魔法少女リリカルなのはLOST FORCE   作:三月雪音

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これは、高町家に引き取られた青年の物語……

ある日の夜、青年は魔法の力に目覚める。

力に目覚めた青年は数多の出会いや困難の中で、何を思い、何を成すのか……

これはその始まりの物語……

魔法少女リリカルなのはLOST FORCE、始まります。


無印編
始まりの出会い


―『ハァハァ……グッ!』

 

暗い森の中、一人の少年が不気味な黒い影と戦っていた。

 

―『お前はこんな所に居ちゃいけない。帰るんだ、自分の居場所に』

 

少年は右手を影の方に突き出すと、何かの詠唱を始める。

 

対する影も本能的に何かを感じたのか詠唱を止めるために少年目掛けて突進する。

 

―『妙なる響き、光となれ! 赦されざる者を、封印の輪に! ジュエルシード、封印!』

 

少年がそう言い切ると少年の右手には魔法陣が形成され、突進してきた影を吹き飛ばす。

 

しかし、完全に倒しきることは出来ずに影は逃走してしまう。

 

―『クッ…逃がしちゃった…追いかけなくっちゃ…誰か僕の声を聞いて…力を貸して、魔法の力を』

 

少年はその言葉を最後に気を失ってしまった。

 

――――――――――

 

(……不思議な夢だったな)

 

眠りから目覚めた照人は時計を確認すると4時を示していた。

 

「四時か。少し早いけど、着替えようかな」

 

そう言って照人はパジャマを脱いで動きやすい服装に着替えると、家に併設されている道場へと向かった。

 

照人が道場の扉を開くと、そこには誰もおらず静寂に包まれていた。

 

「流石に誰も来てないよね……少し準備運動をしておこうかな」

 

棚に立てかけられている木刀を持ち、構えると型に沿って木刀を振る。

 

唐竹、袈裟懸け、右薙、右斬り上げ、逆風、左斬り上げ、左薙、逆袈裟、突きと基本の型を順にこなしたあと、木刀を正眼に構え直す。

 

すると、道場の扉が開き照人の兄姉である恭也と美由希が入ってくる。

 

「おはよう、兄さん、姉さん」

 

「「おはよう、照人」」

 

互いに朝の挨拶を交わすと、恭也が木刀を構える。

 

「さて、朝の稽古を始めるか」

 

「「はい!!」」

 

美由希と照人の返事を皮切りに、朝の稽古が始まった。

 

照人が稽古をしている頃、照人と同じ夢を見ていたなのはは携帯電話のアラームで目を覚ます。

 

「んぅ~……ふぁ、なんか変な夢見ちゃった」

 

そう言ったなのはは背中を伸ばすと、自分が通う私立聖祥大学付属小学校の制服に着替え始めた。

 

着替えを済まし、洗面台で髪を整えたなのははリビングに移動した。

 

「おはよう」

 

「あ、なのは。おはよう」

 

「おはよう、なのは」

 

なのはの"おはよう"という言葉にキッチンで朝食の準備をしていた桃子とテーブルで新聞を読んでいた士郎は言葉を返した。

 

「はい、これお願いね」

 

「は~い」

 

なのはは桃子から渡された家族全員分の飲み物をテーブルに運ぶ。

 

「ちゃんと一人で起きられたんだなぁ。偉いぞぉ」

 

新聞を読むのをやめた士郎がなのはから飲み物を受け取りながら言う。

 

「朝ごはん、もうすぐできるからね」

 

桃子がもうすぐ朝食が完成することを告げる。

 

「お兄ちゃんたちは?」

 

なのははリビングにいない兄や姉の居場所について聞くと、士郎が答えた。

 

「あぁ、道場にいるんじゃないか?」

 

士郎の言葉を聞いたなのはが道場に様子を見に行くと、道場では恭也と照人が木刀を片手に打ち合いをしていた。

 

「たあっ!てい!ハッ!」

 

照人の木刀を恭也は余裕の表情で躱していた。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、照くん、おはよう。朝ごはんだよ」

 

「あぁ…なのは、おはよう」

 

打ち合いを見ていた美由希はなのはに近づいて返事をする。 

 

「「おはよう、なのは」」

 

なのはの声を聞いた恭也と照人は打ち合いを終わらせ、なのはの方に向き直って言う。

 

「はい、照くん」

 

なのはは打ち合いを終えて息を整えている照人にタオルを渡した。

 

「ありがとう、なのは」

 

受け取ったタオルで照人は汗をふく。

 

「じゃあ美由希、照人、今朝はここまで」

 

「はい」

 

「続きは夜だね」

 

恭也の言葉に美由希と照人は了承する。 

 

「じゃあ、朝ごはんを食べに戻るか」

 

朝ごはんを食べるために四人は居間に戻る。

 

「ん~、今朝も美味しいなぁ。特にこのスクランブルエッグが」

 

「ほんと~、トッピングのトマトとチーズと、それからバジルが隠し味なの」

 

朝食のスクランブルエッグに舌をうねらせている士郎に桃子はトッピングや隠し味のことを話す。

 

「みんなぁ、あれだぞ~。こんな料理上手のお母さんを持って幸せなんだからなぁ、分かってるのか」

 

「分かってるよ。ねぇ、なのは」

 

「うん」

 

士郎の言葉に美由希となのはが答えると桃子が恥ずかしそうしていた。

 

「あぁんもう…やだぁ、あなたったら」

 

「んぅ~」

 

惚気る士郎と桃子を見ながら、四人は箸を進める。

 

「美由希、リボンが曲がってる」

 

「え?ほんと?」

 

美由希のリボンが曲がっていることに気付いた恭也はリボンを整えている。

 

朝食を終え、登校する時間となり、美由希と照人、なのはは各々が通う学校へ向かう。

 

「おはようございま~す」

 

なのはがスクールバスに乗ると友人であるアリサ・バニングスと月村すずかに声を掛けられる。

 

「なのはちゃん」

 

「なのは~、こっちこっち」

 

「すずかちゃん、アリサちゃん」

 

すずかとアリサが座っている後ろの席に移動するなのは。

 

「おはよう」

 

「おはようなのはちゃん」

 

「おはよう」

 

「そう言えばさ、今日って照人さんが迎えに来るの?」

 

「うん、いつも通り校門で待ってるって」

 

すずかの質問になのはは答える。

 

「そうなの!?やった~。ね、すずか」

 

「うん」

 

照人が迎えに来ることを聞いた二人は喜んでいた。

 

時刻は放課後、学校が終わった照人たち四人は帰路についていた。

 

「今日のすずか、ドッチボール凄かったんですよ」

 

「へぇ~、流石だね。すずかちゃん」

 

アリサが体育でのすずかの無双っぷりを照人に話していた。

 

「そんなことないですよ」

 

照人の言葉にすずかは顔を真っ赤にして照れていた。

 

途中、アリサが近道だという森の中を通っていたのだが、照人となのはは既視感を感じた。

 

(ここ…昨夜、夢で見た場所)

 

(ここは、昨日の夢で見た…)

 

「どうしたの?」

 

「なのは?照人さん?」

 

すずかとアリサに声を掛けられ、ハッとする照人となのは。

 

「ううん、なんでもない。ごめんごめん」

 

「あぁ、少し見覚えがあってね」

 

「大丈夫ですか?」

 

「「うん」」

 

心配するすずかに二人は大丈夫であることを伝えた。

 

「じゃあ、行こっか」

 

アリサはそう言うと再び歩き始める。

 

((まさか……ね))

 

「なのはちゃん?」

 

「照人さん?」

 

「うん」

 

「今行くよ」

 

二人の声に照人となのはは二人に追いつくように歩を早める。

 

『助けて!』

 

誰かの助けを求める声が聞こえた照人となのはは歩みを止めてしまう。

 

「なのは?」

 

「照人さん?」

 

二人が足を止めたことを不思議に思うアリサとすずか。

 

「今、何か聞こえなかった?」

 

「何か?」

 

なのはの言葉にすずかは聞き返す。

 

「助けを求めるような声が聞こえたんだけど……」

 

「別に……」

 

「聞こえなかったですけど……」

 

照人が言ったことに二人には心当たりがないのか、訳が分からないといった顔をしていた。

 

一同は止まって周りを確認する。

 

『助けて!』

 

再び同じ声が聞こえ、照人となのはは声が聞こえた方に走り出す。

 

「なのはちゃん!?」

 

「照人さん!?」

 

二人も慌てて追いかけてくる。

 

声を頼りに走っていくと倒れている動物を発見し、なのはが動物を抱える。

 

「どうしたのよなのは?急に走り出して?」

 

「あ、動物……でも」

 

追いついたアリサはなのはに走り出した理由を聞いていると、すずかが動物に気付く。

 

「あぁ、ケガしてるみたいだ。急いで動物病院に運ぼう」

 

照人の提案で近くの動物病院へ運んだ。

 

「ケガはそんなに深くないけど、随分衰弱してるみたいね」

 

治療を終えた獣医が動物の状態を説明してくれた。

 

「院長先生、ありがとうございます」

 

「「「ありがとうございます」」」

 

照人が獣医にお礼を言うと、なのはたちもお礼を言った。

 

「これってフェレットですよね?どこかのペットなんでしょうか?」

 

「フェレット…なのかな?変わった種類だけど…」

 

アリサの疑問に獣医は曖昧に答える

 

「ま、しばらく安静にした方が良さそうだから、とりあえず明日まで預かっておこうか」

 

「はい、お願いします!!」

 

「「「お願いします!!」」」

 

獣医の提案に照人が頭を下げると、なのはたちも頭を下げる。

 

その後、家に帰ってきた照人となのははフェレットのことを家族に相談していた。

 

「そういう訳で、そのフェレットさんもしばらくうちで預かるわけには行かないかなぁって」

 

「父さん、俺となのはがちゃんとやるからさ、ね?」

 

なのはと照人がそう言うと、士郎は少し考えこむ。

 

「フェレットかぁ……ところでなんだ?フェレットって?」

 

士郎の発言に恭也と美由希、照人、なのはの四人はずっこけてしまう。

 

「イタチの仲間だよ。父さん」

 

「だいぶ前からペットとして人気の動物なんだよ」

 

恭也と美由希が簡単に説明すると、キッチンから桃子が出てきた。

 

「フェレットって小っちゃいわよね」

 

「知ってるのか?」

 

士郎が桃子に聞き返していると、照人が喋る。

 

「うん、30㎝くらいかな」

 

「しばらく預かるだけなら、籠に入れておけてなのはと照人がちゃんとお世話できるならいいかも…恭也、美由希…どう?」

 

桃子はそう言って、恭也と美由希にも意見を求める。

 

「俺は特に異存はないけど」

 

「私も!」

 

恭也と美由希も反対するつもりはなさそうだった。

 

「だそうだよ」

 

「良かったわね」

 

「「うん、ありがとう」」

 

父と母の言葉になのはと照人は感謝の言葉を口にするのだった。

 

(『アリサちゃん、すずかちゃん、あの子は家で預かれることになりました。明日、学校帰りに一緒に迎えに行こうね。なのは』、送信っと)

 

食事を終えたなのははフェレットを預かれることになったことをアリサとすずかの二人にメールしていると、なのははまた不思議な声を聞く。

 

『聞こえますか?僕の声が、聞こえますか?』

 

「この声……」

 

なのははこの声が昨夜の夢の声や昼間の声と同じ声であることに気付く。

 

『聞いてください。僕の声が聞こえる方、お願いです。力を貸してください…お願い』

 

何か嫌な予感がしたなのはは動物病院に向かっていた。

 

動物病院についたなのはの耳に甲高い音が聞こえ、なのはは咄嗟に耳を塞ぐ。

 

「また、この音……」

 

甲高い音がやむと、周囲から人の気配が消えた。

 

すると次の瞬間、爆発音が聞こえ、なのはは音の方へ向かう。

 

「あ、あれは…」

 

そこにはフェレットとフェレットを追う黒い影がいた。

 

なのはは黒い影から逃げるフェレットをキャッチする。

 

「何々!?一体何!?」

 

「来て、くれたの?」

 

「喋った!?」

 

今の状況に驚いているなのはだが、フェレットが喋ったことにもっと驚く。

 

「そのぉ、何が何だかよくわからないけど…一体何なの!?何が起きてるの!?」

 

とりあえずフェレットを抱え動物病院を後にしたなのはは走りながら、フェレットに話している。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少しだけ力を貸して!」

 

「資質?」

 

フェレットの言うことに首を傾げるなのは。

 

「僕はある"探し物"のために、ここではない世界から来ました。でも、僕一人の力では思いを遂げられないかもしれない。だから、迷惑だと分かってはいるんですが資質を持った人に協力してほしくて……」

 

フェレットはなのはの腕から降りて話を続ける。

 

「お礼はします!必ずします!僕の持っている力をあなたに使ってほしいんです。僕の力を…魔法の力を!」

 

「魔法?」

 

フェレットの言葉に更に首を傾げるなのは、その後ろからは黒い影が迫っていた。

 

なのはは急いでフェレットを守るように抱えた。

 

黒い影はなのはが抱えているフェレットを視界の端にとらえると、なのは目掛けて突進する。

 

グルァァァァ!!

 

迫りくる黒い影になのはは目を瞑ってしまうが……

 

「なのは!!」

 

聞き覚えのある声と共に、なのはの体は何者かに持ち上げられる。

 

ゆっくりと目を開いていくと、そこには自分を抱えている照人の顔があった。

 

「照…くん…?」

 

「良かった…ケガとかしてない?」

 

なのはを降ろした照人は軽く触診を行う。

 

「うん、大丈夫みたいだね。逃げ……グハッ!?」

 

「照くん!!」

 

なのはの手を取ろうとした照人が黒い影の触手によって吹き飛ばされ、コンクリート壁に衝突する。

 

照人のそばに急いで駆け寄ろうとするなのはだったが、黒い影に行く手を阻まれる。

 

グルァァァァ!!

 

唸り声をあげた黒い影はなのはに襲い掛かる。

 

「ラウンドシールド!!」

 

フェレットの叫び声と共に緑色の魔方陣が現れ、なのは達を守る盾となる。

 

グルァァァァ!!

 

黒い影は触手を何度も振り下ろし、盾を破壊しようとする。

 

(このままじゃ、なのはが……)

 

朦朧とする意識の中、腕に力を入れて立ち上がろうとする照人。 

 

グルァァァァ!!

 

「くっ、防御魔法が!?」

 

しかし、黒い影によって盾は破壊されてしまい、触手がなのはに向かって振り下ろされようとしていた。

 

「ッ!?……させるかァァッ!!」

 

突如、照人の体が銀色の光に包まれ、黒い影を吹き飛ばす。

 

「ま、魔法の光!?一体、誰が…」

 

驚きの声をあげたフェレットは銀色の光を見る。

 

そこには、銀色のオーラを纏った照人が立っており、彼の手には銀色の光でできた片刃の長剣が握られていた。




黒い影と対峙する照人となのは

名も知らぬフェレットの"探し物"とは

そして、二人の日常はどうなってしまうのか

次回「魔法の力」

人の想いを利用して踏みにじったことを後悔しろ!!

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