柳大川越と初の対外試合となった練習試合の翌日のこと。
芳乃、怜、杏夏、春李の四人は家庭科準備室で戦略会議を行っている。入口の窓には『首脳会議中 入室者は野球部入部希望者とする!』と書かれた紙が貼ってある。
最初に議題を切り出したのは芳乃だった。
「6月末の抽選会まで二ヵ月を切っていますが、毎週末の練習試合以外はこれまで同様のスケジュールです」
「ただし昨日の結果を踏まえて・・・5月は打撃練習を少し増やそうと思いますが・・・」
その提案に怜が答える。
「朝倉の投球には希すらショックを受けていたしな・・・みんなも望んでいることだろう」
「主将としてはその提案に賛成である」
芳乃は次に杏夏に質問する。
「ところで先生は、塁審してて何か気付いた点はありましたか?
「そうね・・・守備力の差を感じました」
春李が鋭い視線を向け、芳乃が前のめりに聞く。
「へぇどんな?双方無失策でしたけど」
「私も聞いてみたいわ」
「守備位置も良くてカバーも正確、最初の一歩も早い。良い当たりが
杏夏がそこまで言うと春李は「フッ」と柔和な顔を芳乃へ向け、芳乃は杏夏にお願いした。
「監督!守備練習はお任せしますね」
「まあノックくらいなら・・・」
そこで杏夏ははたと気付く。
この子たち・・・今、私を試しましたね。
「さて!監督が合流して間もないですし、親睦も兼ねてということで、今週末の
「親睦・・・ですか。まあ学校の合宿施設は問題なく借りられるはずですが・・・」
しかし怜の顔は優れない。
「主将・・・微妙な顔ですね」
「ああ・・・去年の合宿を思い出していた。あまりいい思い出じゃないものでな・・・それに」
「どうしたんですか?」
怜は春李に問った。
「春李はいいのか?あまりこういうの好きそうじゃなさそうだが?」
「確かに私は飲食や寝具も一流の物を使っているわ。だから出たくなかったけど・・・」
「春李ちゃんの野球に対する取り組みをもっとみんなに見てもらえば、取り組み方に変化が出ると思ってお願いしました」
「ええ、だからしばらくは誰が寝たとも分からないような煎餅布団で寝てあげる」
「それに、きっと楽しいですよ~。みんなもやりたいと思いますよ」
「わかりました。必要なものがあればなんでも言って下さいね」
「食材は私が鱒川家のルートを使って提供するわ」
「別にそこまでしなくていいんじゃないか?」
「あら?この私の身体に入るものよ、それだけはせめて私のワガママ通させて」
合宿が決まった旨を、他の面々にも伝える。
「合宿!?やったー」
「三泊四日!場所は学校だよ」
「合宿のシメには
杏夏のその言葉に希が反応する。
「藤和って去年の東東京代表やろ?」
「Bチームらしいけどね。大鷲も千葉の16強だし結構強いよ」
ヨミが先頭を切って声を出す。
「やる気出てきたぞ~」
「練習始めるか」
しかし春李が一同を止める。
「その前に、私からも話があるわ」
「どうしたの春李ちゃん?」
「これはさっきやった会議でも言わないで秘密にしたんだけど・・・」
「そういえば、どうして春李はあの場にいたんだ?」
「これを言うためよ、でももっと伸ばしたくなっちゃったの。ヨミと珠姫、息吹はもう知ってるわね」
「?」
ヨミと珠姫、芳乃と息吹以外の面々は杏夏も含め頭の上に「?」が付く。
「この度、私かかりつけのスポーツドクター、整体師、鍼灸師を部に紹介しようかって私が提案したわ」
稜がいち早く反応する。
「ホントか!?」
「私も聞いておりませんが」
「だって話してない、それで昨日試合終わりに芳乃と息吹の家で話したんだけど、学校の許可がネックだって話になりました」
そのことに気付いたのは菫だった。
「確かに、いきなりそんな贅沢は・・・ってことになりそうね」
「そこで、私一人でさっき理事長に直談判してきました」
「はぁい!?」
一同、驚きを隠せない。代表して理沙が口を開く。
「全く、春李ちゃんったら・・・」
「スポーツドクターは、生徒の健康に関わる大切なものでこれを認めないということはそれを蔑ろにするも同然と話したらすんなりと認めてくれたわ」
「そ、それって脅迫な気がするっちゃけど・・・?」
「希、細かいことはいいのよ。整体師と鍼灸師も交渉は難航しましたが条件付きでOKを貰ったわ」
「条件とは、どのようなものでしょうか?」
「いい事聞いてくれるじゃない白菊、整体師と鍼灸師は学校の運動部すべてのかかりつけになってくれることを条件にOKしてくれました」
稜が気付く。
「でもそれ、勝手に決めちゃってよかったのか」
「いえ、電話で整体師の先生と鍼灸師の先生と話したわ。二人とも大口の顧客が増えるって喜んで引き受けてくれたわ」
「これで、合宿やそれ以降へ向けてのバックアップも整ったというわけか」
「そういうこと。まあ、私がいる野球部なんだから当然よ。私からの話は終わり。さ、練習始めましょ」
「おー!」
その姿を、杏夏は嬉しそうに眺め、逆に芳乃は心配そうな顔で見つめていた。