銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月- 作:キルメナイム
作者からのお知らせ
もうじき、リアルの仕事が繁忙期に入るため、2月と3月は本編の更新がありません。コメントへの返信も、かなり遅れがちになると思います。ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。
日本ダービーの開催から1週間が経った。トゥインクルシリーズを彩る一山を乗り越えたウマ娘達の間には、和やかな空気が流れていた。
そんなある日の昼休み、トレセン学園の中庭を、二人のウマ娘が歩いていた。
「スペちゃん。改めて日本ダービーの優勝、本当におめでとう」
「えへへっ♪ありがとうございます、スズカさん!」
サイレンススズカとスペシャルウィーク。学園のレースチーム『スピカ』に所属する、学園の中でも有力者として数えられるウマ娘だ。二人は先輩後輩の仲であり、スペシャルウィークはサイレンススズカへの強い憧れを糧に日々のトレーニングに励んでいた。そして、そんな彼女の日々の努力が、先の日本ダービーにおいて成果を示したのだ。二人は、その祝いのために昼食を共にした後だった。
「そういえば、スズカさんと一緒にお昼ごはん食べたのって、かなり久しぶりですよね。最近はお互い忙しくて……」
「そうね。でも今日は、おめでとうってどうしても伝えたくて……」
「その気持ちだけでもとっても嬉しいです!そういえば、故郷のお母ちゃんも先日お祝いの電話をしてくれたんですよ〜!」
「よかったわね。お母様はお元気?」
「はいっ!」
会話が弾む。笑顔と笑い声は絶えるところを知らない。今の二人にとっては、この何気ない一時が何よりも尊く感じられていた。
「それにしても、まさか日本ダービーに2回も出走できるなんて思いませんでした……」
「戦時下の国内世論の盛り上がりを狙ってのエキシビションマッチなんてね。URAも素敵なことを考えてくれたわ」
「これからは、他の重賞レースにもエキシビションマッチが追加されるそうですよ?スズカさんにもお誘いがかかるかもしれませんね!」
スペシャルウィークがサイレンススズカに向かって笑いかけた。
その時だった。
「それは間違いないんですか!?」
突然、そんな声が二人の耳に入ってきた。二人が反射的に声のする方を見てみれば、迷彩服に身を包んだ男が二人、中庭の木に背中を預けて話していた。
「声が大きいですよ……。他所の部隊にいる通信員の同期から聞いたんで、多分マジですよ……」
「それは……大変なことになりましたね……」
彼らは、見るからにあの飛行場の関係者だ。そして、その顔色と口調から察するに、彼らにとって予想外の何かが起こったのだろう。スペシャルウィークは、付近の茂みに隠れて聞き耳を立てた。サイレンススズカも、慌てて後を追う。
「スペちゃん、盗み聞きなんて良くないわ……行きましょう?」
「あの飛行場で何か起こったんだったら、事によっては私達にも影響があるかもしれません。少しだけでも……」
そんな間にも、茂みに潜む彼女たちの存在に気付いていない隊員たちは、変わらず会話を続けていた。
「まさか、502空が主力部隊に編入なんてなぁ。そうなると、ここはもう引き払うことになるんですかね?」
「いや、基地の移動は無いらしいですよ。どうやら、主力部隊が動くときだけ動員されて、派遣社員みたいな立ち回りをすることになるらしくて……」
サイレンススズカとスペシャルウィークは、互いに顔を見合わせて首を傾げた。彼女たちには、自衛隊のことは勿論、戦時下における部隊運用の知識などありはしない。それでも、目の前の自衛隊員たちに対して、何か予想外の大きな仕事が降り掛かったらしいということは理解できた。
「主力……?派遣……?どういうことなんでしょうね、スズカさん」
「さぁ……?私にも自衛隊のことはよく分からないわ……」
その間も、男たちの会話は続いている。
「もっとも、回ってくる任務は子供の遣い程度のモンだろうって話ではありますけど……」
「それでも、正直なところを整備員として言うなら止めてほしいですね……。今の我々の機体では、本格的な戦闘なんて無理です。機体もエンジンもほとんど限界で、部品だってマトモに揃わないのに……。第一、それって我々がやらないとダメなんですかね?」
「今の日本は、某国相手に足りない物しかないんですよ。上からしたら、飛べる飛行機は一機でも惜しいんでしょう。それに、我々には前例を作った責任が……」
「前例……あぁ、先週の──」
その瞬間、スペシャルウィークは思わず身を乗り出していた。隊員の口から発せられたのは、日本ダービーがあった日付だったのだ。
「その日って、日本ダービーの……?」
スペシャルウィークは、より一層注意深く聞き耳を立てる。
「あれって、あの敵襲があった時に航空隊長が東京の完全防空にすごく拘って、特別に502空の配置変更が認められたんですよね?」
「そうなんですよ。なんでも、司令の口添えがあったとかなんとか……。とにかく、上の人らから見た一連の行動は、502空には某国戦闘機をボコボコにするヤル気と技能があります、って意思表示に他ならないってことで……」
「なるほど……でも、加賀一尉は東京の完全防空にどうしてそこまで拘ったんでしょうか……?」
「うーん……直接聞いたわけじゃないけど、ここの娘たちに気を遣ったんじゃないですか?ほら、僕達ってこんな場所を間借りして飛行機を飛ばしてる訳ですし……」
そして、スペシャルウィークとサイレンススズカは全てを理解した。あのレースの日、府中の空に何が起ころうとしていたのかを。そして、その裏に今まで僅かながらにも憎悪の念を向けていた自衛隊員たちによる大きな配慮があったことを。
「スズカさん……私、私……!」
スペシャルウィークは、胸の内に湧き上がってくる様々な思いを感じながら、サイレンススズカの方を見た。
「スペちゃん、チームの皆に話しましょう。このことは、私達だけが知っていていいことではないわ……!」
「はい……!」
二人は、互いに頷き合って静かにその場を離れた。
この後、この日本ダービーの裏話は、トレセン学園の内部においてゆっくりと、しかし確実に広まっていくこととなるのであった。
今回も読んでいただいてありがとうございます。作品への感想、質問、アドバイスなど随時受け付けておりますのでドシドシ送ってください。