銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月-   作:キルメナイム

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第1話 芝からアスファルトへ

 トレセン学園の生徒会長室に、深いため息が響いた。

「ついに今日、か……」

ため息の主、生徒会長シンボリルドルフが窓の外を眺めながら呟く。彼女の目に映るのは、見慣れたグラウンド、ではなかった。

 そこにあるのは、グラウンドを横切って伸びる滑走路だった。その上を、様々な車両や軍服姿の男たちが慌ただしく走り回っている。

「まったく、面倒なことになったものだ……」

シンボリルドルフの脳裏に、半月前の緊急の生徒会の様子が浮かんできた。

 

 ──────────────────────────

 

「冗談ではない!」

 そんな言葉とともに、シンボリルドルフの両手が机に叩きつけられた。

「シンボリルドルフさん、どうか落ち着いてください」

「落ち着けだと!?これで落ち着いていられるか!」

 シンボリルドルフは、自分を宥めにかかる駿川たづなに対して、そう叫びながら一枚の書類を突き付けた。

「学園の敷地の6割を接収、資材の供出、挙句の果てに学園の教育への一方的な干渉!?これはあまりに酷い!今がウマ娘たちにとって如何に重要な時期なのか、彼らは分かっていないのだ!」

その書類の内容は、この学園において栄光を目指すウマ娘たちの代表たる彼女にとって、断じて容認できないものであった。

「私は拒否するぞ!絶対にだ!」

 そんな言葉とともに、シンボリルドルフはドアへ向かって歩きだした。

「不許可ッ!退室は許可できない。ルドルフ君、席に戻りたまえ」

 肩を怒らせる彼女の背中に、学園理事長の秋川の鋭い声が突き刺さった。

「理事長……」

「ルドルフ君、君の怒りはもっともだが、分かっているはずだ。これは決定事項、国からの命令なのだよ。この会議は、これからやって来る『彼ら』をいかに迅速に学園に受け入れるかを話し合うためのものなのだよ」

「しかし、理事長……!」

 なおも食って掛かろうとするシンボリルドルフだったが、次の瞬間に気付いた。秋川の拳がブルブルと震え、表情が苦悶に歪んでいることに。これまでウマ娘へ深い愛情を注いできた彼女にとっても、この事態が許せるわけがないということに。

「申し訳ありません理事長……。見苦しい所をお見せしました」

頭を冷やしたシンボリルドルフは、頭を下げて椅子に腰を降ろした。

「うむ。では会議を再開しよう。まず、宿舎については職員寮の空室を振り分けるとして、供出資材については……」

「食料保全の項目で、人参畑の管理権移譲の要求が……」

 その後は、粛々と会議が続けられ、トレセン学園は時代の渦へと飛び込む準備を進めていくのだった。

 

 ──────────────────────────

 

「会長……会長!」

「……ハッ!」

 物思いに耽っていたシンボリルドルフに、背後からエアグルーヴが声をかけた。

「すまない。少し考え事をな……」

「お気になさらず。それより、間もなくお時間です。滑走路の方へお願いします」

「ああ、もうそんな時間か……では、行こうか」

二人は、滑走路へと歩き始めた。

 

 

 20XX年5月、日本国と某国の間で、長年燻っていた領土問題に端を発した軍事衝突が勃発。瞬く間に戦争状態へと発展した。祖国防衛のため直ちに行動を開始する日本国自衛隊であったが、某国軍の圧倒的とも言える物量を前に、その能力の限界が見え始める。某国軍による本土上陸や空襲の懸念が浮上する中、防衛省は戦時特措法に基づいた協力命令を発令。本土防衛のための即応陣地の整備と、それに対する民間の協力の義務化を発表した。単一民間組織としては規格外の土地と資産を有するトレセン学園も協力者に指定され、航空自衛隊の即応防空部隊への土地等の供出が決定する。

 夢を追うウマ娘たちの日常に、突如として割り込んでくる戦いの気配。戦時という悪夢の非日常、本来は交わることのないはずの自衛官たちとの出合い。彼女たちは、数多の困難を前にして如何に走るのか。これから始まるのは、歴史の歪みに咲く小さな夢の花の物語。

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