「おお!アンダー」
息吹が投手の練習に入った。稜と春李がその様子を観察し、ヨミも後ろから見ている。
「まずまずね、もっと手首を立てて投げないと目が慣れたらただの打ち頃の球よ」
「わかったわ」
春李はジェスチャーを交えながらアドバイスを送り、息吹は春李に言われたポイントを念頭に置きながら次の球を放る。
「おっ?」
「ねっ?いい球行ったでしょ?アンダーでも投げるんなら
後ろで見ていたヨミも「負けてられないなぁ・・・」と珠姫を相手に『あの球』を投げ込む。
「割と安定してゾーンに来るんだけど、アバウトなんだよなぁ」
ヨミには芳乃が質問する。
「ヨミちゃん、あの球ってどこめがけて投げてる?」
「もちろんミットだけど、無意識下ではたぶん打者の顔かなぁ」
「ひっ、やっぱり」
隣で投げ込んでいた息吹が怯んでしまう。
「こら息吹、集中切らさない。緩んでるとケガしかねないわよ」
春李がすかさず注意する。
「それじゃあさ、このイメージで投げてみよっか」
イラストに興味を持った春李が芳乃に聞く。
「それはいいと思うけど、どうして息吹の顔なのかしら?」
「ひぃ」
息吹はまた怯えてしまう。
「単に息吹ちゃんの顔はよく描いてるから描きやすいからだよ」
「そ、別に息吹を打席に立たせて試そうって訳じゃないのね」
今度は杏夏が興味を示してやってきた。
「面白いですね・・・私が実験台になってあげます。『あの球』・・・間近で見てみたかったんですよね。遠慮はいりませんよ」
一同の目には杏夏の顔に顔面4分割のイメージが浮かび上がる。
「じゃあ・・・内角高め」
「うん」
ヨミが『あの球』を投げ込むと杏夏はアウトステップし、スイングする姿勢を見せた。
「ナイスボール、内角高め・・・入ってますね」
「はい」
珠姫は驚きを若干顔に出す。
「さあじゃんじゃんいきましょう!」
打たれてた・・・
それは春李も感じ取っていた。
いい型してるじゃない・・・
でもこのくらい
「外低め」
続けて外角低めに『あの球』を投げ込む。
「ナイボッ」
「けっこう使えるかも
「ええ」
3人をよそに黙々と投げ込みをしていた息吹とそれを見ていた春李だったが、
「よし、じゃあ投げ込みはその辺で。おーい理沙っちちょっと来てー」
「なにかしら」
春李は打撃練習に加わっていた理沙を呼び寄せた。
「2人にはこれから投手の基礎トレをやってもらうわ。ついてきて」
そういうと3人はグラウンドの片隅へ移動した。
「まずは軸足ジャンプ、私が手本を見せるからやってみて」
「わかったわ」
息吹と理沙の声が重なる。
「まずこーして、この体勢で静止」
春李は投球動作の右足を振り上げた姿勢で静止している。
「この体勢ね」
理沙がその場で春李の動きについていくと息吹も同じようにする。
「そう。で、こうして真上に高く飛んで着地で止まる」
2人もその場で飛ぶが春李のようにいかない。
「理沙っちはバランスが悪いから真上に飛べてないわね。息吹はまだ軸足が弱いから着地でフラつくか・・・これは言うまでもなく軸足の強化よ」
「春李ちゃんは当たり前のように出来てるわね」
「当然よ。さ、次は室内、ちょっと道具が必要になるわ」
3人は今度は室内練習場へ移動した。
「次はランジ&ターン、このダンベルが必要になるわ。はい、こう持って」
春李は2人にダンベル一つを両手で持つように渡した。
「今度は私が一通りやってから続けてやって」
春李は立った状態でおへそのあたりでダンベルを両手で持ち、前に左足を踏み出すとそこから骨盤を中心に身体を反転させた。
「こう?」
「どうかしら?」
「そう、息吹はスジがいいわね、理沙っちのほうも芳乃が選んだだけあって中々ね。じゃあ次」
「ちょっと待って」
次に行こうとする春李を理沙が止める。
「なにかしら?」
「2つとも一回しかやってないけど、あといくつメニューがあるの?」
「えーっと・・・6つかな」
「8つもあるの!?」
メニューの多さに息吹が驚く。
「これでも必要ギリギリの少なさよ?」
「わかったわ」
春李は次いで2人にダンベルトレーニング、チューブトレーニング、メンコエクササイズのやり方を教えた。
「さ、次はボールを使うわ、外へ行きましょ」
「や、やっと」
3人は再びグラウンドの片隅へやってきた。
「これは、これから時間がある時にやってもらいたい事なんだけど。まずこうやって寝て・・・」
春李はグラウンドで仰向けに寝転ぶ。
「こうしてボールを真上に投げる!」
投げられたボールは春李の左手目掛けて帰ってくるが春李は取り損ねてボールがおでこに直撃した。
「いったぁ・・・ボールの回転が悪いとこうなるから力まずにボールの回転を意識して。シンプルだけど指先の感覚をつかむには一番だから、部屋でやる時は天井ギリギリを狙って投げるのよ・・・じゃあ次」
「やらなくていいの?」