とうに練習開始時刻を過ぎた野球部部室、1人の女性と1人の少女が肌を重ねる。
「あぁんそこはだめ!そんなことされちゃ、もう」
「だめ!だめだめきちゃうきちゃうううぅ!」
「イク、イッちゃううううううう!」
「春李ちゃん!!?なんかとんでもない声が聞こえてくるけど何やってるの!?」
「そちらの方は、どなたでしょうか?」
私と息吹ちゃん、白菊ちゃんは部室からあられもない喘ぎ声がするのを聞いて中に飛び込んだ。
「誰って、私専属のマッサージ師よ?」
「春李専属のマッサージ師ぃ!?」
「私クラスになればこれくらい居て当り前よ?剣の道を極めた白菊だったいるんじゃないの?」
「自分の身体のことは自分で管理しなさいとお母さまから言われていたので、そういったことは自分でやっていました」
「うん、なるほど。そういう考え方もあるわね。でも、私は専門知識を持った人にやってもらうのが良いと思うわ」
「本当に春李ちゃん専属なの?それとも鱒川家の掛かりつけの所があって・・・」
「あぁ、ジョセフィン叔母さんの専属マッサージ師のお
「鱒川ジョー選手!連続試合安打の世界記録を持つスーパースター!!」
「叔母さん、引退してコーチになった今でも世間からの自分のイメージが崩れないようにトレーニングや節制をして、マッサージも欠かさないのよ。私も尊敬しているわ」
「さすが、
「芳乃あんたまた・・・」
「それで?何か私に用事?」
「うん」
私は息吹ちゃんと白菊ちゃんのことで春李ちゃんにお願いしたいことがあって、部室まで来たところでこの騒ぎだった。
「それならマッサージ受けながら聞くわ」
「えっ・・・」
息吹ちゃんと白菊ちゃんがちょっと困ったような顔をする。どうしたんだろう?
「何、なんか文句あるのかしら?」
「それは・・・」
「だって春李、あなたマッサージ受けたらまたさっきみたいな声出すんでしょ?」
「全部が全部そうじゃないわ、もう声出るような所は終わりましたよね」
春李ちゃん、ちゃんと敬語つかえるんだ・・・
「もう主だった所は終わったわ。できれば静かに受けてもらえるとこっちも助かるんだけど?いっつもいかがわしいマッサージをしていると間違えられてしまうんだけど・・・」
「それは、なんか我慢したら身体に悪そうだなって・・・は、始めてください」
「分かったわ」
春李ちゃんが座った状態でマッサージを受け始めた。
「それでね春李ちゃん。春李ちゃんにお願いしたいことがあるの」
「お願い?」
「息吹ちゃんと白菊ちゃんのコーチをしてほしいの」
「お願いしますっ!」
「頼むわ」
「2人のコーチ?」
「具体的には守備かな、バッティングは後回しにして大丈夫だと思う」
「怜ちゃんがいるじゃない?」
「主将も自分のメニューがあるからそうなると教えてくれる人が居ないの。私、外野ノックは力が無くて、それに・・・」
「それに?」
「
「日本トップクラス・・・分かってるじゃないの、確かに私が教えれば素人の2人でもいい線行くんじゃない?」
最近、春李ちゃんの操作方法が分かってきた気がする。
「分かったわ、この私が直々に2人に教えてあげるわ」
「ありがとうございます!」
「何だか癪に障るわね」
「何か言った?息吹」
「なんでもないわ」
「じゃあ早速これから主将にノック打ってもらうから、春李ちゃんは2人の今の実力を見て」
「ちょ、ちょっと待って。今から練習に出るの?」
「何言ってるの?当たり前でしょ?」
「練習するために、部室に来たんですよね?」
「冗談!今日はマッサージだけして帰るつもりよ。怜ちゃんがノックするんなら明日からでいいじゃない?」
「見るだけでもいいから出てもらっていい」
「分かったわ・・・全く、この私が無駄な練習に出るなんて」
「今、無駄って言った?」
「言ったわ」
「くぅ~!春李!あなたね、前から言おうと思ってたけど人より上手いからって何言ったっていいわけじゃないわよ!?」
「い、息吹ちゃん」「息吹さん・・・」
「2人は黙ってて!」
「上手い奴が上からもの言って何が悪いの?それにちょっと上から言われるくらいが特に息吹には調度いいみたいじゃない」
「きいぃ言わせておけば!一番上手いのが余計腹立つ!」
「私は息吹が今怒ってても全然腹立たないわ。上手くなればいいだけじゃない。そうでしょ?」
「今に見てなさい!絶対春李よりも上手くなってやるんだから!!」
―――――――
―――――
―――
―
「ナイスボール、ラスト1球」
「私は内野ノック入るから・・・ヨミちゃんはダッシュね」
「うん・・・」
もう春李ったら腹立つことばかり言ってくれちゃって!見てなさい!
「息吹いくぞ」
「こい!!」
よし!捕れる!
「ナイスキャッチ!」
「お世辞は進歩の妨げ、今のどこがナイスなの?始動が遅いから難しい打球に見えるだけのイージーフライじゃない!」
「(アレをイージーというか・・・)次白菊!」
もう嫌になるわね!
「行き過ぎました!」
「白菊、見ないでも分かることを言わない!怜ちゃんも素人いきなり走らせたって時間の無駄!」
「よし、じゃあお前が打ってみろ。ほら」
「嫌よ、今日私に練習の予定は入ってないわ」
「自分が練習するじゃないんだからいいだろ?」
「それでも嫌」
「自分が言い出したことだろ。口は禍の元だ」
「分かったわ・・・怜ちゃん今度覚えてなさい。トス上げてくれるかしら」
何?なんか揉めてるみたいね?ノッカーが主将から春李に変わる?
「トスバッティングでノックするのか?」
「せっかくやるんだから実践的なことしたいのよ。息吹!白菊!」
私は白菊と顔を見合わせた。
「横に間隔を空けて一線に並びなさい、
「ありがとうございます!」
「きなさい!」
「いくわよ、息吹!」
きた!あれ?
「よし次、白菊!」
「お願いします!」
まただ。
「こら白菊!動かないの!」
まさか!
次から飛んでくるフライも全部、私と白菊が一歩も動かないで取れる簡単なフライだった。それでも私たちは数球落としてしまった。
「よし!あがりよ!!」
「ありがとうございました!主将のノックと比べて、あまり疲れませんでしたね」
「え、えぇ」
春李のやつまさか・・・
「春李・・・」
「どしたの怜ちゃん?」
「狙って打ったのか?」
「えぇ、勿論」
「どうなさったんですか?」
「白菊、春李は私たちのいる位置をピンポイントで狙い打ちしたのよ」
「す、凄いです!そんな芸当が出来るんですか?」
「現に今私がやったじゃない」
「私だってノックで打ったって数歩くらい誤差が出るぞ?それをトスバッティングで狙い打ちをやるなんて・・・」
「怜ちゃんのトスも良かったのよ。下手なトスじゃこうはいかないわ」
「でも、どうしたって一歩も動かないノックを打ったんだ?」
「まさか面倒だったからとか言うんじゃないわよね?」
「それは違うと思いますよ?」
「白菊?」
私と主将が同時に言う。
「剣道でも、ただ一点を狙い続ける極点集中は大変な集中力が必要です。春李さんはそれが二点、本当に狙い打ちをし続けたのであれば、並大抵の集中力ではとてもではありませんがやり続けられません」
「さすが白菊、分かってるう」
「それで、なんでそんな超精密ノックが必要だったんだ?さっき春李は素人2人にいきなり走らせても時間の無駄と言っていたが、走らせて身体で色々な打球を経験しないと意味がないんじゃないか?」
「怜ちゃん、それはちゃんと凡フライを百発百中で取れる人がやる事だと思ってるの。いくら走った所で捕るという成功体験が出来なければ経験に繋がらないと思うの。それにはまず基本の凡フライを捕る動作が必要になるからあのノックを打ったの。実際、2人とも何球か落としたでしょ?基本がまだなっていない証拠」
「確かに」
「ちょっと待ちなさいよ」
「何かしら」
「この前芳乃に春李の中学時代のプレーの映像見せてもらったけど、春李だって基本から外れたような派手なプレーばっかりじゃない」
「はぁ、分かってないわね息吹」
「なによ」
「いいか息吹、春李が言いたいのはな・・・」
「お、いいぞ言ってやれ怜ちゃん」
「茶化すな。春李が言いたいのは基本から外れた派手なプレーも、基本が出来ていればこそなんだっていう事なんだ。それは、私だった飛び込んだりスライディングで捕ったりもするぞ?だが、それらはちゃんとした基本的なプレーが出来てこそ出来る技なんだ。白菊だって剣道をやっている時そう教わったんじゃないか?」
「はい、何事にも基礎の積み重ねが重要だと教わりました」
それって・・・
「なによ、まるで私1人悪者みたいじゃない」
「そうでもないわ、息吹は次からは普通のノックで大丈夫よ。白菊はまだ私のノック受けたほうがいいわね」
やったっ!
「みたか!さっきはよくも言ってくれたわね」
「さっき?」
「勘違いしないの。まだスタートラインに立っただけ、これからよ?」
「まだ・・・ですか」
「怜ちゃんのノックの時に始動に迷いが見える所をみると、まだ打球の空間把握能力が身についていないのよ。変に普通のノック受けたら怪我の元になるわ。もう少し自分の所へ真っ直ぐ飛んでくるノックを受けてその感覚を磨きなさい」
「はい、わかりました」
「ほれ内野は休まず続けてるよ。水飲んだらトス打撃だ」
ひいぃっ!
「じゃ、私はあがるわ。マッサージ受け直さなきゃ」
「マッサージ?」
「あっ、主将聞いてくださいよ。春李のやつったら専属のマッサージ師が付いてるんですよ」
「専属のマッサージ師だって!?」