銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月- 作:キルメナイム
その日の昼下りのこと。国会議事堂において、政府閣僚が一同に会しての緊急会議が開かれていた。議題は勿論、対某国戦争についてである。
「状況は深刻です。国内のありとあらゆる産業が、今や壊死しようとしている……シーレーンの圧迫による貿易関係の停滞はもちろん、そこから波及した中小小売業者への影響も計り知れません」
暗い面持ちでそう口にする厚生労働大臣に対して、財務大臣が頷いた。
「特措法に基づいた特別給付金の支給を進めてはいますが、焼け石に水です。財源が底をつくのも時間の問題ですな」
「そもそも、政府の総意として戦争の長期化は本意ではない。早期決着が望ましいところだ」
財務大臣の言葉に対して、総理大臣が答える。その言葉に対して、文部科学大臣が口を開いた。
「そのためには、外務省に頑張ってもらわなければ……和平交渉は進んでいるのですか?」
その問いに対して、外務大臣は苦々しい表情を見せた。
「正直に言うと、難しい状況です。今の某国には、日本に対して譲歩とか、退くという選択肢はありません。目標の達成、つまりは係争地の獲得を成し得るまでは止まらないでしょう……一応、同盟国からの支援や仲介についても模索はしていますが、現状では国際社会にいらぬ混乱を招きかねないと……」
「なんだそれは!つまりは、何も出来ていないではないか!それでは困るのだ!」
誰かの怒鳴り声が会議室に響いたが、外務大臣は落ち着いた様子で言葉を紡いだ。
「そもそも、交渉の実現のためには我が国が某国と対等になる必要があります。今の某国には、軍事力という圧倒的なアドバンテージがある。そこをなんとかしなければ、進展は見込めないかと」
その発言を受けて、一人の議員が声を上げた。
「防衛大臣!自衛隊は何をやっているのか!開戦からこれまで、日本は押されっぱなしだ!自衛隊が本来の任務を果たしていれば、この状況はなかったのではないですか!?」
そんな声に対して、防衛大臣が起立する。
「自衛隊は、開戦当初からその任務を十分に果たしております。事実、某国による空襲も本土上陸も今日まで一度も許しておりません」
「そんなことは当たり前だ!そもそも、日本海の防衛もままなっていない現状についてはどう説明するのか!?某国の機動部隊は未だ野放しなのですぞ!」
批判の勢いを緩めない議員に対して、防衛大臣はため息まじりに答えた。
「正直に言えば、現状の自衛隊にはコレが精一杯です……。広大な防衛線に、弾道ミサイルや航空機への警戒。さらに某国の物量を前にして、我々は圧倒的に戦力が足りない……。大体、我々は常日頃から自衛隊の戦力増強の必要性を訴えてきたのに、それを何かと妨害したのは……」
防衛大臣の言葉を遮って、文部科学大臣が手を挙げた。
「防衛大臣、自衛隊の戦力不足というのはそれほど深刻なものなのでしょうか?聞いたところでは、特に航空自衛隊は開戦直後から新たな航空部隊を多数編成しているようだが……」
そんな問いかけを受けて、防衛大臣は再びため息を漏らした。
「……貴方が仰っているのは、第5即応航空群のことでしょうか?言ってしまえば、あんなものは畑に立てた案山子ぐらいの意味しかありません。そもそも、編成した16の部隊の内で本当に飛行機を飛ばせるものも、半数にも及びません……」
「それらの部隊は、実戦で役に立つのですか?」
「彼らには、満足な装備すら行き渡っていません。活躍を期待することは酷でしょう……」
その時、ある議員が防衛大臣に対して問いかけた。
「防衛大臣に質問します。航空自衛隊の報告書によると、先日の敵航空機侵入に際し、その5空群の一部隊が迎撃に当たったとありますが?」
それを聞いた防衛大臣は、手元の資料に視線を落とした。その一件は、首都防空のために配置した一部隊が首都の完全防空に強い拘りを見せ、その進言を受けた司令部が急遽の配置変更を認めたというものだった。
「……それについては、現場からの要請に応じて、司令部で状況に適した判断を下した結果です」
「それは、他ならぬ現場の人間たちが、5空群が十分な戦力たると判断しているということなのでは?」
「……そうなりますな……」
その言葉を聞いた総理大臣が、静かに口を開いた。
「防衛大臣。今の日本には、何かを選り好みできるほどの余裕がない。現場がやれると言うのなら、やらせるべきだろう……向こうは、少なくとも飛行機の相手はこなせると言っているのだ……」
他ならぬ総理大臣にそう言われてしまっては、是非もなかった。
「……はい。5空群を主力に編入しての航空作戦の立案に入ります……」
「頼むよ……。もしも敵の空母を一隻でも潰せれば、状況は格段に良くなるはずだ……」
そうして会議は幕を閉じた。この後、航空自衛隊の総力を結集しての某国空母攻撃作戦が立案、発令されることになるのだが、そのきっかけを作った彼らはそのことを未だ知らない。
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