「なっ……!」
驚愕するカイジ。
(なんだこりゃあ……!?)
ここは『下級スカヴェンジャー相互互助会』という矛盾したような名称を持つ、やはり矛盾をはらんで腐りつつある組織の倉庫。
彼の率いる第45班に宛がわれ、そして損耗したAT(アーマードトルーパー)、スコープドッグの代わりが納品されたというので来たのだが、
「主、これは……」
カイジが着込んでいるAT用の気密服、その右腰の雑嚢ポーチからひょっこりと顔を出した手のひらサイズの侍女型自動人形。
メイド型A.I.Doll-phone、個体識別名『メイ』が目を見張るようにしてセンシング、品を確かめる。
「ATM-09-LRC、スコープドッグ・ショーティですね」
「何だって?」
「Light Reconnaissance Custom、つまり軽偵察型の機体です。既存の機体からカスタマイズすることも可能ですが、型番が与えられているのでプラントの設定を変えればそのまま生産もできます。この機体は後者ですね」
そう答えるメイには、ATに関するデータがあらかた入っている。
と言うか、学が無いカイジが辞書片手にマニュアルを読み解くことに限界を感じ、自腹を切ったなけなしの金でサポートしてくれるAIとして求めたのが彼女だ。
A.I.Doll-phone、通称D-phoneと呼ばれる全高8センチ前後の携帯秘書、パームトップ自動人形型携帯電話だが、通信網が死んでいる現在ではPDAとしてしか働かない。
そしてカイジの持ち金で買えるだけあって義体も両腕等が欠損し、AI記憶領域も不完全だったものを、別製品からの流用でツギハギし、何とか形に仕上げたもの。
左目に前髪がかかった桃色のショートヘアと、燕尾コルセットを併せた小洒落たデザインのメイド服という外見から、センチネルグローリー社提供の『Re:ゼロ』コラボモデル、ラム型相当品と推測されるが、記憶領域に不備があった…… つまり人間で言う記憶喪失状態の彼女なので、正確なところの型式は不明。
それでも改めてセメント系冷静侍女風味にセットアップされたD-phone汎用奉仕AIプログラム自体には問題はなく、
「スコープドッグは降着機構を支える1本のバー状のフレームでひざ下と接続されているわけですが、それを超ショートフレームに交換することでカカトの関節と接続」
今日もメイはクールに主であるカイジのために働く。
「これにより頭頂高が3メートルを割る2930ミリ、ライト級ATツヴァーク並みの低身長と同時に軽量化を実現したのがこのスコープドッグ・ショーティと呼ばれるカスタムモデルです。それゆえ一見、ひざ下に直に足首が付いているようにも見えますが、実際にはヒザ関節とカカトの関節は別に存在しているのです」
「あ、ああ……」
「低身長を実現するのに「体のあちこちからちょっとずつ切って縮める『なんてことしなくてもいい』んだー これなら、そーんなにムズかしくないし、らくしょーだねっ!」というお手軽カスタムです」
なんだそりゃ。
「こんな短足ゴリラ体形でも問題が無いことはツヴァークで証明されていますし」
そこで、メイは何かを見つけ出そうとするかのように中空を見つめた。
カイジには分からない情報を読み取っている時の彼女の癖だ。
「……今、アイザック様から短波メールを受け取りました。今回はこのモデルが納品されるようですね」
アイザックはこのエヒメの街のガレージを取り仕切るブローカー兼メカニックである。
「はぁ? この短足野郎をか?」
あきれ顔でスコープドッグ・ショーティを眺めるカイジ。
メイはあっさりとうなずいて、
「はい、これまで納品されていたのはノーマルのスコープドッグをアイザック様が可能な限り安価に仕上げたカスタム機でしたが……」
「頑丈に、じゃねぇのかよ!」
とカイジがツッコむが、そうするだけの金を支払うことが、こちらにできないのだから仕方がない。
メイはその魂の叫びを丁寧にスルーして、倉庫の片隅に置いてある従来の機体について述べる。
「側面装甲をスクラップ装甲を利用して9ミリにまで底上げし、配管の設計変更と気密性の向上により搭乗者がポリマーリンゲル液の炎上により即火だるまにならないようアップグレードされたものですね」
「う…… それはまぁ、正直助かっている。戦いで失われた一機も、乗ってたやつが死ななかったのは、そのおかげだろうしな」
「それを踏まえて新しく納入された機体を見てください。胴体側面に張り出しがありますよね」
「ん、ああ」
「これはナップケルテ系のプラントで生産できる、腕基部の機構をコクピットの外に追い出し、それを専用のスポンソンで覆った機体です」
スコープドッグを生産するプラントは、とにもかくにも人命が安い国家があった場所から回収されたものだが、プラント毎に仕様が少しずつ異なっている。
これは最低限の規格さえ満たせば、その土地土地に合わせたものを生産していいよ、としたため。
遥か昔の西暦の時代、第二次世界大戦当時のM4シャーマン中戦車は工場やメーカー毎に細部が違うものが同時並行で生産されていたが、これも同じ理屈によるものだった。
「これにより腕基部、肩の整備性が向上したほか、腕のリジット・メカニズム強化が可能となり、ヘリボーン搬送後の機体不調を回避することができます」
ヘリボーン搬送では両肩のポイントにフックを引っ掛けて宙づりにして運ぶわけであるが、下手な人間が無理をかけると肩関節を破損させる恐れがあった。
それゆえに強化されたものである。
「結果として追加されたスポンソンの装甲と、その追い出した腕基部の機構自体がコクピットを守ることに。側面の装甲を強化したのと同じ効果を発揮することになりました」
「それは……」
「本来側面装甲に穴を開けて設置されていたスコープドッグの急所、サイドインテークとそれに付随する放熱器などの機構も同様にコクピット装甲の外側に置くことができましたし」
さらに、
「また腕基部の機構が追い出されたということは、機体が火災を起こしてもコクピット内部には損害を及ぼさないという効果をもたらします」
つまりはアイザックが施した『側面装甲をスクラップ装甲を利用して9ミリにまで底上げし、配管の設計変更と気密性の向上により搭乗者がポリマーリンゲル液の炎上により即火だるまにならないようアップグレードする』という加工と同様、いやそれ以上の機能が工場出荷、ストック状態で実現されているということ。
「スコープドッグは皇国北領軍が不足する予算を補うため積極的に民間に払い下げているものですが、新たにこの西領でスカヴェンジャー向けに売り出すにあたり、コネで押し付けた先のアイザック様が施したカスタム事例、そして彼にアドバイスしたとある有力スカヴェンジャーからのコメントを受けて……」
え!!「本当に脆さと燃えやすささえ解消して、あとちょっと背を低くすれば量産性も相まって装甲スーツよりも人気が出たかもしれないというのに……色々惜しい兵器だ」だって!? 出来らぁっ!
「……とばかりに送ってきたのがこの機体らしいです。アイザック様は「こういうのがあるのなら最初から回してくれ!!」と盛大に嘆いていますが」
「いや、あの人がカスタムしてくれた機体もなかなかいいもんなんだが」
「ATの売りは安さにありますからね。カスタムすることはその長所を潰してしまいますから」
メイは言う。
「安い機体をカスタムして高級機に打ち勝つ、というのはロマンあふれる選択肢ですが、その安い機体の購入費用とカスタムにかけるお金で、それ以上に強い高級機が買えるというのが現実です……! これが現実……!」
コスパで言うなら製造元が決められたコスト内で引き出せる限界の性能をトータルバランスに配慮したうえで実現しているストック状態が一番なのだ。
「で、この機体を誰に回すかだが……」
第45班の班長を任されている…… というか押し付けられているカイジは考える。
海の物とも山の物ともつかない、素性の知れない機体。
新人の工藤涯に回すという道もあるが、彼はパワーファイタータイプであり軽量型のこの機体は向かない。
そして本来なら乗るべき、前回の戦闘で機体を失った男は、
「い、嫌だ、オレは乗らないぞ! 前の機体は盾があってもやられたんだ! そんな短足のブリキのおもちゃ、乗れるもんかっ! 他に回してくれっ!!」
その際の恐怖に囚われており、アイザック謹製のシールドと廃品でコックピット周りの前面装甲が強化されている機体に乗りたがった。
「お前……」
カイジはその主張を自分勝手とは思わない。
人は弱い。
恐怖に囚われるのも仕方が無いこと。
だがそれでも、
「自分から負けを認めるんじゃねぇ!」
自ら立ち竦む、負けを認めるようなその考え方にむかっ腹を立て、相手を奮い立たせようと声を荒げるカイジだったが、それを副官である人の良い中年、石田が止めた。
「何故止めるっ!」
「わかったんだよ…… オレにはもう…… わかった……」
彼はやるせなさそうに首を振る。
「人間には二種類いる……と。土壇場で臆して動けなくなってしまう人間と、そこで奮い立つ者と……」
そう語る石田。
「カイジ君、君は後者。だからあの機体にも乗れるって考えられるし、他の人間に乗れって言える。でも、オレたちのような土壇場で身をすくませて、動けなくなってしまう人間にはお守りが、盾と装甲っていうお守りが必要なんだ……」
「あんた……」
言いたいことは理解した。
石田は弱い。
しかし自分の弱さを正面から見つめ、虚勢を張らずに認めることができる。
それは……
へたをしたら見過ごしてしまいかねない、そんな静かな……
目立たない克己……!
だからカイジも納得……!
納得したが、同時に軽量の偵察向き機体なので副官の石田に乗ってもらいサポート、裏方に徹してもらうという道も、今この瞬間に閉ざされた。
「くそっ、なら俺が乗るしかないってのか、この短足野郎に……」
現代戦、指揮官先頭の精神などとうに死んでいるため、指揮官が一歩下がった位置から戦場全体を俯瞰し、機動力に優れた軽量機で適宜後ろからサポートする、というのも一つの方法だったが。
しかし、この負け犬根性の染みついた互助会では、班長であるカイジが先に立たないと動けない場面が多々ある。
そういった状況で軽量機に乗る、乗って前に出るというのは、今まで以上に危険にさらされるということだ。
立ち尽くす主人に、手のひらサイズの侍女型自動人形がクールに告げる。
「主人公機乗換ですね、主」
「くそっ……! くそっ……!」
カイジの悪態が倉庫に響く……
なお、後で自室に戻って頭を抱えるカイジにメイは、
「背が低いということは前方投影面積が小さい、被弾率が低いってことなんですけどね」
「そ、そういう考え方もあるのか……」
「正面装甲はノーマルのままでも歩兵の持つ軽火器程度なら弾けますし、それ以上、50口径、12.7ミリの重機関銃弾やアンチマテリアルライフルに関しても避弾経始により条件次第で耐えます。そもそも軽くて素早いのですから機動的防御「当たらなければどうということは無い」で何とでもなりますし」
という具合に説き、なだめる。
石田たちのように戦場で怯え、竦み、ATの性能を生かせぬまま死んでゆきかねない者ならともかく、上手く扱うことさえできれば主であるカイジの生存率が上がる。
それが分かっていたからこそ、あの場では口をはさまなかったのだ。
そして後で煮詰まり切った主を慰め、ケアするというのは侍女式自動人形の勤めであり、やりがいでもある。
「私がお助けいたします。スコープドッグのコンピュータ類は予備としてまったく同じものをもう1系統積んでいるのですが、これはただ積んでいるだけ。ならば両系統を生かし並列に動作させるデュアルプロセッサとして働かせることで、余裕をもって私のAIをインストールする余地が生まれます」
これは戦闘中に片系が損傷や故障などで停止しても、切り替え操作などのタイムラグ無しで残った側で処理を継続できるなど、信頼性向上の効果ももたらす。
その昔、それこそコンピュータというものが生まれた西暦の時代から、高度な信頼性が要求されるシステムでは採用されていた仕組みである。
ソフトウェアを組み、メンテし続けることにかかるコストの関係でスコープドッグには採用されていなかったが、メイの手にかかれば問題なく実装が可能だ。
しかし、
「い、いいのか?」
それは、一発撃ったら火を噴いて墜ちるワンショットライターどころか、転んだだけで人工筋肉マッスルシリンダーを駆動する可燃性のポリマーリンゲル液が漏れて即引火、火だるまになるとも言われるATをメイが自らの身体とする、ということでもある。
それゆえにためらうカイジに、メイは言う。
「はい、私のすべての機能は主のためにこそ在るのですから」
そう、カイジのようなダメな、しかしダメになり切れずに足掻こうとする人間は、侍女式自動人形にとって大変に仕え甲斐のある……
ある意味、魅力的な主人なのだった。
大好きな『やる夫はスカヴェンジャーのようです』の二次創作にチャレンジしてみました。
あの世界観、そして侍女型自動人形、Sfさんがたまりませんよね。
一方でボトムズな互助会のカイジたちもいい味を出しています。
というわけで書いてみたのがこのお話。
さすがにカイジにSfさんのような最高級の侍女型生体自動人形を与えることはできませんので、デスクトップアーミーから手のひらサイズの侍女式自動人形、それもツギハギの、を付けることになりましたが。
次回は、
「は? 20ミリ弾に耐える? 一番厚いところでも14ミリしかないスコープドッグの装甲で?」
「腰部装甲など一部では想定して設計されているという話ですね。第二次世界大戦中の独逸四号戦車が対戦車ライフルへの対応策として付けた増加装甲、シュルツェンと同じ理屈です。あれは厚さ数ミリの薄い、防弾処理もされていない軟鉄製ですが効果は十分でしたから」
などという某ガンダムSS『ガルマ「グフとか要らないんじゃあないか?」シャア「えっ」』の技術談議部分だけを抜きだしたようなお話をお届けしようかと。
そんな風な短編連作を気ままに書いていこうかなぁ、と考えています。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。