遥か東方に生きる   作:NoRAheart

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風邪引き状態のおかしいテンションで書き上げました。
後悔はしていません。

この間投稿したコラボ作品「雄飛する鳥は世界線を渡る」で何故か一話で12000文字行きました。
後悔はしていません。

風邪引いているのにバイトに出て、スタッフを困らせてしまいました。
後悔はしていません(おい


鶴は空を舞い、蛇は地を這う

私が開発室室長に就任したあの日から丁度四年経ったある日の事。

いつもは戦場の様な雰囲気の開発室は、明るく、にぎやかな談笑の声に包まれている。

それだけではなく、白衣の男たちしかいない筈のこの場所に、スーツ姿の者も何人かちらほらと見える。

 

 

「え~、コホン……皆様、本日は開発室企画の祝賀会にお集まりいただきありがとうございました。此度は『TDR-3』が無事、軍部に納品が済みました事を記念いたしまして私からささやかながら、料理とお酒の方をご用意させていただきました」

「流石室長!!料理さえも隙が無い!!」

「しつちょ~!!俺と結婚してくださ~い!!」

「馬鹿、お前、室長と結婚するのは俺だっての!!」

「……加賀、上北、上野、三人は後で室長室に来るように。三人にはみっちり説教フルコースをご用意しましょう」

「「「なん……だと!?」」」

 

 

場は更に笑いで包まれる。

職場がこういうノリというのも中々いいものだと思いつつ、咳払いして場を鎮める。

 

 

「皆様、お飲み物は全員御手にまわっておりますでしょうか?私の挨拶は程々にしておき、まずは乾杯をいたしましょう。それでは皆さん、ご唱和を」

 

 

乾杯

 

 

「「「かんぱ~い!!」」」

 

 

私の視界をお酒の入ったグラスで埋めつくされる。

私は軽く掲げたグラスを戻して少しお酒を口に含んだ。

 

 

「ふぅ……」

 

 

口に軽く含んだ液をゆっくり嚥下する事で生じる身体の火照りを感じつつ、私は「美味」と呟いた。

このお酒――因みに日本酒である――この場に用意してある全てのお酒は実は私の手作りである。

原料は幻想郷で栽培した神気の宿った米に、家の井戸より湧き出る水を私手ずから神気を用いて濾過を施した物等を使用し、そして完成したものは想像以上に良い出来であった。

過去にこれを神々にも振る舞ったり、送ったりした事もあるのだが、神々がこれのあまりの美味しさに仕事をほったらかしてこれを飲み続ける者が一部に出たことから、神々からは「神殺し」なんて物騒な銘が付けられ、違う意味で恐れられたりしているらしい。

今回は流石に人間である彼らにそんな酒を出すわけにはいかないのでそれより数段味を落としたものを出しているので大丈夫……な筈。

 

 

「よ~し、皆ちゅうも~く!!加々美泰三、今から一発芸をしま~す」

「お、やったれ泰三。他の部署の奴らにお前の名を轟かせてやれ~」

「何だ、何だ?」

「開発室の奴らが一発芸するんだってよ」

 

 

遠くから、彼らがドンちゃん騒ぎしている姿を肴に、ちびちびと酒を飲む。

飲みながら、私はこの四年間をゆっくりと思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日、私は持ち帰ったファイルを数日かけて片っ端から読み、彼らがいかに優秀であるのかを理解した。

しかし残念なことに、彼らのその研究がどのように転用するのかまでは彼らの研究報告書には記されてはいなかった。

さらに言えば、彼らが書いていることはあまりにも難しすぎて、その道の人であっても理解するのには時間のかかるものも幾つか見られた。

私はかなり幅広い分野を深く、億年単位で勉学してきたからこそ、これらの価値を理解できたのだが、これを他の人に理解しろと言われても難しいものがある。

だからこそ今まで評価されず、「奇人変人」の括りで放置されてきたのだろうと憶測をたてた。

 

「政府技術開発室」は研究して「おしまい」でよい、大学の研究室とは異なり研究したことをどの様に技術転用するのかまで求められている。

この転用の部分がうまくいかなければどんなに素晴らしい研究でも表に出ることがないこの開発室では無価値に等しい。

しかし私は彼らが研究から技術転用までを全てをする必要はないと考えている……というか何でもかんでも彼らがやるのは無理がある。

そこで技術転用についてはその道のスペシャリスト、私が元々いた「生産技術企画部」に委託することで彼らが研究だけに専念できるように――元から研究しかしていなかったのだが――するという訳だ。

兎に角、そっちに研究が通れば何とかなるので研究員達に「研究結果をもっと簡単に、せめて高校生位が分かるレベルで書き直してください」とお願いして書き直してもらい、そうして書きあがったものをまとめて企画部にツテを使って通してもらい、技術転用して出来上がったものを持って、今度は企業へ持っていく。

何故企業にそれらを持っていくのかというと、企業に「政府技術開発室」のスポンサーになって貰う為だ。

要は「新技術あるんだけど買わない?それとスポンサーになってくれるのなら今後、優先的に技術回してあげるよ」ってやつである。

 

そんなことをしたら偉い人に怒られる?

官の一部署に民間企業のスポンサーがついてはダメなんて法律も、省内の規則にもそのような記述はないから大丈夫だ、問題ない(ゲス顔

 

因みに持っていくのはベンチャー企業や技術力のある中小企業だけだ。

大企業は十分力を持っているし、これ以上成長されるとその産業によって大幅なシェアを取ってしまう。

それは拙いことだ。

その産業においてシェアが単独になってしまうと競争相手がいなくなることになるのでその産業自体が停滞してしまう恐れがあるのだ。

 

そうして開発室のスポンサーになってくれた企業は、私が訪ねた企業の内の約四割、五十社近くもの企業がスポンサーになってくれた。

それによって開発室は多額の資金を手に入れ、漸く新たな研究ができると皆が喜ぶ中、上からストップが掛かる。

 

 

「指示も無しに一部署が勝手な事をするな」

 

 

要約すればそういう事を重役会議に召喚されて直接重役達に――因みに八意某は欠席していたようだ――言われた訳だが、ここまでは私の計画通り。

 

 

 

「ストップするのはいいですけど、五十社近くがスポンサーについてくれる技術開発室が無価値じゃないのは分りましたよね?スポンサーからの資金供給止めるのはいいですが、既に技術について契約結んでいますので今研究を止めるのは拙いですよね?なら予算増額してくださいね?」

 

 

そうして遠まわしに重役たちを脅し、新たに設けられた厳しい規則に縛られる事になりはしたが企画部との連携体制確立と今後の研究予算増額に成功したかに思えたのだが……

 

 

増額予算が余りに少ない事に絶望した。

 

 

というか新技術の提供ができなければデメリットがあるのは科学省全体というのに何上この様な事態になったのか理解できなかった私の許に一本の電話が入る。

電話先はスポンサーになってくれたとあるベンチャー企業の社長からだったのだが、内容は「科学省役人が会社に来て、技術提供の契約責任が科学省から白嶺様名義に変更の通達があったので事実確認を」とのことだった。

それを聞いたとき、私は上が何を考えているのか理解できなかった。

いや、増額予算の少なさや名義変更の目的が、私の行ってきたことを潰そうとしている事だという事は理解できる。

しかし、私の行っていることは元はと言えば開発室の地位向上の為に始めたこととはいえ、結果的に八意単独の技術で成り立っている不安定な科学省に、今までなかった確固とした基盤を作り上げ、更には民間に影響力を強めたりとメリットは大きい筈なのにそれを潰すことが理解できなかった。

 

 

もしかして上が私の事を気に食わない、だけ?

 

 

私はその時、重役会議に出席していた重役たちの視線を思い出した。

その場にいたときは何とも感じなかったあの視線、よくよく考えてみればあれは明らかな敵視、そして怯えだ。

彼らは私に、いつか自己らの立場を脅かすと恐れているのだ。

だからこそそれが科学省にとってメリットになる事でも、私の評価に繋がる事になるのならと潰しに掛かっているのだ。

 

 

――嗚呼、人の業とは何とも業腹なものだ

 

 

本当に、全くもって下らない。

己が地位に固執するあまり蹴落とす事しか頭にないとは上のやつらはとんだ阿呆ですね……と大いに愚痴を吐きはしたが、まさかここまでされるとは思いもしなかった私の見通しの甘さもあったかもしれない。

未然に防げれば良かったのであるが、既に決定してしまった事に関して言えば最早どうしようもなかった。

が、しかしここで諦めては開発室の皆に面目が立たず、このままでは私は他の部署に飛ばされるか悪ければ解雇、そして残される事になる彼らがどういう扱いになるのか……恐らく待遇はより悪くなるのは想像に易い。

というか本当にここで終わってしまうと彼らに合わせる顔が無い。

そこで私は最早博打に近い一計を按ず。

私は新技術の件を一つ一つ会社を回って頭を下げて待ってもらう様に頼み、研究員たちには前に問題を起こしたロボット『TDR-2』の改良を命じた。

私も私で二、三ほど生前に作った物を改めて記憶の中から引き出し、纏めた資料を持ってとある場所に向かった。

 

 

『高天原中央司令部』

高天原の軍部、その中核を担う場所と言われている場所である。

 

 

私の狙いとしては、科学省内で認められないのなら外部の権力を巻き込んで、科学省の上の連中が開発室を認めざる負えない状況を作り出せばよいというものだ。

因みに軍部は近年激化している妖怪対策の為に大幅な軍事力強化に力を入れている。

その為軍内部の兵器研究所も新しい兵器開発に躍起になっていることは承知している。

軍事力を向上させるような技術や兵器は喉から手が出るほど欲しいそんな彼らに技術を提供しようという算段なのだが、成功するか否かは分からなかった……と言うより失敗する確率の方が明らかに高かった。

軍部とは元々繋がりを持つつもりではいたが、それは科学省と軍部は権力争いの件もある事から密なやり取りを行って両省間の確執を取り除いた上でと長期的に考えていた事だ。

しかしそのような贅沢を言っている暇は最早無くなってしまった私は己のプレゼン能力と、彼らの研究等を信じるしかなかった。

「いざ、尋常に!!」

そう気張って、私は司令部に玉砕覚悟で突入したのだが、軍人さんたちの対応が思いのほか丁寧だった事にはかなり驚かされた。

訪問を告げる電話をかけた時にはあまり歓迎されていない様な雰囲気だったのだが、私が行ったプレゼンもちゃんと将校クラスの人が出席してしっかり聞いてくれたし、最近まともに取り合ってくれない科学省の上の連中とはえらい違いやなと大いに感心した。

 

 

しかしそんな彼らもTDR-2の改良型、TDR-3のプレゼンにおいて私が示した条件「軍部と科学省両省の確執を取り除く為の一環として、協力体制をとってTDR-3を作る」事に関しては難色を示す。

なんでも軍部側は以前より何度か協力体制を打診しているのだが、科学省側がそれを拒否してきているらしいからやりたくても出来ないだろうとの返答を貰った。

せめて開発室とだけでも連携をと私は追い縋るが、やはり彼らが首を立てに振る事は無かった。

 

 

私はトボトボと肩を落として司令部を出たのを覚えている。

連携が取れればマスコミに取り上げられる可能性は高く、注目を集める事が出来たかも知れない。

あとは通す事の出来た他の技術が他の関心を得る事が出来る事を祈るしかない。

 

 

「お久しぶりです、千鶴さん」

 

 

帰る途中で前に図書間で出会ったにあった某の彼女に会った。

挨拶も早々、彼女は「今日はいかがでしたか?」と問いを投げかけて来た事から今日、私のプレゼンがあった事を彼女は知っていた、寧ろ彼女が今回のプレゼンを設定してくれたのかもと考えたが、それは考え過ぎかとすぐに否定した。

私は今日の事を隠すことなく彼女に話すと、彼女は私に背を向けて「大丈夫です千鶴さん、風は追い風ですわ」と謎の言葉を言い残して去って行った。

本当に何だったのだろうと首を傾げてから十日たったある日の事、私の元に一つの指令書が下りて来た。

「ああ、如何やら私もここまでか」と恐る恐るそれを開いて読んでみたのだが、一通り読んで、何故かもう一度読んでしまった。

 

 

『科学省 政府技術開発室室長 白嶺千鶴 宛

 

昨今における妖の威、誠甚だしきことなり

御上、また内閣府、件の事重く受け取り、以て此度の下記に記したる詔を下知するものなり

 

令:白嶺政府技術開発室室長、並びに政府技術開発室はその持ちうる知を限りを持ってして軍に助力する事を命ず

 

高天原内閣府 発』

 

 

唐突過ぎて理解が追いつかぬ、解せぬ。

しかし、如何やら私は、開発室の命運はその紙切れ一枚によって首皮一枚繋がったのは確かであり、そして十日前に彼女が言った「追い風」とはこの事だったと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はて、件の彼女は本当に一体何者であろうかと今更ながら私は疑問に思った。

あの時は軍部の人達と話を詰めたり、TDR-3を作る作業に忙殺されたりと考える暇が無かったが今思えば彼女は明らかにおかしい。

一つ、あの若さで軍部の人事権を握っている事。

一つ、十日前の時点で政府の中核である内閣府の決定を知っていた事。

それだけでも彼女の持ちうる権力の大きさを測るには十分と言える。

 

 

「どうした白嶺、そんな隅っこで飲んで?」

 

 

声を掛けて来たのは企画部時代の先輩だった。

先輩は「ちゃんと飲んでるか?」と問うてきたので、私は「お酒、余り強くないのです」と答えておいた。

 

 

「こうして傍から彼らのドンちゃん騒ぎを見ていただけです」

「そっか……お前ああいう賑やかな所苦手そうだもんな」

「嫌いではないのですがね」

 

 

少しばかりの沈黙。

私はその間に何度もグラスを傾け、ゆっくりと、少しずつ、液を喉に通す。

私がお酒が弱い事もあって「神殺し」のアルコール度数は低く作っているのだが、それでも私を酔わすには十分の度数と言える。

 

 

「……凄いよな、お前は」

 

 

ほろ酔いで心地よい意識の中、彼らの騒ぎを肴にしていた私の耳に、ポツリと呟く先輩の言葉が入ってくる。

私は先輩を見た。

顔は真っ赤で少しお酒臭かった。

 

 

「お前は俺たちの所でも優秀だったが、まさかここまでするとは思いもしなかった」

「私は……何もしていません。今回は運が良かったのもありますが、彼らが評価に値する様な力を持っていなければ私が頑張ったところで意味も無し」

 

 

グラスを傾け一息。

 

 

「私は元々力のあった彼らを少しばかり後押しをしただけです。だからそこまで凄い事をやった自覚はないのですよね」

「ぷ……ははは!!愛いやつだな、おい!!」

 

 

いきなり先輩はそう言いながら、私の頭をわしわしとコネ繰り返す。

男が女にするようなそれではなく、まるで父が幼い娘にするような気軽さだ。

しかし余りに乱暴なそれに私の髪が乱れてしまったので文句を言うと先輩はまた笑う。

笑って、笑って、笑って。

そうしてひとしきり先輩は笑い終えると、息を整えて私を見た。

 

 

「白嶺、お前は頑張った」

 

 

唐突に真面目な顔でそう言った先輩を見て、私は傾けようとしていたグラスを下げて次の言葉を待つ。

 

 

「しかしお前は目立ち過ぎた」

「そう……ですね」

「上の動きに気を付けろ。あいつらは確かに地位に固執しているが、伊達にあの立場に座る事が出来た訳じゃないからな」

 

 

そう言って私の元を離れた先輩の背中に、私は「分かっています」と呟く。

しかし私はこの時、上の連中の事を舐めていたのかもしれない。

それは私が科学省を解雇される五カ月前の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あるぅひろしま~、森のなかごしま~、クマさんにいがた~、出会ぁたねがしま……む?」

 

 

ある日、森の中で……間違えた。

ゲフンゲフン、私は生前妹が口ずさんでいた歌を歌いながらいつもの様に出勤していると、科学省の正門ゲートの方で何やら人だかりが出来ており、その集団は警備員と口論になっているのが遠くから確認できた。

すわ何事かと近寄ってみると、口論していた筈の集団がピタリと口論を止めて、何故か彼らの目線が私に集中したかと思えば、皆こちらに駆けて来る。

私は少しばかりビビッて半歩ばかり後ずさってしまったが、よくよく見れば彼らは皆、私が頼み込んでスポンサーになってくれた会社の社長や重役の方たちばかりだった。

……というか彼らの走りが止まらないのは何故?

 

 

「確保ぉ!!」

「「「了解(ラジャー)!!」」」

 

 

ガシッ

 

 

「うぇえええ!?」

 

 

彼らは走るのをそのままに、私の両腕をしっかりホールドして私を拉致して着いた先はとある会社の少し大きめの会議室。

それでも人が多すぎて入りきらずにかなり暑苦しいのだが。

そんな呑気な事を考えている私を上座の椅子に座らせた彼らは私に問う。

 

 

「白嶺さん、これは一体どういうことなのですか!!」

 

 

……いや、それ私のセリフ。

要領を得ない私は彼らにまずは落ち着くように、要件を言ってもらえる様に願い、漸く事について把握した。

曰く「技術提供の納期が過ぎているのに科学省からの音沙汰なし」と。

曰く「省に問い合わせても納得のいく返答を貰えなかった」と。

 

 

「それはおかしいですね」

 

 

企画部と協力関係を確立させた後、そちらの事については目論見通り企画部に委託してる。

そして契約分の技術は待ってくれた彼らをこれ以上待たせないようにと開発室の皆で頑張って既に通してある。

問題があるとすれば――

 

 

「企画部?」

「室長?どうかしましたか?」

「あ、いえ……何でもないですよ」

「そうですか?」

 

 

社長たちと別れた後、その事が気になって頭から離れない。

企画部は一体何をしているのか?

企画部の面々は元同僚という事もあり、私は一定の信頼を寄せているつもりでいたのだが……

 

 

「すみません、少し野暮用が出来ましたのでちょっと行ってきます」

「室長!?今からワープ装置の実験を……」

「記録取って私に事後報告してもらえればそれでいいです」

 

 

事実を確認せねばと私は開発室を出て、企画部のある四階へと向かうが、その途中で慌ててこちらに向かってくる先輩を見つけた。

 

 

「先輩、いかがしましたか?」

「白嶺か、丁度良かった。お前の所に行こうとしていた所だったんでな」

「……要件を」

「前原部長が一方的に契約した企業全ての契約を破棄しやがった!!」

「は?」

「しかも今、部長の部屋に大企業、豊科重工の役員が来ていた。恐らく部長は奴らに技術を横流しするつもり……おい、何処行く白嶺!!」

 

 

駆けだす。

駆け出し、前原部長の部屋に真っ直ぐ向かう。

すれ違った元同僚たちには驚いた顔をされたが構う事無く私は駆けるのを止めなかった。

そして彼の部屋の前に立つ。

私はノックも無しに、構う事無く盛大に扉を開いた。

部長は椅子に座ったまま、驚いた様子もなく私を真っ直ぐ見据えていた。

 

 

「白嶺か。お前ならすぐに来ると思っていたよ」

「何故……」

 

 

扉を閉めた私は部長に詰め寄り、もう一度「何故」と問う。

 

 

「一か月前、省内において新たな規則(ルール)が決まったのは知っているな?」

「……省内規則、第79条『科学省において役員会の決定の無き情報の漏洩はその程度で持って罰則を科すものとする』」

 

 

一か月前に唐突に発表されたそれ。

これによって私は今までの様に、勝手な技術提供を行う事が出来なくなったのだが既に開発室の価値を内外に認められ、企画部との協力体制も確立出来た今、その様な事をする事もないので問題ないと思っていた。

変わった事と言えば、この規則に則って、契約責任が私から科学省側に戻った事だが、それによって勝手な契約破棄をされた訳だ。

そして大企業への技術提供の動き。

これが役員会で決まった事だとしたら……

 

 

「そこまで……そこまでして私を潰したいのですか、貴方たちは!!」

 

 

高天原の技術は既に生前の私が暮らしていた文明より発展している。

しかし高天原の歴史は建国から僅か百年、二百年程度。

未だ短い歴史の上、罰した前例の少なさ故に法律関係の整備は未だ発展途上、技術力に比べて大幅に遅れを取っている。

だからこそ私は今まで大胆な動きをする事が出来た訳で、今回の上の連中の動きもまた同様。

 

 

「そうだ、俺たちはお前が怖い。故に潰す。全力で」

「くっ……」

「因みに元の奴らに技術を渡せばどうなるか……分かっているよな白嶺」

「規則に則って堂々とクビ、ですか?」

「そうだ」

 

 

沈黙

私は部長から離れ、ため息を吐いて言う。

「クビ程度で止まる私だとお思いか」と。

部長はそんな私に笑みを浮かべてこう返す。

「だろうな」と。

部長の返答に少しばかり驚いている私に部長は続ける。

 

 

「お前がそういうやつだという事は、私の部下だったころから分かっていたよ」

 

 

最初こそ、邪魔になった私を島流しするつもりで開発室に追いやったが、結果的に対立する事になったとはいえ、科学省の為に頑張る私を好ましく思っていたと語る部長。

そう語る部長に私は戸惑いを覚える。

 

 

「そのような潔さを持ちながら何故……」

「家族のためだ」

 

 

即答だった。

 

 

「家族に、妻や娘たちに良い暮らしをさせる為に、私は今の立場を守りたい……そう思う私は俗物だと思うかね?軽蔑するかね?罰するかね白嶺?」

「いえ。人を思い、幸福を求める事は、人として当然の権利です」

「そうか……」

 

 

彼はクルリと椅子を回転させ、私に背を向けた。

 

 

「行け、白嶺。私は今ここで何も聞かなかった」

「部長、失礼しました」

 

 

私は部長の言葉を受けて、急ぎ部屋を後にする。

大企業に――確か豊科重工と言ったか――そこに技術が渡る前に先に元の契約していた企業に技術をちゃんと渡す為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人、千鶴が去って行った前原の部屋は沈黙が支配していた。

彼は大きなため息を一つ吐いて、彼女が去って行った扉をただ眺めていた。

 

 

「人を思い、幸福を求める事は、人として当然の権利……か」

 

 

先ほど彼女が告げた言葉を反芻するように呟く。

 

 

「しかし白嶺、だからと言ってそれは他者を蹴落としてでもそれを求めて良いものなのか?」

 

 

引き出しから、彼はおもむろに一つの書簡を取り出した。

表には達筆な文字で『退職願』と書かれていた。

 

 

「白嶺、お前が契約のために技術を流せば豊科重工に流れるはずだったそれは無価値となる。その責、誰かが背負わねばなるまい」

 

 

そしてそれから一か月たったある日、白嶺千鶴は多くの企業に無断で情報を流したとして科学省をひっそりと解雇される。

それから三日後、前原企画部長は突然退職願いを提出し、役員会は困惑しながらこれを受理。

「まるで解雇された白嶺氏を追うような辞め方だった」

企画部に長年勤めるとある中年男性はその時の様子を友人にそう語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平日の昼間。

普段なら、この時間は科学省の中で研究に没頭している時間帯なのだが、解雇されてしまった私にはもうそれはない話である。

そんな私は何をしているのかと言うと

 

 

「こんなものですかね」

 

 

高天原に来てからずっとお世話になって来た私の部屋の片づけ、掃除を行っていた。

仮住居の筈が、面倒だからと引っ越す事無く、ずっと住み続けた私の部屋。

先ほど賃貸の契約を解約してきた。

 

 

「出来ればもう少し居たかったのですが……」

 

 

既に私物は四次元空間に片付け、きれいさっぱり元に戻った部屋を見て、少し寂しくなった。

流石に何年も寝食してきたその部屋には、彼女も少なからずの愛着心が湧いていた。

 

 

「ふむ。後、すべきことは……」

 

 

やり残した仕事がないか、部屋をぐるりと見渡すが、特に無さそうだと思っていたのだが、隣の部屋から一体の人形が現れる。

手には銀行の預金通帳。

 

 

「ああ、忘れていました。有難う。確かに口座の解約をしないといけませんね」

 

 

生活費以外にあまり使うことの無かった銀行口座。

通帳を開いて溜まっている金額を数えてみれば、数千万単位程溜まっていた。

流石は上級技官、数年でこれ程溜まるとは……というか私があまりお金を使わなかった事もあるのだが。

しかしこのお金は外では無価値なので、取り敢えず全額どこかに寄付しようかなと思いつつ、銀行に足を運ぶことにした。

 

 

「いらっしゃいませ、白嶺様。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 

銀行員の笑顔付きの社交事例を受ける私は「自身の口座の解約を……」と言いかけたその時だった。

 

 

「全員手を挙げろ!!」

 

 

黒い目出し帽。

両手に握られた大きな銃。

テンプレート通りの警告。

 

 

「銀行強盗……」

 

 

私は銀行員の呟きをよそにし、そして思う。

「私は何処までもついていないようだ」と。

 




高天原編終了だと思った?
残念、銀行強盗でした!!……いや、何で?


ども、39度熱発しているbootyです。

今回の話は何ともご都合主義な話だと自身で思いつつも、結局そのまま書き進めてしまいました。
前書きで書いたように後悔はしていませんよ。
ただ、場面の移り変わりが激しいので、もしかしたら混乱させてしまうかもという所は後悔してます、御免なさい。 

そんでもって原作キャラの出番のなさ……嘆かわしい。
本当に嘆かわしい!!
という事で次回はとある原作キャラ視点で書きたいと思っています。
次回話で今まで魅力的な原作キャラが書けなかった分の鬱憤を晴らそうかと思います。




そんでもって本篇補足をレッツらゴ~(熱に浮かされてテンションが明らかにおかしい


・TDR-3

技術開発室の汗と涙の結晶。
彼らが開発してきたTDRシリーズの集大成とも言えるロボット。
3においては軍部との共同制作を行った事で、今まで装備していなかった殺傷武器を多く装備している。
蜘蛛足の様な六足は関節部の可動性と高い姿勢制御システムを積んでいる事から、あらゆる環境を踏破する事が出来、高性能AIを搭載している事からあらゆる事態に柔軟に対処する知能を持っていたりとかなり優秀なロボット。
因みにTDRは「技術開発室特製ロボット」の略称なのだが、これを聞いた千鶴は開発室の面々のネーミングセンスの無さに呆れている。



・電話では歓迎されていなかった


千鶴が軍部に電話→担当が困る→上司に報告→自分では手に余ると豊姫に報告

→豊姫「千鶴さんは私のお友達ですので粗相がないように迎えて下さいね?」

→軍部大慌て



・風は追い風


豊姫は元々技術開発室の開発したTDR-2に高い関心を示しており、これを何とか手に入れようと模索していました。
それが本文に書かれた『以前より協力体制を打診云々』に繋がってきますが科学省側が
拒否してきたので、豊姫は内閣府にいるとあるお家の方に事情を説明して何とかならないかと持ち掛け、そして決まった事が、命令として千鶴の許に来たという流れ。
千鶴さんが軍部でプレゼンが出来る様に配慮したのは別に彼女の為ではなく軍部の増強の為であり、千鶴さんは本当にタイミングと運が良かったと言える。



・前原企画部長のその後


ちゃっかり天下り
安定した老後
孫たちに見守られながら、安らかに永眠(あるぇ~?



捕捉を書いている時に思ったのですが、こうしてみると、豊姫さんの影響力半端ない……(;´・ω・)
それでは、またの日のあとがきにて。
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