成りあがりを目指す者と、上を目指すことなく腐る者。
下層社会の縮図『下級スカヴェンジャー相互互助会』でも、この2つの勢力は争いを続けていた。
始めはもっとまともな団体だったらしいが、カイジが入った頃には組織の巨大化の弊害でブラック化が進んでおり、総勢400人以上のメンバーがそれに巻き込まれていった。
カイジは戦った。
はじめはスカヴェンジャーとして身を立てるためと信じて戦った。
だが、戦いは続くばかりで終わりが無かった。
カイジは疲れた。
誰も彼もが疲れていた……
対装甲スーツ戦 ハイテク VS ローコスト
ハイヴ攻略、皇軍相撃と様々な事件が起こり、カイジたちの所属する下級スカヴェンジャー相互互助会、第45班もAT乗り、つまりはボトムズ(最低野郎共)の名に偽りが無いというほどの地獄を這いずり回り、何とか生き残ったわけだが。
それらが終わり、通常の依頼業務に切り替わっても、
「敵、中量級の装甲スーツ1!」
カイジの乗るスコープドッグ・ショーティにインストールされたAI、メイからの報告。
「………!」
「嘘だ……! 簡単な野盗狩りのはずっ……! そう聞いてた……!」
「な…… 何だよ、何だよこれっ……!」
班員たち…… 本来小隊規模のはずが損耗し、正味わずか四人のAT分隊に過ぎなくなったメンバー間に広がる動揺。
もちろんカイジもまた、
「装甲スーツ!? あ、あの陸戦の王者に挑まなきゃならないってのか? 軍が使ってる、バカげた値段がするハイテクの塊に、こんなブリキの人形、ATで……」
驚愕……!
しかし、
「はい、軍からの横流しか、野盗に転職した脱走兵か…… 西領軍腐敗の残滓がまだまだ残っているようですね」
とメイ。
現実……! これが現実……!
地獄に終わりは無かったようだ。
そこに敵機からの銃撃。
「ひ、ひいいいぃっ!?」
副官の石田たちは悲鳴を上げて乗機、スコープドッグにシールドを掲げさせる。
「敵機武装、20ミリチェインガンを確認。とにかく動いて的を絞らせないようにしてください、主」
「お、おう!」
アクセルを踏み込み、足裏のグライディングホイールで機体をローラーダッシュさせるカイジ!
彼の乗るスコープドッグ・ショーティは、ひざ下を切り詰めることで低身長化、軽量化を果たした軽偵察向け機体。
そのおかげで加速は鋭い。
「続けっ!」
と叫ぶが……
「なにっ……!」
ついてきたのは新人、工藤涯の機体だけ……
石田ともう一人の男は動かない……
いや、動けない……!
その場でシールドをかざし、カメのように身をすくめている。
「バ…… バカ野郎! いくら盾があるって言っても……」
そう言っている間に、轟音を立てて直撃っ……! 直撃っ……!
「ぎゃっ!」
アイザック謹製の手持ちシールドは何とか耐えたが、しかしそれを支えるスコープドッグの腕の方が衝撃に耐えられずに死ぬ。
(どうする?)
一瞬のうちに様々な思いがカイジの頭の中、交錯する。
(俺は言ったんだ、動かないアイツらが悪い……!)
(分が悪い賭けかも知れないが、賭けなければ生き残る目も無い。賭けなければ生き残る可能性もゼロ……!)
(アイツらはその現実から目をそらし、自分から負けを確定させている、ゼロにしているんだ……!)
(だから……!)
しかし、カイジもまた目をそらしている。
(だから、見捨てる……?)
その言葉から、その選択を考えないようにしていた。
「ちくしょう!」
カイジは敵、装甲スーツの右側面に向かって猛然とダッシュ!
「主!」
ヤケになってはいけないと止めようとするメイだったが、しかしカイジは強張っていた口元を無理矢理に笑みの形に変え、
「「石田さんたちはその場に留まって戦う」…… 「オレたちは回り込みながらヤツと戦う」つまり」
計略あっての無茶……!
「十字砲火(クロスファイア)の形になるな……」
石田たちは動かない。
なら、動かないことに意味を持たせるっ!
「くっ……!」
カイジは震えそうになる身体を無理に押し留め、スコープドッグ・ショーティにヘビィマシンガンを構えさせる。
頭部カメラの三連ターレットレンズが回転することで標準ズームレンズから精密照準へと切り替わり、有線接続されたゴーグルには敵機の姿と照準パターンが映し出された。
「武器は同じなんだ、当たりゃいける」
いや、敵の20ミリチェインガンに対し、カイジたちのスコープドッグが装備しているのは30ミリヘビィマシンガン。
威力だけなら上回っているし、これなら装甲スーツにも十分通じる、いや狩れる!
その、必殺の想いを込めてトリガーを引き絞るが、それは……
「消えた!?」
命中させることができればの話だ。
「右です、主!」
すぐさま頭部カメラの三連レンズを広角に切り替え、敵機を捕捉することに成功したメイのフォローで首をめぐらせるカイジ。
その動きをコクピット内部のパイロット視線センサーが拾い、スコープドッグの頭部が同調して旋回し視界を動かす。
「一瞬であんなところに……」
「内部の人間の動きを倍増する増幅器によって強化されたジャンプ力、それにスラスターの推力を併用して繰り出される跳躍です」
「バカなっ……!」
まさに驚異の、別次元の機動力。
こんな相手に勝てるのか?
「でも、それだけです」
メイは言う。
「装甲スーツは瞬発力だけ。連続した高速移動は不可能ですから、こちらはその出来ないことをすべきです」
相手のできないことをやる。
自分の強みを生かして攻めるのは勝負事の基本。
「いかに隔絶した能力を持っていようと向こうはパワードスーツ。自分の足で走らないといけない歩兵」
それに対し、
「こちらはシートに座ったまま移動できる乗り物(ビークル)、だからアーマードトルーパー、装甲『騎兵』なのです」
「はっ……!」
「同じような人型兵器でも根本が違います。そこを突くのです」
いや、そこを突くしか勝ち筋は無い……!
ATは動き回ってなんぼ。
いくら装甲があっても、足を止めて撃ち合うものではない。
だからこそ素のスコープドッグは機動力重視で最低限の装甲しか持たないのだ。
「最低限って言っても限度があるが、なっ!」
急旋回!
そしてダッシュに緩急をつけて敵からの狙いをつけさせない!
「確かに。しかし一応、20ミリを想定して設計されてはいるのですよ」
「本当かよ!」
そうして動き続け、
「ぎゃっ!」
「石田さんっ……!」
「大丈夫です、主。石田機は脚を撃ち抜かれたようですが、出火はしていません。その場にとどまっての戦闘も継続可能です」
スコープドッグの後頭部には平面素子による広角イメージセンサー、つまり後部監視カメラがあり、そこからの情報と、機体間通信によるコンディションモニター共有機能をもって確認したメイが報告。
そうやって味方に損害を出しつつも撃ち合うが、
「なんだありゃ? バッタか!? ピョンピョン跳ね回りやがってっ!」
誰かが漏らした悪態。
いや、あるいはカイジ自身が漏らしたうめきかも知れない。
しかし、
「そうか!」
バッタを捕まえるには、跳ばすことだ。
バッタは連続しては跳ねられない。
だから、わざと跳ばせて次に跳ぶまでの準備時間、クールタイムとも言うべき間に捕まえる。
装甲スーツのジャンプも連続使用は機体が、そして内部の人間が耐えられない。
そこを突く!
「だがっ……!」
光明を見出したカイジだったが、しかし気付く。
当然、ジャンプで避けられないのなら敵はその場で反撃する。
カウンターでこちらを仕留めようとする。
センサー類、射撃管制装置、銃そのものも、どれも高価で高度なものを備えている装甲スーツの方が上。
その上カイジの機体、スコープドッグ・ショーティが装備しているのはGAT-22Cヘビィマシンガン改。
元々GAT-22の銃身長が1500ミリだったのに対し、約1/4の382ミリのショートバレルに換装、カウンターウェイトとなるストックも取り外されたこの武器は、重量が軽くなったがゆえに、とっさの射撃では振動が大きくなり弾がばらける。
カイジは思い出す。
先日、カイジが新たな機体、このスコープドッグ・ショーティと、それが使用するGAT-22Cヘビィマシンガン改の説明をメイから受けた際のことを……
「ああ、銃身(バレル)が短いと命中精度が下がるよな」
「主……」
とメイには、手のひらサイズの侍女型自動人形の彼女には複雑な表情をされた。
「な、何だ?」
「いえ、その認識でも困ることは少ないと思いますが、正確ではありません。正しいところのお話を聞きますか?」
「ん? ああ……」
カイジには学が無い。
この時代、何のコネもなく前文明の遺跡あさり、スカヴェンジャーになるために『互助会』に流れてくるような、そんな下流層の教育は崩壊しているのだから仕方ないが……
ともかく、それゆえ正確であるとかそうでないとか、問題が無い限りはこだわるところではない。
しかし武器は自分の命を預けるもの。
これまでは『互助会』の先輩から言われる、もしくは見て盗む、正しいかそうでないか判断が付かない経験則的なあれこれを実地で学んでいくしかなかったが。
こうしてメイが教えてくれるなら、それはとても有り難いことであり、カイジは貪欲に生きるための知識を求める。
「バレルを短くしても、銃の機械的精度は落ちません。ベンチレスト、つまり万力などで固定して撃てば、その命中精度にほとんど変わりは無かったりします」
「なに?」
「余談になるかも知れませんが短銃身、スナブノーズのリボルバーは小型で女性の護身にも最適と言われていましたが、実際には非常に当てづらい扱いにくいものでした」
まぁ、実際には女性の最後の騎士、つまり押し倒そうとしてきた相手の身体に押し付けるようにして撃つもので、命中精度も何もないのですが。
ちらりとカイジの不埒な下半身を見ながら言うものだから、その最後の騎士がどこに向けて撃たれるのか、カイジは身に染みて理解する。
メイはこのようなインパクトがあって記憶に残りやすい雑知識、分かりやすい実例を交えながら説明してくれる。
なお、股間というのはどんな素人でもとっさに庇う狙いにくい部位なので(逆に金的攻撃禁止のフルコンタクト系格闘技をやっている者の方が大股開きの構えをするので攻撃しやすかったりもするが)接射なら的の大きい下腹部もしくは太ももを狙うのが正解で、メイの視線もそこに向けられていたのだが……
下世話な認識に囚われているカイジは気付かない。
「このせいでしょうか、銃身が短いと命中精度が下がるという認識が広く定着したのは。しかしこの銃身長が2インチ程度のスナブノーズでも、やはりベンチレストで固定して撃てば、問題なく精度は出ます」
だから銃身を短くしたGAT-22Cヘビィマシンガン改もまた、機械的精度には問題は無い。
「なお、ならスナブノーズのリボルバーの命中精度が低いのは何故か、という話ですが、銃が小型過ぎて構えても安定しない、そして軽すぎて反動を受けやすいせいと長らく信じられていたのですが……」
「違うのか?」
「はい、スナブノーズのリボルバーにも使えるレーザーサイト、グリップに内蔵するものや、サイドプレートの上に着けるタイプの登場で評価は一変します」
史実的にはクリムゾントレースのものが走りか。
「レーザーサイトを使うと、当たらないはずのスナブノーズが普通に当たるのです。つまりスナブノーズのリボルバーが当たらないのは見にくいサイトと短すぎる照準線長のせいだったということですね」
だから相手がスナブノーズの拳銃を持ち出してきた場合、当たらないと舐めてかかるかも知れないが、レーザーサイトを付けていたらそれも覆されてしまうので注意が必要ということだった。
話を戻して、
「もちろん銃身を短くすると弾速が落ちます。それにより射程が落ち、遠距離では当てにくくなることはありますが」
あとは徹甲弾のような運動エネルギー弾の威力も落ちる。
しかし、
「元々、GAT-22ヘビィマシンガンは長距離精密射撃など想定していませんから、一般的な交戦距離では問題とはなりません」
ですが、と続けるメイ。
「銃身が短く、カウンターウェイトとなるストックも取り外されたGAT-22Cヘビィマシンガン改では、重量が1010kgから818kgと軽くなったがゆえに、銃撃の反動による影響を受けやすい。つまり振動が大きくなるから、弾が散ってしまうのです」
機械的精度ではなく、そういう問題。
「それゆえGAT-22Cヘビィマシンガン改では銃身上部に配置されていた70ミリ単発グレネードランチャーを廃止し、そこにガス圧調整メカニズムを装備することで弾種や用途に合わせ発射速度、つまりフルオート射撃による発射サイクルのスピードを変え、命中率の低下による攻撃力不足を補っているのです」
「補う?」
「発射速度を上げる、つまり……」
「『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』かよ!」
ということ。
「バカな……! ノーマルのGAT-22ヘビィマシンガンだって下手にトリガーを引き続けると、あっという間に弾切れするんだぞ!」
乗り初めにそれをやって、えらい目に遭ったカイジだ。
専用のボックスマガジンに120発の弾が入るため、歩兵で言うアサルトライフル、自動小銃ではなく分隊支援火器(Squad automatic weapon, SAW)、軽機関銃だと認識してフルオートで撃ち続けたのが原因だ。
戦闘中に弾切れを起こし、液体火薬の爆発の力で肘から先を伸縮させるアームパンチに頼った肉弾戦をやる羽目になるわ、使った弾の補充を引き出すのにえらい苦労をさせられるわでヒドイ目に遭っている。
だからGAT-22ヘビィマシンガンは通常、単射での運用が推奨される。
これは北領皇国軍の熟練兵も一緒だ。
しかし、
「発射速度が速くても使い道はあります。敵と遭遇したら真っ先に弾幕を張ることができます。だから視界が悪く不意の会敵が起こりやすい密林湿地帯向けのマーシィドッグなどではこのショートカービンタイプのGAT-22Cを用いていたのです」
密林で使うのに取り回しがいいから、というだけでは無いということ。
そして、
「このATM-09-LRC、スコープドッグ・ショーティはLight Reconnaissance Custom、つまり軽偵察型の機体です。敵に発見されたら弾幕を張り即座に逃げる。偵察部隊の通常作戦規定(SOP、Standard Operating Procedure)ですね」
「……そ、それは分かるが、俺には関係ないよな?」
偵察向きの機体だが、偵察に用いるわけじゃない。
しかしメイは首を振って、
「主はこの第45班の班長です。敵から襲撃を受けた際には真っ先に逃げる、というわけには行かず、踏みとどまって敵に反撃して見せる必要があります。そうでないと部隊の士気が落ち…… いえ、この互助会の面々では」
メイは言葉を濁すが、
「士気が崩壊する、か」
カイジは正確に状況を把握していた。
彼はうだつの上がらない互助会メンバーの一人に過ぎないが、だからこそ弱い人間の心理を理解している。
頭ではなく心で理解できる。
それが彼の持つ強みでもあり、また理解した上で考えられる頭があるからこそ、班長なんて面倒な立場を押し付けられているわけなのだが。
「……はい、ですから発射速度が速く即座に弾幕が張れる、というのはその場合にも役に立つのです」
ゆえに、
「スモークだっ!」
装甲スーツを連続でジャンプさせた先に、煙幕弾を投射させる。
他の班員のノーマルなスコープドッグが装備しているのはGAT-22ヘビィマシンガン。
銃身上部に配置された70ミリ単発グレネードランチャーには、煙幕弾が装填されていた。
慌てたのか石田たちの射撃はそれ、別の場所に白煙を上げたが、カイジに追従していた涯のものが敵装甲スーツ至近に着弾!
その姿が白煙に包まれる。
「スモーク!? 視界を赤外線に……」
遠赤外線は可視光線と比較して、解像度が劣る一方で透過能力に優れるため、ある程度であれば煙越しに像を捕らえることもできる。
しかし、
「熱量を持った煙幕だというのか!?」
熱煙幕弾は、それすら妨害する。
装甲スーツの男は舌打ちした。
使い過ぎた推進器はオーバーヒート気味で今しばらく冷却が必要だし、これ以上の連続跳躍は男の身体の方がもたない。
「だが、見えなくともなぁ」
野盗に堕ちた身が手にできるような型落ち品であろうとも、装甲スーツは高度テクノロジーの塊だ。
事前に採取できた周囲の地形データが入っているなら、それを基にコンピュータによる3D描画を行い、問題なく動くことが可能。
そしてデータベースに入っていたスコープドッグの機体データから、相手の動ける範囲も予測できる。
「地形を、遮蔽物を利用し待ち構え、飛び込んできたところを撃つ!」
そうして、徐々にスモークが薄れると……
「そこぉ!」
こちらに向けローラーダッシュ中の機体に射撃。
命中させるが、当たり場所が悪かったのか敵はダッシュのバランスを崩しスピンしただけで炎上しない。
しかもスピンも1回転と少しに留め、即座に機体を立て直して見せる。
こんな見事な自動制御を成せるような高性能なバランサーはATには積まれていない。
つまりはパイロットの腕による人間バランサーだ!
「ちぃっ!」
追撃に入ろうとする男だったが、しかしそこで気付く。
こちらに回り込んできていた敵は二機だったはず。
もう一機は……
「っ!」
がなり立てる接近警報!
至近の物陰から飛び出してくる、ATにしては低過ぎるシルエットの機体!
「バカなっ!」
スコープドッグの性能では、この短時間にそこまで接近できるはずもないし、その遮蔽物は高さが3メートル程度、スコープドッグの長身が隠れられるような場所ではない!
「くっ!」
それでも装甲スーツは即座に反応して見せるが……
敵のヘビィマシンガンから放たれた濃密な火線が、男と機体を飲み込むのが先だった。
「発射速度が速くても使い道はある、か」
振動が大きく弾が散るというのも、距離がある場合は命中率が下がるが、逆に近距離で弾をばらまき、逃れ難い面で攻撃するには適しているということ。
この至近からの火力のごり押しで装甲スーツを倒したカイジはため息交じりにつぶやく。
「さすがです、主」
メイがその彼を褒めたたえる。
しかしカイジは、
「いや、この機体の性能のお陰だ」
と答える。
このATM-09-LRC、スコープドッグ・ショーティは偵察型の機体。
スコープドッグは降着機構を支える1本のバー状のフレームでひざ下と接続されているわけだが、それを超ショートフレームに交換することでカカトの関節と接続。
これにより頭頂高が3メートルを割る2930ミリ、ライト級ATツヴァーク並みの低身長と同時に軽量化を実現しているのである。
軽い上、低身長であるということは空気抵抗も低く。
つまりはローラーダッシュ時の加速はもちろん、トップスピードも高まっているため、敵装甲スーツの戦術コンピュータの予測を覆し、スモークに紛れて至近距離まで接近できたわけである。
その恐るべき本領を最初にさらけ出していれば相手も対応できたかもしれないが、カイジはスモークを焚くまでは僚機である涯のノーマルなスコープドッグに合わせて行動していたので、事実は伏せられた。
それゆえに成り立った策である。
その上、
「速いだけでなく、安定してるから俺でも無理なくスピードが出せたし」
「そうですね、足を短くした結果、重心が下がって安定性が増した上に、アーマードトルーパーの脚部をサスペンションと考えれば、ばね下荷重が大きく減るのと同じ効果をもたらす結果となりますから、ローラーダッシュ時の運動性能、操縦性が大幅に向上しているのです」
車において「バネ下を軽量化するとフットワークがよくなる」や「バネ下1kgの軽量化はバネ上10kgに相当」という話はよく聞かれるところ。
特にアーマードトルーパーは重い機体重量を支えるのとローラーダッシュ走行を安定させるために人体に比べ脚部の肥大化が著しく、これを改善できたことはかなりの効果を上げていた。
さらに低身長を利用し、ノーマルなスコープドッグでは隠れきれない高さの遮蔽物を利用し身を隠す。
そうして掴んだ勝利だった。
なお……
各機、派手に被弾するわ、大量の弾薬を消費するわでこちらの損失も酷く。
班長であるカイジはその報告と補給の引き出しに大変な苦労をすることになるのだが。
その手伝いをしながらメイが……
スコープドッグ・ショーティにインストールされた彼女と本体、手のひらサイズの侍女型自動人形はデータリンクしているので戦闘報告書の作成もばっちり、な彼女が言う。
「まるでレッドショルダーですね」
「え……? 味方からも吸血部隊と怖れられたっていう伝説の装甲騎兵部隊のことか? 生き延びる為には仲間の血を吸う。死人の肉を食う。地獄からだって這い戻ってくるっていう」
まぁ、カイジのようなスカヴェンジャーのAT乗りには例えるに相応しい存在かも知れないが。
しかしメイは首を振り、
「いえ、レッドショルダーのいわれには、もう一つ説がありまして。上げる戦果以上に味方に与える損失が大きく、それを差し引けばいつも赤字。収支グラフが常に右肩下がりで真っ赤なので、そう呼ばれたという」
だからATの右肩を赤く塗っているのだと……
「レッドショルダーの赤はもっと暗い。差し押さえの赤紙の色だ。それとマークは右肩だ」
などという噂がまことしやかにささやかれたのだという。
「………」
「今の状況は、まさにそのような感じですよね」
「……ああ」
カイジはため息をつき、配給品の飲料に手を伸ばすが、
「げはぁっ! げはぁぁっっ!! し、舌が、舌がっっっっ!! の、喉がっっっっ!!!」
カイジは鼻水を吹き、噎せ、泣きながらゴロゴロと床を転げまわる。
その主の惨状に、毒でも仕込まれたのかと慌てて確認するメイだったが、
「……『ゴーヤ1本丸ごと濃縮『還元しない』コーヒー』? IAI食品部門のプラントでも生き残っているんですか!?」
缶にプリントされた『苦み走った憎いヤツ』というキャッチコピーが、何とも消費者にケンカを売っているヒドイ代物だ。
「み、水……」
カイジの飲むエヒメの缶コーヒーは苦い……
頂きましたご声援に支えられ、無事、続きを書くことができました。
ありがとうございます。
考えていた話とは別になりましたが、とりあえずはバトルが必要かな、と思いましてお届けした次第です。
装甲の話は次回、今回の戦闘で被弾、損傷したATを修理しながらになりそうです。
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。