取り敢えず今回からは古代都市編をお送りします。
瞼を刺激する、強い光。
カーテンの僅かな隙間から漏れる朝日が男の意識を徐々に覚醒へと誘う。
時刻は午前7時20分を過ぎた辺りを指していた。
セットしたタイマーの10分程早い起床。
男はあと少しぐらい寝かせろと毛布を被るが、一度覚醒してしまった彼の意識が簡単に眠りに落ちる事はなく、結局セットしていたタイマーが部屋中しつこく鳴り響き、彼の起床を急かすものだから彼は渋々とベットから離れることにした。
そのあと彼は寝巻を適当に脱ぎ捨て、そこら辺に転がっている皺くちゃのスーツを引っ張り出し、パンパンと無理矢理皺を矯正してそれを着込む。
市販のパンを二枚取り出しトースターへ。
男はパンが焼けるのを待っている間、戸棚からインスタントの黒豆(珈琲の様なもの)をカップに二、三振ってそれを牛乳で溶かして一口。
「……にがっ」
男にはこの黒豆をブラックで飲む輩の舌を改めて疑う。
牛乳で溶かしてもこの苦さだ。
彼の上司が平気でこれを飲んでいる所を見て試したが、男は「これは無いな」と呟き、戸棚から角砂糖の瓶を取り出して、一個、二個、三個ーーー
四、五、六、七、八、九……
溶液が角砂糖を溶かしきれないほど、角砂糖が男性用の大き目のカップから溢れるほど角砂糖を投入した男はそこまで来て初めてカップに口を付けて頷く。
どうやら彼のお気に召したようだ。
男は甘党であった。
やがてパンが焼け、男は冷めない内にと冷蔵庫から三つ程
一つ目は瓶詰のイチゴジャム。
それをバターナイフで男はこれでもかと塗ったくり、パンの表面は光の加減も相まってルビーを散りばめたようにも見える。
しかしこれで終わる訳では無く、男が次に手に持ったのは黄白色のチューブ。
それはマヨネーズと言われる代物であった。
男はチューブを逆手に持つと、ギュッとチューブを握りつぶす。
無論チューブの中身、マヨネーズはブビュ、という下品な音を立ててルビーの海を黄白色の物体で覆い隠していく。
男はマヨラーでもあった。
これだけでも正気の沙汰とは思えない所業というのに男は三つめのチューブを手に持った。
中身は純白。
黄白色の上に螺旋状に飾られていくそれはホイップクリームと呼ばれる物だった。
重ね重ね書くが、彼は重度の甘党であった。
彼の上司が見たら「味覚大丈夫ですか?取り敢えず病院行きましょう……今すぐに」と間違いなく言うだろう。
しかし男はそれを迷うことなく口に含み、頬を緩ませて一言。
「最・高」
男の味覚は狂っていた。
食事を終えた男は身支度をそそくさと整える。
その過程で久しく剃っていなかった髭をなぞり、剃ろうか剃るまいか悩んだ末、男の上司の小言を思い出して剃ることにした。
……ただ、男は身だしなみを常日頃気にしない性格故に所々に剃り残しがあったのはここだけの話。
そしてすべての身支度を終えた男は、今日必要な資料をバックに詰め込み自宅を出る。
徒歩十分で着く最寄りの駅から通勤ラッシュの荒波に三十分程揉まれ、漸く終わった苦行に清々しながらそこから五分ほど歩く。
そうして見えてきたのは都市の中でも一際大き目の建物。
門の傍にある『科学省』という石碑を一瞥し、男が門の前で一度立ち止まると顔見知りの警備兵が詰所より現れる。
その警備兵に二、三挨拶した後、IDを見せ、厳重な持ち物チェック等を済ませ、漸く建物の内部へ。
男はそのままエントランスにあるエレベーターを通り過ぎ、奥の専用エレベーターを使って地下5階に降り、エレベーターを降りた先にある『政府技術開発室』に入る。
……開発室の電気はポツポツと点いている。
まあそれは、徹夜漬けで研究に没頭する
自身のディスクに荷物を置き、スーツを脱いで、椅子に掛けてあった白衣を羽織って男は奥に向かう。
一番奥の研究室は、この混沌とした研究室の中でより混沌と化している空間であった。
床一面に広げられた資料と思しき紙が床を隠すように敷き詰められ、紙の隙間から顔を覗かせている床は、計算式がびっしりと書き込んである。
おそらくは奥にある黒板に書ききれなかった計算をそのまま床で続けたのだろうと簡単に推測が着く……いつもの事だから。
そして工具やら機材の部品やらも紙の上に散乱しているのだが、ひときわ目立つのが、白い紙の海の真ん中で資料を顔に被って仰向けに浮かんでいる白衣を纏った一人の人物。
この惨状をもたらした元凶である。
男は目の前の人物を起こすかどうか一瞬迷った……が、おぼろげだが目の前の人物には確か朝早くより重役会議に出頭するよう連絡が来ていたのを思い出して彼女を起こすことにした。
「ん……」
しかし男の腕は、目の前の人物からほんの数センチの位置で止まる。
目の前の人物が身じろぎした事で、顔に乗っていた資料が落ちて、その人物の顔が露わになったからだ。
綺麗な、整った顔だと男は純粋に思う。
長い眉に粉雪の様な穢れを知らない肌。
起きている時のシンプルなデザインの眼鏡越しにある、その淡いサファイアの瞳は目を合わせるとその瞳の中に引き込まれそうになる。
それだけでは無い。
長身の、背丈に美しい艶のある長い髪が白い海の上を這うように投げ出され、白は、より彼女を引き立てる。
男は彼女に懸想をしていた。
男は研究一筋で生きて来た自分がまさか色恋に目覚めるとはつゆも思わなかったと、我が事ながら苦笑した。
男だけでは無い。
この研究所に勤める男たちは皆が皆、彼女に懸想をしていた。
しかし、だからと言って男は彼女に告白するつもりは更々なく、それは他の男たちも同じだろう。
男たちにとって彼女の存在は尊敬する上司であり、憧れであり、高嶺の花であり、救世主でもあった。
奇人変人の集まりであり、常人に理解されなかった者たちの掃き溜めであり、今まで見向きもされなかったこの『政府技術開発室』を一人で立て直したのは、ここまで盛り立てたのは彼女だ。
掃き溜めに鶴
そんな言葉が脳裏に浮かぶ。
男たちは自分と彼女が釣り合わない事が分かっている為、誰も彼女に告白なんて愚行に走らない。
……もしかしたら、これは、この気持ちは懸想ではなく信仰、崇拝の類ではないのかと思い返す。
ならば自身のこれも、他の男たちのそれも説明がつくと言うものだ。
「室長」
思考を一巡した男は、漸く彼女の肩を揺すって声をかけた。
「室長、白嶺室長」
「ん……安達殿ですか、お早う御座います……今、時刻は何時でしょうか?」
目覚める彼女。
男は彼女の古風な喋り方やその容姿、立ち振る舞いも相まって、彼女が高貴の出では無いかと思わず疑ってしまう。
「九時半を過ぎたあたりです」
「そうですか、お手数をおかけしました安達殿」
「いえ、お気になさらず」
フラフラと立ち上がって「ん~」と腕を伸ばして凝り固まった筋肉を伸ばす彼女。
「さて安達殿」
「何でしょうか?」
「今日も頑張りましょうね」
突然正面からかけられる、彼女からの励ましの言葉に男は思わず顔を背ける。
彼女……白嶺千鶴を男は直視できなかった。
彼女の存在は男にとって、空に輝く太陽の様に眩しすぎたのだ。
「暫く、私は家を空けます」
「「「「はい?」」」」
私のそんな発言に異口同音を重ねるウカノ、チルノ、椛、そして犬童。
皆が皆、私の発言に戸惑いの色を浮かべる。
「『家を空ける』……態々私たちを集めてそれを仰ったという事は、今まで行ってきた査察とはまた違う、という事ですか?」
ウカノの問いに私は頷いて答える。
「以前、月夜見に彼女の治めている都市を見に行くと約束しましたので」
「そーなのかー?いいよ千鶴姉ぇ、行っておいでよ。幻想郷の留守はアタイたちに任せてさ」
「おやおや、『氷の女王』が幻想郷を守るのでしたら何も心配いりませんね」
「や、やめてよ千鶴姉ぇ。あたいだって別に好きで呼ばれている訳じゃないから……ね、『妖精神』様?」
「そっちで呼ばないでチルノちゃん……一応気にしているんだからね」
からかうチルノに、肩を落とすウカノ。
クスリと口元を抑えて笑う椛に、孫のやり取りを聞いているかのように微笑む犬童。
……犬童知っているか、チルノとウカノはお前より年上だってことを。
「家の管理の方は椛に任せたいのですが、宜しいですか?」
「母さん、ごめんなさい」
「はい?」
てっきり椛は承諾してくれるものだと確信していた私は、椛の謝罪に肩透かしを受ける。
「えっと、椛?」
「はい」
「理由を教えてくれますか?」
「ついに来たか、反抗期!!」と内心びくつきながら、恐る恐る彼女に理由を問う。
私にとって、ちょっとした発言でキレたりする反抗期の少年少女ほど怖いものは無いのだ。
「『井の中の蛙大海を知らず』……前に母さんが教えてくれた言葉です」
「ええ、確かに教えましたが……」
「ルーミア姉さんがここに居なくなって、鬼子母神の事もあって、色々私も考えたの」
『私の世界はこの幻想郷で完結してはいまいか?』と
「私も一度外に出て、見分を広げてみたいのです……母さん、駄目……ですか?」
上目づかいに恐る恐る、そう私に問うてくる椛。
そんな椛に、私は「ノー」とは言えずに許可する事にする。
「好きなようになさい」
「ありがとうございます、母さん」
表情はいつも通りを装って、そのまま頭を下げる椛。
しかし彼女の耳と尻尾は正直なのか、あっちにパタパタ、こっちにパタパタ。
認められたのがそんなにも嬉しいのかと私は微笑む(私の表情自体は動かないので気分です)。
しかし相手に自分の感情をむやみに晒すのもいただけないものだ。
「相手に感情を悟らせる事が無きよう、尻尾などの動きには注意しなさい」
「良いではありませんか、母さんの前で位は素直に喜んだって。無論母さん達以外ではこんな私の姿を見せるつもりは更々ありませんけどね」
「ほう、中々嬉しい事を言ってくれますねね椛」
ヤバい、うちの椛が可愛すぎる!!
内心そんな事を思いつつ「しかしそんな事を言っていると今度は嫁の貰い手に困りそうですね」とからかって見せると、椛は膨れて何故か私は怒られた。
ホント、なんで?
「ふむ、それでは犬童。この家の管理を任せてもよいか?」
椛の人化を皮切りにどんどん人化していく白狼の中で、最近になって漸く人化を果たした初老姿の犬童が、自慢の長い白鬚を撫でる手を止めて
「御意。身命を賭してもこの家をお守りいたしまする」
「いや……命はかけなくてもいいですからね?」
「何をおっしゃられるか。白嶺様のお家をお守りする事も出来ずに何のための我ら白狼衆であるか。このような任さえ果たせないようでしたらこの犬童、腹を掻き斬ってお詫び申し上げる所存で……」
「そこまでしなくてもいいですからね!?」
最近白狼たちの忠臣が重い。
私の為に色々してくれるのはありがたいのだが、白狼衆なら私が「死ね」と言ったら本当に死にそうな位の忠誠を捧げてくるものだから、こんな私に仕えて本当に良かったものかと、とても不安になる私だった。
さて、色々と長期で家を空けるという事が無かったのだが、よくよく考えると連絡もなく私が家を空けるという事は『天照大御神の突然の不在』というかなりヤバい事態になるという事が出発の寸前で気づいた私は「五行機関」の変身術の得意な者を念のためおいておき、更に万が一の為に人形を三体ほど置いてきたので恐らくは大丈夫だろうとは思う。
そもそも最近は各地に散らばった神々の統治も大分落ち着いてきており、私に相談に来るのはまれだったのでこれは保険と言うやつだ。
「確かこちらであっている筈……」
以前月夜見に貰った、幻想郷から月夜見の治める所までを書き記した地図を頼りに南に向かって歩く事三週間ほど。
道なき道を歩いて目的地に向かっているのだが、前世の私が暮らしていた時代がどれ程恵まれた物か思い知らされた三週間だった。
そして漸く目的地にたどり着くであろうという所まで、地図に書かれた森の終わりまで来た訳だが
「崖じゃないですか……」
森の終わりはかなりの崖になっていた。
恐らく月夜見は私が飛んでこちらに来るものだと踏んでいたのだろう。
ここまでくる道中所々が崖になっていたりして歩いては通れない道もあったりしたので回り道をしたり、よじ登ったり、リベリングしたりして進んで来たのでかなり時間が掛かってしまった。
「仕方ありません、ここはまたリベリングで……え?」
今更気づいた崖のまた先、正確に言うと50キロ先あたりか。
この時代では考えられない巨大な壁が都市を囲い、その中でかなりの大きさの建造物が壁の中で所狭しと広がっているのが見えた。
「いつの間に……」
月夜見さん、一体これどうやったんさね?
そんなツッコミを入れつつ、私は早くあの中に入ってみたいという思いが沸々と湧き上がってくる。
一体中はどんな風に発展しているのか?
「楽しみだ」
という事で早々とリベリングで崖の下に降りた私は『瞬歩』を使って森の中40キロの悪路を三十分で駆け抜けました。
……という事は時速80キロメートルで駆け抜けたのか私は。
ただ森の中を、デコボコした悪路だったから若干スピードが落としていたからもっと速度が出るはず……って考えるととんだ化け物だな私は。
それは一先ず置いとくとして私が何故40キロ、壁から10キロ手前で止まったのには訳がある。
一つ、壁から10キロあたりまで不自然に草木が生えていないからだ。
これは恐らく外敵が身を隠すところを無くすという警備と防衛を考えて徹底的に伐採したのだろう思う。
そんなところを『瞬歩』を使って猛スピードで駆けて来たらとんだ誤解を生みそうなので止めておくことにした。
二つ、神として都市に入るつもりが無いからである。
月夜見には確かに会いには来たが、すぐに彼女に会うつもりは最初から私には無かった。
寧ろ私の一番の目的は発展した都市の日常に触れ、そこの生活を知る事にある。
そこに暮らす人々と同じ目線で生活してみないと見えない景色があると私は思う。
そこで生活し、この短期間でどんな発展をしたのか、暮らしぶりはどうなのか、統治は上手くいっているのか等々を実際に生活し、調査し、そこで問題点があれば追々彼女に会った時に話すつもりだ。
その為には
「『天地創造・人改め』」
私の身体を神から人へと落とす。
流石に神の身で人の世に交じる事は出来ないだろうし、神気が漏れていると月夜見にも私がいる事がバレてしまうだろう。
留意すべき点は二つ。
一つ目は神から人に落ちた事で神気が霊気に変換された事。
霊気は神気を常に使っている私から言わせるとかなり燃費が悪い。
まあ元の神気の量が莫大な私にとっては関係のない話と言ってしまえばそれまでだが。
二つ目は人間の身になった事で身体能力等が大幅に減少している点である。
これについてもさほど問題は無い、寧ろ人に交じるのなら僥倖だと私は思った。
問題は私が死亡した時、神の身に戻ってしまう事か。
とにかく都市の中で死なない様に注意しないといけない……うっかり交通事故とか。
「ああ、忘れていました」
さあ壁に向かおうかとしたところで私は大切な忘れ物をしていたことに気づいて、四次元空間からある物を取り出す。
それは眼鏡である。
別に私の目が悪い訳では無いし、そもそもこれは伊達である。
ならばどうしてかと問われれば、この眼鏡にはある機能がついているからだったりする。
『自分の指定したものに他人だと思われる眼鏡』
私が今日の為に作った自信作である。
うっかり私の存在を月夜見に知られない様に作ったそれ。
無論対象は月夜見、それと彼女の部下に当たるすべての神々だ。
私はそれを掛けてさあ参ろうかと森を抜けて壁に向かって歩き出したのだが
9キロ程歩いた地点で
パーンッ
『動くな、今すぐ両手を頭の後ろに回して地に伏せろ!!妙な動きや指示に従わない場合、当方は直ちに貴様を射殺する用意がある!!』
「な……何で?」
何故か私は警備隊の方々に拘束されてしまいました。
その後、私は独房らしきところに放り込まれて二日ほど身体検査やら色々チェックを受け「もうやだここ、お家帰る」と嘆いていた所、私の独房に上等な軍服姿の男が現れ、連れてこられたのは一日目に取り調べをした部屋。
男は私に席に着くよう勧められたので素直に席に着くと男は私に深々と頭を下げた。
「白嶺さん、この度は誠に申し訳ありませんでした」
「え、あの……コホン、いきなり謝られても困ります。そういうモノはちゃんと一から説明していただくのが筋と言うものでしょう。違いますか?」
「はは、仰る通りですね……ああ、申し遅れましたが私はここの国境警備隊長をしております常盤と言うものです」
常盤と名乗る男は頬を掻きながら自己紹介し、握手を求めて来るが私はそれに答えず視線で「さっさと説明しろよ、こっちは怒っているぞ」と訴える。
彼は空を泳ぐ手を気まずそうに戻すと咳払いして改めて説明を始める。
「妖怪という存在はご存知ですよね?」
「ええ、産まれた時から外で過ごしていたので妖怪の一匹や二匹ぐらいは……」
「ここの壁は妖怪が外から侵入するのを防ぐ為などの目的で建てられたモノなのですが、つい先日入国した者が内部でテロを起こしまして、調べてみれば人間に化けた妖怪でした」
「む、それはいただけませんね」
「しかも今まで入国してきたものを洗いざらい調べ直したところ、十人程が妖怪という事が判明したのでお上はカンカンに怒りましてね。入国管理局と国境警備部のトップはクビが飛んでしまいました。ああ、今は新しいトップの許で入国体制の見直しを行っていますのでご安心を」
ニッコリと笑う常盤さんだが、それはつまりこいつがあのやり方を指示したという事だ。
益々腹立たしく思うが
「分からなくもないですね」
「はい?」
「態々そんな事を仰ったのは私を捕えた部下たちに怒りの矛先が向かない様にでしょう?心配せずとも捕えられた時点で何かしらの理由があると踏んでいたので私は怒っていません。寧ろ国民の事を思うのなら褒められたものです」
私の言葉を聞いて、常盤さんが目を丸くするのを見て私は失敗したと内心で舌打ちをする。
態々天照の時みたいに言い当てて言及しなくてもよかった内容だ、知らないふりして謝罪を受け入れるのが筋と言うものだろうに。
「申し訳ない常盤殿、偉そうに喋ってしまいました」
「いえいえ、寧ろ理解してもらえるとは思っていなかっただけに、そう言っていただけて嬉しかったです。一次的にとはいえせっかく来ていただいた入国者にこんな仕打ちをするのは我々も仕事はいえ気ノリはしませんしね……ところで、もしかして白嶺さんは高貴の御家の方なのですか?とても独特な喋り方をなされていますが」
「いえ、そういう訳では」
そこまで言いかけて、私の後ろのドアからノックが聞こえて来る。
常盤さんは微笑んでいる顔を引き締め、いかにも軍人らしい顔で入室を許可する。
「中佐、準備が調いました」
「そうかご苦労……白嶺さん、貴女の入国の許可が下りましたので僭越ながら、私が少しばかり説明をいたしますね」
「本当ですか、それでは宜しくお願いします」
「ええと……まず白嶺さん、貴女は此方に移住と言うのが今回の入国の目的で間違いないですね」
「はい」
「移住の方の補助として、政府から戸籍と補助金、金百万、それと三か月程入居が可能な仮住まい等が支給されます。貨幣価値や十進法については説明はいりますか?」
私は首を横に振って「大丈夫だ」と答えて常盤さんに続きを促す。
「続けます。白嶺さんには今回誤認逮捕という事で慰謝料金二百万が更に入国管理局から元の支給額に合わせて支給されますが、受け取る際は此方の誓約書を書いてもらいます。因みに此方の文字の方は読めますか?」
差し出された誓約書が何故か日本語だったので問題ないと彼に告げ、ざっと誓約書を流し読みする。
簡単に説明すると「お金あげるから今回の事は黙っていてね。因みにこれ断ったり破ったりすると色々政府の支援を受けられなくなったりとかのペナルティあるから受け取った方が身のためだよ~」とかなり遠まわしに書いてあり、結局これ受けないと駄目じゃんと内心でツッコミを入れる。
まあそれらを守ればこちらに不利益を被る訳では無いし、こちらも書いてある内容を破る気はさらさらないので氏名欄に名前を書いて、拇印も押す様に迫られたので「成程、こうして指紋を予め取っておけば私が犯罪を犯した時に便利ですね」と冗談で言ったら無言で苦笑いされた。
……冗談ですからね?
その後色々説明を受け、最後に常盤さんは「あとの詳しい事は此方をご覧下さい」と言って、私に千ページほどの分厚い冊子を手渡した。
「特に説明しておくべき事は以上になりますかね、白嶺さんお疲れ様でした」
「説明ご苦労様です」
「いえいえ、これが仕事ですので。白嶺さんの仮の住居についてはそちらにいる森曹長がご案内いたしますので安心してください」
「そうですか、なれば私はこれにて。ごきげんよう常盤殿、機会があればまた会いましょう」
席から立ち上がり、軽く礼をして森と呼ばれた女性の後をついていこうとして、常盤さんに呼び止められる。
「何でしょう?」
「いえ……まあここは壁の内部ですがここでこんな事を言うのは可笑しいかもしれませんが
ようこそ『高天原』へ、我々は白嶺様の入国を心より歓迎致します」
照れくさそうに笑ってそう言った常盤さんに、私はお礼を述べて部屋を後にした。
ども、bootyです。
今回は今までにないほどのスピードで書き終わったものですから若干自分の力量を測りかねて焦っています。
そういえば話が変わりますが前回話の投稿後、何故か日刊ランキングに載っていました。
「いやいやなんでやねん」とツッコミを入れつつ顔のにやけが取れなかったのはここだけの話。
遂に来ました古代都市編。
ここまで来るのが当初の目標だっただけに、嬉しいです。
嬉しいと言えば、最近感想をくれる人の数が増えた事もあります。
さまざまな人から応援の声を掛けて頂いて、これまた嬉しい限りです。
これからも完結まで頑張っていく所存ですので、これからも「遥か東方に生きる」を日々の空いた時間の片手間に読んでいただけると幸いです。
それでは、またの日のあとがきにて……
8月3日 タイトル等を若干修正