唯我独尊じゃじゃ馬娘   作:コンスタンチノープル

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第10球

「私がスタメンじゃなかったのはね・・・」

 

ゴクリと息をのむ柳大川越の面々。

 

「だってまだ練習試合じゃない。ただの調整、私の出る幕じゃなかったからよ」

 

「なによ、拍子抜けしちゃうわね」

 

「とにかく、怪我ではなかったんだな」

 

「さすが、大物スね。私だったら試合に出られるだけでワクワクするスよ」

 

他の面々もホッとした面持ち。次いで芳乃が話す。

 

「春李ちゃんの代わりにレフトで出た子。私の姉なんですけど、本格的に野球をやるのは高校に上がってからが初めてなんで少しでも経験を積ませたかったんです」

 

芳乃の息吹は素人という言葉に大野と浅井が関心を見せる。

 

「ほう、彼女は素人だったのか。それにしては中々動きが様になっていたぞ」

 

「へぇ、野球経験が浅いくせにこの私の球に喰らいつくなんて、良いセンスしてるじゃない」

 

「大野さんが他の選手を褒めるなんて珍しいスよ。あの子に言っておいてほしいス」

 

「その言い方だとまるで私が自分のプレーに自惚れてるみたいじゃない」

 

そう言いながら大野は大島の両頬を引っ張り、浅井がなだめる。

 

ひ、ひはひフ~(い、いたいス~)

 

「まあまあ」

 

「それに私は秘密兵器(・・・・)だったからあの場面までどっしり構えてたのよ」

 

「い、痛かったス。それだから春李ちゃんあんな格好してたスね」

 

「そ、楽しんでくれたかしら?」

 

「楽しむも何も心臓が止まるかと思ったよ」

 

「私は甚だ遺憾よ」

 

「およよ?どして?」

 

「だって私だって天下の鱒川春李と対戦したかったわ!なんでこう朝倉ばっかり」

 

「いいじゃないの。あゆみんエースなんでしょ?公式戦で対戦する時を楽しみにしてるわ。それに・・・」

 

「?」

 

春李が浅井の方へ向き直る。

 

「かよちゃんとのコンビでかかってくるってなったら私もちょっと危ういかなぁ」

 

は、春李ちゃんが!

 

芳乃は驚くが声や表情には出さないようつとめた。

 

「わ、私か!?」

 

「他に誰がいるのよ?」

 

大野に続いて浅井もあだ名をつけて呼んだことで周りを取り囲む面々からざわめきが起こる。

 

「2打席目・・・」

 

「うん?」

 

「2打席目の最後の球。あの球が来ると頭で分かっていたのに対応できなかった。あれが君ならきっと打っていただろう。それに最終回、君には好き勝手やられてしまったし、はっきり言って私なんて大した選手じゃないと思うぞ」

 

「えーっとね、」

 

バツの悪そうな顔をする春李に芳乃が聞く。

 

「どうしたの春李ちゃん?」

 

「ごめん、私寝てたから2打席目とか見てないんだけど」

 

「あっ」

 

一同同時に「あっ」が揃った。

 

「だから立ち姿で分かるって言ったでしょ?現にあゆみんのピッチング1球も見てないし」

 

「そこは見てなさいよ」

 

「まあまあ」

 

今度は大島が大野を諫める。

 

「キャッチャーだから立ち姿ってよりは座り姿って言った方がいいかしら。あとサインの出し方とかも。あゆみんに相当鍛えられたんじゃないかしら?」

 

「ああ、今の私があるのは彩優美のおかげだ」

 

「花代子・・・」

 

「大野さん赤くなってるス~」

 

「赤くなんてなってない~」

 

大野は照れ隠しに再び大島の頬を引っ張った。

 

ひはひフ~(いたいス~)あふぁいふぁん(あさいさん)たふへへふらはい~(たすけてください~)

 

「ふふっ、今のは大島が悪いぞ」

 

浅井がクスりと笑った。

 

「あ、かよちゃんようやく笑った。やっぱり思った通りかよちゃんは笑った顔が似合ってるわ」

 

「な、何を言うんだ!?」

 

「ふふ、照れてる」

 

「春李ちゃんってやっぱり凄い」

 

芳乃は他校の上級生相手に対等に話す春李に凄みを感じ取っていた。

 

「なにがかは聞かないでおいてあげるわ、それと・・・」

 

春李が再び大野たちの方を向きながら話す。

 

「かよちゃん、『あの球』が来るの分かってて対応できなかったって言ったけどあのバッテリーは特別よ。再来年には今の2人を超えるバッテリーになるはずよ」

 

「あら、大きく出たわね。でも確かにあの子の球は凄かったわ。これは認めてあげる。でも、キャッチャーの子が花代子みたいになるのは想像できないわ」

 

「いや現時点でもあのキャッチングやスローイングの技術は流石と言わざるおえない。大きな怪我が無ければ素晴らしいキャッチャーになると思うよ」

 

「花代子、私が言いたいのはね。花代子みたいな4番打って違和感のない打てるキャッチャーになれるか?ってことよ。あの子3番だったけど見るからに打ちまくるタイプには見えなかったじゃない」

 

「確かに山崎は美南の時、中二の頃はレギュラー張って県代表の正捕手にもなってたスけど3年になると打てるキャッチャーにレギュラー取られてたからお世辞にも浅井さんみたいになるのは想像つかないス」

 

「でも、私は珠姫ちゃんを使うべきだと思ってました」

 

「芳乃・・・」

 

「それは同感ス、キャッチャーが山崎から変わって美南はダメになったス」

 

「へぇ、私だけじゃなくてみんなもヨミばっかりじゃなくて珠姫のことも見てるのね」

 

「だって春李ちゃんあんなプレーしてその凄さが分からないとか節穴・・・そうか春李ちゃんは試合中殆ど寝てたスね」

 

「バッテリーだけじゃないわ、他にも気になるのが何人か、特にあの中村なんて何者よ?」

 

「希も確かに良い選手よ、良い選手だけど・・・」

 

「だけど?」

 

「私の方が凄いじゃない」

 

「それは、また練習試合か公式戦で当たった時にスタメンで出た時に見せてくれれば」

 

「まぁ、その時は私が抑えるわよ」

 

「それにしても良いチームね。あゆみんにかよちゃん、ちかちゃんに留々、良い立ち姿の選手が4人もいて」

 

「当たり前のように朝倉のこともあだ名で呼ぶのね・・・」

 

「あの直球()大したものよ。直球()

 

「分かってるさ、帰ったら特訓だ」

 

「あ!帰る前にちょっと待って!」

 

「なによ」

 

「私の事なんだけど、秘密にしておいて欲しいの。ブログとかSNSで書かないで」

 

「どうしたんだ」

 

「もうしばらく、この野球にだけ集中できる環境でいたいのよ」

 

「そういえばいつもの番記者さんたち居ないスね」

 

「ば、番記者!?」

 

大島の一言に柳大川越の面々だけではなく芳乃も驚く。

 

「あいつらにも休みを与えないとね」

 

「は、春李ちゃん番記者って・・・」

 

「芳乃なら知ってたと思ってたんだけど、私クラスになればスポーツ紙や野球雑誌の番記者が何人もいるものよ。そいつらに新越谷に進学したこと隠してんの」

 

「分かったわ、柳大川越野球部主将のこの私が責任をもって箝口令を敷くわ。あんたたち、分かったわね?」

 

「はい!」

 

輪を作って取り囲んでいた柳大川越の選手たちが一斉に返事をする。

 

「あゆみんがキャプテンだったんだ。勝手にかよちゃんだと思ってた」

 

「何か不満でも」

 

「今のやり取り見れば何も」

 

「さぁ、みんな帰るわよ。準備しなさい」

 

「はい!」

 

柳大川越の選手たちの大移動が始まり芳乃と春李がその場に残る。

 

「春李ちゃん」

 

「どした?」

 

「この後、(うち)に来て欲しいんだけど」

 

「あら、今度は近くのハンバーガー屋じゃないのね。わかったわ」

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