銀翼の下、芝青々と砂塵舞う。-蹄鉄飛行場の6ヶ月-   作:キルメナイム

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リアルの仕事が忙しくて、投稿に間が空いてしまいました。申し訳ありませんm(_ _)mこれから、少しずつにはなりますが投稿ペースを戻していきます。


第6話 夜空への誓い

 月明かりに照らされた夜道に、二人の足音が静かに響く。

(うわぁ〜〜……気まず……)

 康井の背中を見ながら、ナイスネイチャは心の中で呟いた。彼女は、目の前の自衛官をつい先程理不尽な理由で怒鳴りつけてしまったのだが、その彼が今は自分を寮まで護衛してくれている。

(とりあえず、さっきの事は謝らなくちゃ……。それから、送ってくれてありがとうございます……。でも、どう声をかけたらいいんだろう……?いきなり謝ったりお礼言ったりしても何か変だし……)

 言いたいこと、言わなければならないことは頭に浮かんで来るものの、話がうまく切り出せない。寮に着く前に、せめて謝罪だけは伝えなければ……。ナイスネイチャは、そう自分に言い聞かせながら、康井に投げかける言葉を探し続けていた。

 一方で、そんな彼女の前を歩く康井もまた、懐中電灯を握る手を遊ばせながら思考を巡らせていた。

(軽率だったなぁ……仕事のためとはいえ、無神経だったよなぁ……)

 康井を始めとする航空隊の関係者は、学園のウマ娘たちが自衛隊に対して良い印象を持っていないことを知っていた。考えてみれば当然な話だ。当人たちは確かな目標を持って学園生活に真剣に臨んでいるのに、いきなり始まった戦争のためにそれが干渉を受けるなど冗談ではないだろう。さらに近頃は、彼女たちの出場するはずだった主要なレースにも非常事態宣言の影響で中止や延期の措置が取られ、それらに対する不満も絶頂点だ。

(きっとこの娘にも、今日のレースにかける思いがあったんだろう。それが、こんな形で中止になって……。さらに、その憂さ晴らしにまで口出しをされたんじゃ、たまったもんじゃないよな……)

後ろを歩く彼女の心痛を思うと、懐中電灯を握る拳に力がこもる。俺たちは、なんて無力なんだろうか……。

「あの、ナイスネイチャさん……」

「……ッ!はい!」

 沈黙を先に破ったのは、康井の方だった。いきなり声をかけられたナイスネイチャは、少し驚いた素振りを見せながら返事をする。

「今日のレースの件、申し訳なかったと思っています。我々の力不足のために、辛い思いをさせてしまって……」

 康井の口から放たれたのは、彼女にとっては予想外の謝罪だった。

「いやいやいや、謝ったりしないでください!今日のレースはたしかに残念だったけど、自衛隊の皆さんが悪いわけじゃないのは分かってるっていうか……さっきのはアタシが理不尽に怒鳴っちゃっただけで……」

 ナイスネイチャは、半ばまくし立てるように康井の言葉に応じた。

 そう。自衛隊は、日本がこの非常の事態に際しても、日本と日本国民の生命を守るために命懸けの任務に臨んでいるのだ。トレセン学園に展開している航空隊もその例外ではなく、今日の空襲注意報も自衛隊の覚悟と日々の努力があってこそのものである。彼女自身も、その事を頭では理解していた。

「自衛隊の皆さんは、アタシたちの命とか生活を守ろうと必死で頑張ってくれてるのに、さっきはあんな酷いこと言っちゃって……本当にごめんなさい……」

 耳を萎ませて頭を下げるナイスネイチャだったが、そんな彼女に康井は沈んだ声色で答えた。

「あなた方のお怒りはもっともですよ。アスリートの現役で戦える時間というのは、何よりも貴重なものなんですから……。本来なら、こんなくだらない戦争で奪われて良いものじゃないのに……」

「康井さん……?」

 康井の言葉の端々には、その心の底で押し潰され、凝縮されたかのような怒りが滲んでいた。それは、戦時の中で一人の自衛官が抱く怒りとは違ったものにも感じられた。

「康井さんは、昔スポーツをされていたんですか……?」

 ナイスネイチャの何気ない問いかけに、康井は苦笑いを浮かべた。

「いけませんね、勤務中に感情的になってしまった……。私自身は、運動部にいた経験はないですよ。幼い頃から読書なんかが好きで、根っからのインドア派でした。ただ、妹がね……」

「妹さん……?」

「ええ。私には、今年で高校3年生になった妹がいるんですが、小さい頃から水泳をやっていましてね。今年は、水泳部の最後の大会に出て結果を残すんだって意気込んでたんですよ……」

 そこまで聞いて、ナイスネイチャは察した。この戦争によって理不尽に夢を奪われた被害者は、ウマ娘だけではない。彼の妹も、その一人だったのだと。

「ここに着任する前に、一度だけ実家に帰りました。その時に、妹から大会が中止になったことを知らされて、責められましたよ。どうしてこうなったの?自衛隊は何やってるの、ってね……」

 ナイスネイチャは、康井にかける言葉が見つけられずに俯いた。同じアスリートとして、最後の勝負の機会を奪われた少女の痛みには深く共感できる。しかし、その怒りを一身にぶつけられたとて、現場の一自衛官に何ができようか。できないからこそ、彼は苦しんでいるのではないだろうか。そんな彼女に対し、康井は言葉を紡いでいく。

「その時に、自分や自衛隊が如何に無力かを思い知りました。我が国の平和と独立を守る、事に臨んでは危険を顧みず。大仰な宣誓をしておいて、なにも守れていない……」

「康井さん……」

 康井の言葉の一つ一つからは、彼の自衛官としての使命感や責任感の強さが感じられた。そして、それまで力無い口調で話していた康井だったが、ふと夜空を見上げると力強い声色で言った。

「ですが、いつまでもこのままではありません。私は、パイロットの方々のように直接敵と戦うわけではありませんが、もっと頑張ります。航空隊が少しでも強く在れるように。この戦争を一日も早く終わらせるために。そして、この学園の皆さんが安心して、何も恐れることなく走れる日本を取り戻して見せます」

「……!!」

 彼の言葉を聞いたナイスネイチャの中で、その価値観が大きく変わろうとしていた。今まで知ることのなかった自衛隊の一面を知ることによって。彼らの国防への真摯な思いを見たことによって。

「康井さん、今日は本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします。全力で任務を全うします」

 康井は、ナイスネイチャの言葉にそう答えながら優しく微笑みかけた。

 その後、ナイスネイチャを寮まで送り届けた康井は、彼女と彼女の帰宅を待っていたフジキセキに力強い敬礼を見せ、基地へと戻ったのだった。




キャラ紹介
康井 幸太(やすい こうた)
階級 空士長
12月10日生まれ
年齢 19歳
 生真面目な性格で、公私をしっかり分けるタイプ。幼い頃からの憧れがきっかけで航空自衛隊に入隊した。部隊配属2年目にして開戦に立ち会い、特第3飛行場に配属された。


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