【完結】隣の席の田中さん   作:儚夢想

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第4話 同じものが好きだと距離は一気に縮まる

 ────三峰漣。今年の四月からこの学校にやって来た転校生。身長は160㎝と少しといったところだろうか。高二男子の平均身長よりも低い小柄な少年。顔は童顔で子供っぽい。また、どちらかと言えば整っていて良い方だが、どこか個性に欠ける感じは否めない。見た目は総じて中の上と言ったところか。

 しかし、問題は中身の方だ。彼は困っている人間がいれば誰であろうと迷わず助けてしまうどうしようもないお人好しだ。それは自分のような“悪い子”だって例外ではない。見て見ぬ振りなどせず、対等に向き合ってくれる。なのに、自分が困っている時は他人に迷惑を掛けることを恐れて中々言いたいことを言い出せない面がある。大事な局面では恐ろしいくらい思い切りがいい癖に、普段は控えめで呑気。時々彼がよく分からなくなる。

 そして、何よりも彼は品行方正である。誰にでも優しくて、悪いことを悪いときちんと叱れる“良い子”だ。つくづく自分とは真逆の人間だと思う。

 

「……ふふー」

 

 こんなに面白い人間が近くにいるとは、世の中もまだ捨てたものではない────。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「ねえー、私のハンバーグと漣の唐揚げ交換しようよー」

「うん、いいよ」

「ありがとー」

 

 昼休み。昼食を食べている途中。一緒にいる田中さんから食べ物の交換という提案を受けた。特に断る理由も無いので快諾する。

 見た目は何の変哲もないただのミニハンバーグ。普通に美味しそうに見える。特に仕掛けは無さそうだ。

 

「ウッ、ゲホッ……! 辛……!」

 

 口に入れた途端、熱と痛みが広がる。これ、めっちゃ辛いソース中に入れてる。や、やられた。秘密は中身にあったのか……!

 

「ふふー、引っ掛かったねー。私の作った激辛ハンバーグ、どうー?」

「どうって言われても、ただひたすらに辛いとしか。これ、タバスコ入れた……?」

「正解ー」

 

 どうりでこんなに辛い訳か……! 別に嫌いじゃなくて苦手なだけだから我慢はできる。あと、残すのは勿体ない。だからちゃんと食べはする。でも。

 

「辛いの苦手だから止めてくれないかな。これホントにキツいんだってば。ホントに寿命減るって……」

「自分から弱点を晒す漣が悪いと思いまーす」

「クッ……!」

 

 ナンパ事件から一ヶ月後。あの一件で田中さんは心を開いてくれたらしく、今では一緒に弁当を食べるような仲だ。まあ、少なくとも友達と呼べる関係にはなったと思う。砕けた口調で喋れるようになったし。

 ただ、田中さんはかなりのイタズラ好きだった。こういうイタズラは日常茶飯事で、その度に俺は文句を言ったり叱ったりする。しかし、そうするとどういう訳か田中さんは喜ぶ。普通は反省とかする筈なのに、寧ろイタズラに拍車がかかる。何故なのか。こういう時、田中さんの考えてることが分からなくなる。

 程々にしてくれ、とは思いながらも、これも田中さんなりに俺を信頼してやっているんだろうと考えると拒むことはできない。呆れたり無視したりはできないから、真っ向から向き合う。幸い田中さんの機嫌も良いみたいだし。悪くない筈。

 

「あ、そう言えば田中さんって中間テストの勉強してる? 週明けからだけど」

「そんなめんどーなことする訳ないでしょー」

 

 中間テストが近いことを思い出して、田中さんに問う。

 うん、何となくそんな気はした。田中さんは面倒な事をとことん嫌う。勉強なんて面倒の象徴みたいなもの、田中さんが積極的にやる筈がない。

 

「でも、今のうちにやっておかなきゃ。勉強サボって赤点、なんてのは嫌でしょ?」

「別に勉強なんかしなくても私、それなりにできるんでー」

「だとしても、だよ。提出物も幾つかあるんだし、やっておくべきだって」

「えー……」

 

 随分と頑なだなぁ、田中さん。まあ、勉強って確かに何のためにやってるか分からなくなる時があるな。俺は日頃から勉強してはいるけど、正直役に立つ場面は殆ど無い。成績が良くなるくらいか。重要なことではあるけど、あまり実感はできないな。まあ、いつかは役に立つし損は無いかもしれないとは思ってる。つまるところ、勉強はやらなくちゃいけないものだってことだ。

 

「田中さん、明日土曜日だけど空いてる?」

「うん、空いてるケド」

「一緒に勉強しよう」

 

 

 

   ※※※

 

 

 

 そんな訳で、土曜日の午後。ファミレスにて。

 

「ホントに来てくれて良かったよ、正直ドタキャンされるかと思ってたからさ」

「別にイヤとは言ってないのでー」

 

 でもあからさまに不機嫌だよね、田中さん。やる気無いの隠す気無いなこれ。どうすればやる気出してくれるかな。

 

「……ある程度終わったら何でも手伝ってあげるからさ、だから頑張ろう」

「ホントにー?」

「うん、俺も勉強だけして帰るのはつまらないって思うからさ。無理やり連れ出した詫びも兼ねて」

「その言葉、絶対に忘れないでねー」

「期待に応えられるように努力はするよ」

 

 イタズラっぽく笑う田中さんを見て、ちょっと不穏な気配を察知する。もう何かイタズラを企んでるのか? 一体、俺に何をさせるつもりなんだ? 何が来るか全く予想ができないぞ……! まあ、どんな形であれやる気を出してくれたみたいだから結果オーライ。勉強を始めることにする。

 

「じゃあ、早速やろう」

 

 バッグから勉強道具を取り出す。俺は既に提出する範囲の箇所は終わらせてあるので今までの復習だ。対して、田中さんのワークは。

 

「殆ど白紙だ……!」

「別に提出しなくても単位落とす訳じゃないし、やる必要無くないー?」

「だからってやらないのはマズいでしょ。ここまで来たからにはやらないで逃げる、とかは無しだよ田中さん」

「分かってまーす」

 

 田中さんはあーだこーだ言いつつ勉強を始める。このままちゃんとやってくれればいいんだけど。

 

 

 

   ※※※

 

 

 

「いや、これはキツい……!」

 

 ファミレスでの勉強を終えて数時間後。約束通り、俺は田中さんを手伝いをすることになった。おかげで両手が田中さんの買ったものでいっぱいだ。かなり重い。

 田中さんは本当に凄い能力の持ち主で、本人曰く授業で一度聞いただけのことを忘れずに記憶できるらしい。なので滞りなくワークの提出範囲を全て終わらせた。教えることは何も無かった。勉強しなくてもそれなりどころか殆どできてる。これだけ頭が良ければもっと上を目指せるのになぁ。勿体ない。

 

「何でも手伝ってあげるって言ったのは漣でしょー?」

「いや、流石に躊躇い無く乗っかってくるとは思わなかったよ……」

 

 何でも手伝うと言ったのは事実だ。でも、思いっきり言葉通りに受け取るとは思わなかった。ここまで来ると清々しい。

 

「でも、ここが最後だから安心していーよー」

 

 そう言って田中さんが指を差したのはペットショップだった。田中さんってペットを飼ってるのか? 想像もしなかったな。ここに用があるってことはドッグフードのようなペット用の栄養食あたりかな。

 考えながら歩いていると、目的の場所についたのか、田中さんは足を止める。周囲を見ると、トカゲやヤモリがいる爬虫類コーナー。まさかの爬虫類。完全に予想外だった。

 

「田中さん、爬虫類飼ってるの?」

「うん、ヒョウモントカゲモドキとカメレオン」

「え、マジ? 凄いな……」

 

 ヒョウモントカゲモドキは飼いやすくて可愛いという特徴で人気があるから分かる。でも、カメレオンは驚いた。飼うのは相当難しい筈では。適した環境作りとか大変でしょアレ。やっぱり田中さんって真面目だよね。言うと怒りそうだから言わないけどさ。

 

「それにしても懐かしいなぁ。小学生の頃を思い出すよ」

「漣も爬虫類好きなの?」

「うん、カッコいいからね。あ、最近は可愛いって思うようになったかな」

 

 小さい頃は『恐竜とかドラゴンみたいでカッケー!』とか『実質ポケモンじゃん』みたい感じめっちゃ好きだったな。今でもそう思ってるんだけど。ただ最近はつぶらな瞳とか何とも言えない不思議な感触がめっちゃ良いって思うんだよね。実際に体験すると軽い中毒になる。一人暮らしするようになったらもう一度飼ってみようかな。

 

「え、じゃあこれとかどう思うー?」

 

 そう言って田中さんはスマホを開いて写真を見せてきた。田中さんが飼っているであろう二匹を手に乗せた写真だ。爬虫類は基本的に人間には懐かず、触れ合いには向かない。しかし、この二匹が嫌がっている様子を見せていない。田中さんはこの二匹とても大切にしていることが分かる。

 田中さんは今まで見たこともないような食いつきで話しかけてくる。イタズラをしてる時とはまた違うテンションの高さだ。それが可愛くて、つい頬が緩む。

 

「うん、凄く良いと思うよ。ふふっ……」

「ちょっとー、笑う要素無いでしょー」

「いや、凄く良いと思ったから笑ったんだ。深い意味は無いよ」 

「何その含みのある言い方……」

 

 ほんの少し垣間見た田中さんの一面。普段のクールでミステリアスな面とは違う可愛らしさ。やっぱり田中さんも女の子なんだな、と改めて認識させられた。

 その後、仕返しのイタズラを受けたのは言うまでもない。




 爬虫類の話してる時のウッキウキなまみみ好き
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