第1話 その出会いは眩い閃光のように
「何なんだこの人の多さ……」
都会の通勤通学ラッシュを甘く見ていた。どこを見渡しても人、人、人。人しかいない過密状態のプラットホーム、電車、改札。これでは歩く隙間を見つけるのも難しい。マジでどうやって切り抜けてるんだ都会人。これを毎日やってるって凄いなホント。田舎から引っ越して来たばかりの人間には到底無理だな……なんて、しみじみとしていると。
「っ!」
隣の人と肩がぶつかってしまった。そして、ぶつかった隣の人を見る。
────女の子だった。まず最初に目に入ったのは紫のツインテール。そして、紫のアイラインに紫の口紅。奇抜ではあるが、とても整っていて綺麗な顔なのでそれらが良く似合っている。一方の服装は、スクールシャツの上に学校指定のブレザーではなく緑色のジャージを着ていたり、首にチョーカーを付けていたり、カラフルなニーソックスを穿いていたりと、パンキッシュな恰好だった。学校に行く格好としては問題があると思うけれど、それはそれとして違和感無くしっかり着こなせている。一見するとかなり派手で個性的だが、忌避感は一切湧かなかった。寧ろ、カッコいいとさえ思う。我が道を行くという確かな意思を感じた。
それにしても、やっぱり東京って凄いな。人が多い分、それに比例して個性的な人も多い。元々住んでた田舎ではこういうタイプの人とは絶対に会えなかった。違うことばかりでカルチャーショックだ。
「……あ、あの、すいません! 大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「別にー」
「それなら良かったです! ホントにすいませんでした!」
って、自分からぶつかっておいて惚けてるのはダメだろうがバカか。思考を切り換えて急いで謝った。すると、驚くほど気怠そうな返事が返ってきた。明らかに良く思われてなさそうな反応だ。それはジロジロ見てた自分が悪いので妥当である。まあ、とりあえず問題は無いようで安心した。ホッと胸を撫で下ろす。改めて悪かったと頭を下げた。
人と人との距離が凄く短いし、ぶつからないように何とか隙間を縫って歩く努力はしたが結果的に駄目だった。まだ技術不足のようだ。やっぱり何とかして人混みには慣れておかないとダメだよなあ。要反省。
ここで右腕の腕時計で時間を確認する。結構時間が押していることに気づいた。このままでは指定の時間に遅れてしまう。そんな訳で、ぶつかった女の子から離れてこれから通うことになる高校へと急ぐ。転校初日というのは何かとやることが多くて忙しいのだ。
※※※
暫くして。あれから無事転校先の高校へと辿り着くことができた。まずは職員室に行って担任の女性教師と段取りをあれこれ相談した。初対面ながら人当たりが良く、スムーズに事が進んだ。
そして現在、教室前の廊下で待っている。ホームルームが一通り終わるまで教室に入れないのでここにいるしかない。
「あー緊張する……」
今、この学校に自分のことを知る人間は誰もいない。正真正銘のぼっち。初日で何かしらミスしたら友達とかできなさそうで不安だな。東京の人達は冷たいとかって言うし。これは完全な偏見だけれど。まあ、普通にしていれば友達の一人や二人はできる……かもしれない。
「入ってきていいよ」
「っ……分かりました」
遂にこの時が来たか。これからの高校生活の二年間の運命を左右する一世一代の瞬間。ここでしくじれば、悲しい悲しいぼっち生活を送ることになる。それは辛いので何としても避けたい。
少しでも緊張をほぐそうと深呼吸をしてから、教室に入る。視線が一気にこちらに集中する。あまり注目されるのは好きじゃないので早く終わってくれって気分だ。
「……!」
教壇に登って教室を見渡すと、目を疑う事態に目を見開く。視界に入ったのは、紫髪のツインテールの女の子。今朝駅でぶつかった子だ。特徴的な見た目だから間違える訳がない。ブレザーを着ていないから同じ高校だって気づかなかった。女の子もこちらに気づいたようで、目が合った。何だか知り合いがいるみたいで嬉しさを感じるが、あまり良い出会い方をした訳じゃないので気まずくもある。嫌われてなければいいけどどうだか。
今はあれこれ考えていても仕方がない。考えることなら後でもできる。とりあえずやるべきことをやろう。そう思って左手で白いチョークを手に取り、黒板に名前を大きく丁寧に書く。
「福島県から来た
できる限り朗らかな雰囲気で、笑顔で、大声で言えた筈。緊張で顔引き攣ってないかな。大丈夫かな。みんなは温かい拍手で迎えてくれてるけど、凄く不安。
「じゃあ三峰君は一番後ろの席に座ってね」
先生の指す席を見る。あの女の子の隣だった。凄い偶然の連続だな。こんなことある?
「今朝はぶつかってごめん、まだ人混みに慣れてなくてさ。にしても、同じ学校で同じクラスで隣の席だなんて凄い偶然だね。えーと、その……」
「……田中摩美々」
「よろしく、田中さん」
「よろしくー」
隣の席ということで少しばかりの挨拶。間延びした口調で冷たく返す田中さん。やっぱり俺に良い印象持ってないよなこれ。
※※※
「とりあえずは何も悪いことは無くて良かったな……」
今日は始業式なので午前中で学校は終わりだった。あの後やらかすことは無かったし、話が合いそうな人も何人か見つけることができた。とりあえず、高校生活は安泰そうでホッとした。
「雨か……」
昇降口の外を見やると、雨が降ってきた。そう言えば昼から強めの雨が降るってテレビでやってたっけ。バッグの中から折り畳み傘を取り出す。いざという時のために常に入れておいてある。これで濡れる心配も無い。
「……めんどくさー」
隣から気怠そうな声。それだけで誰か分かった。田中さんだ。ここで立ち止まってるってことは傘を忘れたのかな。そうじゃなきゃ昇降口で立ち止まったりしてないよな。だったらこんな雨の中を進んでいく気になれないのも納得できる。なら、俺がやることは一つしかない。
「田中さん、これ使って」
少し強引だが、田中さんに折り畳み傘を掴ませる。
「え……」
田中さんは驚いた反応を見せる。まあ、初対面の特に仲良くもない男子に急に傘を渡されて驚かない人はいない。こうなることは分かってた。
「別に返さなくていいよ。ぶつかった時のお詫びだと思ってくれればいいからさ。それじゃ!」
でも、それは気にしない。気にしたって無駄だから。返さなくていいことを伝えて、雨の中を全力疾走した。
※※※
「ただいまー」
あれから暫く。ようやく帰宅できたものの、雨が一向に止まなかったため全身がずぶ濡れの状態だった。でも、良いことをした結果だと思えば悪くない気分だ。
「おかえり漣……ってびしょびしょじゃん! どうしたの一体!?」
「あ、結華姉さん」
戻ると先に帰っていたらしい姉さんが出迎えてくれた。水浸しの俺を見て驚く。こんなどしゃ降りの中を突っ切る奴なんて普通はいないので当然の反応だ。
「今日昼頃から雨の予報だってテレビでやってたよね? もしかして傘忘れちゃったとか?」
「いいや、折り畳み傘常備してるからそこは大丈夫。でもさ、傘忘れちゃって困ってた子がいたからさ。だから貸したんだ」
「……漣ってば相変わらずサービス精神旺盛だねぇ」
「だって、困ってたり危険な目に遭ってる人が目の前にいたら放っておけないし、助けなきゃって思うじゃん?」
人助けは絶対にやらなきゃいけないと思う。そのために動けるなら泥かぶってでもやり遂げるつもりだ。妥協はしない。
「まあ、気持ちは分かるけど……ほら、タオル」
「ありがと」
姉さんが投げた二枚のタオルをキャッチしてすぐに頭を拭く。水滴が垂れなくなったところで着ていたブレザーも拭く。だが、完全に濡れていてどうにもならなそうだった。これ洗濯できる素材じゃないし、急いで乾燥機にかけなきゃヤバいやつだ。明日の登校に支障が出る。ある程度頭とブレザーを拭き終わったので、靴と靴下を脱ぐ。これも全部濡れてるな。しかも臭い。なので、二枚目のタオルで拭く。
「とりあえず、これくらい拭けば大丈夫?」
「うん、それなら上がっても大丈夫」
姉さんの許可をもらったので、玄関から上がる。そのままリビングへ入った。そして、話題は学校のことに変わった。
「ねえ漣。学校はどうだった」
「少なくとも友達がいないってことは無さそうかな」
「それは何より。あ、そうだ。クラスに可愛い女の子いた? 男子高校生なんだし、恋愛の一つでもしたら~?」
姉さんは何気なく冗談で言ったつもりなのだろうが、俺はそれを冗談として受け取ることができなかった。一人の女の子が頭に浮かんだのだ。気怠そうで、でも内には確かな意思を秘める紫髪の女の子────田中摩美々。彼女の姿が頭から離れない。
何だって田中さんが出てきたのか。まあ、姉さんの言う通り可愛いのは事実だけどさ。でも、それが理由じゃないと思う。それ以外の要素を考えても、偶然人混みの中でぶつかって、偶然隣の席になって、偶然困ってたから傘を貸しただけだ。ただの偶然が重なっただけでそれ以上のものはない。自分と彼女を繋ぐものは何も無いのだ。
「……」
「あれれ、まさか図星?」
「そ、そんなことはない、のかな……?」
「それはそうだって言ってるのと同じだって。いやぁ~青春してるねぇ!」
「あ、あはは……」
照れ臭くてはぐらかそうと思ったが、姉さんには無意味なことだった。そのまま姉さんのからかいを何とも言えない不思議な気持ちで受け止めるのだった。
田中摩美々に感情をぐちゃぐちゃにされました。もうW.I.N.G.敗退コミュとかパープルミラージュとかあんなの見せられたら書くしかないじゃん……
この小説の時系列はシャニマスW.I.N.G.編の一年くらい前で書いてます。なので高2スタートになります。
あと主人公についてですが、三峰結華の弟という設定になっています。弟はあだ名じゃなくて普通の名前で呼んでほしいし、距離が近いと嬉しいなって思います。