わりと厳しめな異世界に希望の光を照らしたったw(邪神もいるよ!) 作:lane
その日は朝から腹が立つことばかりだった。朝四時に掲示板に張り付いている虫どもと熱いレスバをかまし、朝食を作ろうと卵を割ればそのまま流しにホールインしたり…とにかく朝からついてない日だった。
学生鞄を肩にかけ、両手にスマホを持ち、登校する。最近のブームで今やってるゲームの最難度ミッション…ハル○ララの有馬記念の因子厳選の最中だった。
「俺が…必ず…お前を、ハッピーエンドに…」
かれこれ費やした時間は未だ30時間ほどだが、俺は諦めるつもりなど毛頭なかった。いつかは達成できる。達成するまでやる。故に必ず達成する。
だけど、スマホが雷に撃ち抜かれ、謎の空間に飛ばされてしまえば、きっともう2度とクリアすること自体不可能なんだろう。
手に痛みを感じた時にはもう遅かった。周りを見渡せばぐちゃぐちゃの月と荒廃した世界が広がっていた。
訳が分からなかった。自分はさっきまで学校へ向かっていたはずだ。それがどうしていきなり、こんなことになる。なによりも直前の雷で撃ち抜かれたスマホは貫通してうんともすんとも言わないガラクタへ成り果てた。決めたのに、決意したのに。誓ったのに…必ず幸せにすると。
「俺の愛馬がぁぁぁぁぁぁ!?」
「あの…」
「えっ…」
目の前、というよりは床に横たわっているとんでもない美貌の幼女がそこに居た。その美貌とは裏腹に手とかポヨポヨしてるのがGOODだね。そして幼い子女の胡乱げな目が俺を興奮させる…じゃなくて、俺は定番のギャグをかますことにした。
「ここはどこ?私は誰?あなたは一体?」
その言葉を待っていたと言わんばかりに目を輝かせる幼女。可愛い。
「くすくす…。んんっ…質問だらけですがお答えしましょう」
柔らかい物言いに後光がさす。立ち上がり、手を祈るように組んだその姿は正に女神様みたいだったりした。服装と体型さえしっかりしていれば。
「ここは神の空間ですよ〜。そして私は貴方達の世界で言う神…創造主にあたります。実は…手違いで貴方を雷でうっかり殺してしまいました…」
「マジすか、てか、マジに神様なんすか」
まさかの展開がそこにあった。ベタすぎないかこの神様。
「マジです。マジに女神なんです」
神妙な面持ちで意外とフレンドリーな一面を覗かせる女神様。でもこんなちんちくりんだしな〜。俺のスマホの件とか、ちょっと許せないけど、正直、この容姿のせいで怒る気がどんどん萎えていく。
「ごめんなさい…殺しちゃって…」
「殺しちゃったんですか」
「はい…殺しちゃったんです」
「そっか…それなら…しょうがないね…」
尻窄みに声が小さくなる彼女を見ていると、なんだか俺が虐めてるような錯覚を感じる…おかしいな?俺は被害者…だよな?
「えと、お詫びになんですけど、天国で暮らすか…貴方が望むなら異世界転生も出来ますよ」
「異世界!?異世界行く!!」
俺は女神様に詰め寄った。異世界だ!死んだことなんてどうでもいい!あの、剣と魔法の異世界に行けるんだ!俺が欲しい能力はえーとえーと…
「わわっ、顔が近いです…!」
「あっ、ごめんなさい。浮かれてて…あの、能力とか欲しいんですけど出来ますか?」
「能力…ですか?強靭な生命力や無尽蔵の魔力の付与などは出来ますが…」
うーん…あんまり格好良くはないけど無尽蔵の魔力は惹かれるな…
でも、その世界の危険度によっては手堅い選択なのか?
「俺が行く世界って選べたりします?あと危険度とか教えてくれたら嬉しいんですけど」
「そうですね…貴方の思い描く世界に近い世界が一つあります。アムカの世界というのですが、戦争もそれなりにありますし、命はかなり軽い扱いですね。あと、繋げられる世界にも種類がありまして、虫の世界とかもありますよ」
「虫の世界なんてものもあるのか…でっかいカブトムシとか居たら強そう…。うん、決めた」
「俺をアムカの世界に強靭な生命力と無尽蔵の魔力付きで送ってくれ」
虫の世界にも惹かれるが、やはりファンタジーな異世界の魅力には勝てなかったよ…
「くす…わかりました!では送りますよ?後悔はないですね?」
後に俺はこの事を死ぬほど後悔する。異世界に浮かれて神を自称する詐欺師に気づけなかったことを。
「女神アビスの名の元に告げます…良い旅を」
下の魔法陣が再び輝き、俺を包む。最後に見た表情は女神様の満面の笑みだった。満足気でやけに嬉しそうだ。可愛い。
これから俺の異世界生活が始まる。まず何から始めようか。現代知識無双?内政?冒険?俺は期待に胸を膨らませ流れに身を任せた。
1人の魂を送った後、私はついに堪えきれずに吹き出した。
「ぷふ…女神アビスって…!!はぁー!疲れるっ!!」
今思い出しただけで笑いが止まらない。これからどんな目に遭うかも知らないのに、目をキラキラ輝かせて異世界、異世界って…!
「馬っ鹿みたい。最高すぎるでしょ。何でそんなとんとん拍子で異世界に行くのよ。疑う事を知りなさいよね、本当。その顔が絶望と苦痛に歪んで死んでいくだけじゃ勿体無いわ。魂が汚染するまで凌辱の限りを尽くしてやろうかしら…」
「くすっ、まずは最初の試練よ。この世界が終わってるって事をその身に刻みつけてあげる」
邪悪な目で魔法陣を見つめる。その目にはもはや嗜虐心しか映っていなかった。
浮遊感が治り目を開けた俺の目に飛び込んできたのは、草一本も生えていない荒地だった。陽射しはカンカンと照りつけ、かなりの暑さだ。
普通、柔らかな陽光が差す森とか、賑わっている街の中とか割と異世界を感じられる場所に送られるものとばかり思っていたが、現実は意外と厳しいらしい。
「ま、いいや。自分で見つけるってのも異世界の醍醐味だもんな〜」
俺は当てもなく歩き出した。適当に街道に出れば町か村か見つかるだろうと。そう信じて…5時間。
結論から言うと町はなかった。いやあるにはあったけれど誰一人として住んでいなかった。特に家が壊れている、とか襲撃があったとかそんな感じはなかったが、綺麗さっぱり人だけが消えたような…ゴーストタウンというものなんだろう。そこに到着した。
「夜も近づいてきたし、ご飯食べて寝るかぁ」
町の食料は全て腐っていた。人が居なくなって結構時間が経っていたようだ。だが、異世界大好きマンの俺に死角はない。
荒地で草一本も生えない環境になんと色鮮やかな青いキノコが咲いていたのだ。もちろん異世界クオリティかのような自分の胴ぐらいのカサのデカさは圧巻だった。そしてなによりもまるで宝石のような輝きに思わず目を擦った。採取した後もちょっと目が痒かったけれど今は何ともない。
食料を予め確保する…サバイバル生活の定石だぜ。脳裏にはワイルドな俺がテキパキと火を起こしていた。残念ながら家を調べても火を起こすような場所も器具もなかったから、生だけど。
「ほな、生でいただきまーす」
瑞々しい青いキノコを口に含んだ瞬間俺の意識は闇に消えた。
「ちょぉっとぉぉぉ!!!何勝手に死んでるのよこいつぅぅ!!!」
嫌がらせにわざわざ人が居ない荒地に飛ばして、その様子を水晶玉で監視しながら、ちょっと力を使い過ぎたので寝ようとしたその矢先、馬鹿が毒キノコを食べて死んでいたのだ。
「蘇生魔法…蘇生魔法…あぁもうめんどくさい!蘇りなさい!」
僅か5時間で遺体になって帰ってきた男に乱雑に魔法をかける。ちなみにあのキノコは即死するタイプで、如何に邪神が与えた強靭な再生力持ちでも死に至る代物だった。というかそんな道端で死ぬような体じゃないと鷹を括って即死耐性を付けなかった邪神のミスともいえる。
「あれ…俺は…?」
「お…」
「お?」
「お馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!」
邪神の叫び声が朽ちた神界に響き渡った。