「どうして覚えのないもの覚えのないところにあるのかしら?」
芳乃はすこし恥ずかしそうに答えた。
「あのサインね・・・ネットオークションで競り落としたの・・・」
ヨミが興味津々で聞く。
「へぇ、どれくらいしたの?はむ、もぐもぐ」
「えっとね
「す、凄い。さすが春李ちゃん。もぐもぐ」
そこで息吹がいぶかしげに芳乃に尋ねる。
「でも芳乃って、サインは本人から直接貰う主義よね?もきゅもきゅ」
「うん・・・だから部屋に入ってもらいたくなかったっていうのもある。はむっ」
春李は更に気になっていることがあるので芳乃にお願いする。
「でももしかしたらなんだけど。ねぇ芳乃、私のサイン持ってきてもらえない?あむっ」
「えっ?もしかして・・・」
「ええ、もしかしたら私の真筆じゃないかもしれない」
「す、すぐ持ってくる!」
芳乃は当て身を受けたように自分の部屋へ行った。
「春李ちゃんって、そんなにサイン書いてるの?」
「ええ、もちろn・・・」
春李が勿論と言いかけた所で芳乃がサインを手に戻ってきた。
「はぁ、はぁ、持ってきたよ。」
「ありがと、うーん・・・えーっとねぇ・・・これは」
春李が芳乃の持っていたサインをまじまじと鑑定する。
「ごめん、ちょっと分かんない。私が書いたものかもしれないし他人が似せて書いたものかもしれない」
「違う所があるの?はむっもぐもぐ」
「ちょっと細かい所が違うんだけど、私が書く誤差の範囲程度なのよね」
「もきゅもきゅ。どうせなら今書いてもらえばいいじゃない」
「私は良いわよ。てかどうせならさっき言ってくれたら舞と連名で書けたじゃない」
「舞ちゃんのサインはさっきの時にもらってあるよ。あと書いてもらったのはね、大野さんと朝倉さんと大島さんだよ」
「あら、留々も格が上がったわね」
「春李ちゃんの話を聞いたら、是非もらっておきたくなった!」
芳乃のおさげがピコピコと動く。
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「ごちそうさまでした」
五人同時に手を合わせる。
「さて、じゃあ洗い物の前にサイン書いてあげましょうか」
「いいの!?ありがとう」
芳乃はどこからともなく色紙とペンを春李に渡す。
「手品師?」
ヨミと珠姫の声が重なり息吹が答える。
「深く考えたら負けよ」
その間に春李はサラサラとサインを書き上げた。
「はい、私のサインなんだから家宝にしなさい」
「もちろんだよ~サインはみんな家宝だよ」
「しかし、春李のサインってプロのサインみたいね」
「子供のころから練習してたからよ」
珠姫が少し呆れた口調で言う。
「サインの練習って、春李ちゃんらしいといえばらしいね」
「母さんとか、おばさんたちが現役時代に色紙やボールの山にサインしてるの見て、真似して練習しだしたの」
「それは春李ちゃんらしいエピソードだね」
「
「うーん!こんなところで鱒川ファミリーのこぼれ話を聞けるとはっ!」
芳乃のおさげが再びパタパタと動く。
ここでヨミが話を切り出す。
「芳乃ちゃん、私も鱒川ティナ選手からサインもらったことあるけど、芳乃ちゃんは春李ちゃんのおうちの人からもらったサインってどれくらいあるの?」
芳乃が嬉々に答える。
「プロでプレーしてた人からは全員もらったよ、あと今社会人でプレーしている鱒川ヘティ選手と大学でプレーしている鱒川レイラ選手のもあるよ」
「あら、でも部屋には見当たらなかったけど?」
「大切にしまってあるんだよ。日焼けしないようにね」
「ありがとう、それ聞いたらみんな喜ぶと思うわ。オークションに流れてしまうことも多いから」
息吹が少し憤りをみせながら言う。
「それって本当に失礼よね」
「いいのいいの。それにひいお婆ちゃんから代々の教えで、『自分のサインの価値が0円になるまで書いて初めて超一流の選手』だって言われてるから」
ヨミが思った疑問を投げかける。
「サインの価値が0円になるまで?」
その疑問には春李ではなく珠姫が答えた。
「それだけ珍しくないものになるまで書き続けなさいってことだと思うよ」
「その通り、さすがは珠姫。だから私も求められたら断りはしないわ」
「高校生にサインを求めるなんて芳乃ちゃんくらいだと思うよ」
「あら、鱒川家のネームバリューってのがあって、今の内から欲しがってる人、結構多いのよ」
「なるほど」
「あと芳乃」
「なにかな?」
「言ってくれれば私から頼んで大判の色紙に
「そ、それはっ!ぜ、是非欲しい」
「わかったわ、正月に家族親戚で集まるからその時に書いておいてあげる」
「ありがとう~」
「じゃ、洗い物しましょう。みんなも手伝って。あっ、ヨミはいいわ」
「どうして?私もやるよ」
「ピッチャーにとって指は命、何かあったら大変だわ。そこで待ってて」
「ぶー」
そうして夕日が沈んでいった。
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それは初の対外試合翌日のこと
まさか川口家のくだりにここまでかけてしまうとは思わなかった・・・