銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月- 作:キルメナイム
変わり果てたグラウンドを訪れた生徒会の面々を、一人の隊員が出迎えた。
「生徒会の皆さん、わざわざ足を運んでいただきありがとうございます。この後の式典についての確認ですが……」
「こちらで事前に確認しております。お気になさらず」
シンボリルドルフは、にこやかに声をかけてきた隊員に素っ気なく答え、辺りを見回した。
突貫で整備された滑走路の上を、迷彩服を着込んだ男たちが走り回っている。周辺には大小様々な車両やコンテナ、車載型のレーダーらしき物や対空砲などが並べられ、トレセン学園が軍事拠点へとその姿を変えていることがひしひしと伝わってきた。
「今や、ここが国防の最前線というわけか……」
シンボリルドルフの隣に立っていたエアグルーヴが、静かに呟く。
「残念ながら、その通りです」
背後から飛んで来た声が、その呟きに答えた。ウマ娘たちが振り返ると、そこに制服を身に纏った初老の小柄な男性が立っていた。
「あなたは……」
「ご挨拶させていただくのは、基地設営開始の時以来ですね。特第3飛行場、第502航空隊司令の秋月義仁です」
「改めまして、トレセン学園生徒会長のシンボリルドルフです。今日から、こちらでの自衛隊の皆さんの生活に関する調整を任されました。よろしくお願いします」
柔和な笑みを浮かべる秋月に対し、シンボリルドルフは活発な礼で答える。一見すると物腰柔らかな風体の秋月だが、その笑みに隠された気迫と貫禄を彼女の勘が敏感に感じ取り、舐めてかかってはならない、と警告していた。
(この男、やはりただ者ではない……)
そんなことを考えるシンボリルドルフを前に、秋月が口を開いた。
「いよいよ今日、この飛行場に防空隊が着任します。これからは、ここも基地として本格的に稼働することになるでしょう。色々とご迷惑をおかけすると思いますが、何卒宜しくお願いしますよ」
「いえ、そんな……」
二人がそんな会話をしていたその時、滑走路のスピーカーから声が響いた。
「間もなく、第502航空隊が着任する。総員、出迎えの位置に整列!」
その号令がかかった瞬間、それまで周辺で作業をしていた隊員たちが素早く整列し、複数の四列横隊が形成された。滑走路上が、それまでとは違う緊張感に包まれる。
「おや、もうそんな時間ですか」
そんなことを言いながら、秋月も付近に設置されていたお立ち台の傍に立った。シンボリルドルフたちも、その隣に整列する。
「いよいよか……」
皆の整列が終わって数分が経った頃、上空に複数のエンジン音が響いた。東の空に、キラキラと輝く影が見え始める。それは、みるみる滑走路に近付いてきて、その形がはっきりと見え始めた。
「あれが……」
上空に、9機の戦闘機が姿を現した。それらは、一糸乱れぬ編隊を形成して校舎の上空を通過し、その周りを3回旋回したあと、滑走路に静かに着陸した。
「すごい……」
「彼らは皆、とても優秀なパイロットです。実力については保証しましょう」
一人のウマ娘が、思わずと行った調子で呟いた。それに答える秋月は、どこか誇らしげだ。
戦闘機が地上で静止すると、周辺で待機していた整備士たちが次々に機体へ駆け寄った。それと入れ替わるように、パイロットが滑走路へと降り立つ。
着陸を無事に成功させたパイロットたちは、重厚なヘルメットを外すと秋月の前に整列し、力強く敬礼した。
「第502航空隊、1等空尉加賀蒼一以下10名、20XX年5月26日付、特第3飛行場付き首都外縁防空任務を命ぜられ、ただいま着任しました!」
「諸君らの任務は極めて重要です。活躍を期待していますよ」
「国民のため、全力を尽くします!」
秋月の言葉に力強く答えた加賀は、次にシンボリルドルフの前に立った。
「第502航空隊、随伴602航空機整備隊、702設備守備隊、本日よりお世話になります。大所帯ではありますが、よろしくお願いいたします!」
「日本のため、全力で皆さんをサポートします。生活の上で不具合があれば、遠慮なくお伝えください」
そう答えたシンボリルドルフは、加賀と握手を交わした。
直後、音楽隊の奏でるファンファーレと隊員たちの拍手が二人を包む。
これが、トレセン学園と彼らのファーストコンタクトであった。
特第3飛行場→トレセン学園の滑走路に防衛省がつけた名称。特措法に基づいて作られた3つ目の飛行場という意味である。
やって来た戦闘機が9機なのに対してパイロットが10人なのは、1機だけ複座機だからです。