねぇか~?」

「ちょ、ちょっと! もうやめましょうよ、喧嘩はダメですって!」

.

 オレと門番がお互い睨みあうようになると、少年のほうがビビりながらもオレと門番を止めようとする

 だが、門番の方は大分頭にきているようで、少年の静止の手を強引に引き剝がし、オレの胸倉を掴む。身長はオレの方が高いので、オレが見下ろすような形となる。

 

「おい。てめぇまさかこっちが手を出してこないからって調子に乗ってんじゃねぇのか? もしそうなら今すぐやめた方がいいぜ。その顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃにならねぇうちにな」

「アンタこそなに勘違いしてんだ? アンタこそロキ・ファミリアの団員だからって威張り散らしてるだけだろ。オレはお前と戦っても負ける気がしねぇんだが?」

「......よく恩恵もない分際でそこまで吠えたな。その無謀さだけは評価してやるよ。だから、今ここで潰してやる...

「ふ、二人とも止めましょうってばー!!」

 

 一触即発。

 身の危険を感じ始めた少年は強引に手を引き止めようとするが、二人の力には勝てず、子供がどれだけ力を入れてもびくともしない大人のように、二人が全く気を取られていないのがわかる。

 門番の方は既に目が血走っており、ヴァルガの方もむしろ歓迎するかのように拳を力強く握りこんでいる。そして今、門番が胸倉から手を離し、拳を掲げ

 

「何をやっとるんや?」

 

 振りかぶろうとしたところで、ピクリと止まった。ヴァルガの方も声がした方に目をやり、嘆息して拳を解いた。

 

「なあ、うちは何をやっとるんか聞いてるんやで。早く答えてえな」

「ロ、ロキ様!」

「あーあー、そういうのいらんから早よ答えろや」

「じ、自分はただ門番としての、その、仕事をしていただけです」

「へぇ~? 恩恵も持ってない一般人を殴るのが門番の務めなん?」

 

 ロキと呼ばれた女、いや女神は門番にゆっくりと質問する。白々しい声で、煽るような口調で、大げさな声で門番に問う。

 

「こ、こいつは我がファミリアを侮辱するような発言をし、こちらに失礼な態度をとっていましたので教育をしようと」

「嘘やな」

 

 まだ門番が喋っているのに、その声に被せるようにして神ロキは断言する。

 

「アカンで、神々に嘘は通じらんて自分も知っとるやろ? はぁ…、もうええわ。ちょっと黙ってくれるか」

「…はい」

 

 そう言って神ロキはもう一度ため息を吐き、こちらの方に目を向ける。

 

「んで、自分らはなんなん? なんとな~く予想はつくけど、言うてみ」

「え、えと。このファミリアに入りたくて来ました! 僕をこのファミリアに入れてください!!」

「……まあ、そっちの奴と同じ理由だ。このファミリアの入団試験を受けに来た」

「ま、せやろな~。いや~うちのもんがすまんな~、こいつも悪気があってのことやないねん。この通り、堪忍やわ」

「い、いえ! あの、僕の方こそ失礼な態度だったかもしれないですし、僕の方こそすみませんでした!」

 

(へぇ、もっと偉そうな(やつ)かと思ってたんだが、良い意味で裏切られたな。こりゃ、このファミリアに決定か?)

 

 ヴァルガは内心そんなことを考えていたが、神ロキが頭を上げると、この空気を払拭するようにわざと大きな声を出し、意識を切り替えさせる。

 

「そか、許してもらえてよかったわ。それで、入団試験受けたいんやろ? 今から受けるか?」

「ああ、面倒ごとは早いうちに片付けたいんでね。受けさせて貰えるなら受けたいと思う」

「おおぅ。自分随分はっきり言うな~。試験を面倒ごとやなんて初めて言われたで」

 

 そう言ってまたわざとらしく「傷ついてます」と感じさせるような声で話し、次の瞬間には何事もなかったように飄々とした顔に変わる。

 

「んじゃとりあえず、自分らの実力を見たいから模擬戦をやってもらうんやけど、武器とか持ってるか? ないんならこっちが貸すで」

「あ、僕自前の武器とか持ってないんですけど、お借りしてもいいですか…?」

「おお、ええよ。遠慮せずばんばん使ってええで。そっちの子は、必要なさそやな」

「ああ、オレにはこいつがあるんでね」

 

 そう言ってオレは背中の大剣をみせる。オレの身長と同じほどもある剣は、自分で言うのもあれだが、威圧感満載だ。

 だが、オラリオに来てからはヴァルガが普通に見えるようなさらに厳つい装備をしている者がゴロゴロおり、本人は目立たないことで喜んでいる。

 

「よし、じゃあ試験官を呼ぶで~。ガレス~、入団希望者が来たからよろしく頼むで!」

「そうでかい声を出さんでも聞こえておるわい」

 

 ロキが後ろの館を振り返り誰かを呼ぶと、その男は現れた。

 髭もじゃの顔に、ずんぐりした体形。そしてとどめに老け顔。ヴァルガは一瞬で理解した。ドワーフだ、と。同時にこうも思った。ここまでドワーフらしいドワーフを久しぶりに見た、と。

 その男は先ほどまでのふざけた雰囲気を払拭するように、手に持つ大斧で地面を叩く。

 ドゴォッ! とふざけた音が鳴り、地面が微かに揺れた。一瞬で静まる喧騒。それはこの館内だけでなく、外まで静まりかえっている。だがそれをした本人は如何ほども力を入れた様子のない、確実に手加減がされた一撃だと、そう感じるのに然程時間はかからなかった。

 それを認識した途端、ヴァルガは冷や汗がぶわっと流れる。現状を正しく認識して、それを否定しようとして、だが何も否定できず、遂には諦めの境地に至った。

 

(舐めてた訳じゃねぇ。侮ってた訳じゃねぇ。オレは門番を見て、正しく相手を過大評価していることを認めた。それが間違いだった。誰だ、冒険者は普通の恩恵持ちの数倍強いなんて嘘つきやがった奴は。こいつはそんなんじゃない。そんな小せぇ物差しじゃ測れねぇ。こいつは、こいつは…、化け物だ)

 

 ヴァルガは隣の少年を見た。

 その少年は可哀そうな程足が震え、目には涙すら浮かべる様相となっていた。

 

「で、どうする? 儂が相手になるわけじゃが、戦う気はあるか?」

 

 ドワーフの男、ガレスはそう言ってまずヴァルガを見てから、次に腰が砕けた少年を見た。ヒッ、と隣から喉がひきつるような音が聞こえた。少年だった。恐らく錯乱しすぎて前後不覚となっているのだろう。足と手がバラバラに動き、後ろに下がることも出来ていない。まるで滑稽なショーを見ているような、そんな哀れな姿だった。

 そしてぷっ、と誰かが噴き出すような音が聞こえた。周りを見ると、門番の男が口を手で抑えて肩を震わせていた。誰が見てもこう思うだろう。必死に笑いを堪えている、と。

 少年もそちらの方を見て、門番と目が合った。門番の目は、口を隠していてなお分かるほどの嘲りの色があった。少年は俯いた後、周りを見て後悔する。その門番以外は誰も笑ったり、嘲っていたりはしていなかった。

ではなぜ彼は後悔したのだろうか。

それは、周りが嘲りではなく憐憫の瞳を少年に向けていたからだ。

可哀そうに、情けない、そういった感情の宿る目で、全員から見られていた。

そして、その少年はそこから、逃げた。

 

「ッ!! ごめんなさいッ!!!」

 

 脱兎のごとく駆けだす彼は、誰よりも情けなかった。弱かった。滑稽だった。

 涙を流す彼は可哀そうだった。辛そうだった。思わず心配してしまう程だった。

 

 ―――彼は走る。

 

 この視線から逃げるために。

 

 ―――彼は走る。

 

 情けない自分から目をそらして。

 

 ―――(ぼく)は、走る。

 

 弱い自分が、逃げる自分が、悔しくて。

 

 そのまま門を潜り抜け外へと出る。そして彼は逃げていった。全てを投げ出して。

 

 

◇ ★ ◇

 

 

「ふむぅ、一名は脱落、か」

「あーあ! うちあの子結構好きやったんやけどな~。まぁ、あそこまで逃げる子を無理やり捕まえるのはうちの趣味やないし、しゃーない。諦めるか~…」

 

 神ロキは本当に惜しそうしながら嘆く。それも僅かな間だけだったが。そしてガレスは溜息をぐっとこらえ、もう一人の入団者希望の者を観察した。そして僅かに思考する。

 

(儂のちょっと強めの威圧を直に浴びてなお冷静さを保っておる。ここまで試験を厳しくするつもりは初めは無かったんじゃがな…。まあ、()()()()()じゃ。何か意味があったんじゃろ。もう一人の坊主には悪いことをしたな。これで心が折れなければいいが)

 

「んん! それで、お主は入団試験を行うか?」

 

 そう、切り替えるようにガレスはヴァルガに問いかける。

 そのヴァルガはと言えば、門の方に目を向けていたが、やがて体をガレスの方に向きなおさせ、長めの深呼吸をした後、顔を上げ、ガレスの目を見て話す。

 

「なあ、試験の前に一個質問があんだがいいか?」

「んん? 面倒ごとは早めに終わらせたいんちゃうん?」

「アンタには聞いてねぇ。オレが聞いてるのはそこの(じじい)だ」

「おい! お前! ガレスさんに向かって爺だと!? どこまでこちらを侮辱すれば」

「いい、お前は黙っておれ。他のものもあまり殺気立つでないわい。確かに入団希望者としては適切な態度とは言えんが、冒険者ならば面の皮が厚いほうがよい。して、何を聞きたい?」

 

 オレがガレスのことを爺と呼べば周りで見ていた連中が一気に殺気立ったのがわかった。だが、当事者のガレスが気にしてないと言うと殺気は収まったが、こちらを睨みつけるような視線は残った。明らかな怒気を肌で感じる。

 まあ、そんなこと今はどうでもいいが。

 

「アンタ、あのガキのことどう思った?」

「ガキというと、さっきの白髪の坊主のことか? 先に勘違いのないように言うが、別に儂は坊主を笑うためにわざと怖がらせるような真似をしたんじゃないぞ? 儂の個人的な意見じゃが、冒険者には危機察知能力が必要不可欠じゃと思っとる。その点、あの坊主は見所はあったと思うが」

「そんなこと聞いてんじゃねぇよ。オレが聞きたいのはアンタが考えて出した理路整然とした答えじゃねぇ。オレが聞きてぇのは……、あいつが逃げ出したとき、アンタが感じたことを聞きたいんだ」

 

 ヴァルガは落ち着いて、気を抜くと震えそうになる声を押さえつけ、極めて事務的な言葉を意識して話していた。

 逆に尋ねられた方のガレスはというと、困惑していた。なにを聞きたいのか、彼にはさっぱり、なんのことか分からなかったからだ。

 

「落ち着け。つまり、お前は何が言いたいんじゃ?」

「…あぁ、その顔は本当に何を聞いてるのか分かってねぇんだな。他の奴も、そうか。わかったよ。たった今()()()()

「なにを一人で納得しておるのだ? …まあよい。では、模擬戦はやるのか?」

「ああ、やる。ただし一ついいか。条件を付け加えたいんだが」

「あん? 条件って、こっちがハンデ受けるってことか? まさかマジでガレスに勝つ気でおるんか? それやったらめっちゃおもろいやんけ!」

 

 神ロキは興奮したように笑う。力の差は歴然、どれだけハンデを受けようと僅かも近づく事はない程の大きすぎる差。相手がただの力の差も感じれないような馬鹿ならばロキはこんな笑わずにやんわりと窘めていたであろう。だが相手はそんな奴ではないことなど知っている。ガレスに強めの威圧をすることを指示したロキの神意とは、最初からこの青年を推し量ることにあったのだから。面白い、やってみろと笑い転げるロキ。これだから下界は楽しいのだと、ロキは幸せな時間を噛締めていた。

 そしてそれはガレスも同じ。相手から感じる戦意は衰えるどころか今も大きくなっているのだから。久しぶりに感じる、腹の底からでてくる熱いもの。ガレスはそれを知覚し、ニィッと凶悪に笑う。

 

「ほう? 儂に勝つ気でおるのか。よし! その意気や良しッ! だが、貴様が本気で勝つ気でおるなら、儂も手加減などせんぞ。腕が折れても、足が砕けても知らんぞ」

 

 彼らは嬉しくなった。心強い後釜が出来ることに。

 だから彼らにとって、いやこの場の全員に理解不能な言葉が出て、彼らは茫然とするしかない。

 

 神ロキは彼を正確に推し量れたと思っている。だから気づかない。気づけない。

 

 ガレスは彼から迸るのが戦意だと思っている。だから気づかない。気づけない。

 

 神ロキは彼のことを馬鹿ではないと評価した。だがそれは間違いだ。だって彼は大馬鹿だから。神さえ予測できない、()()()()鹿()だから!

 

「じゃあ、追加ルールを言うぜ」

「おう、どんなハンデなんや? 腕を使ったらダメとか、あるいは直接触れたらダメとかか? どっちにしろぶっちゃけ自分無理やで、勝つの」

「ああ、じゃあオレが考えた追加ルールは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが追加ルールだ」

「ブハハハ…は、え?」

 

 彼は最初から、戦意など持っていなかった。

 

 その身に迸るのは、身を焦がすほどの()()。それだけだ。

 

 だから彼は走る。相手が油断している今こそ、殺すチャンスだと信じて。

 

 なんの疑問も持たずに、(おれ)は走る。

 




 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 まず初めに言っておきたいのですが、これはアンチ・ヘイトではありません。自分の中ではベル君も、ロキ・ファミリアも、貶したいわけではありません。ダンまちって原作読んでる人は共感できると思うんですけど、結構精神的にきついシーンとかあるんですよ。今回はそれと同じでベル君にはもっと早い段階で挫折をしてもらおうと思って、これを書きました。嫌いな人は嫌いな内容だと思われるので、その時はもう諦めてください。
 この小説、ていうか作者はこういう挫折から復活する系が大好きなので。

 ではまた今度。
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