【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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摩美々視点です


第15話 それが歪な想いだとしても

「めんどー……」

 

 何で今日に限って早く来ちゃったんだろ。文化祭なんてやる気ある訳じゃないのに。

 

「あれ……」

 

 教室のドアが開いてる。こんなに朝早くから来る物好きなんて内のクラスにいたっけ。気になってドアの後ろに隠れた。

 

「漣くん、こっちは確認し終わったよ」

「俺も今終わった。後は特別教室の方だね」

 

 中にいるのは漣と溝川さんの2人。実行委員としての仕事をしてるらしい。

 

「ねえ、漣くん」

「ん?」

「今日、文化祭一緒に回ろうよ」

 

 溝川さんが漣に告げる。やっぱり漣を狙ってる。文化祭当日だから本気で動くつもりなんだ。

 

「本田と回る予定なんだけど……」

「それ以外に空いてる時間は?」

「無い訳じゃないけど、その時間は田中さんと回りたいかなって」

「摩美々ちゃんなら他の子と回るって言ってたよ」

「え、ホント? でも……」

「文化祭だから他の子と話したいんだと思う」

「……まあ、無い話じゃないか」

 

 最悪。漣と一緒にいたいからってそんな嘘つくとかありえないんだケド。そこまで取られたくないの? ありえないでしょ。ていうか、信じる漣も漣。もうちょっと疑ってよ。

 

「なら一緒に回ろう、溝川さん」

 

 ……分かってた。こうなることは分かってた。あんな状況に持ち込まれたら漣は断らない。純粋ですぐ人を信じるから簡単に騙されちゃう。普段から自己主張することを心がけた方が良いと思う。まみみと回りたいって思ってくれてるのは嬉しいケド、もうちょっと頑張ってくれませんかねー?

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出た。やっぱり漣は優しい。呆れるくらい優しい。自分の発言で相手を傷つけたくないから否定しない。よっぽど自分の価値観に反するものじゃない限り何でも受け入れる。そして、その基準が高い。だから、確信しないと行動に移れない。漣の優しさは基本的に良い方向に働く。でも、今みたいに悪い方向に働くこともある。優しすぎるのも問題かなー。

 

「ありがと♡ えへへ、今日はよろしく」

「うん、よろしく」

 

 漣の手を握ってブンブン振る溝川さん。対する漣は苦笑い。ここまで露骨に良い反応をもらえてないのを見ると辛い。

 

「時間取ってごめんね? 私は自分の持ち場に行くから」

「うん、俺も」

 

 漣はまみみとは逆の方に走って行く。溝川さんはこっち側に歩いて来る。マズい、2人の話に集中しすぎた。これじゃ移動できな────。

 

「おはよう♡ 摩美々ちゃん♡」

 

 ……間に合わなかった。気持ち悪いくらい満面の笑みで挨拶された。何だろ、この「私の勝ちです」って感じ。勝負にすらなってないって気づいてなさそう。「漣はアナタのことなんて眼中に無いですよー」って言ってやりたい。

 

「……おはよー」

 

 でも、漣が近くにいる以上ここは穏便に済ませなきゃいけない。幸い溝川さんも同じことを思ってるみたいで、会話は無いっぽい。そういうところが気に食わない。気になる人には良い子ぶって、目の敵にしてる人にはマウントを取って。絶対漣が嫌いなタイプじゃん。性格も行動も漣にとって全部地雷でしょ。何で漣は厄介な女子に好かれがちなの? 夏休み前に漣に告白した子とか、溝川さんとか、明らかに女運が無い。そういうのに勘違いされる漣が可哀想に思えてきた。

 何はともあれめんどーだ。早起きは三文の徳なんて言葉を考えた人間は許さない。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 文化祭が始まった。準備担当は本番中にやることが無いから近くにある暇潰しに休憩室に来た。

 

「暇ー……」

 

 1人でできることなんてスマホをいじるくらいしか無い。これじゃあ何も面白くない。やっぱり漣がいないと学校はつまらない。気がついたら漣が隣にいることが当たり前になってる。とかあれこれ考えてたら、既に午後になっていた。

 今どうにかしなきゃいけないのは溝川さんだ。あの人は漣が一番嫌いな『人の善意に付け込んで利用する人間』。でも、漣はあの人を良い人だって信じ込んでる。本当のことを伝えれば何とかなるかもと思ったけれど、漣は今仕事で忙しい。それに、1度でもそうだと確信したらまず疑わない。だから、説得は難しい。とは言え、どうにかしなきゃいけない訳で。

 

「あ、摩美々ちゃん♡」

 

 噂をすれば何とやら。溝川さんが休憩室にやって来た。ここまでピンポイントで来られるとイラっとする。

 

「ここにいても意味無いと思うよ? 漣くんは私と一緒だから」

 

 もう隠す気無いでしょこの人。

 

「今日だけ一緒にいたって変わらないと思うケドー」

「私、漣くんに何回もアプローチしてるから。身体を当てると毎回焦った顔するもん。こうして私を好きにならなかった男の子は今までいなかったから」

 

 あんな仕打ちを受けた男子は漣だけじゃないなんて。自分がカッコいいと思った男子をとっかえひっかえしてるとかありえない。想像以上に最悪な人で笑えない。

 

「だ・か・ら、漣くんも私のことで頭がいっぱいだよ♡」

 

 確かに、どうすれば離れられるかで頭がいっぱいそうだった。ある意味間違ってない。

 

「何も言わないってことは、諦めたってこと?」

「呆れてものも言えないだけー」

 

 ポジティブ思考にもほどがある。頭の構造が違う。このレベルになると話が通じない。だったらここにいても。そう思って立ち上がろうとすると────。

 

「あ……!」

 

 何回も聞いた声。反射的にその方に向いた。

 

「漣くーん♡」

 

 先に動いたのは溝川さんの方だった。

 

「早く行こ? ね?」

「う、うん……」

 

 歯切れの悪い返答。その後で、一瞬だけこっちに目を向けた。ごめん、と言いたいのかもしれない。まあ、ここで私が何か言っても何にもならない。この調子ならボロが出るのも時間の問題だし。

 2人は休憩室を出て、これから一緒に文化祭を楽しむ。溝川さんの狙いは漣を自分のものにすること。結果は見えてるから危機感は無いけれど、どうなるかは見ておかなきゃいけない。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 あれから2人はお化け屋敷、縁日、演劇、バンド、その他諸々見て回った。その最中、漣はいつものように穏やかな笑みを浮かべてた。溝川さんに強引なアプローチをしかけられても、その度に本音を悟られないように笑顔を崩さないで我慢してた。

 そんな訳で、屋上にやって来た。目的は告白する以外に無い。漣もそれを察してか、重い表情に変わってる。夏休み前の時と全く同じ状態。

 

「ねえ、漣くん。話があるんだけど……」

 

 始まった。どうなるか分かりきってるから別に慌てる必要なんて無い。ここまで来ると、漣がどうやって断るかが見たい。前と同じようにハッキリ嫌だって言うのか、やんわり断るのか、その両方でもないのか。

 

「────私、漣くんのことが好き。カッコいいし、優しいし、勉強も運動もできて真面目だし、彼氏になって欲しいの」

 

 どれも外面的な評価。心を見てない。漣が何を大事にしてるかを分かってない。そんな人に漣を捕まえられるはずがない。

 

「────ごめん」

「うんうん! そうだよね……って、え?」

 

 思わず声を出して笑いそうになった。ここまで予想通りだと逆に面白い。

 

「俺、彼女はいらないから」

「え? でも、私可愛いし、優しいし、付き合った方が得だって。友達に自慢できるよ?」

「損得とか、誰かに自慢したいとか関係無い。純粋にそう思ってるだけだよ」

 

 恋愛に興味無さそうなのは薄々気づいてた。まさか、彼女なんていらないとハッキリ言えるくらいには興味が無かったとは。これ、まみみにとってもマズくないー?

 

「でも、摩美々ちゃんと一緒にいるよりも楽しかったでしょ?」

「え?」

「だって漣くんって摩美々ちゃんにイタズラされたり振り回されたりしてるよね。そういうの嫌なんじゃないかなって思ったの」

「ああ、そういう……」

 

 他の人からはそう見えるのも納得できる。悪い子に絡まれてる良い子を見るのは嫌、なんて考えてる人は一定数いる。少なくとも、溝川さんにとっては気分の良いものじゃなかったってことになる。

 

「別に、俺は田中さんのイタズラを嫌だと思ってないよ。振り回されるのも別に嫌じゃないし」

「え、何で……?」

「友達だから。それ以上の理由は無いよ」

 

 面と向かってでなくてもハッキリ言われると恥ずかしい。そこまでクサい台詞吐けるのはどうかと思う。まあ、そこまで信頼してくれるのは嬉しいケドー。

 

「でも、流石に授業を放り出させるとかは……」

「あれは俺がそうしなきゃって思ったからそうしただけ」

「弱みとか握られてない?」

「全然。何でそこまで気にしてるの?」

「だって、漣くんのことが心配だから。摩美々ちゃんに騙されてるんじゃないかって」

 

 振り出しに戻った。ていうか、騙してるのはそっちでしょ。往生際悪すぎじゃない?

 

「いや、騙されてるって……田中さんは悪い人じゃないよ。そこまで目の敵にする必要なんて────」

「だって、私は摩美々ちゃんより可愛いし、性格良いし、スタイルだって良い。なのに、漣くんは摩美々ちゃんばかり……そんなの、許せない。何か理由があるの?」

「さっきも言ったよ、友達だから。もっと言えば、信頼してるから。それだけだよ」

「摩美々ちゃんはただの友達でしょ? だったら、彼女がいたって問題無いでしょ? いらない理由は何なの?」

 

 その理由は知りたいかも。恋愛に興味が無い以外にも理由はあるのか気になる。

 

「俺にとって1番大事なのは“人を助けること”で、それ以外は2の次だから」

「なら、漣くんのやるべきことは私を助けること。私は彼氏が欲しくて困ってる。だから、私の彼氏になって」

「それ、本気で言ってる?」

「うん、嘘じゃない。間違ったことは何も言ってない」

 

 このパターンは見覚えが。次に漣が言う言葉はきっと────。

 

「だったら尚更無理だよ。俺は溝川さんの承認欲求を満たすための道具じゃないんだ」

「漣くん……?」

「やっと分かった、溝川さんが俺に近づいた理由が。あまり自己主張をしない俺は君からしたら簡単に付け込めるカモだったって訳だ」

「え、いや、そ、そんなこと────」

「ある。自覚があるかどうかは分からないけど、溝川さんは人の善意を利用して自分だけ得しようとしてる。俺はそういう人が1番嫌いだから」

 

 やっぱりこうなった。流石の漣もこれは我慢できないよねー。見ててキツいし。

 にしても、普段優しい人を怒らせちゃいけないのがよく分かる。まみみを叱ってる時は純粋に優しさで叱ってたんだなあってしみじみ感じる。

 

「全てにおいて自分が正しいっていう思い込みは止めるべきだよ。それは誰かを傷つける考え方だから」

「……」

 

 180度違う漣の雰囲気に、溝川さんは何も言えずにあたふたしてる。漣なら簡単に落とせるなんて誤解したのが悪い。漣はガードが固い。

 もう見てられない。なんて思ってたら────。

 

「くしゅん!」

 

 何でこんな時に限ってくしゃみが……。今日は普段より肌寒いから厚着しておくべきだった。これだから寒いのは嫌。

 2人ともまみみのいる方に顔を向けた。せっかく上手く隠れてたのにバレちゃったじゃん。これはちょーっとめんどーかも、なんて考えてると漣がこっちに走って来た。

 

「……やっぱり田中さんか」

「大正解ー」

「俺の後を付ける人がいるとしたら、田中さんしかいないだろうなって思った。でも、他の子と回るんじゃ……?」

「それは溝川さんの嘘。別に予定なんて無い」

「本当に?」

「朝の会話も聞いてたんでー」

「えぇ、マジでそういう人なんだな……」

 

 漣は吐き捨てるように言って、眉にシワを寄せる。特定の誰かを嫌がってるところなんて初めて見た。良い子の漣をここまで怒らせるってめちゃめちゃヤバくないー?

 

「それはそれとして、盗み聞きは良くないよ田中さん」

「だってぇ、告白シーンって面白いじゃーん」

「だとしたら期待外れだったね。最初から断るつもりだったから」

「いや、断るのは分かってた。だからどう振るのかなって思ってー」

「それもダメだよ。相手がどんな性格であれ振った子に失礼でしょ」

「あれだけ言っておいてー?」

「怒ると思ってること全部言っちゃうのは良くないって分かってる。怒らないよう努力はしてるんだけどね」

 

 それも良くないでしょ。そうやってストレスを溜め込んだら一気に爆発しちゃうじゃん。

 

「何て言うか、漣ってああいう女子に好かれてばかりだよねー」

「うん、福島にいた時も女の子に粘着されたことが1回ある。あんまり言うべきじゃないんだけど、もうこりごりだよ本当に」

「……流石に同情する」

 

 3回もあんな女子に付きまとわれるとか女運悪すぎでしょ。

 

「まあ、相手が普通に良い子だったとしても付き合う気は無いんだけどね」

「それってどういうことー?」

「さっきも言ったけど、俺にとって1番大事なのは人を助けること。それ以外は2の次。もし彼女ができたとしても、彼女を1番大事にできない。目の前に助けるべき人がいるなら、俺は何があっても彼女よりその人を助けることを優先する。だから、無理なんだ」

「……」

 

 それはおかしいでしょって言いたいのに言えなかった。漣の行動を何度も間近で見てきたからこそ、本気で言ってるんだって納得できる。

 漣は人を助ける時、いつだって全力で頑張る。友達と一緒にいてもお構い無し。人の話は聞かない。状況が状況ならルールを破る。人助けの最中はそれ以外の優先順位が各段に落ちる。挙句の果てには自己犠牲もやってのける。下手したら命だって犠牲にする可能性も十分にありえる。確かに、大事な人を1番に優先できないのは異常かもしれない。でも、漣はもっと根本的なところで異常だ。そこに関して漣は自覚してないし、それどころか絶対に正しいとすら思ってる。そこが何とも言えない。

 

「どんなに俺のことを好きでいてくれても、俺はその気持ちを絶対に裏切る。だから、彼女はいらない。家族とか友達だったら多少は問題無いんだけどね」

 

 ああ、やけに友達にこだわるなって思ったらそういうことだったんだ。確かに、友達や家族みたいに親しい関係なら特に気を遣う必要はあんまり無い。でも、恋人となるとそうもいかない。恋人は1番大事な人じゃなきゃいけないのに、漣はそう思うことができない。それが分かってるから、漣はどんな理由があっても彼女を作ろうとしない。漣らしい、どこまでも優しい考え方。人を傷つけたくないという心が痛いくらい伝わってきた。

 

「……急に変なこと言ってごめん。今のは全部忘れていいから」

 

 想像以上に深い問題だった。このまま漣を好きでいてもダメだって分かった。どうにかして、漣にまみみを好きになってもらわなきゃ意味が無い。人を助けること以上に。でも、それは漣そのものを変える可能性がある。漣が1番大事にしなきゃいけないのは人を助けることで、まみみじゃない。そうやって漣を縛るのはズルい。漣の考えは自由だからこそ映える。それが分かってても漣を自分のものにしたいと思う。やっぱり、まみみは悪い子。

 

「もしまみみが、その……漣の彼女だったら、人助けを最優先したって問題無いケドー」

 

 欲を抑え切れなくて言葉が漏れた。それは、漣の考えを尊重したい気持ちと漣を独り占めしたい気持ちがグチャグチャに混ざった言葉。あまりにも酷くて汚い。でも、本心であることに違いはない。

 ────私は漣を否定しない。だって、漣の人を助けることが1番大事って信念が面白いって思ったから。そういうところに惹かれたから。ずっと見ていたいから。だから、異常であっても肯定し続ける。それが歪な想いだとしても構わない。悪い子にはこれ以上無いくらいお似合いだから。

 

「……冗談ですー」

「だよね。こんなこと、普通じゃないから。田中さんは正しいよ」

 

 でも、それを伝えるにはまだ早すぎる。恥ずかしいし、柄じゃないっていうのもある。それ以上に、漣は自分の気持ちなんて理解されるべきじゃないって思ってる。“友達”の私が肯定したところで心は動かない。だから、これから自分を友達以上の女の子だって認めさせる。そのために必要なのはきっかけ。それさえあればきっと────。

 

「……こほん。あ、そうだ。明日って空いてる時間ある?」

 

 漣はわざとらしい咳払いをして、尋ねてきた。これ以上重い雰囲気にしたくなかったのかもしれない。

 

「今日も明日も暇だよー」

「だったらさ、俺と一緒に文化祭回ろうよ。ホントは今日溝川さんと回る時間は田中さんと回りたいって思ってたんだ。今日はもう時間無いから、明日になっちゃうけどいい?」

 

 そんなの────最初から決まってる。

 

「いっぱい困らせてあげるから覚悟しててねー。イタズラされるのも振り回されるのも嫌じゃないって言ってたの、ちゃーんと覚えてるからぁ」

「うっ、そこまで聴かれてたか……!」

「こんな面白いこと聴き逃す訳ないでしょー?」

「その、お願いだからほどほどにね……」

「保障できませーん。私、悪い子なんでー」

 

 まみみは漣の信念を肯定する悪い子。そうやって隣にいれば、いつかは────。




 一瞬の輝きを見せる溝川さん。摩美々が勝ち確なので主人公に寄って来る他の女はクソ女じゃないと許されません。
 あと今更だけど摩美々の口調の再現が難しすぎて摩美々視点の話がキツいです。口調が独特なキャラの一人称は無闇に書くべきじゃないんだなって……。それでも書かなきゃいけないから書くんですけど。
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