【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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第14話 人間関係で一番大事なのは信頼

「「……」」

 

 気まずい。凄く気まずい。沈黙という名の地獄に包まれてる。

 文化祭の準備が始まってから1週間。それ以来、田中さんの態度が冷たい。普段以上に素っ気ない態度で喋る。

 

「……ホントに最近どうしたの?」

「別にー、大丈夫なのでー」

「いや、それはないでしょ」

 

 田中さんの表情は明らかに不機嫌だ。拒絶されてないのがせめてもの救いだ。それでも辛いけど。とにかく、この状況をどうにかしないといけない。

 

「そこまで言うなら、教えてあげるー」

「情けない話だけど、頼むよ」

「自分で考えてねー」

「……」

 

 理由を聞いてもこの調子だ。原因が俺である以上、理由くらい自分で考えろというのは何も間違いじゃない。ただ、確信できる理由が浮かんでこない。

 再び沈黙が訪れてから少しして、昼休み終わりのチャイムが鳴った。次はロングホームルームか。トイレを済ませておこう。そう思って席から立ち上がろうとすると。

 

「漣くん♡」

 

 溝川さんがやって来た。

 

「今日、文化祭で着る衣装が届くんだって」

「そうなんだ、楽しみだね……」

 

 田中さんの態度が冷たくなったのと同時に、溝川さんの行動が積極的になった。そして────視線が向けられるようになった。殺意という殺意がこれでもかと凝縮された田中さんからの視線が。

 一週間かけて分析した結果、身の毛がよだつ視線が向けられるのは俺が溝川さんと接してる時だけだと分かった。この事実から推測できるのは、田中さんは溝川さんの行動を良く思ってないこと。これはほぼ間違いない。しかし、問題がある。視線を向ける対象が俺だということだ。溝川さんに対して怒ってるなら、溝川さんに自分の意思を伝えればいい。なのに田中さんはそれをせず、俺に何らかの意思を伝えようとしてる。

 その問題を踏まえて考える。視線が俺に向くということは、溝川さんの行動以上に俺の行動がマズいということだ。だから、原因は俺の行動にある。俺の“ある行動”が田中さんの逆鱗に触れた。しかし、それが分からない────というのが現状だ。

 ……田中さんの視線を受けて尿意が引いた。トイレは止めだ。大人しく座っておこう。

 

「溝川さん、そろそろ授業だから座った方が良いよ」

「そうだね。ありがとう♡」

 

 半ば強引に溝川さんを席に座らせる。そして、田中さんから殺意がすぐに消えた。

 田中さん、もしかして溝川さんが嫌いなのかな。いや、だったら殺意が俺に向くのはおかしい。となると、俺に溝川さんと関わるなって言ってるのか。現状これが最有力説だ。うーん、これが正解なら嫌だなあ。人間関係のギスギスとかホントに最悪なんだよなあ。直接言い争ったりしてない分マシだ。でも、それは決して良いものじゃない。どうすればいいかなあ。

 あれこれ考えてると、授業開始のチャイム。先生が教室に入ってきた。同時に、段ボール箱を抱えた男子生徒が4人来た。

 

「衣装が届きました。なので、接客担当の生徒はサイズ合わせのために一度着てください。更衣室の鍵を渡しますので男女一人ずつこちらへ」

 

 来たか、執事服。

 

「漣、行くぞ」

 

 男子更衣室の鍵を持った本田が話しかけてきた。催促され、教室を出る。

 

「へへ、遂にこの時が来たな!」

「そうだな」

「コスプレなんてレアだぜ? やるからには全力だ」

「ああ」

 

 執事服を着る機会とか普通は無いよな。確かに本田の言う通り、貴重な体験だ。やるだけやってみよう。

 更衣室のドアを開け、中に入る。ロッカーの前で執事服の入った袋を開ける。

 

「意外にしっかりできてるんだな」

「予算の都合で安物、なんてならなくて良かったぜ……」

 

 コスプレ衣装は品質が微妙だと割りと聞く。でも、予想に反してクオリティが高い。複数の執事服にメイド服、その他諸々の費用を考えるとバカにならなそうだ。それでもこうして執事・メイド喫茶の許可を出してくれた先生たちには感謝する他に無い。

 制服を脱ぎ、執事服に袖を通す。キツすぎず、ゆるすぎず、サイズはピッタリだった。不満も特に無い。強いて言えば少し通気性が悪くて熱がこもりやすいくらいか。

 室内に置かれた姿見に映った自分を見る。これ凄く恥ずかしいな。やたら豪華なスーツを着ているみたいで緊張する。似合ってるかどうかも分からない。

 

「おお! 漣、お前やっぱスゲー似合ってるぞ!」

「そうか? 服に着られてる感じするけど……」

「そんなことないっての! みんなもそう思うだろ?」

 

 本田が他の執事担当の男子に意見を聞く。

 

「漣、お前が1番だ」

「クールさと穏やかさを両立するとか最強か?」

「大したやつだよ」

「爆発しろ」

 

 最後の意見は置いといて、概ね高評価なのは伝わった。他の男子から見ても似合ってるらしい。少なくとも及第点は取ってるみたいだ。他の人が見ても違和感が無いからなら大丈夫か?

 

「みんなサイズは問題無いか? なら教室戻ろうぜ」

 

 本田の問いかけにみんな首を縦に振る。サイズ合わせは完了した。だったらもう脱いでいいか。

 

「何で着替えようとしてんだ?」

 

 黒服を脱ごうとしたら本田に止められた。

 

「え、逆に着替えないのか?」

「練習があるだろ? 着てた方が雰囲気出るじゃん」

「あー……」

 

 至極真っ当な答えにぐうの音も出ない。本当にその通りすぎる。このままの方がもっと練習になるだろうし、あと着ても恥ずかしくならないように慣れておいた方が良い。着替える理由が無い。

 何も言わず本田に従い、教室に戻ることにした。ドアを開けると────。

 

「「「「おぉ~!」」」」

 

 クラスのみんなが感嘆の声を上げた。特に女子らはこっちをジーッと見てる。何かムズムズする。

 

「これでも似合ってないって言えるか?」

「俺に対して向けた声じゃないと思うけど。本田だって十分似合ってるし」

 

 身長の暴力には勝てる気がしない。俺は162㎝、本田は177㎝。15㎝の差は大きい。他の執事担当の男子も170㎝以上で、それより下なのは自分だけ。ネタ枠なのか?

 

「カッコいいよ、漣くん♡」

 

 後ろからメイド服に着替えた溝川さんに声をかけられた。

 

「……ありがと。溝川さんも似合ってるよ」

「あは、嬉しい♡」

 

 溝川さんは顔が整っていて可愛い。だから当然似合ってる。けど、何だかあざとくて忌避感がある。やっぱりグイグイ来られるのは好きじゃない。でも、言ったら傷つくよなあ。どうしたらいいんだろ。

 溝川さんの対応に悩んでると、本田に肩を叩かれた。

 

「田中いなくね?」

「あれ、ホントだ」

「摩美々ちゃんなら体調悪いって先生に言って保健室に行ったよ」

 

 溝川さんの言う通り、体調不良だったら心配だ。もしかして、田中さんが最近不機嫌なのは病気だったからか?

 

「いや、ワンチャンサボりじゃね? 田中、文化祭に乗り気じゃねえし。面倒なんだろ」

 

 行動力のある田中さんならありえない話じゃない。でも、面倒という理由だけでサボるとは到底思えない。何か理由が必ずある。俺はそれを何としても知らなくちゃいけない。きっと、田中さんは何かを主張してるんだ。そして、それを聞けるのはきっと俺しかいない。だったら────。

 

「ちょっと保健室行ってくる」

「おい、どうしたんだよ漣。いつもと様子が違うぞ?」

「何か雰囲気が変わった……?」

 

 いや、困ってる人がいるなら助けるのが当たり前だから。別に何も変わってないしいつも通りだから。どう考えても普通でしょ。

 

「漣くん、体調悪いならそっとしてあげた方が良いんじゃないかな?」

「いや、俺は行くよ。もし本当に体調が悪いなら心配だし、サボりだったらそれは良くないって言わなくちゃいけない」

「でも、今は授業中だよ? あんまり教室の外に出るのは良くないし、何より文化祭の本番に向けて準備とか練習とかしなくちゃだし……」

 

 やけに食い下がってくるな。どうして俺にだけ押しが強いんだ? いつもみたいに控えめで人に合わせる溝川さんらしくない。でも、どんなことを言われたって俺は譲らない。退く訳にはいかない。ここで田中さんを助けられないで何が友達だよ。ふざけるな。

 

「教室を出るのは俺個人の意思だよ。溝川さんが気にすることじゃない。準備も練習も、そんなのは後からでもできる。俺は今田中さんを助けなくちゃいけないんだ」

 

 溝川さんの言うことは分かる。ドが付くくらいシンプルな正論。だけど、今は田中さんの方が大事だ。俺自身は重要じゃない。

 溝川さんとの会話を真っ向から否定する形で終わらせ、教室の隅で椅子に座る先生の方に向かう。先生に教室を出る許可をもらうためだ。もらえなくても行くけど。

 

「先生、田中さんの体調を確認したいので保健室に行ってもいいですか?」

「いいですよ、もしかしたら早退の可能性があるかもしれないので。ただ、授業中なので早めに教室に戻ってくださいね」

「ありがとうございます!」

 

 先生に礼を言って、教室を後にした。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「授業中失礼します。2年3組の三峰です。自分と同じ2年3組の田中摩美々って女の子はいますか?」

「いえ、いないけれど……」

 

 保健室の先生に変な目で見られた。俺の言動に対してか、服装に対してかは分からない。でも、これで疑惑が確信に変わった。田中さんは授業をサボったってことだ。保健室に行かず、別のどこかにいる。となると、次にやる事は一つ。田中さんを探す!

 

「教えてくれてありがとうございます。失礼しました」

 

 保健室の先生に一礼し、この場を後にする。

 田中さんはどこに行ったんだ? 何でこんな手の込んだサボり方をするんだ? 今までこんなこと一度だってしなかったのに。これは叱らなきゃダメだな……!

 

「とりあえず、手当たり次第に……!」

 

 居場所の手がかりは無い。鍵が開いてる無人の教室を片っ端から調べる。家庭科室、音楽室、美術室……色々な教室を探し回った。しかし、どの教室にもいなかった。痕跡すら無かった。

 

「はぁ、はぁ……どこだ?」

 

 入れる教室は全部入った。校内で残ってる場所は……屋上くらいか。あんまり人が来ない場所だから可能性はある。きっと、田中さんは屋上にいる!

 そうと決まったら後は早かった。気がつけば走っていた。廊下は走ってはいけないと分かってても止まらなかった。屋上へと続く階段を全速力で上り、ドアノブに手をかける。

 

「田中さん!」

 

 ドアを開け、呼びかける。返事は無い。見える所にはいない。いるとしたら、屋上の構造からしてドアの後ろの隅以外ありえない。隅の方に移動する。

 

「すぅ……すぅ……」

「寝てるのか……」

 

 予想通り、隅に田中さんはいた。気持ち良さそうに眠っている。

 9月も中旬になって気温が少し低くなった。また、日陰なのもあって外は涼しい。丁度良い気温だから眠くなったのかもしれない。でも、俺はずっと走ってたからクソ暑い。にしても執事服、凄く蒸れる。正直脱ぎたい。でも、雑に扱ってシワとか作るのは良くないから我慢するしかない。

 さて、どうしよう。起こさなきゃいけないのに、ここまでぐっすり寝てる田中さんを見てると気が引ける。

 てか田中さん、顔凄く綺麗だな……。こうして近くで見ると、とても端正な顔をしてるのが分かる。田中さんほど美少女って言葉が似合う人はいないんじゃないか? ダメだ、顔が熱くなってきた。このまま見続けるのは良くない。変な気持ちを抱いちゃいけない。友達である以前に1人の女の子なんだから。

 でも、起こさないと何も始まらない。ここは心を鬼にして田中さんを起こす。肩を揺らせば起きるかもしれない。そう思って肩を掴むと────。

 

「ふふー」

「うぉあっ!?」

 

 笑い声に驚いて間抜けな声が出た。

 え、え? 何? 何だ? 幽霊? ホントにいるのか? でも、ここには俺以外に田中さんしか……あ。

 

「おはよー」

「……起きてたんだね。一体いつから?」

「ドアを開けて『田中さん!』って叫んだとこからー」

「最初から!?」

 

 寝たふりだったか、やられた……! 普通に寝てるかと思った。ホントに油断できない。演技も上手とか凄いなあ田中さん。芸能人とか向いてるんじゃないか?

 

「私のいる場所がよく分かったねー」

「いや、学校中探したよ。ホントに疲れたんだから……」

 

 広い学校の中を着慣れない執事服で走るのはとても苦労する。制服よりも動きづらいし蒸れる。おかげで全身が汗でヤバいことになってる。即クリーニング案件かもしれない。

 

「保健室に行ったって聞いて向かったんだ。でも、屋上にいるってことは体調不良じゃないよね」

「まあ……うん」

「田中さん、サボりは良くないよ。何でこんなことをしたのか教えてくれる?」

「……面倒だったからぁ」

「いいや、それは嘘だよ。だったら既にサボってたっておかしくない。仮に本当だったとしても、他に何か理由があるはずだ」

「……!」

 

 田中さんは目を見開いた。図星だ、やっぱり何かある。

 

「1週間考えた。田中さんが特に不機嫌になるのは決まって俺が溝川さんと話してる時だ。だから、溝川さんとは……関わって欲しくないのかなって」

「別にそういう訳じゃ……」

「……これが一番自信があったんだけどなあ」

 

 じゃあ何だって言うんだ? あんまり言いたくないことを言って不正解とかもう無理だよ?

 

「えっと、俺の行動に問題があるってことで間違いないよね?」

「……まあ」

 

 田中さんが小さく頷いた。それは合ってるんだよな。だからこそ田中さんの意図が読めない。俺に何を言いたいのか、何を求めてるのか。

 

「……田中さん、思ってることがあるなら言葉で直接伝えて欲しい。少しでもいいからさ、田中さんの本音が知りたいんだ。残念だけど、今の俺には田中さんの気持ちを察する力が無いから。ごめんね、迷惑かけて」

 

 田中さんは口で気持ちを伝えるのが苦手な人だ。でも、どうしても田中さんの口から聞きたい。情けない話、俺1人じゃ解決できない。

 

「……漣、最近あの溝川って人と話してばかりでしょー?」

「そうだね。文化祭の実行委員になってから話す機会が多くなったよ」

 

 やっぱり溝川さんは関わってるか。俺と溝川さんが文化祭の実行委員になった時期と田中さんが不機嫌になった時期は同じ1週間前だ。そうじゃなきゃおかしい。

 

「漣がそんなめんどーな仕事を始めたせいで一緒にいる時間が減ったから……だから、ちょっとだけイライラした」

「ああ、だからあの視線が……」

 

 どう考えても『ちょっとだけ』のレベルを超えてるんだけどね。あれはホントに怖かった。ブチ切れた母さんや姉さんを遥かに超える怖さだった。間違いなく今までの人生で最も怖い体験だった。もう嫌だ……。

 でも、俺が文化祭の実行委員をやったのはこれがみんなの助けになるって思ったからだ。悪いことをした訳じゃない。

 

「ごめん。でも、これは────」

「『みんなを助けられるから』でしょ。漣は良い子だからねー。あの人を拒まないのも傷つけたくないからだって分かってる。それでも、やっぱり────私と一緒にいて欲しいなって。私がどこかに行っても、漣なら見つけてくれるかなぁって」

「……!」

 

 そうか。やっと分かった。俺の誰かを助けたいって気持ちが田中さんを傷つけたのか。道理で気づけない訳だ。俺はこれが最善だと信じて疑ってない。だから、それが原因だって考えもしなかった。でも、田中さんにとってはそうじゃない。俺が誰かを助けようとする度、蔑ろにされたって思ってるんだ。そんなの、どうすればいいんだ。俺が間違ってるのか?

 

「漣と一緒はぁ、その、楽しいから。もっと仲良くなりたい……なんて思ってたり思ってなかったりー」

「田中さん……!」

 

 私と一緒にいて欲しい────それは構って欲しいとも言える。それは俺が一番最初に無いと思って選択肢から外した答えだ。まさか、そんな子どものワガママみたいなことを田中さんが言うなんて思わなかった。いつもの振る舞いからは全く想像できない。意外で済ませられるレベルじゃない。表向きは一匹狼でも、人との触れ合いが恋しいのか。そして、それを俺に求めるのか。正直、モヤモヤする。

 ────一方的に構われたり、依存されるのは好きじゃない。人間関係は互いに信頼と理解が無いと成立しないから。一方的にそういう感情を押し付けられてもどう応えればいいか分からない。応えたくないとさえ思う。そういうものは決まって良い方には向かわない。でも────。

 

「当たり前だよ、そんなの」

「漣……?」

「俺も田中さんと一緒にいるの、楽しいよ。だから、どこか遠くに行っても頑張って見つけてみせる。田中さんは、1人じゃない」

 

 田中さんなら大丈夫だ。信頼できる。悪意を持った人間じゃない。最低最悪の関係になることはありえない。面倒なことも起こらない。ずっと友達でいられる。だから、何があっても助けなくちゃいけないって思う。田中さんは不器用ながらそうでありたいと言ってくれた。だったら、俺も言わなくちゃダメだろ。

 

「その、今まで不安だったんだ。実は少し嫌われてるんじゃないかって思ってたから」

「そんなこと全然思ってないんだケドー」

「はは、良かった」

 

 田中さんの本音を聴いたのは初めてかもしれない。普段口数の少ない田中さんがこうして心の内を明かしてくれたのが嬉しかった。どこかで拒絶されてる気がして、弱気になってた。互いに腹を割って話して、互いに信頼があることが改めて分かった今、弱気じゃなくてもいいんだって気づいた。

 

「ありがと、話してくれて」

「こういうのはこれっきりにしてねー」

「うん、努力する」

 

 田中さんは行動で気持ちを伝える。俺は言葉で気持ちを伝える。伝え方に違いがあるからすれ違いが起こった。でも、今みたいに相手に寄り添って気持ちを伝えられれば乗り越えられないものは無い。俺も行動で気持ちを伝えられるように頑張らないと。

 

「俺は田中さんを信頼してるし、田中さんも俺を信頼してる。うん、大丈夫。俺たちはちゃんとやっていけるよ」

「……そうかもねー」

「だから、これからもよろしく」

 

 田中さんに向けて手を差し出す。俺なりに田中さんを信頼しているという気持ちを精一杯込めて。俺の意図に気づいたのか、手を握ってくれた。

 田中さんの気持ち全てに応えられるかは分からない。でも、応えてみせる。それが、田中さんに対してできる最善の行動だ。

 

「ねーねー」

「ん?」

「早く教室戻らなくていいのー?」

「あッ」

 

 ヤバい、田中さんのことに集中しすぎて頭から完全に抜けてた。先生に早めに戻って来いと言われたじゃん。このままだと俺までサボり扱いだよ。先生に怒られるよこれ絶対。あと本田にも何か言われるだろうなあ。

 

「早く戻らないと!」

「ふふー、りょうかーい」

 

 今までの不機嫌な表情が嘘みたいに晴れやかな笑顔だった。うん、やっぱり田中さんはこっちの方が似合ってる。

 教室に戻ったらなぜかみんなから黄色い声が上がった。ちゃんと先生に説教されたし、本田にあれこれ問い詰められた。




 シリアスを挟まないと死んじゃう病すぎてゆるい雰囲気で書けませんでした。そろそろギャグ色強めの話が書きたいです。
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