仮面ライダーEpisode DIEND 宝と罪と欲望連鎖 作:ホシボシ
あとタイトルもちょっとだけ変わりました。
詳しくはあとがきで。
少年は空を見上げていた。
果てしなく続く空、そこを自由に飛びまわる鳥達はなんとも楽しそうに少年の目に映る。
彼らはこれから無限に広がる空を飛び回るのだろう。それは自由、究極の自由ではないか。
「大輝、自由には危険が伴うものだよ」
「兄さん……」
そんな自分の意思を知ってか、兄は彼を抑える言葉を頻繁にかけていた。
鳥は人間からみれば自由かもしれない。しかし彼らは毎日食べる餌に苦労し、いつ天敵に狙われないとも限らない。
それに加えて猟師からは狙われるかもしれない、巣にも帰れないかもしれない。
「お前はそんな環境でもいいのか?」
「僕は……」
海東大輝は幼いながらにそれでもいいと思った。
しかしそれを言葉には中々できないものだ、何故ならば兄が自分の目指す場所とは真逆にいる為である。
管理された環境、管理された箱庭、管理された自由。そこに多くの幸福があるとしても、海東は自由を追い求めたかったのだ。
いや、自由とは少し違う。自分が納得する世界――?
「ま、気持ちは分かるけどよ。俺達はそういう世界に生まれたんだ」
「そうよ大くん。それに管理される中で自由を見つければいいじゃない」
もう一人の兄も、姉も、自らの人生に疑問を持つ事はない。
いや本当は心の中に何かを抱えているのかもしれないが、それを隠して生活をしている。
それが大人としての在り方だと成長の中で知ったからだ。
兄達だけでなく、父や母、そしてここに存在する者達は皆それを受け入れる。
受け入れる事が大人になると言う事なのだから。
「外は危険だ。自由を求めると言う事は、相当の覚悟がいる」
「だな、お前が思ってるよりは大変だぜ」
「今度の支配者様は今までで一番優しいかもしれないわ、きっと大くんだって好きになる」
「それ、前も聞いた」
兄達は口々に海東を納得させる言葉を放つ。
それはそうだ、自分達は管理者である。支配者の側近として世界の安定と調和を保つ事が仕事であり、生きる中で与えられる役割なのだ。
「僕は、支配者って響きが気に入らないんだ」
「大輝……それは言い方の語弊だ、何も本当の支配者ではないよ」
与えられた自由など、もはやそれは自由ではない。
支配と言う檻に囲われた自分達に与えられるモノは、つきつめれば全て幻想ではないか。
もちろんそれに納得できればそれは幻などではなくなる。しかし少なくとも、海東大輝はそれを認めなかった。
世界には支配者がいて、彼がつくる平和な世界で自分達は生きさせてもらえる。
彼が与える平和、争いの無い世界、そこにあるのは完全な調和だ。
(そんなの、おままごとと変わらない)
自分は人形じゃない、支配者になりたいんだ。
海東はその思いを常に抱きつつあった。だが兄弟達への後ろめたさか、彼はその思いを胸に秘めたまま毎日を送っている。
それでも頭の中を常にぐるぐると駆け回る自由への渇望。
自分に嘘をつく意味はあるのか?
支配者は僕がいい、与えられるのではなく奪い取ってでもいいから自分の意思で全てを決めたい。
そんな欲望が彼の心で毎日蓄積されていく。
だが現実と言うのはそう簡単にいく訳もない。
彼は物語の主人公ではない、都合のいい事など起きはしなかった。
彼が彼が望む自由を求める中で、どれだけの行動を起こそうとしただろうか。しかし結局彼は自由を得られなかった。
いや得ようとしなかったのかもしれない。
それは彼自身が心のどこかで諦めを持っていたからだろうか。
血筋、家系、役割、責任、期待、それらを彼は受け止めて生きてきた。彼の首には、生まれた時から鎖があったのかもしれない。
それを必死に今まで否定してきたが、彼自身が成長すると同時に首についた鎖が見えてきたのだろう。
「………」
ふと空を見上げれば、青い鳥たちが群れを成して飛んでいくのが見えた。
やはりその姿はなんとも自由そうで、湧き上がる想いと言えば羨ましいとしか言い様が無い。
「青い鳥の話を知っているか?」
「兄さん」
いつからか、一番上の兄は自分を複雑な眼で見る様になっていた。
それはきっと彼もまた自由を求めたからだろう。そんな話を聞いた事がある。
だが結局兄は両親からしかられ支配に屈したのだ、言い方は悪いが。
「兄さんは分かるんじゃないか? 僕の気持ちが」
「………」
ため息をつく兄。
「大輝、幸せとは案外目の前に落ちている物なんだ」
「………」
「住めば都と言う言葉だってある」
一度諦めた兄の心には、もう求める物は無かったのだろう。
与えられた役割を全うする人形、それを分かっていつつ適応しようとしている。
海東はそんな兄が立派だと思った。
そして同時に、そうなりたくは無いと思った。
別に軽蔑しているわけではない。
彼は本当に兄を尊敬しているし、嫌ってなどいない。だが兄の様な生き方をしたいかと言われれば、それはノーだ。
だがそんなえらそうな事を思える立場なのだろうか? 自分もまた日を重ねる毎に兄に近づいていっている。
それに自分は兄と違って意思表示だってちゃんとしていないじゃないか。
自分は兄よりも酷い。
「お前ももう17だ。そろそろ現実を見た方がいい」
「………」
気づけば、自分は随分と成長していた。兄二人も、姉も、もう立派な大人だ。
自分が空を見続けている間に、きっと自分も大人になっていくのだろう。
自由に夢を抱いたまま、閉鎖された世界を受け入れる。
「似合っているよ、大輝」
「うん、本当に大くんはカッコいいわ」
「俺のお古だけどな」
気づけば自分は仕事をする為に必要な正装、スーツを着ている。
海東は鏡を見ながら心の中で舌打ちを行った。酷い顔だ、死んだ魚のような目をしている。
だがこの経験は良かった、おかげで自分は意思をハッキリと固められたのだから。
自分はあの鏡に映っていた死んだ魚の目をしていたままでいいのだろうか?
いや、そんなの決まりきっている。いい訳が無い、自分はココにいるべき人間ではないと海東は確信した。
そもそも考えてみれば仕事を継ぐのなら兄や姉がいれば十分だろう。その内に彼らにも家族ができ、そこから継がせていけばいい。
(僕は僕のやり方で生きる)
そう決めた彼の行動はすぐだった。
今まで自分を閉じ込めていた家族への罪悪感や後ろめたさはあの鏡を見た瞬間に消し飛ぶ。
彼は兄達の事を嫌ってなどいない、しかしこの海東大輝が世界で最も愛する人物は自分自身だ。
自由を失い、不満と言う檻の中に生きる自分は自分ではない。
そう思えば、彼は自然と家を飛び出していた。どこへ行く訳でもない、明確なプランがあった訳でもない。
ただ彼は見果てぬ自由を求めて家を出た。家族には置手紙を一つ、自分が今まで何に使うわけでもなく貯めておいた小遣いを持って彼は夜の世界をただただ行く当ても無く走り抜ける。
「はは、ハハハハ!」
不思議と不安は全く無かった。
自分がこれからどうなるのかなんて何も考えていないし、当然予想もつかない。
しかし彼には全てがうまくいく様な気しかしていない。そして次々と開放感と言う感情が海東の全身を包んでいた。
体が軽い、どれだけ走っても、どれだけ心臓が張り裂けそうで苦しくても、彼の中には幸福感が迸っていく。
やはり自分が生きるべき世界はこの自由の中にあった。
たとえその中にどれだけの危険が潜んでいようとも、どれだけの悪意が存在していようとも。
たとえ、その中で命を落とす事があっても自分は悔いなく死ねる。
物心ついた時から抑制されていた彼の自由を求める欲望が、この時をもって開放されたのだからその高揚は想像以上だったろう。
「素晴らしい」
「!」
故なのか。それは偶然だったのか、必然だったのかは分からない。
しかしこの時に彼の全ては本当の意味で始まりを告げた。
夜の闇の中をただ走り回っていただけの海東。
そんな彼を呼び止めたのは長身の女性だ。随分と西洋じみたファッション、大きな帽子の下で女は怪しげな笑みを浮かべていた。
「素晴らしい欲望だ。熟成され、それが解き放たれたのか」
「?」
「良質であり、それでいてクセは無い。まさに求めるに極した欲の形」
舐める様な視線で海東を見る女性。
彼女の少し暗めなルージュが怪しく光りを放ち、唇もニヤリとつり上がった。
「何を言って――」
「少年、継承式に興味はあるかね?」
継承式、それが海東の世界においてどれだけ大切な言葉か。
もちろんそれを海東が知らないわけも無い。しかし彼はその言葉を聞くと、鼻を鳴らして一瞥を。
「あんな下らないもの、僕には興味の無いイベントさ。僕の道は僕が決める。支配者なんて、僕には不要なものだからね」
「フフッ! ハハハ! そうかそうか、まだこの街にも退屈ではない者が残っていて何よりだ」
他世界に興味があるから適当な奴がターゲットに選んだ世界に来たものの、随分とまあこの世界の人間はつまらないときた。
皆与えられる支配を受け入れ、与えられる欲望を自らの欲と置き換えて生活している。
誰も掴み取る意思は無い、誰も求める意思が無い。つまらん、ああつまらん!
「君もそう思うだろう? 欲望は、自らが求めるからこそ美しい」
己が心のままに欲するからこそ素晴らしいのに。
女性は力説するが、海東は呆れた様子で肩を上げる。
せっかく気分が良かったのに呼び止められ、反応してみればこの内容と来た。
「おかしな女だ。気でも違っているのか、僕はそんな話を聞いていられる程とヒマじゃないんだよ」
「フフフ。では私が気狂いだとして、ずいぶんと冷静なものではないか」
怖くないのか、その言葉に海東は即答を返す。
今の自分ならば何だってできそうな気がする。爆発した欲望は彼の態度を一変させるに十分すぎるものだった。
「僕の感情、僕の運命、その全ては僕自身が決める。そしてお前は僕に恐怖を与えるには相応しくない、ただそれだけの事だとも」
「……成程、ますます気に入ったよ君の事を」
実験材料としては申し分ない器だ。
女性は心の中でそう思う。そして彼女はどこからかおかしな形をした銃を取り出すと、それをそのまま海東に向かって差し出した。
いぶかしげな視線の海東、そんな彼を見て女性は言葉を発する。その声はなんと言葉にしていいか分からないが、耳に張り付くようなものだった。
「欲しくないかね? 究極の自由が」
「……ッ! 何?」
「もっと欲望を解き放ちなさい。これはそれを可能にする力なのだとも」
溜め込まれた欲が開放されれば、それはさぞキモチの良い事だろうと。
女性は銃を海東に向ける。究極の自由? 随分と興味をそそられる言葉ではあるが、同時に彼女の胡散臭さも相当なモノだった。
銃一つで自由が手に入ったら誰も苦労はしない。
「引き金を引けば大まかな使い方が頭に入ってくる」
「はっ! そんな馬鹿な話がある訳――」
「物は試しだ。自由を手に入れる為には、冒険も必要だと私は思うがね」
「………」
おかしなヤツだ、馬鹿にしているのか。
そうは思いつつも海東は女の言った究極の自由と言うモノに興味津々だった。
その甘美な言葉に海東は虜にされている。仮に何かしらの狙いが女にあったとして、引き金を引くくらいはどうと言う事は無い。
海東は少し挑発的な笑みを浮かべながら女から銃を奪い取る様にし、続けて引き金を引いた。
「――ッ!!」
するとどうだ、海東の脳に土石流の様に情報が流れ込んできたではないか。
なんだこれは? 混乱する海東をよそに情報はどんどんと彼の脳を駆け巡って行く。
文字通り直接脳に叩き込まれる情報、その初めて味わう感覚に海東は思わず膝をついて呼吸を荒げる。
「うっ! ぐぐぅぅ……ッ!!」
頭を抑えながら銃を凝視する。そうか、そういう事だったのか。成程それならば合致している。
何も間違っていない。これは自由へ到達する力、そして自由を得るための力だ。
この銃――
「ディエン……ドライバー」
「Dレコードを閲覧したか。これでだいたいの使い方は覚えたね?」
素晴らしいだろう? 私もその計画が完成される事を心から願っている。
しかし考えても見て欲しい、ただ指をくわえて完成を待っているなんて私は嫌だ。
我慢が嫌いなんだ、欲しいもの、興味のある事は自分から突っ込んで行かないと。
「何を言って……ッッ」
「それを君にあげよう」
「!?」
試作品のプロトタイプではあるが、その完成度は凄まじい。
女は海東に理解できない事を次々に口にしていく。
しかし海東にもしっかりと分かる事は一つ、それは女がディエンドライバーを自分へと渡そうとしている事だ。
「何故コレを僕に……?」
「パトロンだよ」
「ッ?」
彼女は素晴らしい欲望を持った海東のパトロンになりたいと言って来た。
良質な欲望は、より高みを目指して昇華してもらわなければ困る。
海東の様な欲を持った者はこの世界でも、まして他の世界でもそれなりに貴重だ。
故にその欲望を腐らせてはいけない。
「対価は?」
「――無い、お前の好きな様に動きなさい」
あるとすれば、それはお前自身がその力に喰われたときか、女はそれだけだと笑う。
とにかくそのディエンドライバーがお前にとって、私にとってもプラスに働くのだと女は説いた。
全く怪しい、海東はつくづくそう思うが――
同時に、ディエンドライバーの力を知ってしまったと言う事実が突きつけられる。
「私もグダグダと話をしにきた訳ではないのだよ。決めなさい、今ココで力を――」
自由を手に入れるか。
「それとも刹那的な快楽に身を任せ、すぐに現実を知る事になるのかを」
「………」
しばらく沈黙するが、海東はすぐにニヤリと笑ってディエンドライバーを回転させる。
すっかり銃の扱いを理解していた海東、言ってしまえばそれが答えの様な物でもある。
「いいだろう。これは僕が受け取ろう」
「そう、それでいい。お前の自由を求める心を否定するな」
「それに理由はもう一つある」
「?」
なんだそれは? 欲望を求める以外にディエンドライバーを使いたい理由があると? 女は流石に予想できなかったのか、早々に答えを求めた。
「決まっている。この銃が、僕に持ってくれと言っているからだ」
「―――ホホホ! 成程成程、それはもう十分すぎる理由だ」
女は最後にと海東に名前を問うた。
答える海東、すると彼女は今日は祝福するべき日だと言う。
そう祝福、新たなる欲望が誕生し、これよりその欲望は多くの欲に触れて成長していく事だろうから。
「ハッピーバースデイ海東大輝、お前の欲望が尽きぬ事を願っているぞ」
「フッ、僕の全ては僕が決める。それだけさ」
そう言って海東は指を鳴らす。すると彼の背後に灰色のオーロラが出現した。
その意味を彼は知っている。その意味を女は知っている。これがディエンドライバーを持つモノに許された行動だからだ。
いつの時代も欲望を突き詰めた人間は進化を遂げてきたものだ。それが周りにとって、自分にとってプラスに働くかマイナスに働くかは別としても。
「空を飛びたいと言う欲望が飛行機を生み出し、人を殺したいと言う欲望は兵器を生み出した」
「極端な話にも聞こえるがね」
まあそう言うな、女はオーロラを指差す。
「その向こうには地獄が広がっているかもしれない」
「――ッ」
女は忠告の様に告げる。
これは罠で、そのオーロラをくぐれば絶望があるのかもしれないと。
それでも行くのか? 女は海東に問いかけるが、彼はそれを愚問と切り捨てた。
「たとえこの先が地獄でも全く問題ないね」
「何故?」
「決まってるだろ。そんな事も分からないのか」
地獄ってヤツにも責任者はいるんだろう?
地獄を管理している、治めている者がいるんだろう?
「そいつをぶっ飛ばして、僕の国にしてやるとも」
「………」
なかなか面白いヤツに渡せたかもしれない。
女はオーロラの向こうに消えていく海東を見ながらそう思う。
欲望は尽きる事のないエネルギー、それを突き詰めれば神の領域に達する事ができる筈。
女は踵を返して歩き出した。その服の裏に、鳥のマークをチラつかせながら。
一方ココはどことも言わぬ書斎、そこにいるのは二人の男女だ。
肩を中心にして上半身を大幅に露出させた着物風のドレスを着ている女性は、男に何やら大切な情報とやらを先ほどから告げていた。
「それは本当か……!」
「嘘をついてどうする」
フェルト帽子の男性はその情報を聞いて驚愕の表情を浮かべていた。
やっかいなアイテムが世界に流失してしまった。しかしこれはチャンスか? それとも混乱を招く要因か。
「それはこれからだな。とにかく、噂に聞いていたDシリーズが本格的に始動したと言う事か」
「しかし早すぎる。情報が間違っていたのか……」
もしくはプロトタイプが流失したと考えるかだ。
なんにせよ世界を単独で移動できる力を持つDシリーズの存在確認。これを放置しておくのはあまりにも危険?
「逆にデータを取れる可能性もあるが……」
「そうだな。なんにせよコチラ側には引き込みたい」
見極める必要がある。
フェルト帽子の男性は女にゼノンたちを呼ぶ様に申し立てた。
しかしそこで首を振る女性、ゼノン達もそう何度と無く呼び出されて世界を移動していては疲労も溜まると言うモノだろう。
「ではどうする? 何か考えがあるのだろうな?」
「もちろん。最近新しいオモチャを手に入れた」
試してみるか。女は笑って指を鳴らす。
すると海東の出現させたオーロラと同質のモノが出現した。ニヤリと笑う女性、既にその両隣には白と黒の影が見える。
二人を見たフェルト帽子の男はつくづくと実感する。ゼノン達しかり、彼女の配下は主人に似るのか。
今回の二人も女と同じように口を吊り上げてニヤリと笑っているではないか。
「……?」
当の海東は周りの景色がいきなり変わった事に少し驚いていた。
オーロラを潜り抜けた彼は確かにその景色が元いた場所から大きく変化した事を見て、ディエンドライバーの力である他世界の移動と言う項目を完全に信用した。
長身の女からコレを受け取り、引き金を引けば大分使い方が分かったが、中には謎のモノもある。
そして今のがその一つ、他世界への移動。
別の世界へ転移する。連続では使用できない。それだけしか頭には入ってこなかった。
ありのまま信じるならばパラレルワールドの存在を言っている筈、海東はそれを信じて能力を発動させたと言うわけだ。
結果はコレ、今自分がいるのは確実に自分がいた世界ではない。
もしかしたらワープかもしれないが、海東には別世界への移動に思えて仕方なかった。
彼は自分の意見が一番だ、自分がコレと信じれば疑う事は無意味だろう。
「しかし、忙しい」
それも先ほどまでの話。
今度は再び自分の前にオーロラが出現して再び景色が変動していったのだ。
自分は世界移動を発動させてはいないし、連続しようはそもそも不可能の筈。
ではこれは一体どういう事なのか、海東は理解できずに回りの様子を確認する事に。
「湿っぽい場所だ。僕には相応しくないや」
薄暗いと言うか何と言うか、降り立った場所は見渡す限り本ばかりの場所だった。
紫色の空間に鈍いライトが照らされて、良い表現をするならば何とも幻想的な場所。悪く言えば不気味で暗い場所だった。
「図書館……?」
海東は適当な本を取って中身を見てみる。なんの事はない、多様なジャンルの小説がそこにはあった。
しいて共通点を見つけるとすれば、しばらく見た限りでは置いてある本は全て何かしらの物語形式。
中には文が途中で終わっているモノも数冊確認できた。
全く、意味が分からない。
もしかしたらコレが女の言っていた地獄と言うヤツなのだろうか?
だとしたら何と拍子抜けだろうか、しかしそう思う心の中で同時に感じるのは巨大な好奇心だ。
やはりこれが、こうしている事こそが自分の求めていたものだと。
「「チャオ」」
「!」
突き当りを曲がった海東、するとそこには少し広い空間が。
そしてそこに置かれている椅子に座っている人間を海東はしっかりと確認する。
生命の気を感じない場所に存在している二人の人間、これもまた幻想的で不気味である。
「はじめまして、かな。僕はナイン」
「オイラはディエス、よろしくだ」
椅子から立ち上がりお辞儀を行う二人。
白を基調とした衣装に、同じく白い髪、さらに言えば真っ白な肌の『ナイン』。
そして同じく白い肌ながらも、コチラは黒髪で衣装も同じく黒の『ディエス』。二人は赤い目で海東を捉えてニッコリと笑った。
「………」
面白い者がいたものだと海東は心の中で思う。
この二人、一応自分と同じ人であろうが、何ともまあ不気味なものではないか。
と言うのもまず二人の肌は死人の様に白い。まるで血が通っていないかのようだ。
さらに赤い瞳もまた強烈である。続けて二人の年齢、見た目は身長も小さい子供。
つまり確実に自分よりも年下であるはずなのに、何故か欠片とてそんな気がしなかった。
何故かを説明できない部分が苛立ちを覚えさせる。さらになんと言っても最大の特徴は二人の容姿である。
中性的な人間は数多くいるだろう。しかしこの二人はまた別格だ。
女か男か全く分からない。声も男と言われれば納得するし、女と言われればそうかと思う。
体にしても男にしては華奢すぎて、女にしては胸の膨らみが無いし体のラインから見ても色気――と言うか女性を全く感じない。
「ふん、君達は男性なのかな? それとも女性なのかな」
気になったことはとにもかくにも解決しなければならないのが彼の性分だ。
手っ取り早く彼は二人に答えを求めた。するとディエスはニヤニヤと笑いながら手を上げる。
どっちだと思う? もったいぶる様に彼(?)は言った。
「そういうノリは好きじゃない。早く教えたまえ」
「ハッハー! ノリが悪いのはいけないぜー!」
チッチッチと指を振るディエス。
考えるって事は大切だ、これもまた人に許された行動なのだから。
彼はそう言うが、隣にいたナインはどちらかと言えば海東側なのか、さっさと答えを教える事に。
「僕らには性別は存在しないよ」
「ちょ、ちょっとナインさん! せっかくオイラが――! って、まあいいか」
性別が無い、しかしどちらかと言えば男寄りではあると二人は言った。
おそらくその肉体構造も海東が思い浮かべる人とはかけ離れているのだろう。
「へぇ、そういう生き物もいるんだね」
「そう。それが世界の可能性と言うものだ」
海東の世界には少なくともナイン達の様な者は決して存在していなかっただろう。
海東自身もまたその珍しさに呆気を取られるほどなのだから。
しかし反対にナインたちからしてみればコレは常識であり、双方の常識と言うものに若干の矛盾が発生する事になる。
そしてナインはそれが世界の可能性だと説いた。
彼らは海東が世界移動を行っているとハッキリ確定付ける。
世界が変われば在り方もまた変わる。常識は常に変化しつづけ、ありえない事が在り得ない事に。
「無限の可能性を持つ存在。それが世界と言うモノさ」
「テメェの持ってる常識ってヤツは今日を以ってゴミ箱に捨てちまいな」
「成程……ますます興味が湧いてきた」
海東はディエンドライバーを見てニヤリと笑う。
この力があれば自分はその無限の可能性に触れる事ができる。
おもしろい、その無限さえも手に入れてやると彼は意気込む。
だがそこでナインは目を細めた、彼らが何故ココに海東を招いたのか。
「君にいくつか質問が」
「?」
「そう、まずテメェはそれをどこで手に入れた?」
海東はニヤリと笑ってディエスを見る。
そして言い放つ言葉はただ一つ、どこだと思う?
「ぐっ! いい性格してやがるぜ」
「フッ、褒め言葉としてはまあまあかな」
そして先ほどのナイン同じくすぐに答えを告げる事に。
街でいきなり話しかけられ、長身の女からもらったと。名前は知らないし、顔も帽子に隠れてチラチラとしか見えなかった。
若そうな顔ではあったが、なにやら雰囲気が若そうではなかったとくらいしか覚えていない。
「成程」
ナインは頷くと、次にお願いがあると彼に言った。
「お願い?」
「そう、簡単な事さ」
ナインはそう言って彼の持っているディエンドライバーを指差した。
「それを渡して欲しい」
「………」
「もしくは貸して欲しい」
「もちろんタダとは言わねぇぜ」
それに見合うだけの見返りは用意してやるとディエスは言った。
それは簡単な話で、なんと何でも願いを叶えてくれると言うのだ。
しかも数は二つ、ディエンドライバーを使って何かを成し遂げるよりも遥かに簡単ではないかと。
「なんでもだぜ? なんでも」
「成程、それは実に魅力的だね」
「だったら――」
「断る」
顔を見合わせるナインとディエス。まあ分かっていたと言えばそうだ。
海東は再び二人に向けて自分の意思をハッキリと告げる。願いも、欲望も、そしてそれを叶える事も全ては自分自身が決める事。
指図は受けない、それに何よりもこのディエンドライバーは自分のモノだ。みすみす渡すなんて馬鹿なマネはするものかと彼はいう。
「それに、二つじゃ少なすぎる」
「ハハハ、言いやがる……!」
ならとナインは方向性を変える事に。
正直彼がこの答えを選ぶ事は分かってたと言えばそう。だから彼らは他の方法にてその力を取り込む事に決めた。
「手を組まないかい」
「手を?」
「そう、今から始まる君の旅に支援をしてあげるよ」
もちかけてきたのは長身の女と同じくパトロンの役割だった。
支援の変わりにデータを取らせろ。そして長身の女と違ってもう一つ、あくまでも協力関係と言うラインをしっかり守れという事だった。
「………」
さて、海東は考える。
長身の女と言いコイツらと言い何とも怪しい連中ではあるが、見返りは中々に魅力的だ。
協力関係と言うのが少し引っ掛かるものの話を聞けば命令等は特にされず、あくまでも自分の好きに動いていいと言う事だ。
そうなれば特にコチラにデメリットは無いか――。
まあこう言ったケースはデータを取り終わった場合には自分は用済みとして消されるのだろう。
が、逆に消してやると海東は心内でそう思ってもみる。
「支援と言うのは?」
「君の身体能力の上昇だ。僕らはこれを補正と呼んでいる」
「擬似的な強化改造だと思ってくれ。実際に体はいじらねぇけどな」
便利だろ? ディエスは笑う。
「成程、確かに僕自身の強化も必要か」
これからの旅を思えば。そして海東は彼らの誘いに乗る事に。
協力もまあ悪い話ではないだろう。彼はプラスに捉えて全ての契約に乗る事に決める。
そして約束どおり二人は海東に強化を施す事に。しかし強化と言うからどんなものか少し興味があったが、いざやられてみるとただ体に淡い光が灯っただけ。まあなんとも簡単と言うか、拍子抜けと言うか、便利と言うか。
「これでいい。後は君の物語を紡いでくれ」
「応援してるぜぇ。ハハハハ!」
海東の背後にオーロラが出現する。
彼はニヤリと笑って踵を返した。別れ際にナインは彼に問いかける。旅の目的はあるのか、と。
「目的。それも僕が決めるさ」
ただ一つ、決めている事が。
「トレジャーハンターになろうと思ってね」
「トレジャー……って、宝を集めるのか?」
「そう、僕が決めたお宝をね」
早速悪用しようとしている気満々である。
しかし彼は自分の欲望に素直だ、そういう人間は嫌いじゃないとディエスは言った。
欲に飢えた人間は醜く、または美しく進化できる。彼はディエンドライバーを持ち、一体何をその目に移していくのだろうか?
そんな事を、消えていく海東の背中を見つめながら二人は思う。
世界は無限の可能性を持っている。そしてそれは人にも言える事だ。世界は人がいてこそ完成されるものなのだから。
「ははっ! これは確かにいい!」
海東は解放された世界で自分の身体能力が上昇している事を身を持って実感していた。
体が何と軽い事か! 彼は夜のビルを屋上伝いに駆け巡っていく。ジャンプ力が上がり、さらにディエンドライバーから発射されるワイヤーを使えばどこへだって行ける気がした。
「とう! ほっ! ははは!!」
まるで翼が生えた様だ。
アドレナリンが湧き出てくるのか、どれだけ走っても本当の意味で疲れない。
夜の闇を切り裂き、彼はその身に風を受けて自分と言う存在を実感する。
やはり自分のいるべき場所は自分が決めるべきだ、そして新たに決めた目的を抱えて彼はその存在を確立する。
「僕はトレジャーハンター海東大輝!」
彼の目には、無数のターゲットが見えていた。
それらは全て手に入れる。それが自分の流儀というものなのだから。
一世界計測で、約半年後。
とある世界に存在するある建物。
三つの時計台が備えられている大きな城と言えばいいか。それを見上げる様にして二人の男女が足を進めていた。
城があるのは砂漠の中だが、特別暑い訳でもないし涼しい訳でもない。なんだか変な気分だった。虹色の空が余計異質さを強調しているのもあるのか。
「全く。こんなの新入り君にさせればいいじゃないか。魔女も人使いが荒いね」
「あら、でも新入りさんは先輩でもあるもの。ん? んん? おかしいわね!」
矛盾が。まあいいやと少女は告げる。
随分と小さい娘だ、まだ小学生と言ってもおかしくはない。
しかし何やら少しダークと言うか、怪しげな目つきをしているし、雰囲気が子供らしくないと言えばそう。
服は可愛らしいフリフリが付いたゴスロリドレスで、ふんわりとした赤い髪の上にはミニベレーが。
「ま、でもおかげで君と色々な場所に行けるってのはいい事かも」
同じく少女の隣には同年代の少年が。
青のハットに同じく黒とダークブルーのジレ付きシャツ、そしてスーツを着た少年"ゼノン"は、隣にいた"フルーラ"と言う少女の腕を取る。
この二人は前に海東と接触して協力関係を結ばせたナインとディエスの仲間であった。
「そうね! また貴方とのラブラブメモリーが刻まれるのねぇ!」
フルーラもゼノンにピッタリとくっ付いて笑った。
キャッキャ、キャッキャとはしゃぎ合う二人、さっさと足を進めろと誰が人がいたならば思った事だろう。
しかし二人には二人だけの世界がある。なんともまあ迷惑な物だが。
「それにしても、どうしてこんな所に行かなきゃならないんだっけ?」
覚えてる? フルーラ。そうゼノンが言うと、彼女は胸を張ってエッヘンと表情を変えた。
主人である魔女からの指令を聞き流していたゼノン、対してフルーラはしっかりとメモに取っていたようだ。
「世界が移り変われど、均衡は大切よ」
光を確認するには闇が必要になる。言ってしまえば闇が無ければ光は存在できない。
そして闇もまた同じ、光が無ければ闇の価値はゼロと言ってもいい。存在がどうかは別としても、一方があるからもう一方が映えるケースは多々あるだろう。
「破壊と創造の様に」
「正義と悪もかな」
一方が作られれば、もう一方もどこかで生まれる。
その総数を見れば大体が半々だと言う事が望ましい。
いや、と言うよりも自然にそうなっていくのだ。そうならねばならないと言ってもいいくらい。
「ああ、君とボクもね」
「そうね! きゃは!」
ニンマリと笑いあう二人。
ここからしばらく二人は施設を前にイチャイチャと無駄(?)な時間を過ごすのだが、そこは割愛しよう。
とにかく、何かが生まれれば対になるモノが生まれるのが世界の定義かもしれないと言う事だ。
それが暗黙のルールかどうかは知らない、しかし彼らの主人は少なくともそれを望んだ。
「まあ、アレをほどほど抑制させる役割も必要だとボクは思うし」
「そうね、いいんじゃないかしら。後々面倒になっても困るもの」
主人は黒を作った。だから白も作ろうと言ったのだ。
という事でゼノン達は今その白を作りにココにやってきたと言う訳。必要だろう? アルセーヌルパンを捕まえるホームズが。
「一応アポは取ってあるから、スムーズに行くといいんだけどね」
ゼノンは帽子を取ると砂を払う為か、フッと息を吹きかけ被りなおす。
そして二人は施設に入ると、すぐに受付に連絡を入れさせた。内容が内容だ、トップシークレットにて話を進めなければならない。
その緊張感にフルーラは思わずゴクリと喉を鳴らす。
「畏まりましたゼノン様。すぐに案内いたします」
「ああ、どうも」
大して軽い調子のゼノン、二人は係りの者に案内されてすぐにこの施設で一番権力のある人物の部屋へ通される事に。
そんなこんなとあっという間に部屋の前に来た二人、体についた砂を少し払ってノックを。
「どうぞ~!」
気の抜けた声が聞こえてくる。
二人は頷き合うと部屋の中へと足を踏み入れた。そこには二人の男性が。
一人はスーツ姿の男性、もう一人は白い服を着たニコニコと笑っている男性。
部屋に入る様に言ったのは後者の彼、しかし彼はこの施設とは無関係に近い立ち位置ではあるのだが。
「はじめまして」
適当に挨拶と握手を済ませて席に着く二人。続いて男二人が自己紹介を行う事に。
「時空警察庁長官だ」
「ターミナルの駅長でーす」
そう言って駅長が合図をすると扉がノックされて役員がおぼんを手にして入ってくる。
特に暑くは無かったが、砂漠を歩き回ったおかげで確かに喉は渇いた。
いやちょっと待て! 持ってきたのは水じゃない! 何だコレ!?
「どうぞ、チャーハンで~す」
「なんで!? 普通に水頂戴よ! なに軽くランチ持って来てるんだよ!!」
「いやぁ、好きな物で~」
「だからってせめて水つけろよ!」
「おいひいわよ、ゼノン」
もう手をつけてるかいフルーラ!?
ゼノンは一応そうは言うがそんな彼女も素敵だとすぐにベタベタである。
「あーあーそれに駄目だよフルーラそんな詰め込んだら! 水ないから詰まったら危ないよ!!」
「もぐもぐ」
とまあ騒がしい入りになったが――
ゼノン達が訪ねたのは時間の運行を邪魔する存在を取り締まる時空警察の長官と、同じく時間の運行を管理するターミナルの駅長であった。
二人には事前に手紙を送っており、他人に見られても構わない程度の情報ならば知らせてある。
そして今ココでゼノン達は二人により詳細な情報を与えていく。
何にせよ遅かれ早かれ、ゼノン側もこの二人には話しをしに行くつもりだったらしい。
他世界、そしてそれを利用せんとする者達、到達点。彼らはしばらくその応酬を繰り返し、時間を経過させていく。
事態は誰もが考えているよりも深刻だ、当然その危険性を長官達にも知ってもらう必要があった。
「分かりました。我々も協力しましょう」
「どうも」
さらにそこから話を展開させていくゼノン。
しばらくして彼は今回の本題に入る。いや、別に今までが本題だった訳ではないが。
ゼノンはスーツの裏ポケットからその写真を取り出すと二人に示した。
「この人物は?」
「世界を移動して色々な者を盗んでいるこそ泥さ」
「トレジャーハンターよ、ゼノン」
「あ、そうだった。まあそんな感じなんだけど」
正直同じようなモノさと彼は鼻を鳴らす。
本人は美化しているようだが、事実やっている事といえば盗人と変わらないではないか。
ああ、少し話が反れたか。つまり簡潔に言えばこのコソ泥を止める人物をコチラによこして欲しいとの事だった。
「逮捕と言う事でしょうか?」
「んー、まあそうだね。でも大人数じゃなくていい。一人でいいんだ」
むしろ一人の方がいい。ゼノンは条件を軽く指定する。
人数は一人。できれば戦闘能力がある程度の者、これは他世界と言う空間では何があるか分からないからだ。
できれば自分の身は自分で守れる方が好ましいと。
「む、ではつまり世界を移動させろと?」
「そう、それはボク等側が用意するよ」
危険な仕事故によく考えて欲しいとゼノンは念を押した。
唸る長官、危険と知りつつ部下を派遣する事は気が引けることだ。しかしコチラとて時空を守る使命がある。
「分かった。しかしコチラは他世界についてはまだ何も分からぬ身」
長官は時空警察に所属する刑事達の一覧を持ってくると、それをゼノンに渡す。
軽いプロフィールの記載された一覧、ここからゼノン達が適任者を一人選んで欲しいとの事だった。
「成程、分かりました。我々にお任せください」
少しニヤリと、ゼノンは含みのある笑い方を二人に向ける。
明日コチラが指名するとの約束を取り付け、その日の話し合いは終了した。
ゼノン達はそのまま家を兼ねたリボルギャリーに戻って早速代表者を決める事に。世界を移動し、海東を捕まえる適任者。
「う~ん、ホームズさんは誰がいいのかしら?」
ソファに座って資料を見つめるフルーラ。
しかし名前や経歴、軽いプロフィールだけじゃ何とも微妙なものである。
「見て見てーゼノン、この人、目玉焼きにはソース派らしいわよ!」
「コッチは一分間にレモンを三つも食べられる人だって。コイツでいいんじゃない?」
「えー! ワタシはこの人がいいと思うわ! だってUFOを四回も見た事があるんですって!」
「あ、コイツ家賃20万の家に住んでる! あと左手深爪らしいよ! つーか時空警察のプロフィールにどうでもいい事書きすぎじゃねーかなこいつ等!!」
仕方ないとゼノンは彼女から資料を受け取ると時計を見る。
現在は7時38分、ゼノンは資料を七枚めくり、三十八番目の欄にあった名前を指で弾く。
「オーケー、彼にしよう」
「さすがゼノン! 画期的な決め方だわ!!」
そう言って彼に飛びつくフルーラ。
彼女は褒めているが、要するにランダムの運任せである。命がけの任務をこんな適当に決めていいのだろうか?
そんな疑問が残るが、ゼノンとしてはむしろ適当が一番いいと言う。
「あまり優秀な人を選択しても、ほぼ間違いなく断られるだろうからね」
「え? どうして?」
「危険だからだよ」
何が起こるかわからないのが世界だ。
それに加えて自分達の存在、果たして長官達は自分達の事を完全に信用しているのだろうか?
決まっている。答えはノーだ。いきなり現れた自分達を信用しろ等と言うのは無理な話、そんな状態で命を捨ててもいい覚悟を持った者を寄越せなどと。
「もしも優秀な人材をボク等に寄越して、それで結果がハイ死にましたじゃ向こうにとって大損だろう?」
向こうだっておかしさに気づいている。
本当にゼノン達が海東を捕まえたいのならばもっと人数を求める筈、しかし自分達は必要なのは一人だ。
そこに本気は見えない、ならば向こうは失っても警察にとって痛手にならない人物を寄越したい筈。
「ま、それに死んでも代わりはいるしね」
「そうね、うふふ!」
少し黒い笑みを浮かべる二人。
「さて、運命は彼を選ぶのかどうか……見ものだね」
含みのある笑みを浮かべたは、残酷な言い方だがもしもこれでオーケーするとしたら時空警察としても最悪死んでもいい人材と言う事になる。
まあ捻くれた考え方ではあるが。
翌日、とある警察署。
そこで一人の青年が長官に呼び出されていた。
会議室を借りて彼は長官からゼノン達に言われた言葉を彼に伝える。
要は彼こそがゼノン達が選んだホームズなのだ。もちろん適当にランダムで選ばれた事は長官を含めて知る由も無い話ではあるが。
「頼めるかね? 危険な仕事かもしれない、断ってくれてもいいだよ?」
「いえ、自分が選ばれたのならやらせてください!」
どうやら彼は正義感の強い人物だった様だ。
とは言え時空警察に一応名こそあるモノの、殆ど形だけで現実での仕事ばかりをしていた彼にとっては、まさか自分が選ばれるとはと言った思いだろう。
まあランダムに選んだんだから、それが理由である。
「そうか。では時空警察から君に相棒を用意しよう」
「相棒……ですか?」
刑事物にはよくある設定だ。
自分だって憧れた時もある。とはいえあまり優秀ではない自分と組んでくれる者がいるのだろうか?
「そう、と言っても普通の人間ではないんだがね」
「へ?」
ついてきなさい、そう言って長官は青年を連れて時空警察本部へと移動する。
なんでも時空警察の科学班が総力を挙げて開発した物を彼に授けるとかなんとか。
つまり試作品のテストを兼ねていると言う事だ。
悪意があるわけではないが、言い方を変えれば死んでも問題ないと思われる者にテストプレイと言う実験の役割を上乗せする。
まあ、物は言い様だ。別に長官は彼に嫌なら断ってもいいと言った。部下の事を道具としては見ていない事を補足させてもらおう。
しかし少なくともそう言った意思がどこかに感じられるのも事実。
だが青年は正義に燃えていた、海東大輝はお宝と言うモノを無作為に盗み出す悪人だと聞いている。
彼を捕まえる事は刑事である自分の使命、彼はそう思い全てを受け入れる。
「しかしゼノンくん達が指定したのは一人でしょう?」
「ああ、問題ない」
何やらゼノン達も最初は渋っていたようだが、現物を見た途端にすんなりとオーケーしたらしい。
どういう事なのか、青年は首をかしげながら長官の後をついて行く。
「ここだよ」
「!」
ある程度進むと長官がココだと扉を開く。
時空警察内にある研究室の一角、そこにいたのは青い少年と赤い少女。
青年はそれがすぐにゼノンとフルーラであると確信する。
「やあ、協力を感謝するよ」
「さっそくだけど貴女に力を!」
そう言って青年の触れるフルーラ。すると彼の体に淡い光が駆け巡っていく。
これは? 青年が問いかけると、二人はこれが身体強化である事を告げた。
行く先々の世界で危険な目にあっては困るだろうと。
「貴方の体はこれで強化されたわ」
「え? こんな簡単に?」
「そう、
さらにもう一つ、彼には重要な力を授けると言う。
「刑事権限」
「?」
「君はたどり着くだろう全ての世界において、警察の協力を得る事ができる」
向こうの方たちと海東確保の為に頑張ってくれ。ゼノンはそう言って笑った。
さらに彼に説明される世界移動についての話、定められたルールは以下の様なモノだ。
まず彼は自由に世界を移動する事はできない。
彼はあくまでもルパンを捕まえるホームズなのだから海東と同じ世界にいなければならないのだ。
よって彼が世界を移動できるのは、海東が世界を移動した時だけだ。
「それはボクら側から教えるよ」
「わ、わかったよ」
はあ、と青年はゼノン達を見て思う。
それにしても大人びた子供達だ、彼はそんな事を思って頷いていた。
「泊まる場所とかは……」
「好きな所に泊まってくれ。金銭面に関しては心配しなくていい」
必要な金額を教えてくれたらすぐに届けるとゼノンは言う。
凄いな、ますます青年は二人の異様な雰囲気に呑まれるばかりだ。
そして同時にそんな彼らの後ろにいるのは誰なのかと考えてしまう。
とは言え自分はただの一刑事、余計な事は考えずに海東を捕まえる事に専念すればいい。
「それで、私の相棒と言うのは――?」
「そうだね、では紹介しよう」
長官が言葉を放つとゼノンとフルーラは後ろに下がって壁に持たれかかる。
腕を組みながらニヤリと笑うゼノン、顎に両手を当ててしゃがんでいるフルーラ。
時空警察も随分と面白いモノを作る。そんな想いを抱きながら二人は青年と共にカプセルを見つめていた。
そうカプセル、それがこの部屋にはあった。
大きな楕円の形をして、外からは中が全く見えない為に青年はそれがカプセルだと言う事を最初は分からなかった。
そして音を立ててそれが展開し、スチームが噴射されて中が露になっていく。
何だ? 本当にこの中に組むべき人がいるのか?
青年はそこで長官の言葉を思い出した、そう言えば純粋な人間とは違うと――
「……え?」
「これが君のパートナーだ」
カプセルの中にいたのは天使――に、彼は思えただろう。
腕を組んで目を閉じている女性がその中にはいた。ほんのりと紫と白がかかった淡い銀色の髪、透き通る様に輝く肌。
目を開かずとも分かる、可愛らしさを残しつつも美しい顔立ち。銀と白を基調としたドレス。
儚げな雰囲気をかもし出す彼女は、何とも美しく青年の目に映ったのだ。
「………」
女性は眠りから覚めた様にゆっくりと目を開ける。
これまた美しい瞳ではないか、気を抜いていたら吸い込まれそうになる。
「君がホームズ」
「え?」
後ろでゼノンがつぶやいた。
「さしずめ、彼女はホームズをサポートするワトソンね」
「は、はあ」
女性はゆっくりと立ち上がりカプセルの中を出ると、青年の前にやってくる。
目が合う二人、思わず青年は頬を赤らめて目を反らしてしまった。あまりこういう経験はない、刑事になる為に青春を捨てた身だ。
慣れていないからだろうか余計に恥ずかしく感じてしまう。
「ど、どうも。ははは……」
「ハジメマシテ。貴方のお名前を教えてくだサイ」
「?」
カタコトとは少し違うが、彼女の話し方に何かちょっとした違和感を青年は感じる。
棒読み? あまり感情が感じられないと言うか。いや機械の様にと言うのも近いが違うか。
なんて説明したらいいのかわからない、青年は混乱して固まってしまった。
「マスターを登録しマス。お名前を教えてくだサイ」
「え? あ、ああ。俺は鈴木一哉、よろしく」
マスター? 何のことだろうか。
一哉は不思議に思うが、女性は彼を気にする事なくサクサク進んでいく。
「スズキ・カズヤ様ですね。登録中……登録中――」
なにかこう会話に人間らしさが無いような、そう一哉は思った。
しかしそれはそう、彼女は人間ではないのだから。
「紹介しよう一哉くん。人工イマジン、イブIIだ」
「いぶつー?」
時空警察が作った機械と思ってもらえればいい、長官はそう言った。
女性の姿を模しているのは接しやすいとの事、以前は犬の形を模しただけだとかなんとか。
そうしている間にも彼女は登録を済ませたようだ。
「ログイン状態は継続なさいマスか?」
「え? ろ、ログイ……?」
戸惑う一哉、代わりに長官がイエスの指示を出す。
すると笑顔に変わるイブ、彼女のこの表情も人工的なモノなのだろうか?
一哉の中に果てしない疑問が残る。そうしていると彼女は彼の手をとって握手を行った。
「登録完了! よろしくお願いします鈴木サン!」
「え? あ、ああ。よろしく」
「ばっちりサポートしますから、安心してくだサイ!」
しかしいくら人工イマジンとは言え女性を危険な所に巻き込んでいっていいものだろうか?
すると長官が問題ないと。彼女は見た目よりも遥かに頑丈で、護身に関しても一哉より上の可能性がある。
それに彼女は一哉にとって切り札となるべき力なのだから。
「切り札?」
「ああ、説明しよう。彼女は――」
一哉はしばらくそこから海東確保についての重要な説明を受ける事となる。
なるほど、確かにこれは切り札と名のつくに相応しい能力だ。
一哉は少し引け目がちながらもイブに向かって手を差し出した。
「よ、よろしくお願いします」
「ハイ!」
ニッコリと笑って手を握り返すイブ。
本当に彼女は人工なのだろうか? そんな疑問が一哉の心の中に宿った。
なんでも彼女の体の中には"アカシックレコード"と言う物が内臓されているらしく、全ての出来事が記録、文字として認識されるらしい。
彼女は研究室で人の感情を嫌と言うほどに教え込まれた、だから彼女は人と相違ない出来になっているとか何とか。
「さあ、早速だけど君達には海東を追ってもらいたい」
壁から離れると指を鳴らしたゼノン。
一哉達の前に灰色のオーロラが。
「分かった。これをくぐればいいんだろ?」
「そう、頑張ってくれ」
少し汗を浮かべながらも意を決してオーロラへ向かう一哉、そしてその後ろをついていくイブ。
二人が消えていくのをゼノンはニヤニヤと見ていた。果たしてどうなるのか、せいぜい期待しない程度に期待しておこう。
「………♪」
小声で鼻歌を歌いながら海東は美術館の中を探索していた。
展示されている美術物をチラリチラリと見回し吟味する。
さて、一体どれを盗もうか?
海東にとってココは文字通り宝の山だ。
先ほどから美術室を一回りして警備員の数、監視カメラの数、他の警備システムをあらかた観察したが海東にとってはどれもこれも軽いと言うか、余裕と言うか。
言わばココはバイキングだ、セルフサービスでお宝を持って行ってくれと言わんばかりの。
「ふむ」
しかし普通に盗むと言うのもつまらない。
それに一体どれを盗もうか、彼は顎に手を当てながらしばらく美術館をさ迷う。
するとしばらくしてか、彼は一枚の絵の前で立ち止まった。どうやらこの美術館の中でもトップレベルに珍しく歴史のあるモノらしい。
「ああ、君。この絵は?」
係員を呼び出す海東、彼は絵の説明を求める。
何やら戦争の様子を描いたとされる絵画、タイトルは『コード』と呼ばれるものだった。
細々とした人々の描写、鮮明に書かれた建物や戦車など見ていて飽きない作りになっているが、この絵にはもう一つ重要な情報があるらしい。
それは都市伝説の一種だが、この絵にはいくつのもの暗号が隠されており、当時の戦争を引き起こした黒幕。
加え、再び次の戦争を引き起こす為の引き金が記載されていると言う。
もちろん専門家が何十人も集まって調べたが、その様な物は発見できず、ただの噂と言う事に片付けられた。
しかし、そう言った話題も込みで価値のつく絵画と言う事にされているらしい。
「下品な話だがね、この絵に金額をつけるとしたらどうなんだろう?」
「そうですね、作者の価値や歴史的な価値もありますので10億以上は確実にいくかなと」
「なるほど、よく分かったよ。下がりたまえ」
「失礼します」
海東は決める。この絵を盗むと。
この警備の薄さならば今ココで普通に盗んで逃げてもいいのだが、それではあまりにもつまらない。
考えた結果、彼は一つのゲームを興じる事に。海東はそのまま美術室の入り口まで戻ると、そこで一つのカードを壁に投げる。
カードは硬い壁に難なく突き刺さると、その存在を静かに強調する事に。
そのまま海東は美術館から立ち去り、カードはしばらく誰の目に付く訳でもなく。
そしてしばらくして客の一人がそのカードに気づき、係員を呼ぶ。カードにはディエンドライバーにも刻まれているバーコードの様なマークが書かれているだけでなく――
「こ、これは!!」
慌てて警備室に走るスタッフ。
当然だ、何故ならばカードに書かれていたメッセージは――
『今宵、時計の針が12を示す時、コードを頂戴する』『怪盗・シアンスター』
「悪戯の可能性はゼロではありません。ですが、絶対に気を抜かずに警備にあたりましょう!」
男達の吼える様な返事が聞こえる。
警察本部では早速怪盗シアンスターについての会議が開かれていた。
前にいるのはリーダーと一哉だ、彼はゼノン達から受け取った刑事権限を利用してリーダーと同位置の地位を確立した。
目の前に広がる無数の刑事達は、言ってしまえば全て一哉の部下なのだ。
「鈴木刑事は怪盗シアンスターと思われる男、海東大輝の確保を主とする方だ。お前たちも全力を挙げて鈴木刑事をサポートするように」
リーダーの一声に頷く面々。
自分にこれだけ部下ができる。ちょっと圧倒される光景ではあるが、一哉も心の中では海東確保に燃えていた。
彼の行動は警察を挑発しているに他ならない。捕まえられるものなら捕まえてみろ、そんな意味を含んだ挑戦状なのだから。
しかし一哉もイブも海東の力をまだ知らない。もちろんゼノン達も、この世界の警官たちもだ。
だから身を包む得体の知れない不気味さに、一哉は思わずゴクリと喉を鳴らす。
ゼノン達は出発前に海東は危険人物ではないといっていたが、確証は無いとも言っていた。
万が一にも死人は出したくない、とは言え確保に妥協もしたくない。
時計の針が12を刺すと言う事は、深夜0時に犯行は行われると言う訳だ。
時間まではまだ少しある。彼は大きくため息をついて、早まる心臓を落ち着けようと必死だった。
一方人気の無い高台。
そこでは海東は銃を振り回して街の景色を確認している。
ここは言わば狩場、蠢く光は全て自分の獲物だ。ちゃんと自分のメッセージに気づいてくれただろうか? やはりゲームと言うものは簡単すぎてもつまらないと言うもの。
「ふむ」
本番前に確認しておくか。
海東はベルトについているカードホルダーを開いて絵柄を念じる。
こうすれば狙ったカードが手にやってくるのだ、実に便利なものである。
『アタックライド』
ディエンドライバーはカードをセットする事ができ、展開させる事でカードを発動できる。
海東は引き当てたカードをそこにセットして銃を引き伸ばす様に展開する。
誰の声とも分からぬ電子音が、カードの効果を口にする。
『ブラスト!』
海東がディエンドライバーの引き金を引くと、そこからシアンのエネルギー弾が無数に発射された。
それは対象をホーミングするだけでなく、海東の意思一つで動かす事もできる優れものだ。
さらにこのブラスト、これもまた念じれば幾つものパターンに切り替えられる事が分かった。
たとえば今やってみせたホーミングのようなもの。それから引き金を引くとシアンの光弾を自分の周りにストックできるもの。
さらに銃の威力を挙げることができるレーザー等、いろいろな効果が一枚で使用可能なのである。
カードは一枚使うと、一定時間を置いてでなければ復活はしない。
しかしこのブラストは無数に存在するため、ほぼ連続で使う事ができる。
『アタックライド』『バリア!』
さらに次のカードを使用する海東。
バリア、それは引き金を引くとバーコードの紋章を出現させられるもの。
この紋章は文字通りバリア、結界であり攻撃や気体物なども遮断できる。
バリアは引き金を引いている間は銃口に張り付いており、この状態で銃を上に掲げて高いところから飛び降りると結界がパラシュートの役割を果たしてくれる事が分かった。
さらに引き金から指を離せば結界を発射できるし、結界の大きさは変更可能なので、大きくして結界の中に入る事までできる。
『アタックライド』『サーチ』
サーチのカードは探索の効果を持ったものだった。
これもいくつかのパターンがあり、サーモグラフのカメラ起動し脳内に映す。
対象の危険性確認等の効果がある。さらにマーカーをつけたモノの位置調査などが可能だ。
『アタックライド』『インビジブル』
そして数あるカードの中でもとびきり強力なのがこのインビジブル。
効果はと言うと、使用すれば海東の体が透明になると言うもの。
さらに発動後数秒は本当に透けており、攻撃等も無効化する事ができる。
壁を抜ける事はできないが、相手から見えなくなると言うのは彼の目的にはかなり合っている効果ではないか。
「………」
そして少し特殊なカードが。
それはファイナルアタックライドと言うもの。
絵柄はバリアと同じ様なデザイン、海東はこれをディエンドライバーの
このカードを使うと飛び切り大きな弾丸を発射する事ができる。言わば切り札、海東はこれを装甲車か何かに襲われたら使うつもりだった。
さらにディエンドライバーにもいくつかの特殊能力がある。
まず弾丸は基本的に実弾ではあるが、弾切れ等の心配はない。
威力を意思一つで調節でき、弾丸を消滅させる事も可能である。
加えてワイヤー発射、スモーク発射、フラッシュ発射、サーチに使用するマーカー発射等々可能性は無限だ。
とまあ色々なカードがある訳だが、唯一海東にも理解できないカードが存在している。
それは何やら特殊な装いの者が描かれたカードだ。ギルス、カイザ、インペラー、サガ等、名前は書かれているが、これが何なのかは全く分からない。
まるでアメコミのヒーローの様な者達だが、これをディエンドライバーに装填してもエラーとしか出ないのだ。
何度か試したが、全て駄目、さらにカードの枚数が桁違いに多く意味が分からなかった。
と言うのも、海東の使用しているカードホルダーは『クラインの壷』と言うモノが内蔵されている。
これは一見すれば10枚入ればいいサイズのカードホルダー、その中身の容量を無限とも呼べる物にするというもの。
これのおかげで何十枚のカードが入っている事に気づかなかった。
全て試せば答えにたどり着くかもしれないが、海東はそこ等辺は面倒くさがりである。
ブラスト、サーチ、インビジブル、バリア、そしてもう一つコピーだけで十分だと彼は思っているから特に気にする事も、調べる事もしなかった。
そう、彼がそこまで興味を示さなかったのは、これ以上強くなってしまっては誰も自分を止められないと思ったから。
それじゃあコチラも燃えないと言うモノだ。圧倒的な力で好き勝手やるのもそれはそれでいいが、やはり早く飽きがくると言うもの。
コチラも十分負ける要素を込めてこそ、スリルや興奮がある。
「しかし少し時間を遅くしてしまったかな」
時間まではまだ少しある。
それまでに無数のエネミーを用意してくれていれば助かるが。
海東は銃をクルクルと手で弄びながら眼下に広がる街を見下している。
あと数時間後には夜の闇に赤いパトランプがいくつも輝く事を祈って、彼はそのときを待つ。
一方の警察側、美術館には既に厳戒態勢をしいている。
コードの周りには強化ガラスのケースを作っており、それを固定する鍵も何重にも用意されていた。
さらに廊下には赤外線レーザーのセンサーを設置、絵の周りには何十人もの警備員を用意。
まさに鉄壁、いくら向こうが自信を持っていたとしても所詮は一人の人間なのだから。
警察本部ではその情報を一哉達も確認していた。
これで後は自分たちも現場に向かえばいいだけ、相手が何者だろうと必ず逮捕してやる!
「ふむ、まだ時間はある。宿に荷物を置いてくるといい」
「そうですね、すいません」
世界についてから直接この世界の警察にやってきた一哉達。
着替えや日用品の諸々を大きなバッグに入れたまま警察の一角に放ってある。
一応彼らには自分達は他の警察からやってきたと言うことになっていた。
流石にそうほいほい他世界の事をリークするのはゼノンからタブーとされていたからだ。
さらに他の警察から来たと言う矛盾が出そうな設定に関しては、刑事権限がしっかりカバーしてくれる。
全く便利なものだと思うが、使えるモノは使っていきたい。と言う訳で一哉達はリーダーの言う事を聞いて一度ホテルへ荷物を置きに向かう事に。
何故か世界を移動しても携帯は使え、ゼノンが指定したメールアドレスに金額を入力して送信すると――
「あでっ!」
「わお、お財布が振って来まシタ!」
そんな訳で金を手に入れた二人は、警察から近い場所にあったホテルを取る事に。
そこそこのホテルだがゼノン達の支援もあって何の問題もなく連泊できる。
これで長期戦でも大丈夫と言う訳だ、何が起こるか分からないぶん待遇はいいと言うことか。
少し嬉しいと一哉は笑みを浮かべていた。
「すいません。部屋を二つお願いします」
「はい、少々お待ちくださいま――」
「イエ、一つでいいデス」
「「………」」
「は?」
目を丸くしてイブを見つめる一哉。今、彼女は何と?
「デスカラ、お部屋は一つでいいデス」
「はい、分かりました。では408号室をお使いください」
「ちょ、ちょちょちょ!」
小声でイブに言葉をぶつける一哉。
流石にまずくないか? 別に金はあるのだからと彼は言うが、彼女は平気だと連呼して鍵を受け取った。
一哉も一哉もそんなに強く言えない性格だった為、すぐに彼女に引きづられていく事に。そんなこんなで気がつけばもう二人は部屋の中である。
「「………」」
二つのベッドを見て一哉は頭を抱える。
どうしてこうなったのか、彼の前にはニコニコと部屋を見回しているイブが。
「わー、思ってたより広いデスネー」
「あ、あのイブさん?」
「私の事はツーちゃんって呼んでくだサイー」
「え、えぇ!?」
ニコニコと表情を変えるイブ。
やはり人間にしか見えないが、今はそんな事より気になるのが会話の内容と現状である。
一哉はばつが悪そうに赤面しながら頭をかく。今までの人生を刑事にささげていた為にこう言うのは何とも気が引ける。しかし予想以上にグイグイくるのがイブである。
「はい、サン・ハイ!」
「つ、ツーちゃん」
「イエース! グッドグッドです! よくデキマシタ!」
イブは満足げに笑うと自分の荷物を置いてベッドに飛び込んだ。
フカフカだと笑いながら跳ねる彼女、これはもう完全に彼女の遊び心である。
アカシックレコードに心まで刻み込んだと言うのだろうか?
「う~ん、いいキモチ……!」
目を閉じるイブ、思わず寝てしまいそうだと笑った。どうやらちゃんと睡魔や食欲もあるらしい。
と言っても食事に関しては取らなくとも死ぬ事はないし、寝るというのはスリープ状態にてエネルギーを蓄えるとか。
トイレ等の機能は無く、お風呂は入らなくてもクリーン機能とやらで体についている汚れや金を消せるらしい。
話を聞いていくと、そこ等辺はやはり人間ではないと感じさせられる。そもそもイマジンとも微妙だ、どちらかと言えばサイボーグの方が近いと言った所か。
「それにしてもどうして一緒の部屋なんか……」
「ゼノンさんが言ってまシタ、パートナーは一緒の部屋でなければならないト!」
いつ何時事件が起こるかわからない。
最悪襲われる可能性だってある。だからこそいつでも一緒にいなければらないのだ。
「で、でもなぁ……」
チラリとイブを見る一哉。
まあ何とも美しいものだ、しかもちゃんと胸の膨らみまで作ってある始末。
イブの初期デザインを見せてもらったが、えらい違いである。こんな事になるならまだ初期の犬みたいな方が――
「シッカリ、お守りしマスヨ!」
「ああうん、ありがとう。俺も何かできる事があったら言ってね」
「ハイ!」
いかんいかん! 煩悩は捨てなければ! 一哉は咳払いを行いイブを見る。
彼女は一緒に戦っていくパートナーだ。自分の役割は彼女と共に海東を捕まえる事、それだけ――
「お背中、流しまショウカ?」
「い、いや……」
「なんなら、お尻も拭きまショウカ?」
「い、いい! 絶対いいから! 本当に止めてくださいね!?」
「ネエネエ、お金を払って見られる映画があるみたいですよ。何々? 抜き抜きフィーバー? コレ、どういう映画なんでしょうネ!」
「ちょ、ちょいちょい! 駄目だよ、絶対見ちゃ駄目だからね!」
やっぱりやりにくい! 一哉は大きなため息をついてニコニコ笑っている彼女を見る。
まあいいか、そんな事を思いつつ彼はベッドに座ってテレビの電源を入れた。
するとやはりと言うか、早速ニュースでは海東の話題が。
狂言かと報道する所もあったが、一哉からしてみればそれはあり得ないと決め付けても良かった。
とはいえ敵は何をしてくるか分からない。初戦と言う事か、考えれば考えるほどに緊張してくる。
正直あまり今まで功績と言う功績なんてあげてないんだ、選ばれたことは光栄ではあるが、何故自分なんだろうと思う部分もある。
「………」
イブは一哉が深刻な表情でニュースを見ているのを確認する。
すると彼女は少し微笑んで彼の肩を優しく叩く。
「大丈夫デス! 私もついてますカラ!」
「あ、ああ。ありがとう……ございます」
「辛かったり、行き詰ったら相談してくだサイ。その為のパートナーなんですカラ!」
そうだね、一哉はそう言う中で少し楽になた気がした。そうだ、彼女も自分を支えてくれる仲間じゃないか。
「そうだ! もっとお話シマショウ! 私まだ鈴木さんの事、全然知りマセン!」
パートナーはお互いを知ってこそ何ぼだと彼女は言う。
「俺の事? うーん、別に面白くはないよ?」
「アナタの事を知りたいんデスヨ! 鈴木サンはどうして警察ニ?」
「ああ、えっとね――」
一哉が刑事を目指したのは父の影響だ。
同じく刑事だった父、自分が生まれる前に彼は殉職してしまった為に関わった事は無かったが、影響を与えられたのは事実だ。
刑事になれば父に近づける。そんな気がして一哉は自然と刑事の道を目指す様になっていた。
「まあ、一度だけ……会ったことがあるっちゃあるんだけど――」
「え?」
「ああいや、ごめん。なんでもないよ」
一哉は笑うが、少しイブの表情は寂しげだった。
気になって聞いてみると、彼女はゴメンなさいと謝罪を行う。
「え? どうしたの急に」
「お父さんの事……私には家族がいないから分からないんデス」
きっと聞かれたくなかった事だろうに。
軽率な発言だったと彼女はもう一度一哉に謝罪を行った。
「あはは、気にしなくていいよ。むしろ話せて良かったです」
「え……?」
「おかげで、自分の刑事魂を再確認できたっていうか……とにかくありがとうございます」
「鈴木サン……」
その言葉に嘘はないが、多少はイブを気遣う意味もあった事は事実。
彼女はそれを察して困ったように笑う。これが優しさと言うものなのだな、彼女の中にあるアカシックレコードにも優しさや好意の文字はあった。
「さて、そろそろ俺たちも行きましょうか」
「は、ハイ!」
一哉はネクタイを締めなおしてイブに微笑みかけた。
初陣と言うやつだ、できればここで彼を捕まえたいところである。二人は借りていたパトカーを使って美術館へ移動する。
既に夜の闇にはいくつもの赤い光が交差しており、周囲には一般人はおろか虫一匹寄せ付けない程の気迫である。
「様子はどうですか?」
一哉は規制テープの前に立っている見張りの警官に手帳を見せて話を聞く事に。
ちなみにこの手帳、時空警察仕様である。これと刑事権限が加わる事で、全ての事件に介入できる能力があった。
警官は敬礼を行うと、特に異常はないと言う事を告げる。
頷きあう一哉とイブ、時間はもう少し。
気になったのは0時に盗み出すのか、0時に進入してくるのかだ。
現在時間は11時30分。もしも前者ならば今頃に侵入してくる可能性も。
「とにかく絵の前に行こうか」
「了解デス!」
美術館には他にも歴史的な価値のあるモノがいくつもある。
故に激しいトラップは使用できないし、館内での銃の使用も不可である。
よって廊下に赤外線センサーを置いて進入を確認するくらいしかできない。
とは言え、盗むのならば当然絵の前にはやってくる訳で、そこに警備員を無数に配置しておけば何とかなるんじゃないかと思う。
「ご苦労様です刑事」
「いえいえ、もうすぐですね」
絵の前にいた警官の隣にスタンバイする一哉。
まだ若い警官だ、緊張しているのだろうか? 険しい面持ちで辺りをしきりに確認していた。
彼を見ていると昔の自分を思い出して、つい笑いそうになってしまう。
あ、いや、まだまだ若手なのは自分も同じだが。
「大丈夫ですよ。私達がいれば、泥棒の一人や二人なんてことないって」
「そ、そうだといいのですが……」
そんな会話をしていると時間がいよいよと近づいてきた。
構える一哉、少し離れた所で周りを確認しているイブもにこやかな笑みを消して真剣な面持ちだった。
他の警備委員達の表情も険しく変わる。守られながらオロオロと心配そうにしている美術館の館長も見える。
そしてついに時計の針が12を迎えようとした頃――
(フフ)
その男は――
(さあ、ゲームスタートと行こうか)
ニヤリと笑った。
「「「「「!?」」」」」
時計の鐘の音が響くと同時に、外にいた刑事達は一勢にある方向に目を向けた。
誘導されたものと言うか、それはもう反射的なものだ。それもその筈、何故ならば夜の闇に一つの閃光が撃ち上がった。
そして閃光がはじけると、ディエンドライバーのマークが空に輝く。
「は、花火!?」
「あそこに犯人が!?」
遠くの丘から撃ち上がった事を何人もの警官が確認していた。
どうする? 行くか? そんな言葉がザワザワと聞こえてくる。当然それは中にいる一哉達の元にもすぐに情報として届く。
「ど、どうしますか?」
焦ったように隣の警官が問う。しかし首を振って落ち着く様に一哉は指示を出した。
あれはおそらく牽制だろう。あそこにいたとしても、どうせ絵を盗むのならばココにはこなければならない。
下手に持ち場を動く必要は無いと、一哉は持ち場を離れずに待機と指令を出す。
「いよいよ向こうも動き――」
その時、一哉の目の前が真っ暗になる。そしてそれは一哉だけではない。
一瞬誰しもが何が起こったか分からなくなった事だろう。そしてすぐに理解する。しまった! そちらを先に攻めてくるか!
「一応アチラにも警備はつかせておいたのですが……!」
誰かが言うが、誰が言ったのか何も見えない為に分からない。
そう、突如美術館の電気が一勢に切れた。おそらく海東は先に明かりを封じてきたのだ。
しかし彼もそれでは動きにくいのでは? 赤外線センサーは設置型のために機能は停止しない。
それにコチラだって対策をしていない訳ではない。懐中電灯を持っているモノは一勢にそれを照らし、すぐに事態を聞いた警備員が設置型のライトを持ってきて照らし始める。
「絵は!?」
すぐに絵画を確認する一哉。
流石にあの短時間でケースに入っている絵画を盗み出すなど――
「……そんな」
「ば、馬鹿な!!」
館長が叫んだ。対照的に絶句する一哉や他の刑事達。
それもその筈、なぜならケースの中にあったのは――
「そんな……まさか――ッ!?」
ケースの中に合ったのはコードではなかった。ディエンドライバーのマークが書かれた絵。
「い、いつの間に!?」
しかも驚くべきはケース自体は破られてはいないと言う事だ。
もちろん鍵を開けられた形跡も無い。つまり海東はケースを開けずに中の絵をすり替えた事になる。
そんな魔法みたいな事がヤツにはできるのか? 一哉はその人間離れした光景にただただ目を丸くする事しかできなかった。
「と、とにかく絵を外に出しましょう!!」
「え? あ、ああ! 館長!!」
もしかしたら何か手掛かりがつかめるかもしれない。
隣にいた警官の言葉に頷く一哉、ケースの鍵を館長から受け取っていく。
この鍵は館長が持っているものしかない。スペアが無い以上、どうしようもなかった筈だ。
かと言ってこじ開けた形跡もないし――
「僕がやります! 刑事は護衛をお願いします!!」
まだ犯人が近くにいるかもしれない、一哉は絵の確認を警官に任せてすぐに辺りを確認する事に。
絵を盗んだのならばまだ近くにいる筈だ、周りの警備員達はすぐに走り出して海東を追跡する。
しかし一哉は何か違和感を感じてココを離れない、イブも同じなのか周りをキョロキョロと見回っていた。
「!」
そしてイブは暗闇に輝く光の軌跡を確認する。
これはまさか! 彼女はすぐに叫んだ。ケースを開けてはいけないと!
「え?」
しかし一哉が確認した時にはもうケースを開けて警官が絵に手をかけている時だった。
どういう事なのか、一哉が問うと彼女はある方向を指差した。それは絵の反対側、そこに何か輝くモノが。
「ホログラム映像デス!」
「え!?」
向こうは部屋が明るくなる事が計算の内だったと言う事か!
つまり絵をすり替えたのではなく、コードをスクリーンにして上に絵をかぶせたのだ。
どうりで少しの違和感があった訳だ、一哉はすぐに警官に絵を下ろす様に叫ぶが――
「いや、もう遅いよ」
「は?」
先ほどまでガチガチに緊張していた警官が、何の事は無いとニヤリと笑い片手を引いた。
すると細いワイヤーがあったか、一気に引き寄せられる様にしてホログラムを映像を発射していた機械を――、ディエンドライバーをその手に。
「な、なにをして――」
そこでハッとする一哉、まさか――ッ!
「お前はッ!」
「フッ、今頃気づくなんて遅すぎると思わないかね?」
顔を掴むようにして、そのまま引き剥がす様にアクションを起こした。
すると警官の顔が文字通り剥がれ、一人の少年が姿を現した。
アタックライドコピー、それは文字通り対象の複製をつくれると言うもの。
さらに応用も可能で、彼は警官のコピーして自分に貼り付けたのだ。
本物は今頃トイレで夢の中、挑発的な笑みを浮かべて絵画を手にする少年、彼の目と一哉の目が重なり合う。
「か、海東……大輝――ッ」
「へぇ、僕の名前を知っているとは――!」
だがもう遊びは終わりだ。
海東はディエンドライバーを一哉に向けると引き金を引いた。
そこから発射されるのはスモーク、すぐに広がる煙幕は一哉達の視界を完全にシャットダウンする。
ホログラムもただのホログラムではなく、本当に絵を貼り付ける形の効果を持っていた。
まさにそんな事ができるのは、ディエンドライバー以外には考えられない。
「フッ!」『アタックライド』『サーチ!』
何も見えない中で海東が走り去る足音が聞こえる。
やられた! 一哉とイブは何とか互いを確認すると、海東が逃げたであろう場所へ向かって走り出す。その内に煙が晴れ――
「あぁぁ、まさかこんな――」
美術館のオーナーは膝をついてがっくりとうな垂れる。
厳重な警備、厳重な保護ケース、全ては完璧だったと言うのに今目の前には絵画ではなく一枚のカードしかケースの中には入っていない。
そう、シアン色のバーコードと蝶を模したマークが記されたカードしか。
「センサーか」
アタックライドサーチによってディエンドライバーは暗視ゴーグルの役割を果たしていた。
脳内に広がる景色、これで暗闇の中でも海東は迷う事無く足を進める事ができる。
さらに目の前に広がるセンサーまで確認できると言う優れ物だ。
「生ぬるいね」『アタックライド』『ブラスト!』
シアンの銃弾がセンサーをかいくぐるようにして、それぞれセンサーを発射していた機械を捉える。
これでもう大丈夫、彼はそこを走り抜けると階段を降りるのではなく上に向かう事に。
そして窓を飛び出し彼は屋上へと向かう。逃げ場の無い上に行くとは誰も思わないだろう、全く単純な奴等だと海東はニヤリと笑みを浮かべた。
「待て! 動くな!!」
「!!」
しかし屋上で彼は一哉に声をかけられる。
なるほど、つまらない奴等ばかりだと思っていたが少しはできる者もいるらしい。
助かった、でなければつまらないと。
「時空警察だ! その持っている絵を地面に置いて降伏しろ!」
「抵抗は許しまセン! 観念しなサイ!!」
警察手帳を見せて特殊な銃を構える一哉と、ビシッと男を指差すイブ。
対して海東は焦る素振りを見せず、むしろ少し笑みさえ浮かべている様だった。
彼は一哉の警察手帳をジッと見つめる。
「鈴木ねぇ、随分ありふれたの名前だ。僕を捕まえるには少し華が無い」
「ほ、ほっとけ! とにかくもう逃げ場は無いぞ!!」
空にヘリコプター、陸に無数の警官。
成程確かに逃げ場は無い。普通の人間ならばと。
「とにかく、手を上げて、早くそれをコッチに渡せ!」
「………」
冗談ではない、コレは僕の見つけたお宝だ。誰にも渡すものか。
「やっぱり――」
「ッ? 何か言ったか?」
「ああ、やっぱりお断りだとね!!」
「!!」
一哉は飛んでくるものが銃弾だと思い、イブをかばう様に立った。
なるほど、中々紳士的なヤツじゃないか。そう言うのは嫌いじゃないが、こちらとしては引っ掛けやすくて助かる。
「う、うわぁぁ!!」
「きゃああ!!」
放たれたフラッシュに一哉達は完全に怯み、動きを止めた。
今しかない、海東は笑いながら踵を返して全速力で屋上を賭ける!
「未熟だね、甘い甘い」『アタックライド』『バリア!』
「ま、待て!!」
パラシュートの役割をもつバリアで空に飛び立った海東。
さらに彼はインビジブルを使用して完全に警察の追走を回避して見せた。
その一部始終を屋上から見ていた一哉達、やられた! 彼は屋上の塀を叩く。
「――信じられナイ! あ、アカシックレコードですら追えないナンテ――……ッ!」
アカシックレコードは指定した物の行動を文字とし、記載する力がある。
しかしそれを使っても海東は終えなかった。彼の行動は何故か靄が掛かっている様に感じる。
それにイブツーはまだまだ試作品、つまり未熟だ。実力を過信しすぎたか?
「海東……大輝――ッ!」
何故イブが派遣されたのか、何故気をつけろと言われたのか。
そうか、それはつまりヤツが人を超えた力を持っていたからに他ならない。
さらにヤツは世界を移動できる。このまま見過ごしていればもっと多くの物が盗まれてしまう筈、それを止められるのは同じく人を超えた力を持っている。
それを止められるのは、同じく人を超えた力を手にした――
「俺たちだけだ……!」
「デスね!」
必ず捕まえてやる!
一哉は虚空をジッと一点に見つめながら心にそう誓った。
そして一方で絵画をデータとしてディエンドライバーの中に収納した海東、彼はその達成感に身を震わせている。
「素晴らしい」
やはりこの力は自由を手にする可能性と希望だ。
そして何よりも退屈しない最高の玩具ではないか。
海東は全身を未だに包む興奮、高揚感を少しでも紛らわそうと手でディエンドライバーを弄ぶ。
そしてあの二人組み、時空警察と言っていたか恐らくはナイン達側が用意したお目付け役と言った所か。
自分の名を知っていた事を考えると、向こうも世界を移動できると見て間違いない。
「ますます面白くなってきた」
捕まえられるモノなら、是非捕まえてほしいものだ。
いい相手役ができた、これで退屈しないで済みそうではないか。
「ま、無理だろうけど」
指を鳴らす海東。すると背後にオーロラが。
もうこの世界は飽きた、となればココにとどまる理由なんてゼロと言ってもいいだろう。
「さあ、次のゲームだ」
彼はやはり笑みを浮かべて、そのオーロラを通り抜けるのだった。
まあ前書きにもあったとおりいくらおまけとは言え、プロローグだけなのはアレだったんで更新しました。
あとメイン画面でちょっとややこしくなるんで……w
そういう理由でタイトルを変更したついでってのもあります。
あらすじとタグも後に変更、というか追加予定です。
まあ次回は結構遅くなってしまうのですが、そこは申し訳ない。
予定では一部終了前後か、そこら辺に。一応次からは二話簡潔方式になるかも。
これも予定ですが。
ではでは