「サインもらってもいいですか!」
試合終了後、芳乃が大野と大島の所にサインを求めにやってきた。
「別にいいけど」
「あっ、春李ちゃんどこにいるスか?」
「春李ちゃん?そういえばこれからグラウンド整備なのに見かけないですね」
「またマッサージ受けてるんじゃないスか?」
「大島さん、春李ちゃんに専属のマッサージ師さんがいること知ってるってことは前からの知り合いだったんですか?」
「えーっと、ちょっとスよ。それに・・・」
「?」
「春李ちゃんなら、グラウンド整備『なんか』って言ってやらないと思うスよ」
「確かに春李ちゃんなら有り得る・・・でもどうして春李ちゃんを探してたんですか?」
「1つか問いただしたい事があるス、下手したら・・・」
「はい、そのまま帰りますね」
芳乃と大島が話しているとサインを書き終え渡すタイミングを窺っていた大野が会話に入って来た。
「私が気に入らないのは・・・はい、書けたわよ」
「ありがとうございます!えっと・・・」
「どうして鱒川春李ほどの選手をスタメンで使わなかったのかってことよ!私だって対戦したかったわ」
「すみません、それは・・・」
芳乃が大野の疑問に答えようとすると部室でのマッサージを終えた春李が帰ろうと通りかかった。
「Oh~情けないぞるぅるぅ~。私がグラウンドに降り立つまでグラウンドに立っていられないとは~」
「春李ちゃん!」
春李の登場に柳大川越の選手たちが4人の周りに集まってあっという間に輪が出来上がった。
「ねぇ
「おい、彩優美!」
春李に詰め寄ろうとする大野に輪の中から浅井が出てきて止めに入る。
「どうして貴女にアンタ呼ばわりされなきゃならないのかしら」
「!?」
場の空気が一瞬で凍り付く。しかし・・・
「ぷふっ、冗談よ!冗談。貴女良い選手ね、立ち姿で分かるわ。そうね・・・あゆみんって呼んであげるわ」
「あ、あゆみんっ!?」
当の大野だけではなく芳乃をはじめ、柳大川越の選手たちも一様にビックリする。
「この私にあだ名で呼ばれるなんてとても光栄なことなのよ?そうでしょ留々」
「春李ちゃんはそうかもしれないスけど大野さん2つも上なんスからもっと距離の詰め方ってものが・・・」
ここで先程から疑念に思っていたことを芳乃が聞く。
「あの、春李ちゃんと大島さんって前からの知り合いだったんですか?」
「それ私も気になった、ベンチで知り合いみたいな感じで鱒川さんの事話してたし、大島説明しなさいよ」
この声を合図に輪の中からも大島に説明を求める声が次々出てくる。
「えぇ・・・」
「何!?留々言ってないの?留々はね・・・」
「は、春李ちゃん!」
「何よ!留々の功績は十分誇るべきものよ?」
「だって・・・」
「あーもーじれったい!留々はね、去年のU-15世界大会の日本代表選考合宿で恋と代表のセンターを最後まで争ったの」
春李の一言に一同驚きに包まれる。
「はあっ!?」
「あの、鱒川恋選手と!?」
「大島、お前の口から今までそんなこと一言も言って聞かなかったぞっ!?」
「当然スよ!最後の最後で代表から落選したんスから!」
「だって、争ってたのはあの鱒川恋でしょ?十分凄いじゃない?」
「発表は最終メンバーだけだったから一次選考、二次選考、最終選考の時のメンバーは発表もされなかったしね」
「あぁもう隠してたかったス、これが控えでも代表選ばれてたんならカッコがつくから私だって言いふらしてたスよ!」
「仕方ないじゃない、紅白戦で右足に
「じゃあその死球がなかったら」
「えぇ、間違いなく代表メンバーに選ばれてたわ」
「留々ちゃんって、そんな凄い選手だったんだ・・・」
輪の中から柳大川越の1年生であろうか、そんな声が出てくる。
「これだから言うの嫌だったんスよ~。み、みんなこれからも変わらずに接してほしいス」
その言葉に最初に口を開いたのは主将の大野だった。
「分かってるわよ。過去がどんなだろうと今は柳大川越の一選手よ。何があろうと変わらないわ」
続けて浅井が喋りだす。
「ああ、それに大島本人が嫌がっていることを無理に掘り返したりしないさ」
「よ、良かったス~」
「ほら、言ってみるもんじゃないそれにしても、あーゆみん」
「な、何かしら」
「貴女、良い選手なだけじゃなくて、中々いい女じゃない」
「なっ!?何を言うのかしら突然、それはそうと・・・」
「なに?」
「話が逸れちゃったけど、どうしてスタメンで出てくれなかったのかしら?」
「そう!私もそれが気になって
「それは私も気になっていた所だ、君ほどの選手がどうして・・・もしかして怪我か?」
柳大川越の選手たちから心配のざわめきが聞こえ、芳乃がバツの悪い顔をしながら春李に小声で聞く。
「春李ちゃん、どうしよう・・・」
「別に言っても良いんじゃない?変に勘繰られるの、私は嫌いよ」
「分かった、えーっと春李ちゃんがスタメンで出なかったのは・・・」