合宿初日
それは内野陣が杏夏のノックでのされている時の事だった。
「みんな~ちょっときいて!」
「やるのね?」
「うん。野手の面談するので希ちゃんから順番にベンチ裏に来てね」
「私からか・・」
芳乃と希がベンチ裏へ消えるとすぐ・・・
「あっ、ギャッ」
すわりの悪い顔で希がベンチに戻ってくる。
「次!菫ちゃん」
いぶかしげに菫が希に聞く。
「何されたの?」
「マッサージ?された・・・」
「なんで野手だけ・・・」
ヨミの疑問に怜が答える。
「すぐわかるよ」
そしてしばらくして・・・
「おまたせ!」
「何だったんだ?気持ちよかったけど・・・」
「上半身の可動域、やわらかさ、下半身の強さ・・・つまり
「ついては理沙先輩と・・・息吹ちゃん!それから春李ちゃんも、三人には
「ちょっと聞いてないわよ!一緒に暮らしてるのに!」
「投手用のグラブ持ってるくせに」
「とにかく投げてみよっ」
芳乃に強引にブルペンに連れられる息吹。
「わかったわよ」
ワインドアップで振りかぶる息吹。
「いくわよ」
豪快なモーションで白球を投じる。
「朝倉そっくりだ」
「でも・・・遅いわね」
受ける珠姫は何かを感じ取ったような顔をする。
「球速もコピーしろよ~」
稜が茶々を入れる。
「無理言うんじゃないわよ・・・」
「いや・・・意外と使えるかも・・・ノビがある・・・気がする」
「次理沙先輩!」
「ええ」
私が・・・投手
理沙はウエイトの乗った直球を投げ込んだ。
いい球・・・!
ヨミが驚く、と菫、稜、白菊が・・・
「重そう・・・」
「確かに重そうだ」
「重そうです」
理沙は表情にこそ出さないもの怒っている。そこに芳乃がとどめを刺す。
「思った通りどっしりしてる。私たちより一年分体づくりできてる!」
芳乃はおさげをピコピコとさせ興奮している。
「さあ、最後は春李ちゃんだよ」
「・・・ごめん、私パス」
「えっ・・・どうして?」
「投げたくないわ」
「投手の適正見た中では、春李ちゃんが一番だったんだけど」
「野手に集中させてもらいたいわ」
しびれを切らした怜が少し強い口調で迫る。
「チームのためだ、投げてくれないか」
「そのチームのためにならないから投げたくないのよ」
少し険悪な空気になりそうなところに芳乃が割って入る。
「と、とにかく投げてもらっていいかな?
珠姫も駆け寄ってきて頼み込む。
「春李ちゃん、お願い」
「分かったわ、投げてあげる。でもガッカリするだけよ?ヨミ、ロジン貸して」
「はい」
「嫌がってた割にはロジン使うんだな」
「言い訳させないだけのものが必要なのよ」
そういうと春李はロジンを左手と左腕にまぶす。
マウンドさばきはもう形になっている・・・
芳乃はその姿になぜ投手をやりたがらないか更に疑問が募った。
春李はノーワインドアップからしなやかなフォームで直球を投じた。
「は、速い」
「なんちゅうスピード・・・」
「これだけの直球が投げられるのであれば、投手としても一廉の選手になれるのでは?」
一同春李の直球を絶賛する中、ただ一人全く違った意見を持つ者がいた。
「ダメ、全然使えない」
「珠姫?」
珠姫一人が春李のボールの球質に気付いた。
「全然使えないって、あの直球がか?」
「私、春李さんの球を簡単に打たれるとはとても思えないのですが?」
「さすが珠姫、1球で見抜いてくれたわね。みんなも打席か審判の所で見れば分かるわ」
そういうと一同キャッチャー側へ移動し打席や球審の立つ位置など思い思いの場所へ陣取る。
「みんな、準備はいいわね?いくわよ」
春李はそういうと再びロジンを左手と左腕にまぶし、投球モーションに入る。
放たれた直球に一同は大きな違和感を抱く。
「全然速くない?」
稜と怜が同時に春李へ話す。
「おい春李、手加減して投げるな!さっきと同じ直球を投げろ!」
ここで珠姫が、
「いえ、さっきの球と一緒です」
「い、一緒!?」
「はい、春李ちゃんの球には息吹ちゃんのようなノビも、理沙先輩のような威力も全くありません」
「で、でも変化球なら。春李、変化球投げられるか?」
「持ち球はスローカーブ、チェンジアップ、スクリューよ」
「ス、スクリューって鱒川家直伝のスクリューボール!?」
「ええ、でも直球から察してもらえるかしら」
「うん、わかった」
「これでわかったようね、私にはピッチャーの才能がカケラもないって」
「でもどうしてあの直球がこっちから見たらあんなヘボい球になったんだ?」
「私も知りたいです」
「言いたくないわ、自分の恥になるんだもん。それに・・・」
春李は珠姫と芳乃のほうに目をやる。
「珠姫と芳乃はメカニズムがわかっているようね」
「珠姫、芳乃わかるのか?」
「教えて」
沈黙を守っていた希も興味津々で聞こうとする。
「あー待って、他人の口から言われるくらいならいいわ。私が自分で話す」
ごくり
珠姫と芳乃以外の面々が息をのむ。
「私に無いピッチャーの才能、それはね・・・」