銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月- 作:キルメナイム
爽やかな青空の下で、模擬レースが始まった。
「サクラバクシンオー、振り切ってゴール!!短距離の部第2レース、勝利を飾ったのはサクラバクシンオー!2着はキングヘイロー。3着はマルゼンスキー!」
実況のアナウンスと観客たちの歓声がグラウンドに響く。
「わっはっは!私、優等生ですから!」
サクラバクシンオーがそんな言葉とともに観客たちに手を振ると、さらなる歓声と無数のシャッター音が彼女を包んだ。
「大盛況だな……。今年も開催できて、本当によかった」
シンボリルドルフは、その歓声を聞きながら満足気に呟いた。
これこそが、トレセン学園の日常。ウマ娘たちの進む道。本来、いかなる存在にも阻むことが許されないものだ。このレースが、一時は飛行場運用の観点から中止の憂き目に会いながら、彼女を始めとする学園関係者の必死の努力によって開催に漕ぎ着けられたのは、シンボリルドルフにとって何よりも嬉しいことだった。
「なんか……スゴかったですね……」
「お前にも分かるか?だが、本当にアツいのは、午後からの中・長距離の部だよ」
「おやっさんのお気に入りの娘が出るんですよね!俺も楽しみです!」
レースを観に来ていた隊員たちも、そんなことを話していた。どうやら純粋にレースを楽しんでくれているようであり、シンボリルドルフは静かに微笑む。
模擬レースは馬場と距離ごとに区切ったプログラムが組まれ、ダートの部に短距離の部、マイルの部が午前中に、中距離の部と長距離の部が午後から行われることになっていた。
「今から昼休憩を挟んで午後の競技へ……進行は予定通りだな」
腕時計を見ながら呟くシンボリルドルフの後ろで、二人の隊員が立ち上がった。
「よし、寄り道は一旦終わりだ。巡視の報告済ませて、メシ行くぞ」
「はい!」
(せっかくの機会だ、彼らに声をかけてみるか……。相互理解が学園の平和な運営にも繋がるかもしれないしな…)
シンボリルドルフは、隊員たちの会話を聞きながらそんなことを考えた。そして、思い立ったが吉日とグラウンドを立ち去ろうとする二人の背中に声を掛ける。
「あの、少しお時間よろしいで……」
その時だった。学園のスピーカーから、突然大音量のアナウンスが流れ始めた。グラウンドにどよめきが広がる。
「なんだ!?」
シンボリルドルフが思わずスピーカーの方へ振り返ると、無機質な機械音声が辺りに響いた。
『皆さん、こちらは防衛省です。ただいま、関東地方の全域に空襲注意報が発令されました。関東地方全域で、空襲が発生する可能性があります。該当地域にお住まいの皆さまは、屋外での運動や集会、危険物を扱う作業などを直ちに中止し、避難準備を開始してください。繰り返します……』
なんということだ!!シンボリルドルフは、心の中でそう叫んだ。空襲注意報とは、某国の戦力が日本の領域に侵入した際に、初期迎撃に失敗した場合に被害の発生が想定される地域に発令されるものだ。これが発令された以上、模擬レースは一時中止し、学園関係者や見物人たちを避難させる準備を始めなければならない。
「こうなっては致し方ないか……」
シンボリルドルフが歯ぎしりを堪えながら避難誘導を始めようとしたときだった。
「クソッタレが!」
誰かの怒声が、シンボリルドルフの耳に突き刺さった。彼女が声の方へと振り返ると、怒声の主はついさっき声をかけようとしていた隊員だった。
「ヤス、落ち着くんだ」
「……すみません」
「基地に戻るぞ。502空の発進準備だ」
二人が滑走路の方へ走り出した直後、新たなアナウンスがサイレンと共にグラウンドに響いた。
『総員、第二種警戒態勢!航空隊発進準備!準備完了後は、別命あるまで待機せよ!』
直後、付近の兵舎から隊員たちが飛び出してくる。
「回せ!回せ!!」
「502が上がるぞ!滑走路空けろ!」
「手空きは対空火器に付けぇ!」
滑走路上を隊員たちが走り回り、辺りの緊張感が際限なく高まっていく。シンボリルドルフは、その光景に釘付けになっていた。
「そんな……」
「会長!」
そんな彼女に、背後からエアグルーヴが声を掛ける。
「やむを得ません、レースは中断です。避難誘導の指揮を!」
「ああ……!」
エアグルーヴの声に我に返ったシンボリルドルフは、生徒会のウマ娘や学園職員と共に避難誘導を開始した。
そんな彼女の瞳に映ったのは、恨めしそうな目でスピーカーや滑走路を睨みつけるウマ娘たちの姿だった。
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