【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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第3話 悪いことを悪いとはっきり言える勇気は大事

 転校してから最初の土曜日。休日ということで自分好みの場所を開拓するという名目で都心部までやって来た。

 いや、ホントに凄いな東京。色んな娯楽施設がそこら中にある。あと一律二百円くらいって山手線めっちゃ便利。五分に一回以上は必ず来るし。ここに引っ越す前の最寄り駅は一、二時間に一回とかだったのに。わざわざ金と時間を費やして友達と遊びに行ってたな。何かと不自由な田舎で、不自由なりにあれこれ工夫も凝らしてふざけてたっけ。あれはあれで良い思い出だったな。アイツら、今頃何してるんだろ。

 

「もうこんな時間か……」

 

 あれこれやりたいことをやっていたら夜になった。友達にお土産を買ってボーリングやってカラオケで歌ってゲーセンであれこれ景品取って……と、想像以上に散財したし荷物がかさばってしまった。両手にデカい紙袋を持っている状態だ。重くて肩が痛い。

 東京は何かをやるのに困らない。それは楽しくもあるが恐ろしくもある。行き当たりばったりだと物は増えるし、金の消費スピードが段違いに早くなる。これは程々にしておく必要がある。欲しいゲームや生活用品を買える金は残しておかないといけない。退屈しないってことは良い面ばかりじゃないんだな。東京に行かなかったら一生分からなかったかもしれない。良いこと知ったわ。

 時間も時間なので帰ろうと駅に向かう。休日の都会は凄いもので、人で溢れている。朝の通勤通学ラッシュよりは少ないものの、それでも殺到されるには十分の多さだった。人混みに比例して雑音も激しい。しかし、ただ一つ。唯一それだけはハッキリと、明確に聞こえた。

 

「そこのお嬢ちゃん、今から俺と遊ばない?」

 

 ……ナンパか。本当にこういうのってあるんだな。都市伝説かと思ってた。都会は楽しいけど、こういった危ないことも相応にあるってことか。やっぱり夜遅くまでいるのは良くないな。

 

「そういうの、止めてくれませんー?」

 

 目を見開いた。この声は。無関心で、気怠そうで、ドライな反応は。嫌な予感がした。冷や汗が出てきた。まさかと思ってその方向に視線を向ける。ナンパされているのは予感通り田中さんだった。全くもって最悪の予感が的中した。嫌な予感ばっかり当たるのは何なんだ。

 ていうか田中さん、何でこんな時間にいるんだ? 危ない目に遭う可能性は分かってる筈なのに。いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。早く助けないと! このままじゃ……!

 

「大丈夫だって、金は全部俺が出すし、危ないことなんて何もしないから」

「めんどーなので結構ですー。私、もう行きますねー」

「いやいや! そんなこと言わないでよつれないなぁ」

 

 田中さんは逃げようとするものの、腕を掴まれる。あの男、やりやがった。あろうことか、嫌がってる女の子に手を出した。

 

「アイツ……!」

 

 それを見て、一瞬にして怒りが湧き上がる。抑えることなんてできなかった。最早、田中さんを助ける以外のことなんてどうでもよかった。細かいことを考えられるほど冷静でいられない。袋を道に置いて、感情のままに走り出す。

 

「あの、すいません」

「何だぁ? お前……」

 

 勢いのまま声を掛ける。邪魔されたのが気に食わなかったからか、ナンパ男は俺を睨む。典型的な悪人面の中年男だった。でも、体格はそれなりにしっかりしている。まともに喧嘩したら勝ち目は薄そうだ。でも、だからと言ってここで躊躇っていたら話にならない。自分のことなんてどうでもいい。田中さんを助けることの方が重要だ。

 

「この子、俺の……彼女なんです。なので、そういうの止めてもらえません?」

「……そうなんですー。私、彼氏を待ってたんですよー」

「っ……! ほら、彼女もそう言ってます。早くどっか行って下さい」

「お前みたいなチビが、この子の彼氏……?」

 

 チビで悪かったな。確かに高二男子の平均身長より遥かに低いよ。普段ならこんな下らないこと言われたってスルーできるのに、こういう状況になるとやたらムカつくな。

 

「何でお前みたいなのに彼女がいて俺にはいねーんだよド畜生がッ!」

「は……?」

 

 何かしらの地雷を踏んでしまったのか、ナンパ男はいきなり子供のように癇癪を起こす。何だコイツ。怒る要素がどこにあるんだよ。それに驚いて、自身に向けられた拳に気づくのが遅れた。何とか避けようと試みるも、間に合わず頬にぶつけられた。その勢いで数歩仰け反った。

 

「痛って……」

 

 まさか、殴られるとは流石に想定外だった。結構な威力だったようで、口内が切れた。その拍子に、血が垂れてきた。コイツ、こんなことで人を殴るのか。イカれてる……! もっと他に努力するべきことがあるんじゃないのか?

 

「はぁ……」

 

 悲しいけど、やっぱり世の中にはこういう奴もいるんだよな。願わくば人間みんなが善人で優しければいいと思ってる。しかし、残念ながら現実は全くそうじゃない。目の前の男みたいに話の通じない奴もいる。手荒なことは心底したくないけれど、相手が相手だ。田中さんをこれ以上危ない目に遭わせたくないし、これ以上コイツの犠牲者を増やす訳にもいかない。なら、仕方ない。これも、世の中の人を助けるためだと思えば────!

 

「本ッ当にすいません!」

「は?」

 

 一応、これからの行いに申し訳なさは感じるので予め謝っておく。対して、いきなり予測不可能の言葉に不意を打たれた相手。その油断を見逃さず、ナンパ男の急所目掛けて蹴りを入れる。この距離なら対応は難しい筈だ。怒りで我を忘れてるし、言葉によってできた隙があるから尚更。

 

「アァッ、ウゥッ……!」

 

 案の定ナンパ男は蹴りを避けられず、直撃。股を押さえてうずくまる。何と言うか……本当にごめんなさい。やっぱり痛いですよね。こんな卑怯な手段ですいません。最低限の手数で最大限のダメージを与えるためにはこれが一番効率が良いので。自分でやっておいてこんなこと思うのはどうかと思うけど。

 

「田中さん! 今のうちに逃げよう!」

 

 とりあえず、相手が動けない今がチャンス。無理やり田中さんの手を引っ張って走り出す。こんなヤバい奴がいる場所から早く逃げるべきだと必死に駆け抜けた。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「ここまで来れば大丈夫か……」

 

 駅前まで全速力で走ってきた。トレーニングをしてるとはいえ、中三からスポーツはしていないので体への負担が大きくなっている。もっと鍛えるべきか。

 

「ごめん田中さん、無理に連れて来ちゃって。それに、怪我は無い?」

 

 田中さんを強引に走らせたことを謝り、怪我の有無を確認する。これが一番重要。何かあったら即アウトだ。

 

「まあ、特にそういうのは無いですー」

「良かった……」 

 

 大事には至らなかったようで何より。最悪の事態は避けられたようで安心した。何だか疲れが一気に押し寄せてきた。体が重い。

 

「あと、適当に俺の彼女とか言ってごめん。あれくらいしかナンパを退ける方法が思いつかなくて……」

「別にー、それくらい何ともないですー」

「うん、合わせてくれてありがと。あれで動揺させるのに成功したから助かったよ。まあ、殴られたのは流石に予想外だったけど」

 

 本当に、特に仲良くもないのに彼女とか言ってごめん。失礼過ぎるとは思った。でも気にしていないようで良かった。寧ろ、合わせてくれたんだから礼を言わなくちゃいけない。

 

「でも、別にあれくらい自分一人で何とかできましたケドー」

「何とかできたって、そんなこと……!」

 

 確かに田中さんの対応はベストだった。完璧な拒絶だったと思う。でも、アレが相手じゃ分が悪いでしょ。何でそんなこと言うんだよ。もうちょっと自分の心配してくれよ。

 

「今回は相手が一人だったから何とかなったよ。でも、もし相手が複数人だったり、今回みたいに俺や俺みたいな人が助けに来なかったらどうなるか分からないだろ?」

「口調……」

「あ、ごめん。ちょっとムキになっちゃった、あはは……」

 

 別に口調は作ってる訳じゃないんだけど。でも、冷静さを失くすと口が悪くなるのはあまり良くないよな。今の今まで気づかなかった。

 

「いや、それよりもだ。田中さん、もうこんな夜遅くにふらふらしちゃダメだ。あんな危ない目に遭ったんだから」

「別に、いつも夜遅くまで外にいますケドー」

「いつも? いつもこうしてるの? こんな危ないこと絶対に止めた方がいいって」

 

 こんな時間まで一人でいるのって相当の勇気があるのか向こう見ずなのか。田中さんに限ってそういうのは無いと思うけど、どちらにしても危険過ぎる。だから、こういうことは見過ごせない。

 

「……ねぇ、どうして私を助けたのー? 殴られて、血まで出して……」

「どうしてって、危険な目に遭ってる子がいたら普通は助けるに決まってるよ。それが同じクラスで、隣の子だったら尚更」

「……っ!」

「俺だって少しは田中さんのこと知ってるし、見て見ぬ振りなんてできないよ。したら一生死ぬほど後悔するからさ。別に殴られるだとか、血が出るだとか、そういうのは大した問題じゃないよ」

 

 誰かのためになれるなら自分が怪我しようが何だろうがどうだっていい。寧ろ、自分が犠牲になることで誰かが助かるなら喜んでそうする。俺にとっては、これが一番正しい。

 

「……三峰って変わってるねー」

「うん、よく言われるよ。あ、できれば漣って呼んでくれると嬉しいかな。苗字はあんまり呼び慣れてなくてさ」

 

 また変わってるって言われた。まあ、いつものことだからそれは流す。それよりも苗字呼びの方が気になった。

 兄さんは基本的に苗字で呼ばれてるし、姉さんに至っては一人称が三峰だから余計にそう呼ばれてる。その影響で俺は下の名前で呼ばれる方が多かった。教師からならまだしも、同級生からそう呼ばれるのはむず痒い。距離感開けられてるようで何か嫌だ。

 

「……って、今はそんなこと気にしてる場合じゃないな。困ってたり、危険な目に遭ってる人がいたら普通は放っておけないよ。だから、こんな夜遅くに一人の女の子がいたら心配するのも普通だよ」

「でもぉ、漣だって一人でしょー?」

「俺は問題無いよ、男だし。でも、田中さんは女の子なんだ、それも高校生の。ああいう輩の標的にされやすいから絶対にダメ」

 

 頼むから田中さんは危険なことをしていると自覚して欲しい。綺麗な顔をしてる上に目立ちやすい紫の髪、更により個性的に見えるパンキッシュな格好。声をかけられる条件としては十分過ぎる。勿論、それ自体は全く悪いことじゃない。自分のしたい格好をすることは良いことだ。ただ、悪い奴というのは得てして目立つ人を狙いに定めやすい。

 

「……友達でもないただの知り合いにここまでしつこく叱る人、フツーとは言わないんだケド。本当に変わってるねー」

「そんなに言われるほど変わってるかな。悪いことを悪いって言うのは当然だと思ってるけど」

 

 だって悪いことはしない方が絶対にいいから。それ以上でもそれ以下でもない。純粋にそう思うだけで、複雑なものは何も無い、単純明快な考えだ。

 

「……まあ、今日はそんな漣に免じて帰ってあげようかなー。それじゃあ、さよーならぁ」

 

 田中さんはフッと笑って、駅内へ向かっていった。言葉通りにこのまま家に帰ってくれればいいんだけれど。嘘は言ってないと信じよう。田中さんは根は真面目で良い人だから。

 それはそれとして、田中さんの笑った顔、凄く綺麗だったな。普段から笑ってればいいのに。その方が可愛いし。でも、いつもの感じもクールでカッコいいよな。これも捨てがたい。

 

「────あ」

 

 ヤバい。持ってた袋、ナンパを止める時に置いていったっけ。あれゲーセンの景品とか友達のお土産とか色々入ってるのに。その事実を思い出すと、血の気が引いてきた。最悪だこれ。このまま盗まれてたら全部無駄になる。それだけは何が何でも避けたい。

 その後、急いで近くの交番に行ったら俺の袋はちゃんと保護されていた。




 ここまでチュートリアル。主人公とシャニPの差別化が難しかったです。個性の塊みたいなシャニPに負けないような主人公を書けていると信じたいです。普通の主人公だとシャニマスのキャラの強すぎる個性に負けてしまいそうなので。差別化、できてるのか……?
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