【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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 プロットを全面的に見直したり今回の話を3回ほど書き直したりでめっちゃ遅れました。構成をしっかり決めてから書くべきだと猛省してます。


修学旅行は色んなことを理解するイベント
第19話 おかしくなって、気づいてしまって


 10月。本格的な秋の到来であると同時に、修学旅行の時期でもある。

 行き先は沖縄。もちろん初めてだ。飛行機、凄く綺麗な海、その他諸々。絶対に楽しいに決まってる。だって────。

 

「私を見てどーしたのー?」

 

 1番の友達(田中さん)がいるんだから。

 

「えっ、あっ……!」

 

 自分でも気づかないうちに田中さんを見てたらしい。いきなり声をかけられてビックリした。

 田中さんと温泉に行って以来こういうことが多くなった。つい見入ったり、田中さんのことを考えてボーっとしたり。殆ど無意識だから手に負えない。

 

「大丈夫、何でもないよ」

 

 本当に理由が無いから困る。強いて言えば、何となく気になる。田中さんの目には俺の行動がどう映ってるんだろうって。

 

「おい、ボケーっとしてどうした。今はそんなことしてる場合じゃねぇぞ」

 

 本田に後ろから肩を叩かれた。そうだ、今は考え事をするよりもやるべきことがある。

 俺は班行動で一緒になった田中さん、本田、もう1人の女子とショッピングモールに来てる。というのも、修学旅行の最終準備をするためだ。もう明後日まで近づいていて、忘れ物が無いようにここで必要なもの全てを揃えておきたかった。

 

「で、まず買うべきは生活用品と遊ぶものか」

「待て漣。お前は1つ大事なもんを忘れてるぜ」

「え?」

 

 急に真剣な表情になってどうしたんだ本田。何だろ、コイツがこういう表情するって凄く嫌な予感がする。

 

「話がある。ちょっとついて来い」

 

 少し離れた場所に誘導された。そんなに周りに聞かれたくないのか? 一体どんな話なんだ。変なことじゃなければいいけど……。

 そんな訳でやって来たのは男性用トイレ。運良く俺たち以外に誰もいない。話すにはうってつけの場所だ。

 

「で、話って何だ?」

「修学旅行の行き先は分かってんだろ?」

「沖縄だな」

「じゃあ沖縄と言えば?」

「……海だな」

「で、海と言えば?」

「……砂浜とか?」

「いいや、違うな」

「じゃあ何だって言うんだ?」

「水着だよ、み・ず・ぎ」

 

 ……そんなことだろうとは思った。コイツが真剣な顔をする時は大体下らないことを考えてる時だ。

 ここに来た理由が分かった。こんなセンシティブな話、人前でできるものじゃない。だから絶対の安全が保障されてる男性トイレに来たって訳だ。

 

「何だその表情は。お前、まさか興味無いのか?」

「ああ、無いな」

 

 別に興味無い。海で水着を着るなんて普通のことだ。そこに男も女も関係無い。

 

「でも、これでも無いって言えるか?」

「何が言いたい?」

「田中の水着姿、見たくないか?」

「……はぁ!?」

 

 そんな訳ない。俺が田中さんの水着姿を見たいとかありえない。何をどうしたらそんな理由に行き着くのか全く理解できない。言いがかりも甚だしい。

 

「何言ってんだお前! 俺がそんなふざけたこと考える訳ないだろ!」

「バッ、声抑えろ。バレたらどうすんだ」

「っ!」

 

 その言葉で我に返った。そうだ、ここで俺が声を上げたら誰かに聞かれる。何かの間違いで田中さんに聞かれでもしたら最悪だ。

 

「……悪い。ムキになった」

「珍しいな、お前がそんな風にキレるなんて」

「俺も驚いてる」

 

 今思えば、別に怒ることでもなかった。怒ったとしても冷静でいられたはずだ。なのに、抑えられなかった。田中さんが話題に上がった瞬間気が動転した。

 

「でも、そうやってキレるってこたぁ思うところがあるってことだよな」

「そんなものは無い。田中さんの水着姿が見たいとか、そういう邪な気持ちは一切無い」

 

 確かに田中さんは綺麗だ。モデルに匹敵するレベルのスタイルの良さだ。似合うか似合わないで言ったら絶対に似合う。でも、だからと言って見たい理由にはならない。絶対に、見たいとは思わない。

 

「……鏡見てみろ」

 

 どことなく呆れたように呟く本田。後ろを向いていて顔は見えなかったから明確な意図は分からない。でも、明らかに含みのある言い方だ。

 そう言われると気になってしまう。だから、言われるがままにお手洗いにある鏡を見ることにした。

 

「……マジか」

 

 耳が赤かった。それはもう真っ赤だった。マグマみたいに赤かった。

 ……うわぁ、俺って田中さんに対してそういうこと思ってるのか。最低だな。死んだ方が良いよなこれ。責任取って腹を切るべきかもしれない。

 

「何だかんだ言ってお前は期待してんだよ。このムッツリスケベ」

「止めろ」

 

 その精神攻撃は効く。追い打ちをかけるな。

 

「ていうか、お前だってバレたらただじゃ済まないんだぞ。もう止めろよ」

「俺はダメでもお前は大丈夫だろ。こんなんで嫌われたりしねーよ」

「そんな訳あるか。ダメなものはダメだろ」

「んなこたねーと思うけどな……」

 

 本田はため息をつく。いや、そんなことないっておかしいだろ。裏でそんなこと思われてたら絶対嫌でしょ。俺だったら嫌だよ。田中さんにそんなこと思って欲しくないよ。

 

「ま、とりあえず用は済んだし戻ろうぜ。これ以上2人を待たせる訳にもいかねーしな」

「……ああ、そうだな」

 

 俺らの本来の目的は修学旅行の準備だ。こんなところで雑談をすることじゃない。正直まだ納得いかないけど、時間を無駄にしてる暇は無い。

 不服に思いながら手を洗ってトイレを出る。道を曲がった先に────。

 

「え」

「遅かったねー」

「何で? どうして田中さんがここに?」

「トイレに行こうと思ったら漣の声が聞こえたから聞いてた」

「……どこから聞いてた?」

「『何言ってんだお前!』あたりから」

 

 本当にバレてどうすんだ! ていうか殆ど全部聞かれてるじゃん! てことは……!

 

「漣でもそーいうこと思うんだぁ」

「……」

 

 恥ずかしさのあまり何も言えない俺に対して、田中さんは屈託の無い笑顔。やっぱりこうなるのか……! まあからかい得だもんな、こうしない理由が無い。多分しばらくこのネタでイジられるのは確定だ。何かもう色んな意味で死にたい。

 何はともあれ、まずは謝ろう。愚かにも田中さんの水着姿が見たいと思ったのは事実なんだから。どんな判決が下されても覚悟はできてる。

 

「ごめん。俺のことは殺してくれて構わない」

「え……」

「それで納得できないなら腹を切る。何なら首でもいい」

「や、そんなことする訳ないでしょ……」

「でも、俺は田中さんに酷いことをしたんだ。ケジメはつけなきゃいけない」

 

 これで無罪放免はありえない。報いを受けて当然だ。

 

「うーん……そこまで言うなら何をするかは考えとく」

「ありがとう! これで何も無いんじゃ気分悪いからさ、そう言ってくれて助かるよ」

「でも今はやることあるし、それが終わってからってことで」

「分かった」

 

 余命宣告なんて粋なことをするなぁ。相手に恐怖を与える手段としてこれ以上のものは無い。田中さんのことだから結構キツい罰だろうし。それ相応の覚悟の準備はしておこう。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「ここに一緒に入るってことでー」

「……ん?」

 

 必要なものを買い揃えて本田ともう1人の女子と別れた後。田中さんに連れてこられたのは────水着屋。それも、女性用専門の。何これ拷問?

 

「えっと、ホントに、入るの……?」

「じゃなきゃ意味無いんでー」

 

 こんなの明らかに男が入っていい場所じゃない。想像以上にキツいの来たなこれ……。

 田中さんをチラッと見ると、嬉しそうににんまりしてる。あ、目が合った。

 

「ふふー」

 

 ……ヤバ、めっちゃ可愛い。こんなの直視できない。恥ずかしすぎる。心臓がバカみたいにバクバクしてきた。今までこんな可愛い子と普通に接してきた俺って何なの? 頭おかしいんじゃないか? 

 

「今、目ぇ合ったよねー?」

「……合ってない!」

 

 でも、これじゃあ罪滅ぼしにならない。ここで恥ずかしがるなんて1番やっちゃいけないことだろ。田中さんの思うつぼだ。一旦冷静になれ、深呼吸だ。明鏡止水の境地に至る意識をしろ。

 

「……行こう」

 

 深呼吸の甲斐あってか少しは落ち着いた。ここで立ち往生は良くない。とっくに覚悟は決めたんだ、いい加減店内に入ろう。

 

「うわ……!」

 

 改めて見るとマジで水着だらけだ。マネキンを見ることすら躊躇われる。間違いなく今ほど目のやり場に困ったことは無い。八方塞がりだ。

 

「これとか良さそうじゃなーい?」

 

 そう言って見せてきたのは緑色のビキニ。予想よりはいくらか控えめだ。いや、でも真ん中、紐……!

 いや、これはズルいでしょ。刺激が強すぎるって。田中さんらしいチョイスだけど流石にヤバいって。これ本当に修学旅行で着るの?

 

「因みにこれはフロントレースアップビキニってやつー」

「へ、へぇ……」

「似合うと思うー?」

「え、あ、あぁ……」

 

 何かもうよく分からない声が出始めた。最っ高に気持ち悪い。最早まともに喋れないくらい脳がオーバーヒートしてる。色々な情報が押し寄せて来て爆発しそう。でも、これだけはハッキリ言いたい。

 

「田中さんが自信を持って選んだなら絶対に似合うよ」

「……!」

 

 瞬間、田中さんは顔を伏せた。同時に身体がプルプルと震えていた。顔が見えないから何を考えてるか分からない。でも、こういう反応ってあんまり良くないんじゃないか? もしかして、やらかした?

 

「……スケベ」

 

 ────スケベ。

 

「……うん、やっぱり腹を切って死ぬべきだな。そうだ。そうしよう。それが良い」

「漣?」

「ちょっと包丁買って来る。ケジメをつけるなら切腹が1番だよ」

「何言ってんのー?」

 

 終わりだ、もう何もかも。俺は友達に対して下心丸出しのクズだ。愚かにも友達の水着姿を見て興奮したクズだ。最低最悪の国だ。こんなヤツいちゃいけないんだ。

 

「……こんなんで嫌いにならないから安心して」

 

 予想だにしない言葉に目を見開いた。

 

「漣なら……別に平気だから」

 

 言葉通りならその言葉はとても嬉しい。こんなふざけたことを考えてる自分でも信頼してくれてるってことだから。

 

「っ……」

 

 でも、裏にある感情のことを考えると素直に受け取れない。

 温泉旅行の後から田中さんの行動が少しおかしくなった。イタズラが過激になって、1人の女の子として強く意識させられるようになった。何でいきなりこんな行動に出たのかは分からない。でも、もしかしたらそういう気持ちがあるのかもしれない。

 同じタイミングで俺もおかしくなった。嫌われたくないって気持ちが強くなった。緊張して田中さんの顔を見るのが難しくなった。会話をする時もよそよそしくなった。今までも無かった訳じゃないけど、最近は露骨に表れる。認めたくないけど、これはつまりそういうことなんだろう。

 ────俺と田中さんは互いを意識してる。じゃなきゃ行動に変化なんて起きない。できればただの勘違いであって欲しい。だけど、そうだと言い切れるほど浅い関係じゃない。

 何でこんなことに気づいたんだ。気づかない方が幸せだったろうに。でも、そうなってしまった以上もう踏み込んじゃいけない。

 今よりも深く関わったらまたあの時のようになる。自分を大切に想ってくれる人の心を2度も傷つけたくない。しかも、今回の相手は田中さんだ。あの時と違って疎ましい人なんかじゃない。だから、絶対に繰り返しちゃいけない。

 

「……ありがとう」

 

 そうしないためにできることは────想いを隠して、温泉旅行以前のように友達として接すること。隠して、隠して、隠して、そういう関係にはなれないと田中さんに伝える。

 俺は過ぎた幸せを望んじゃいけない。『人を助けること』と『大切な人を想うこと』の両立は不可能だ。人を助けるためなら俺を大切に想ってくれる人すら見捨てられる破綻者に許されることじゃない。

 今ならまだ間に合う。関係がハッキリしてない状態ならやりようはあるはずだ。それをハッキリさせる時が来るとしたら、間違いなく修学旅行。その時に、必ず何とかしてみせる────。




 ここからシリアス多めで主人公曇らせタイムに入ります。この主人公は変に真面目で頑固だし何より三峰の血族なので非常に面倒くさいです。わりと長いと思います。なよなよ感が増すので見ていて気持ち良いものじゃないかもしれないですが、できる限り面白く書けるように頑張ります。
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