魔法ガチャしかできない魔法使いの日常   作:アオイマスタング

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第8話 ディーバ

「まあ大丈夫ですよ。直ぐに戻って来ますから」

 

「分かった。じゃ、本題になるげど、ここに居る人達がどんな人達なのか教えてくれないかしら?」

 

 自分でも嫌になるくらいにすんなりと本題を聞く事が出来たと思う。

 

 カンナは少し言いずらそうに…はしていない。わざと言うタイミングをずらしているという印象を私は持った。

 

「わしから伝えても良いかい?」

 

「…御自由に、ディーバ」

 

 ディーバとよばれたおばさんは、私のブローチを懐かしそうに見つめながら口を開いた。

 

「簡潔に伝えるのと細かく伝えるの。どっちが良いかい?」

 

「簡潔に」

 

 迷うまでも無く、そう答えた。するとディーバは「そうかいそうかい」などと首を上下にしながら言った。まるで自分の孫を見ているかのような目で見てくるディーバに、私は少し気分が悪くなった。

 

「まずこの場所についてじゃが、ここに居る皆は罪を犯し、表では普通には生きれないようになった人に対してマグナが、普通の暮らしを送っていられるように建てた監獄じゃ」

 

「罪を犯した人が普通に暮らせる監獄?」

 

 私はその言葉の意味が分からなかった。そもそも、まだマグナは何者なのかを聞けていない。

 

「マグナは何者かについては、カンナの方が適任じゃな」

 

「…分かりました。マグナは、本来罪を被るべき皆さんの代わりに、それらの事件等のほぼ全てを自身が犯人であるというすり替えを行ったのです」

 

「え?」

 

 すり替え?ナンノタメニ?

 そんな考えで頭をフリーズさせてしまう所だったが、どうやらすんでのところで止まらずに済んだらしい。

 

 どうにか固まらずに済んだ頭を使って見るが、マグナが何の為にそんな事をやっているのかは検討もつかない。

 

 そんな事を考えていると、カンナは話し始めた。

 

「最初こそ、時間的にどんな魔法を使っても明らかに不可能な犯行が行われている事に疑問を抱く者も少なくありませんでした。が、ありとあらゆるところで起こるマグナの犯罪の対応に追われていく内に、そんな考えを持つ人が居なくなってしまいました」

 

 カンナは言うと、どこか懐かしむような、悲しそうな目をした。

 

 私はその目を見るのが嫌になって、今すぐこの場所から逃げたくなった。

 とはいっても、本当に逃げる訳にはいかないので、なんとなく誤魔化して帰る理由でも作ろう。

 

「まだ引っかかりはあるけど、とりあえず"大罪人マグナ"は人々の生み出した偶像って事で良いんだよね?」

 

(おおむ)ねその解釈で間違いありません」

 

「なら、もう夜だから帰っても良い?」

 

「ええ、皆さんお騒がせしました。おやすみなさい」

 

カンナがそう言うと、食堂の中に居る人達が「おやすみなさい」と言い、自分の家?へと帰って行く。

 

「戻りましょうか」

 

そう言って、入って来た方にスタスタと歩き出したカンナ。こんな所に独りで取り残されるのは嫌なので、急いでカンナを追った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 エントランスに戻るとそこに居るはずのマグナは居なくなっていたが、カンナはそれを気にも止める様子は無く、

 

「早く帰る方が宜しいのでは?」

「マグナが何処に行ったのか気になって」

 

「それなら、今日も濡れ衣の犯罪者になりに行ってると思います」

 

 ふと、マグナと牢獄の中に入る前に約束した事を思い出した。"これから行く所で目にしたり、聞いたりした事は、女神達とwmgs達には伝えない"か。

 

 正直、伝えた所で信じてくれるとは思わないし、私も半信半疑だが、もし本当だとしたらその2つの陣営に真っ先に知られるべき功績だろう。

 なのに、それを隠してわざわざ追われる立場として活動するマグナに、私は苛立ちすら覚えた。しかし当の本人が居ないのではぶつけようも無い為、私はさらにイライラしていた。

 そして、そのイライラを納める為にも、早く家に帰る(帰るホテルは燃えてしまったので別のホテルに行く)事にした。

 

「じゃあ、私は行くから」

 

「ええ」

 

カンナは私に視線を送る事無く短く返事し、手元の本に何かを記していた。

 

「もし帰路が心配ならわしが付いてやろうか?」

 

空気を読んで黙っていたのだろう警備の人に対し、私は「要らない」と、少し声をイガイガさせながら言葉を放った。

いくらマグナに対してイラついているからといって、他人に当たってしまっている自分に対して自己嫌悪を抱き、私は居ずらくなって逃げるようにその場を去った。

 

 

 

 ***

 

 

 

 もうどれくらい走ったのかは分からない。けれど、もう絶え絶えの息を発し続けるのに限界を感じ、私はついに立ち止まった。

 

 酷く肩を動かして呼吸する。

 

 馬鹿みたい。なんでこんなに必死になって走っているのかが自分でも理解出来なかった。

 

 とりあえず近くにあるホテルや宿屋を探そうと歩き始めたが、中々この時間帯になってくると空いてる所が無かったり、ポケットに入ってたお金じゃ厳しい場所もある為、路頭に迷っていた。

 

 今日は月が出ていない為、正確な時間は分からないが、次の所で時間的にもラストだと考え、その宿屋の扉を開ける。

 

「おや、こんな時間に客とは珍しい。明日は雪かな」

 

 言って、読んでいた本を閉じると顔を現したが、意外にも声の主は少女のように見えた。

 

「部屋は空いてるぞ。泊まるか?」

 

 料金は店の前に掲げられていた為、お金に関しては問題ない。

 

「泊まるよ」

 

ポケットの中から丁度の額を机の上に置くと、その子は壁に掛けられている部屋の鍵を取り、机の上に置いた。

 

「一番手前の左の部屋だよ」

 

 私は鍵を取り、一番手前にある左の部屋の扉に鍵を挿して回すと、するりと扉のロックが解除された。

 

 私はすぐさまベットに飛び込んで寝た。


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