【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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文化祭は波乱のオンパレード
第12話 忘れ物は災いの元


 長いようで短い夏休みが明けて、再び学校が始まった。

 廊下は生徒たちで賑わっていた。「夏休みはどうだった?」とか「学校めんどい」とかそんな話で持ち切りだった。これは田舎も都会も変わらないらしい。

 

「おはよ、田中さん」

「おはよー」

 

 教室に入って田中さんに挨拶した。挨拶が返ってくるだけで凄い安心感。一日が始まったって感じだ。

 

「────おっす漣! 久しぶり」

「おはよ、本田。相変わらず元気そうだな」

 

 感傷に浸ってる中、後ろから話しかけてきたのは本田だった。夏休み中は部活で忙しかったので遊ぶ機会が無かったので会うのは久しぶりだ。

 

「早速お前に聞きたいことがあるんだ。こっちに来てくれ」

「……? 分かった」

 

 いや、別にここでも問題無くないか? でもここじゃなきゃダメな理由があるんだろうと思って移動した。

 

「ぶっちゃけ、田中とはどうなの?」

「ただの友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

 本田は周りに聞こえないように小声で問いかけてきた。ああ、確かにこれは俺の席では話せないよな。隣に本人がいるんだから。てか、久しぶりに会って話すことがそれか。もうちょっとあるだろ何かしら。

 

「じゃあ夏休みはどうだったんだ? 田中と一緒にどっか行ったりしたか?」

「一緒にラーメン食べに行ったりとか、ボウリングとか、夏祭りとか、それくらい」

「いやいや、それもうデートじゃん。めっちゃイチャついてるじゃん」

「デートは恋愛感情があって初めて成立するものだから違うだろ。イチャつくもクソも無いだろ」

 

 周りから見たらそういう風に感じるのか? 全然そんなことはないと思うんだけど。

 

「別に、俺は田中さんと付き合いたいから接してるんじゃない。ていうか、そんなに気になることでも────」

「いや、気になる」

「お、おう……」

 

 食い気味の返答に気圧された。お前、相当気になってるんだな。俺自身そういうのに興味が無いって訳じゃないけど、そんな食いつくほどでもない。

 

「だってあの田中だぜ? いつも一人で何事にも興味無さそうなアイツが、お前といる時だけはめっちゃ生き生きしてるんだぜ? そりゃそういう関係を疑うだろ」

「残念だけど、ビックリするくらい何も無いよ」

「そんな訳ないだろ」

「ある。俺と田中さんはどこまで行っても友達だよ。だから、恋愛はありえない」

 

 そもそも田中さんが恋愛って想像できない。そういうのは面倒だと思ってそうだ。

 

「クッソ、俺は諦めないぞ……!」

「諦めないって、何を?」

「2人が付き合うか、だよ。こんなお似合いなのにくっつかないなんておかしいだろ」

「そうか……?」

 

 似合ってるというのがピンと来ない。俺と田中さんの性格は真逆みたいなところがある。だから、肯定できなかった。これで友達として上手くやっていけてるのが不思議でならない。

 

「とにかくだ。俺は漣を見守ってるからな。だから頑張れ」

「お前ちょっと怖いぞ……」

 

 恋バナ好きすぎるだろ本田。あんまりこの話題について話したくないな。大して興味も無いことでグイグイ来られるのは苦手だし、これからも聞かれると思うと悪いし。俺は仲の良い友達が少しいれば満足できる人間だからそもそも彼女なんていらない。結局それ友達でも大丈夫だよねってなる。彼女と一緒にいたいって思うのが世間では普通だとしたら、俺は異常者だろう。別にそれでも構わない。誰かと同じである必要なんて無い。俺は俺だ。

 

「それでは朝のホームルームを始めますよー」

 

 気がつけば、黒板の前に先生が立っていた。同時に始業のチャイムが鳴った。慌てて席に座る。

 

「二人で何話してたのー?」

「……夏休みはどうだったとか、そんな話」

 

 核心的なことだけを隠して答えた。あんな下心丸出しな話、田中さんには絶対に言えない。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 例によって始業式は午前中で終わる。時間的にはまだ正午だが、周囲は下校する高校生で溢れていた。俺と田中さんもその中の一員だ。午後の予定も特に無いので気分良く帰れる……なんて思ったけれどそうもいかなかった。空は一面黒い雲で覆われている。明らかに良い天気じゃない。

 

「うわ、雷か……」

「これはめんどくさそー」

 

 轟く雷鳴、瞬く光。音の大きさからしてかなり近い。急がないと雨が降ってきそうだ。

 

「……あ」

 

 その予感通り、頭に水滴が当たった。どう考えてもゲリラ豪雨。すぐにドシャ降りになる。カバンを開けて折り畳み傘を探す。常に入れてあるから心配は……って。

 

「あれ? 何で無いんだ? 忘れたのか……?」

 

 いつも持ち歩いてる折り畳み傘が入ってなかった。こんな時に限って運が悪い。昨日の夜ちゃんと確認したはずなのに。記憶違いだったのか? でも、すぎたことを気にしても仕方が無い。

 

「ごめん田中さん。俺、先に行く」

 

 傘が無いなら走るまで。濡れるのは避けられないけど、早く帰ってシャワーでも浴びれば何とかなる。

 

「……漣、待って」

 

 しかし、田中さんは走ろうとする俺に待ったをかける。

 

「まみみの傘に入れば問題無くないー?」

「ダメだよ。それだと田中さんも濡れる」

 

 田中さんが折り畳み傘を開いた。とは言え、その提案には乗れない。折り畳み傘に2人が入るのは厳しい。傘から体の一部がはみ出て濡れる。女の子を濡らすのは気が引ける。濡れるなら俺だけでいい。うん、それが最善策だ。

 

「……いいからー」

 

 何かが気に入らなかったのか、田中さんは頬を膨らませた。そして俺の制服の袖を引っ張って、そのまま肩を寄せてきた。

 

「ちょっと、田中さん……!?」

「こうすれば少しはマシでしょー?」

「それはそうなんだけどさ……」

 

 露骨に気を遣われた。うーん、情けないな俺。恥ずかしすぎる。

 

「だとしても、これは……!」

 

 それに、心が落ち着かない。隣の田中さんとの距離が近すぎる。でも、傘に入るためにはある程度くっつかなきゃいけない。そうすると爽やかなシャンプーの香りがするし、横を見ると田中さんの綺麗な横顔が目に入る。今まで普通に友達として接してきたけど、こうして見てみると田中さんって凄く可愛いんだよな……。

 

「やっぱり、出てもいいかな?」

 

 ダメだ、どうしても意識してしまう。今まで田中さんとこんなに近い距離感で接する機会なんて無かった。改めて田中さんの可愛さを認識した今、この状況は苦しい。そういう欲はあんまり無い方だと思ってたけど案外そうでもないらしい。一介の男子高校生には刺激が強すぎる。

 

「ほら、肩が少しはみ出てるからさ。ここだけ濡れるのって気持ち悪くない?」

 

 それらしい理由を述べて傘から出ようとする。事実、外側の肩が傘から出ていて濡れている。他が無事な分不快感が一層増している。やっぱり俺が走って帰ればいいんだよ。それで全て解決できるじゃん。

 

「ダメー」

 

 しかし、あっさり否定された。

 

「だってぇ、こうして漣と歩くの楽しいからー」

「楽しい……?」

「まみみとの相合傘ってどんな気持ちー?」

「~っ! あんまり人のことをからかうのはダメだよ田中さん!」

 

 最初からこうやってからかうのが目的だったのか! クッソ、田中さんの方が一枚上手だったか……。田中さんといい、姉さんといい、何でそんなに俺のことをからかいたがるんだ。そんなに面白いか。

 それから一言も喋らず、目も合わせることもせずに駅へ向かった。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 駅に着いたものの、雨が止む気配は無かった。傘が無い以上、雨が止むのを待つしかない。ということで、その間駅地下の店で暇を潰すことにした。こういう時に遊ぶ場所に困らない東京は楽だ。

 今は田中さんの希望でレディース専門のファッションブランドに来ていた。

 

「これ、どっちが似合うと思うー?」

「どっちが、か……」

 

 田中さんが選んだのは黒い肩出しのパーカーとくすんだ黄緑のセーターだった。正直田中さんなら両方似合うと思う。でも、答えとしてそれはどうなんだそれは。適当に言ってるみたいに捉えられないか?

 

「難しいかな……」

「じゃあー、試着してみるねー」

「うん、分かった」

 

 確かに、実際に見た方が早いか。納得して首を縦に振る。それを確認した田中さんは試着室に入り、カーテンを閉じた。

 なぜか分からないけどそわそわしてきた。思わず視線が店のあちこちに向いた。

 

「ん……?」

 

 そうやって辺りを見回していると、店の前にいる人に目が留まった。黒髪、ツインテ、眼鏡……あれ、結華姉さんか? 制服を着てるってことは学校帰りか。きっと俺らと同じく雨が止むまで店を見て回ってるのかもしれない。友達と一緒なら話しかける必要は無いか。あの間に割って入るのは迷惑だし。

 

「この店入りたーい! 結華、行こ!」

「三峰、了解しましたー!」

 

 そっちから向かって来るのか。ていうか、三峰って一人称あんまり使わないでくれ。自分のことなんじゃないかって勘違いして気まずくなる。でもあっちは俺がここにいることを知らないからしょうがない。

 

「じゃーん」

 

 パーカーを着た田中さんがカーテンを開けて出てきた。

 ……いや、待て。ここで姉さんに見つかるのは非常にマズくないか? 何で俺がレディース専門の店にいるのか、或いは田中さんについて間違いなく問い詰められる。それはどう考えても面倒だ。

 

「どうしたのー?」

「あぁ、うん! 似合ってるよ!」

「それだけー?」

「何て言うか、その……雰囲気が良い。凄く田中さんって感じ」

 

 後ろが気になって感想を言うどころじゃない。本当はもっと具体的に言うべきなのは分かってるけど、姉さんの位置を把握することで精一杯だった。

 

「それじゃあ、次の着るからー」

 

 田中さんは不機嫌そうに試着室のカーテンを閉めた。クソ、姉さんがここにいなければこんなことには……! 田中さんに対する罪悪感を感じながら姉さんの方へ視線を向ける。

 

「三峰、これ着た〜い!」

「結華なら似合うと思うから着てみてよ!」

 

 姉さんが試着室に近づいて来る。この店は4つの試着室がある。その内空いてるのは田中さんが使ってる所の右隣だけ。これだと姉さんにバレないように店を出るのは困難を極める。そもそも友達を放置して逃げるのは人として最悪だろ。かと言って、店内には隠れられるような場所も無い。どうすればこの状況を切り抜けられる? 必ず何かあるはずだ……!

 

「はーい」

 

 着替えを終えた田中さんがカーテンを開けた。この時、脳内に電流が走った。そうだ、隠れられる場所が一つあった! これなら!

 

「田中さん、今から無理を言う。試着室に入れさせて欲しい」

「え、何でー?」

「姉さんがこの店にいて……とにかく、バレたら面倒なんだ。だから……!」

 

 後ろを見ると、姉さんが店員に試着を頼んでいる。もう時間が無い。

 

 

「漣!」

「うぇっ!?」

 

 田中さんにいきなり腕を引っ張られた。その勢いのまま試着室に入る。

 

「え? は? え?」

 

 予想外の事態の言葉が出ない。田中さんが俺を試着室に入れてくれるとは思わなかった。何でだ……?

 

「……あ、ごめん。急に変なこと言って」

「別に、気にしなくても……」

 

 俺の行いは失礼極まりない。だから、真っ先に謝った。しかし、田中さんはどういう訳か許してくれたっぽい。本気で怒られるのを覚悟してた分ちょっと怖い。

 

「いや、でも……」

 

 こんなの気にするに決まってる。狭い試着室で女の子と2人きりとか普通に考えてありえない。さっきの相合傘といい、姉さんとの遭遇といい、今日はやけにハプニングが多い。おかしくないか? 何なんだ? 意識すればするほど恥ずかしくなる。考えちゃダメだ、こんなこと。田中さんに悪い。

 

「その、何で俺を助けてくれたの……?」

「それはぁ……秘密」

「……!」

 

 邪な考えを振り切るように田中さんに問いかけた。返ってきたのは曖昧な答え。その後で、頬を赤く染めてツインテールをポンポンする田中さん。

 ……そういう顔もするのか。田中さんが恥ずかしがるなんて想像もしてなかった。初めて見る表情に正直ドキッとした。顔が熱いし心臓もバクバク。意識を逸らそうとしたのにこれじゃあ逆効果だ。

 

「……とにかく、ありがとう。助かった」

 

 どんな理由であれ、協力してくれたことに感謝しなきゃいけない。俺を姉さんに突き出して田中さんだけ隠れることだってできたはず。それをしないあたり本当に良い人だ。

 

「別に、助けたかった訳じゃ……!」

「だとしても、結果的に俺は助かったんだ。礼を言うのは当たり前だよ」

「ホント、そういうとこ……!」

 

 田中さんの言うそういうとこが何を指しているのかが分からない。けれど、この感謝は伝わってるはずだ。

 

「ねぇ、この服、似合ってる……?」

 

 頬を赤く染めた田中さんが聞いてきた。今着ているのは黄緑のセーター。いつもののパンキッシュなスタイルとは打って変わってシックで整ったスタイル。何と言うか、普段とのギャップで凄い。

 

「……買っても、いいんじゃないかな」

 

 こういう田中さんも、たまには見たいかもしれない────なんて、激しい鼓動を感じながら思った。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 あれから田中さんと別れ、帰路についた。駅に出ると雨は止んでいて、空はいつもの青さを取り戻していた。

 にしても今日は疲れた。ありえないことが1日に2度も起こるとは思わなかった。ため息を吐くと、後ろから肩を叩かれた。

 

「……痛」

「漣の大好きな結華お姉ちゃんだぞ~!」

 

 振り向くなり、姉さんに人差し指で頬を突っつかれた。地味に痛い。あとちょっと誤解を招く言い方は止めて欲しい。

 

「どしたの? そんなに疲れた顔して」

「傘忘れたせいで色々あってさ……」

「あ、そのことで話があるんだけど……」

「話?」

 

 姉さんがカバンから傘を出した。これ、俺のじゃ……。

 

「あんたの折り畳み傘、私のカバンに入ってたんだよね……」

「え……?」

 

 道理で無かった訳だ。昨日確認したことは記憶違いじゃなかったんだやっぱり。俺のカバンと姉さんのカバン、色が同じ黒で形も似てるから間違えたのか。となると、全ての原因は……他の誰でもない俺自身? 相合傘も、試着室に入ることも、俺が傘を持っていれば起こらなかった?

 

「どうしたの? そんなに顔赤くして」

「雨に濡れて風邪引いたかも……」

「いやいや、そんなすぐ体調悪くならないでしょ。あ、もしかして女の子と相合傘でもした?」

「っ!?」

 

 はぁ!? 何で分かるんだ!?

 

「あ、いや、それは……!」

「だって顔に書いてあるよ? 俺は超絶可愛い現役JKと相合傘をしました、って」

「そんな訳……!」

「大方雨の中突っ走るって言って止められたんじゃないの? それで強制的に入れられたとか」

 

 何一つ間違ってないのおかしいだろ。あと、めちゃくちゃに話を盛るんじゃない。俺が変態みたいだろそれ。いや、田中さんが凄く可愛いのは事実だけどさ。そこまで分かってるとか俺のこと監視してるのか? それともエスパーなのか? ここまで見透かされるとかめっちゃ怖いわ。何でもお見通しなんてレベルじゃないぞ。

 

「わお、図星かぁ。鈍感な漣が照れるってことは相当可愛い子なんだろうな~。気になるな~」

「高校違うんだから無理でしょ」

 

 実はもう会ってるんだけど。分かってないってことは隣の試着室にいたのはバレてないんだな。最悪の事態は避けられたようで良かった。ありがとう、田中さん。俺、助かったよ……!

 

「……漣の高校ってそろそろ文化祭だよね?」

「姉さん、まさか……!」

「ふふ~ん、そのまさか。直接乗り込んで見てやろうかなぁ、と思いまして」

 

 文化祭。他校の生徒が合法的に別の学校に入れるイベント。俺の高校は毎年9月に開催される。学校での俺を見たいなら確かに絶交の機会だ。

 

「覚悟しててね~? 漣の秘密、絶対に暴いてやる!」

「別に秘密なんて何も無いから!」

 

 とは言え、姉さんに田中さんと一緒にいるのを見られてあれこれ言われるのは避けたい。学校でも言い負かされるとかそんなの恥ずかしすぎるだろ。絶対に嫌だ。だとすると、文化祭当日は姉さんを警戒しなきゃいけないのか。何も起こらなければいいんだけど……。




 大学が忙しかったり東方の小説に集中していたりで遅れました。複数の作品を同時にやっていける人の凄さを思い知りました。自分にはできそうにないです。
 因みに黄緑のセーターは真・TRAVELERの衣装です。ゲーム画面ではあんまりセーター感が無いのでセーターじゃないのかもしれないですけどこの小説ではセーターということで。というか9月頭にセーターって何だよ。まだ暑いだろ……。
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