Zero May Cry   作:アズクアハル

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サモン・サーヴァント

ゼロだと最初に呼んだのは誰かなんて、実はもう覚えていない。

女の子だった気がするし、男の子だった気がする。

最初は失敗しても慰めの言葉をかけられていたが、失敗の数が増えるたびにそれは減っていった。

当然だと思ったし、そもそも慰み哀れみからの嘲笑は散々経験してきた流れだったから、特に思うことはなかった。

 

 

 

 

トリステイン魔法学院に来る前も、厳しい厳しい母親から散々散々お叱りを受けてきた。

なぜこんな簡単な魔法もできないのかと。

もっと集中して詠唱をしろと。

お前の二人の姉はあんなにも優秀なのに、なぜお前はそうなのかと。

わかりません。わかりませんわお母様。いったいどうやったら魔法は成功するのですか。

私のどこが悪いのですか。教えてくださいお母様。

私はこんなにも練習して。私はこんなにも勉強して。私はこんなにも切望しているのに。

どうして私はこうなのですか?

ねえ、お母様。なぜ私をこんな風に生んだのですか?

杖と魔法が貴族の証なら、私はいったいなんなのですか?

貴族の服を身にまとい、貴族の食事を食べ、貴族の住処に住み着いて、貴族の名前を与えられたのに。貴族の生き様を与えられず。

教えてくださいお母様。

私は生きていていいのですか?

私には何もありません。

私には何もできません。

私には何もないのです。

教えてくださいお母様。

私は一体なんなのですか?

私はそれが知りたいのです。

 

お願いしますお母様。

 

魔法が使えない魔法使いは、一歩も歩けそうにないのです。

 

 

 

 

「……嫌な夢」

 

そうつぶやきながら、ルイズは起床する。

悪夢にうなされ続けたせいか、意識がはっきりしていない。

だるい体を無理やり起こし、ベッドに腰掛ける。

しばらくぼんやりとしていると、だんだん意識がはっきりとしてきた。

まだ完全に覚醒しきってない頭で今日の予定を思い出す。

 

「ああ、そうか……今日は試験だった」

 

使い魔召還の儀式の日

最も簡単ながら、メイジにとって人生の分岐点ともなる重要な儀式である。

なので、その召還魔法は神聖な物とされており、安易に使用することは野暮なことだとされている。

このトリステイン魔法学院の生徒たちは、今日という日を不安に覚えながらも、いかなる生物が自分の僕となるのか楽しみにしている。

しかしそんな中、ルイズだけは違った。

もし、この召還魔法すら失敗してしまったら、自分は本当に魔法が使えない事が確定してしまう。

そうなればルイズは留年となり、もう一年無為に学院生活を送らねばならない。

そして翌年またこの日を向かえ、またも留年することになるだろう。

なのでルイズはこの召還がうまくいかなかった場合、退学届けを提出し、誰にも見つからぬよう森の中ででも潔く自決してしまおうと考えていた。

 

桶に溜まっている水で顔を洗い、切るのが面倒でそのまま伸ばしている長い髪、光があたれば桃色に輝くブロンドを、痛まないが決して丁寧ではない速さで梳いていく。

会う人会う人に綺麗だと賞賛される髪の毛も、ルイズにとってはどうでもよい物にしか思わなかったが、それなりに身だしなみに気を使わなければ母にきつく言われるので、面倒ながらも手入れを欠かさずにしている。

最高級の生地でできた制服を着てホルダーに杖を差込み、その上からマントを羽織る。

ルイズの制服は女性用のスカートではなく、男子用のズボンを着用している。

また、その両手には手首まで覆う薄手のレザーグローブがはめられている。

それによってルイズの肌が露出しているのは首から上のみであり、女性としての色気をすべて放棄している。

もしこれで髪が短ければ後姿は小柄な男にしか見えないだろう。

姿見の前でおかしなところがないか確認し、表情を作る。

少し寝不足な気があるが、おおむね問題はない。

 

「行くか……ああ、いやだなぁ……」

 

ぼやきながら今日の儀式の集合場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、ルイズは大きくその人生を狂わせることとなる。

それが良かったことなのか悪かったことなのかは他人の目からでは判別出来ないほどに歪さだが。

間違いではなかった。

何故なら彼女は生まれて初めて、心から幸福を感じることができたのだから。

 

 

 

 

 

 

結果として、ルイズは召還に成功した。

 

 

 

 

 

 

「やった……」

 

 

ルイズは召喚したものを凝視しながら感動に打ち震えた。

 

「初めて……成功した…………」

 

ルイズにとって召喚したものが何であろうが関係がなかった。

自分が魔法を成功したという事実が、彼女にとって何よりも大切なことであったから。

 

「ありがとう……、それしか言葉が見つからない………」

 

それでもルイズは喚び出されたモノに礼を言う。

それはまるで神の奇跡に遭遇した敬遠なる信者のように。

 

召喚の魔法を唱えた先にいたものが、醜い顔を模した白い石だったとしても、ルイズには関係がなかった。

 

 

召喚の一部始終を見ていた生徒たちは大口を上げてルイズを笑った。

 

「ルイズ、そんな気持ちの悪い石を召喚してどうしようってんだ!」

 

「なんて醜い石だ、不細工にも程がある!」

 

「使い魔だぜ! 使・い・魔! 石なんて喚び出してんじゃねーよ!」

 

一斉に生徒たちはルイズをあざ笑う。

しかし当のルイズの耳には少しも入っては来なかった。

ただただその場に佇み魔法の成功に胸を打ち震わせていた。

 

 

「皆! 喚び出した使い魔を侮辱するのは卑しい行為ですぞ!」

 

 

やがて一人の教師の怒鳴り声で場は静まった。

ルイズもはっと気を取り直した。

 

「コホン、さぁミス・ヴァリエール、呆けていないで契約の儀を行いなさい」

 

咳払いをし、怒鳴り声を上げた教師は言う。

それを聞いたルイズは一歩一歩踏みしめながら石に近づいていく。

契約の儀、『コントラクト・サーヴァント』を行うために。

 

---やった、やった、やった。

 

涙が出そうなのを必死にこらえて悠然と歩く。

 

しかし石まで後3メイルというところでルイズは気がついた。

 

はたしてどうやって儀式をすればいいのかと。

 

『コントラクト・サーヴァント』は使い魔との接吻により成される儀式である。

そうなるとルイズはこの醜い顔の唇に当たる部分にすればいいのか、それとも別にキスをする場所があるのか。

 

この石が醜い造形をしていることはルイズにはどうでもよいことである。

女性的魅力を鍛える気がない、悪く言えば青春的な色事に全く興味が無く、キスには潔癖な嫌悪感しかないルイズにとって、醜かろうがただの石に口付けることに抵抗はない。

が、しかしそれで契約が成ることになるのかと。

唇があるが所詮石である。

『コントラクト・サーヴァント』が本当に効果があるのか怪しいものである。

 

もしダメだったらその時に考えよう。

 

といった結論に達し、石に顔を近づけた。

 

ルイズの唇と石の距離があと数センチといったところで石が動きをみせた。

 

「……え、なっ!?」

 

召喚されてから今まで微動だにしなかった白い石が、唐突にルイズの口の中に入ろうとしだしたのだ。

 

「がぼっ……!]

 

ルイズはとっさに身を引いたが、白い石は止まることなく浮き上がりルイズの口内に侵入する。

 

人の顔ほどのサイズの石だったが、ルイズの口に合わせて形を変え勢いすら衰えず、いたってスムーズにルイズの喉奥を通り過ぎていった。

 

時間にして2秒にも満たない攻防だったが、そのショッキングな場面に周りの生徒や教師は一様に唖然としていた。

 

「ミ、ミス・ヴァリエール……?」

 

コルベールはルイズの身を案じ声をかけるが返事はなかった。

 

なぜならルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは立ったまま気絶していたからである。

 

 

初めて魔法が正常に発動した、ルイズにとっては記念スべき日は、これからの人生を狂わせる大きなターニングポイントとなった。

 

 

 

 

 

 




それが良い意味にしろ悪い意味にしろ。
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