杏夏は春李をベンチ前の稜と菫のもとへ連れてきた。
「春李?どうしたの?」
「今から春李さんにお手本を見せてもらいます」
「おぉ」
「ねぇあんちゃん、お手本お手本言うけど何すればいいの?」
「股割りです」
「ははぁん、わかったわ。この2人には特に必要ね」
「いえ、2人だけではないんです」
「およ?」
「とにかくやってみせてもらっていいですか?」
「わかったわ、でもいきなりできるとは思えないんだけど・・・」
春李はその場で両足を180度開き、地面にペタンと座ってみせた。
「はい」
杏夏がバツの悪そうに春李に話す。
「春李さん、股割りってその股割りではなく・・・」
「えっ、違うの?こぉんなこともできるけど?」
そう言うと春李は開いた両脚をウネウネと動かし移動してみせた。
「うわぁ・・・」
「キモッ」
「ちょっと、何言ってくれちゃってるのかしら。身体の柔らかさは野球だけじゃなくて全てのスポーツに必要とされるものよ?これくらいできるようになってもらわなきゃ困るわ」
菫が怖そうに言う。
「でもいきなりそれは・・・」
「無理にとは言わないわ、これも積み重ねよ。今の内からやっておけば2人も出来るようになるわ。こんなことだって」
春李は180度開脚した状態から上体も地面にペタンと着けてみせた。
「おぉ」
「体操選手みたいね」
「私、他人よりも胸が大きいから完全にペチャンコにはならないんだけどね」
そう、春李の胸は一般的な女性の胸よりもかなりの大きさである。
そう言われた稜が、
「それは私らへの当てつけかぁ?えぇっ?」
春李の背中を思い切り踏みつける。
「ちょやめっ!ねぇこの体勢反撃できないの分かっててやってるでしょ?」
「ちょっと
「スパイクは脱いでやってんだからありがたいと思え」
「全くもう、ちっこくったって需要はあるわよ」
次は菫が春李のお尻をスパァンと叩いた。
「いったぁ・・・す、菫?」
「ごめん、私も叩きたくなった」
ここで見守っていた杏夏が、
「みなさん」
「いっ」
「うっ」
「ひっ」
冷たい声で話しかける。
「練習を始めましょう」
「は、はいぃ!」
3人の声が重なる。
「春李さん、股割りなのですが180度開脚ではなく中腰のをお願いしたいのですが」
「あっ、そっちの?なぁんだ言ってくれればいいのに」
「お願いします」
「はいはい、よいしょっと」
春李が立ち上がる。
「まず脚を肩幅よりも広く開く、次にお尻をひざのあたりまで落とす。空気椅子のイメージかな?はい、2人ともやってみて」
「こ、こいつは・・・」
「練習終わりにコレはきついわね」
すると杏夏が、
「そのまま脚を動かしてもらいます」
春李が聞く。
「ゴロ捕球のイメージかしら?」
「そうです」
「はぁい。2人ともついてきて」
春李が脚をうねうねと動かし、菫と稜もついてこようとするが・・・
「ほらっ、もっと腰落として」
「地味な割にきちー」
稜が早くも音を上げはじめる。
そこへ打撃練習を終えたヨミが通りかかる。
「何してるの?」
杏夏が稜の肩に手をやりながら答える。
「股割りですよ。練習終わりに最低100回、この動作を体に記憶させておけば、土壇場で効いてくるはずです」
「そっか・・・頑張って」
私
と、その場を去ろうとするヨミだったが、
「あっ武田さん!マウンドに立たない時は三塁か一塁に入って貰います。つまり、今から内野の練習にも入るように」
春李は『2人だけではない』の意味を理解したようで杏夏に聞く。
「3人目はヨミ、内野の練習ってことはあと理沙っちと希もってトコかしら?」
「ひいいいい」
「欲を言えば春李さんにも」
「ようこそ」
春李が平然と股割りをしながら答える。
「
「今の人数だと使えるオプションを増やしておきたいんです」
「わかったわ、でも今は待って。また肩作って希に投げるから」
「わかりました。春李さんなら大丈夫でしょう」
「
「180度の開脚が出来るという事は初動負荷や関節の可動域を広げるトレーニングを中心にされているんですね」
「ええ、あんちゃんも中々ね。じゃ、3人ともお先」
「え、春李ちゃんもう行っちゃうの?」
「春李はお手本として呼ばれただけだからな」
「それに私たちよりも普段からやってるようだからね」
その後、再び希の打撃練習の打撃投手をやって合宿初日は終了。
「いただきまーす」
陽が落ちてから一同で食卓を囲む。
「ぱくぱく」
「もっ」
「もくもく」
一同、我先に箸をすすめる。
「う、うめぇっ!」
「見た目は家で作るものと変わらないのに・・・」
稜と菫が驚いていると・・・
「当然よ」
「春李!」「春李ちゃん!」「春李さん!」
割烹着姿の春李が現れた。
「その恰好、どうされたんですか?」
「どうされたもこうされたも、私と芳乃とあんちゃんで
「はいぃっ!?」