嫌な予感がした為、私は監獄から出てアルス王国の夜の街に身を繰り出していた。
「この辺だった筈だけど」
一人言なので勿論、返してくれる人が居ないのは了承済みだったが、それでも悲しくなって来る。
それに、嫌な予感がして来てみた場所が全く関係無さそうなので、家に帰ろうかと思ったその瞬間に、二人の人間が走ってくる音がする事に気がついた。しかも、何かに追われて必死に逃げているような走り方だ。
私は仮面を付け、その人達をマグナとして出迎える事にした。
「はぁ、はぁ。警備が何時にも増してしつこいな」
「当たり前だろ?一国の姫様を
そんな話し声が
警備の人達に追い込まれるような形で行き止まりの路地に居る。絶対絶命と普通ならなるだろう。現に、追ってきた警備の内の一人が、魔法を使えなくする効果を持つ魔法をかけようとしていた為、ライトスキップで逃げようにも逃げれないだろう。
まあ、最初から逃げるつもりは無く、わざとここを目指して移動していたのだが、警備がそれを知るよしも無いだろう。
彼らは私を捕らえようと動くが、それらを常にギリギリで避けていた。そう、追い詰められて全然動けない筈なのに、である。
種明かしをすると、あそこで動いているのは人形だ。私は既にこの場から離れた場所で姫を腕で抱いている。
私はさっさと自宅の方に向かって疲れない程度に走っていた。
「んっ。ふあぁ」
どうやら走っている際の衝撃で姫が目を覚ましたらしい。彼女は細々とした目をようやく開けた。
「だれぇ?」
彼女はまだ頭がぼんやりしているのだろう。普段の姫としての、キリッとした冷たい声からは想像出来ない程のふわふわとした声だった。
「もしかしてーあなたがあたらしくくるおせわがかりさん?」
「違うよ」
これが彼女の素なのでは無いかとも思ってしまうが、少なくともお世話係の下りは催眠か何かによるものだろう。
「でもーじじょおでかおをかくしてやってくるからーまっててってー」
一体どんな催眠を掛けられたんだと思ったが、それよりも面倒な自体になっている事に気がついた。なぜなら、ここで強く否定してもまた彼女が否定するだろから、無限ループが発生してしまうのだ。
どうした物かと悩んだが、暴れられないだけましだと思い、彼女の問いに適当に答える事にした。
一度、今の時点で誰も追って来て居ない事を確認し、城の方へと駆け出した。
「なまえは?」
「…マグナ」
「おぼえた」
数秒経って、多分頭の中で繰り返してたのだろう彼女は自分の名前を言おうとしたが、私はこの国の姫の名前も知らないような人間では無いので、大丈夫だと断っておいた。因みに、彼女の名はレイラだ。
「まぐな、みえる?つき、きれい」
「ああ」
私は移動中だった為、直接月を見上げる事はしなかったが、この国のお姫様が言うのだから、相当綺麗に違いない。
「まぐな、このくににいてながい?」
「うん」
適当に右から左へと聞き流しながら返事を言う。この返事で合っているかどうかさえ分からないが、返事をしないよりかはマシだと考えた。
「まぐな、あのねーまいにちつまんないからかえりたくないなー。なーんて」
「───っ!」
確証は何もないが、その言葉は紛れもない本心だと感じた。なら、この状態は素の状態に近いと一番初めに思ったのはあながち間違いでは無かったのだろう。
私は彼女の望みを叶えてあげられるが、その気持ちに気がついたからといって私は、今のレイラに何もしてあげられない。
「君が─」
その先は言え無かった。君が罪人になれば、私が救ってみせるだなんて。一国の姫に対して。
そんな事を思っている内に、城に付いてしまった。私は姫の部屋に近い部屋の窓から簡単に侵入し、レイラをそっと置いた。
「あれ?いっちゃうの?」
「ああ。このままここに居たら、死ぬまで外に出れない場所に入れられるからな」
「しぬまで?なんで?」
「それは…おっと。時間が無いみたいだ。さよなら」
何者かの足音が近づいて来た為私は慌てて窓から飛び出し、警報に引っ掛からないように慎重に城から抜け出した。
何かを忘れて来たような気もするが、家に着くまでは確認している余裕は無いのでとにかく夜の街を駆ける事にした。
レイラは別世界線では主人公と幸せに暮らして欲しい。