【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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第13話 善意は時に人を傷つける

「……今日の話は文化祭についてです」

 

 夏休み明け最初のロングホームルーム。内容はいよいよ今月に迫った文化祭に関するもの。

 

「まずは文化祭実行委員会のメンバーを3人決めたいと思います」

「はーい! じゃあ俺やりまーす!」

「まずは本田くん……と。あ、実行委員の人は黒板の前に来てください」

 

 真っ先に手を挙げたのは本田だった。凄い行動力だ。目立ちたがりというか何というか。緊張せずに人の前に立てる積極性は流石だ。

 

「他に誰かいますかー?」

 

 先生が呼びかけるが誰も手を上げない。教室が静まり返る。何となくこうなる気がした。こういうのって面倒だと思う人が多いだろうし。

 ふと気になって田中さんの方を見る。予想通りダルそうにあくびをしていた。うーん、だったら。積極的な人に任せた方が上手くいくだろうけど、誰もいないんじゃ仕方が無い。

 

「三峰くん、それでは前に。あ、溝川さんもですか?」

「はぁい。私も実行委員やります♪」

 

 俺がやるしかない、そんな気持ちで手を上げた。そして、その直後に手を上げたのは溝川さんだった。常に控えめで、周囲への気遣いを忘れない女の子。学級委員長を務める真面目さもあり、本田と同様にクラスの人気者だ。本田と溝川さんが一緒なら心強い。

 

「それでは本田くんから文化祭への意気込みをお願いします」

「はい! このクラスでやる文化祭は最初で最後なのでみんなで楽しみましょう!」

「みんなで楽しむための助けになれるように頑張りたいです」

「みんなと一緒に文化祭を楽しく盛り上げることができればいいな~って思います♪」

 

 誰かの助けになれるなら、面倒事だっと何だってやるつもりだ。率先して何かをやるのはあまり得意じゃないけど頑張ろう。

 

「次は出し物ですね。案がある人は手を上げてください」

「お化け屋敷がいいです!」

「バンドとかいいかも!」

「飲食店でよろしくお願いします!」

 

 みんなが各々の意見を述べる。さっきまでの静けさが嘘みたいに活気に溢れている。

 

「メイド喫茶はダメですか!?」

「それいいんじゃね?」

「意外に着てみたいかも!」

 

 メイド喫茶が出て、クラスの盛り上がりが最高潮に達する。

 

「じゃあ執事も入れればバランス良くなりませんか!?」

「いいかも!」

「これならみんなで楽しめるね!」

「もう確定っしょ!」

 

 何だかもう収拾がつかなくなってきた。これはもう決まったかもしれない。

 

「本田、これは……」

「そういうこと、だよな」

「だと思う」

 

 本田と小声で話し合い、確認する。どうやら本田も同じ考えらしい。

 

「えーっと、出し物は執事・メイド喫茶ってことでいいですか? 賛成なら手上げてください」

 

 本田の言葉の直後、クラスの殆どの人が意気揚々と手を上げる。逆に手を上げてないのは……あ、田中さん上げてないな。田中さんにとってこの手のイベントは面倒以外の何物でもないんだろう。明らかに不機嫌そうだ。

 

「それじゃうちのクラスはこれでいいですかー?」

「「「「はーい!」」」」

 

 後、先生が「授業終わりまで自由で」と言って教室がより騒がしくなった。

 想像以上に早く決まったな。もっとグダグダになるかと思ってた。これもみんなをまとめ上げる本田のリーダーシップがあったからだろう。

 

「良かったな漣。田中のメイド姿見られるぞ」

「いや、そうはならないんじゃないかな。田中さん、面倒だって思ってそうだけどね」

「そうだよ本田くん! 誰もが着たいって思ってる訳じゃないよ」

 

 溝川さんが俺たちの会話に割って入ってきた。

 

「だから、私がちゃーんと着こなしてあげる♡」

 

 溝川さんが俺に向けてウインクをする。綺麗な顔でのウインクはとても様になってる。

 

「その時はよろしくね?」

「あ、あぁ……よろしく」

 

 やけにグイグイ来るな……。いつも控えめな溝川さんらしくない対応だ。早くメイド服を着たくてワクワクしてるのかな。普段着る機会なんて無いし。うん、きっとそうだろう。

 

「漣、お前は執事服着ろ。これ決定事項な」

「え?」

 

 マジ? 俺が着るの? どうして?

 

「驚くことじゃないだろ。このクラスでお前以上にできるやつはいないぜ」

「いやいや、買い被りすぎだってば。俺身長低いし、顔も童顔だし……」

「私、漣くんの執事服姿見てみたいなぁ。絶対に似合うよ」

「溝川さんまで!?」

 

 俺を見る2人の目は輝いてる。期待が重い。執事とか高身長のイケメンじゃなきゃ成立しないだろ。本田みたいにさ。見た目からして俺は最初に除外されるべき存在では? 服に着られるのがオチだろ。

 

「漣くん、普通に綺麗な顔だよ?。それに接客で大事なのは笑顔と対応だから。漣くんは2つとも上手だし、間違いなく向いてるよ」

「ああ、俺も賛成」

「そうか……?」

 

 緊張して笑顔どころじゃない気がする。それに、執事なら「おかえりなさいませ、お嬢様」的なことを言わなきゃいけないはずだ。それは恥ずかしい。そんなにガンガン行く自信は無い。

 

「何より、執事の仕事は主人をサポートする……つまり人を助ける仕事だ。漣にピッタリだって俺は思うぞ?」

「うーん……」

 

 そう言われると弱る。言われてみれば執事ってそういう役割だよな。なら、意外とできなくもないか? ちゃんと執事を全うすれば誰かの助けになれるか?

 

「……期待に応えられるから分からない。でも、努力はするよ」

「良し! んじゃ俺も一緒にやってやるからよろしくな!」

 

 本田もやるんだ。一方的に俺に押し付けたんじゃないんだな。だったら問題無いか。本田がいればチームのまとまりが良くなるし、強い味方ができたと思えば悪くないか。

 

「しっかり見なくちゃいけないからな。漣と田中のやり取り」

「お前さぁ……この話に田中さんは関係無いよ」

 

 満面の笑みで背中を叩かれた。前言撤回だ。これには呆れずにはいられない。やっぱり俺を罠に嵌めやがったなコイツ。まあ、やると言った以上もうやるしかないけど。俺一人でやるって訳じゃないんだ、この際割り切ろう。その方が精神的に楽だ。

 

「漣くんの言う通りだよ。この話に摩美々ちゃんは関係無いでしょ」

「妙に漣の肩を持つんだな、溝川」

「だって漣くん嫌がってるじゃん。あれこれ詮索されるのが嫌な人だっているんだよ?」

「ちょっと2人とも、落ち着いてって……!」

 

 何で俺のことでギスギスするんだ? こういう雰囲気は好きじゃないし、何より俺が喧嘩の原因になることが嫌だ。俺が悪いなら素直にそうだと言って欲しい。慌てて仲裁に入る。

 

「本田、溝川さん。俺が悪かった。頑なすぎた。だから、喧嘩は止めて────」

「「漣(くん)は悪くない!」」

「えぇ……?」

 

 悪くない、とは? 原因は明らかに俺だろ。自分の考えを主張しない俺が悪いに決まってるでしょ。何なんだこれ。どうすればいいんだ?

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「一緒に帰ろうよぉ」

 

 帰りのホームルームが終わって荷物の整理をしている時。隣から田中さんに話しかけられた。

 

「ごめん、実行委員の集まりがあるから遅れる。残念だけど、一緒には帰れない」

 

 実行委員は定期的に集まって色々話さなきゃいけない。そして、それは基本的に放課後だ。必然的に帰りは遅くなる。

 

「何でそんなめんどーなことするのー?」

「だって、これも人の助けになることだから」

「ふーん……」

 

 みんなが文化祭を楽しめるよう手助けをする────それが実行委員の務め。そんなに大役じゃないけど、それくらい真剣にやるつもりだ。面倒でも何でも構わない。

 

「……漣って意外と人の心分かってないよねー」

「え?」

 

 それってどういうこと? 俺、何か傷つけることを言ったのか? 俺はただ自分の思ってることを言っただけで……原因があるとしたらそれ以外に無い。

 

「ごめん、失言したなら反省する」

「別にー、漣は悪くないですよー。それじゃあ、ばいばーい」

 

 手を振って、教室を出ていった。

 何で田中さんは拗ねてるんだ? どう考えても原因は俺にあるのに、俺は悪くないってどういうことだ? 田中さんといい、本田や溝川さんといい、何を考えてることが分からない……。

 

「れーんくん♡」

 

 入れ替わるようにして、誰かが近づいてきた。田中さんのダルそうな声とは正反対の活気に満ち溢れた声。溝川さんだ。

 

「実行委員、一緒に行こ? 本田くんも待ってるよ」

「そうだね、時間に遅れるのもあれだし。行こうか」

「うん♡」

 

 同意して教室を出た。直後、溝川さんが腕を組んできた。ホームルームの時も思ったけど、やたら距離が近い。意外と構って欲しい一面がある人なのかな。悪意が無ければ問題無いけど、あまり気分は良くないな。俺に何を求めてるんだろうと勘ぐってしまう。

 

「……!?」

 

 ────瞬間。背後からどう考えても圧倒的にヤバい気配を感じた。思わず身の毛がよだつプレッシャー。鋭くて冷たい純粋で真っすぐな殺意。嫌だ、怖すぎて後ろを振り向きたくない。

 しかし、そんな気持ちとは裏腹に視線は反射的にその方に向いた。数メートル離れた距離から田中さんがこちらを見ていた。え、何だ? 何なんだ? 俺を殺すつもりなの? どう見ても殺人鬼の目じゃん。瞳孔ガン開きじゃん。怖すぎるよその表情。そんな表情の田中さんなんて見たくないよ。止めてよ。

 

「どうしたの? 顔色悪いけど」

「い、いや、何でも……」

 

 そう言えば前にもこんな感じのことがあったな。包帯の女の子と一緒にいるのを盗撮されたっけ。でも状況が違う。あの時は俺が約束の時間を無視したっていう明確な理由があった。それに対して、今回の場合はそれらしい理由が無い。何か訳があっての表情なのは分かるけど、田中さんって言葉で伝えないからなあ。推測するしかない。構って欲しいとかそういうのじゃないんだよな。あんな怪物レベルのオーラを放ってるんだから間違いない。もっと深い、根本的な何かだ。分からないけど。

 このまま考えていても埒が明かない。かと言って、直接理由を聞く勇気も無い。あの田中さんを相手にするのは怖すぎる。とりあえず、このまま関係が悪くならないことを祈ろう。今の俺にできるのはそれだけだ。




 夏休みなのに忙しいの辛い。もっと書く時間増やしたい……。
 できる限りゆるくて明るい雰囲気で話を進めようと思ってたのに遂にギスってしまいました。何の前触れも無く新キャラ出すとご都合主義感が強くなってダメですね。自分の技量不足を感じちゃいました。
 あと、12話を投稿した後この小説が日間総合に入りました。想定外の出来事だったので本当に感謝しかないです。ありがとうございます。これからも頑張って書きます。
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