「やらなくていいの?」
「これはいいわ、簡単だし。ちょっと待ってて」
春李は息吹と理沙を待たせると備品倉庫へ道具を取りに行く。
「待たせたわね。次と最後のは同じような目的よ。まずはネットスロー」
「投げるんなら珠姫に・・・」
「こら甘えんじゃない、今
「わかった・・・」
引き下がる息吹。
「距離は近くていいから、一球ずつ丁寧に投げなさい。フォームを固めるのよ」
息吹と理沙はそれから黙々とネットスローを行っていた。
「理沙っち、ボールが高いわ。それじゃ私なら場外よ」
「わかったわ」
「息吹はフォームを変えながらだから身体のあちこちがキテるでしょ?」
「ええ、なにか一つに絞ろうかしら」
「いや、大変だけど色んなフォームで投げれるようになって。期待してるわよ」
「期待・・・」
春李からの『期待してるわよ』という言葉に息吹は燃えた。
「じゃあ、それまで。最後のメニュー、これは家でやってもらいたいことよ、これを使うわ」
「タオル?」
「手ぬぐい?」
「どっちでもいいわ、丁度いい長さのものを使ったシャドーピッチング。これが最後のメニューよ」
「シャドーピッチング・・・」
「息吹は芳乃から形態模写をよくやらされてたそうだからその延長線上だと思って」
「なるほど」
春李は再び実演しながら2人に意識するポイントを説明する。
「いい?重要なのはグラブを持つほうの手よ」
理沙が質問する。
「右手じゃなくて?」
「そう、全身の力をいかに指先に伝えられるか。右投げの2人は左腕でカベを作るの。体重移動した身体を支える左足、その力を逃さず溜めておく左手のカベ、弓矢のようにギリギリまで身体のタメを作って、下半身から伝わるエネルギーを、一気に振り抜く!」
「おぉ・・・」
2人は驚きの声を漏らす。
「どう?さすがでしょ?」
「えぇ、やってみていいかしら」
「理沙っちからね。はいどうぞ」
春李が理沙にタオルを渡す。
「左手のカベ、身体のタメ・・・」
理沙は春李に言われたことを念頭に置きながら3、4回シャドーピッチングをすると。
「まだ、左肩が開くわね、ネットスローとシャドーピッチングの時はその辺を意識して。次、息吹」
「わかったわ」
息吹は色々なフォームでシャドーピッチングを何度かやる。
「うん、中々ね」
「
「2人とも、今言ったメニューについては芳乃に話しておくから詳しい回数やセット数なんかは芳乃から後で受け取って」
「わかったわ」
「まかせなさい」
3人の投手基礎練習メニュー説明が終わったところに希がやってくる。
「春李ちゃん」
「希?どしたの?」
「今から投げてほしかっちゃけど、よか?」
「いいわよ。一通り終わったところだし、早速のご指名とはありがたいわね。じゃ2人ともあとまかせたわ」
「ありがとう春李ちゃん」
「私は色んなフォームで投げる分大変・・・」
「弱音吐かないの」
「もう、わかったわ」
「じゃ希、肩作るからちょっと待ってて」
「わかった」
春李が肩を作っている間に出してあったバッティングマシンを芳乃が片付ける。一通り片付けと防護ネット・ボールケースのセッティングが終わったところでヘッドギアを着けた春李が希と芳乃のもとへやってきた。
「もう肩温まってきたから大丈夫よ。そっちも準備万端ってとこね」
「うん、マシンをしまって打撃練習用にネットとボールケースの場所を変え終わったところだよ」
「ごめん、できればマウンドから投げたいんだけど、また位置変えてもいい?私も手伝うわ」
「わかった。でもどうしてわざわざ?」
「私の練習でもあるからよ。肩の強化」
「なるほど、じゃあ私ボールをマウンドに持ってくるから春李ちゃんはネットをお願い」
「わかったわ。希も手伝ってもらっていい?」
「よかばい。私もなるたけ実戦に近かほうがよかけん」
そういうと3人でネットとボールケースを再び移動させた。
「これでよし。希ちゃん、後ろで見せてもらってもいい?」
「もちろん、私も芳乃ちゃんに見てもらいたかったけん」
この2人、中々・・・と思う春李であった。
「で希、何割くらいの力で投げてほしい?」
「八割から十割でよかばい。春李ちゃんの肩ん強化も兼ねとーんやろ?」
「あら、気にしなくてもよかったのに。でもお言葉に甘えて」
希の打撃投手・春李を相手にした打撃練習が始まる。数十球目打ったところでのことだった。
「ナイバッチ」
「ホント、私のヘボ球とはいえ結構難しいコースに投げてるつもりよ」
「希ちゃんってホームランは狙わないの?打てそうだけど」
「フォームが崩れるけん・・・それに・・・」
「?」
希が春李の方を見る。
「春李ちゃんとはレベルが違うけん・・・もっと自分の分ば弁えたバッティングばしぇな」
「でもまあ試合終盤・・・後がない時には狙うかも・・・」
「そっか・・・」
2人のやり取りをじっくり聞いていた春李であったが・・・
「それは違うわ希」