遥か東方に生きる   作:NoRAheart

2 / 15
UA106人
お気に入り6人……だと!?(震え声

こんなに嬉しいことは無い!!


私は空気となりて

さて、前回私が死んだと語ったがありゃ嘘だ

 

 

いや実際には死んでいるのだが、それは肉体的な意味での死であり、精神的には死んではおらず私は思念体みたいな状態となって地球を漂っていた。

何を言っているのか分かりにくいかもしれないが、実際こんな言い方しか出来ない。

 

 

 

私自身何が起こっているのか全く解っていないのだ

 

 

 

最初は不可思議な浮遊感に包まれている様な感覚を覚え、やっとあの世に来たものだと思っていた。

しかし思考が徐々に鮮明になっていくにつれてそれは誤りだと判った。

ここがいまだに音のない世界であると。

 

 

『え、いやいやいや!?ここまで来て天国も地獄も無いんかい!?あんだけ盛大に大往生きめといて、地上に放置プレイとか……穴があったら潜り抜けたい!!(何処行くの?』

 

 

ツッコミ不在のボケをかましてむなしいだけだった。

そんな私にふさわしい、昔の偉い人が宣わった言葉にこんな名言がある。

 

『神は死んだ!!もういない!!』

言ってみたかっただけである。

 

それにしても、私の役割は新たな生命の誕生の為の生贄だけではなかったのか?

これ以上私に何を求めているのだろうか?

まあ、今は取り敢えず

 

『寝よっと』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから何億年たったか、空の上から惰眠と観察を惰性で行っていたのだが、ある日、海で何かが動いた気がした。

あくまで「そんな気がした」だけであって、そこまで気にしてはいなかった。

どうせ水面から反射した光かなんかだろうな~

とか思いつつ、もう一度見てみたのだが

 

 

『うおっ!?』

 

 

突然視界が空から海の近くまで一気に引き寄せられてやがて海の中へ、そして点のようなものがポツリ、ポツリと見て取れた。

何じゃこりゃ?

もっと詳しく見てみたいと思ったら視界は点の一つにひきつけられ、やがて顕微鏡で見ているかのように点がはっきりと見えたのだが

 

 

『キモッ!?』

 

 

うねうねと動いているそれらは、名もなき多細胞生物であった。

……は?

 

 

『多細胞生物……だと!?』

 

 

あまりの事に二度見をしたのだが今度はさらに拡大してしまったそれを見てしまい、素っ頓狂な悲鳴が世界に響いた。

気を取り直しそれを見ようと目(?)を凝らすと再び視界は海へと吸い込まれ、それを見る事ができた。

どうやら自分の視界を見たいものに合わせることができるらしい。

これは確かに便利なことで、普段ならただ「あっそう?」で終わるのだが

 

 

『やっ……』

 

 

うれしい

その言葉だけが、男の中を占めていた

 

 

『やった……』

 

 

言いようのない歓喜に震え、言葉が上手く出ない

それでも言葉にしたくて、出来なくて、それならいっそと大きな声で

 

 

『やったぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 

叫んだのだった。

 

それでも満足しなかったのか、男は空を全力で駆けた。

駆けださずにはいられなかった。

全力で駆け回り、風と一体となり、世界を駆けていく。

その途中でも海の中にさまざまな種類の原生生物や多細胞生物を見つけては、感動していた。

 

 

死んでよかった

 

 

生まれてきてくれてありがとう

 

 

感謝の言葉を繰り返しながらようやく元の場所へと戻ってきた。

いや、戻ってきたというより世界を一周してきたという方がこれは正しい。

 

最初は気持ち悪いと思っていたそれらも、彼らは私の身体を基に生まれてきたのだから、すべてわが子の様な存在だと思い至った男は、今度はそれらすべてが愛おしく思えてきた。

そう感じた瞬間、男は世界の音が帰ってきた様に感じた。

 

 

生命の息吹がこんなにもうるさい

しかしこれほどまでに素晴らしい音に囲まれて私は幸せだと

 

 

世界に音が戻り、その音一つ一つに男は感情を動かしていく。

そして新たに生まれてきた種類の生命には「生まれてきてくれてありがとう」と感謝の言葉を一つ一つかけた。

地球の変化に対応するように進化した生命もあれば、ついてゆけずに絶滅した生命もあった。

その過程さえも愛おしい、と男は思った。

 

 

 

 

 

 

 

それから何十億年もの時が経ったが、男は生前のように生に対して苦痛を覚えることは一切なかった。

ここまで来ると陸上にも生命が見られるようになり、巨大なシダ植物や巨大昆虫が目立つようになって、その光景はまるで風の○のナ○シカの腐海のようだと思った。

巨大なダンゴムシによく似た生物を見て、「王蟲じゃ!!王蟲が怒り狂っておる!!」とか言いながら遊んでいたのをよく覚えている。

 

 

それからまた月日が流れ、ここで生態系は大きな転換期を迎える事となった。

シベリアあたりで私が観測してきた中で最大規模での火山活動が起こったのだ。

それは火山灰を噴き上げる爆発的な噴火ではなかったが、大量に放出された火山ガスで地球の気候が激変した。

また海底のメタンハイグレードの相当部分が崩壊、大気中に大量のメタンが放出され、それが酸素と結びつくことで大気中の酸素は半減し、それが原因で生物種全体で92%が、またそのうちの海洋種が95%以上が死滅する事態を招いたのだった。

わが子のように可愛がっていた彼らがバタバタと死に絶えていくのを間近で、しかもリアルタイムで見ていた男は身体がばらばらに引き裂かれるような感覚になったが、その光景を目を離さずにしっかりと見定めた。

彼は生命の可能性を信じて新たな進化を待ち続けた。

彼らが乗り越えてくれる事を信じて。

 

 

 

 

 

そんな中、男が静かに観察する中である種族に目をつける。

それは鳥類だ。

 

 

 

気嚢システムという特殊な呼吸法のおかげで飛翔という高い運動能力をもち、酸素の少ない数千mの高度を飛ぶことができる彼らはそれ故に逃れることができた。

そして彼らは特殊な呼吸法を生かし、進化をし、繁栄することになる。

 

 

 

つまりは恐竜の誕生である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ、リアルタイムで恐竜の生態を観測できる喜びと、観測対象の現象で生じるこの退屈を何と言ったものか……』

 

 

地上を我が物顔で闊歩する彼らを見、男はそんな事を思った。

ここまでくると生命の進化も緩やなものとなり、観察すべき種類の数もさほどない(あくまで男にとって少ないだけで、けして種類が少ない訳では無いのだが……)

最近はもっぱら恐竜たちの行動観察を行っているのだが、彼らの基本的な行動パターンは本能的なものが多い。

それは大型肉食恐竜ほど顕著である。

群れをなす小型肉食恐竜はある程度の理性の色が見られるが、結局のところ彼らの根底にあるのは「食欲」でしかなかった。

分かりやすい例を挙げるのならオオカミを想像してもらうのがよいだろう。

 

逆に草食恐竜は良い意味で本能的で、また理性が多く見られた。

彼らは同種でコミュニティーを作ることがほとんどで、それはコミュニティーを構成した方が肉食恐竜を警戒する目の数が多くなり、肉食恐竜に襲われる確率や死亡率が減るからである。

しかし、構成する個体の数が多ければ良いという訳ではないようだ。

彼らは草木を食べすぎる事をよしとしない。

草木を食べすぎるとその場所に草木が生える事は当分ない。

ほどほどに食べて次の土地へ、広い範囲で見ると円を描くように移動を繰り返して元の土地に戻ると、コミュニティーを養えるだけの草木が生えているという寸法だ。

しかし養う数が多いと下手をしたら食べ過ぎてしまう恐れもあった。

このサイクルが崩壊してしまうと、見知らぬ土地に草木を求めなければならず、発見できなければ餓死が待っている。

逆に少なすぎると、肉食恐竜の格好の的となる。

何とも難しい話である。

 

 

 

 

話は変わるのだが、脳を持っている動物は総じて行動したいことを脳から発せられた電気信号が行動に必要な筋肉に指令を出して必要な筋肉が運動をしている。

今あげたのは一例に過ぎないのだが極端に言うと、脳が何かをするときは電気信号を伴っているということである。

その電気信号は外部に本当に微弱な電流として漏れているのだが、男はその微弱な電気信号を読み取って、その動物が何を考えているのかがつい最近分かるようになった。

試しに肉食恐竜にそれを使うと「ニク、マテニク!!」としか考えていなかったから、あまりにもテンプレート過ぎて男はお腹がよじれる思いをした。

しかし草食恐竜に関してはその限りではなかった。

彼らは意思疎通を行い、考え、あげくに知識の伝達まで行っていた。

 

 

 

そんな彼らと意思疎通を行おうと思ったのはこの頃か

 

 

 

要は電気信号を対象の脳に直接叩き込んで、声を聴いていると脳に錯覚を起こさせればいいだけの話である(ゲス顔

最初に目についたのは肉食恐竜の方だったがまあいいかと思って早速電流を「えいっ」と送ってみたのだが

 

 

パンッ

 

 

するとそれの脳は一瞬で弾け飛んで、その場に大きな赤い大輪をその場に咲かせてしまった(汚ねぇ花火だ!!

どうやら電流を流し過ぎたようだ。

というか脳が一瞬で弾け飛ぶ電流の強さっていったい……

 

 

 

 

 

 

 

それからも練習を重ねてようやく意思疎通ができるようになったよ、やったね。

 

しかし、まあ、うん、あれだ、彼らとの意思疎通はある意味失敗した。

 

 

 

失敗例その1

 

『こんにちは~』

ギャー、オバケェ!!?

(全力疾走で逃げられる)

『………』

 

 

失敗例その2

 

『はろ~』

ナァ!?ウグッ!?

(びっくりし過ぎて心臓発作)

『……死んだ』

 

 

失敗例その3

 

『こんにち「ニク!?ニクドコ!?」………』

 

 

失敗例その4

『やらないか?』

ウホ、イイオトコ!!

『え!?』

エ?

 

 

 

 

 

最後の何さね………

 

 

 

結論

とにかく彼らにとって私という見えない存在というものが怖くてたまらないようだ。

 

 

『……寝よ』

 

 

今までの努力を返せよとか呟きながら男はふて寝を決め込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ?』

 

 

男がふて寝から目覚めると、今まで見た事のない面白いものを見つけた。

爬虫類によく似た、しかしそれが持つ巨大な翼と強固な鱗、なんでも引き裂けそうな爪、それらの容姿故にそれが爬虫類であることを否定するのだが、恐竜か?と聞かれてもノーと男は答えるだろうここまできて男は首を傾げる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故にドラゴンいるし!?

 

 

 

 

 

『まてまて何あいつ、いつ生まれた?それ以前に生態系どうなってんの!?』

 

 

色々ツッコミどころがあるのだが、興味が湧いて止まない。

極めつけは

 

 

『ビーム?』

 

 

口から炎でなくビームを発した時には言葉を失ったのは言うまでもない。

 

 

 

しばらくそのドラゴンを観察していたのだが、それ………いや、彼には面白いところが沢山あった。

 

凶暴な牙があるのなら肉食かと思えば、食事を全くしなかったり

 

縄張り内にいる草食恐竜を護るような行動をしたり

 

侵入してきた肉食恐竜を例のビームとかで頭だけを潰して死体をわざわざ遠くに持っていったり

 

 

ほかにも多くの疑問を持ったのだが、彼には理性があると判断し、意思疎通を図ることにした。

ちょうど穴倉に彼が戻ってきたところを狙って、私は彼に語りかけた。

 

 

『そこな竜』

 

 

彼の目には一瞬だけ驚きが表れたがすぐさま周囲を警戒するあたりはさすがと言うべきか。

 

 

『お主だ、竜よ』

『竜とはなんだ?それは私の名前か、それとも私の種族の事を指すのか?』

 

 

種族だ

そう手短に答えると「ああそうか、そうか」といかにも意味深な返事が返ってきた。

 

 

『そんな姿が見えないあなたは創造神か?』

『はてな……何故そう思う?』

『種族なんて言葉の意味を私以外に知っているとは思えない。つけるとしたら、私を創造した者くらいだろうな……あれだろ、種族って言葉は似ている容姿をした獣の総称の事だろ?』

『驚いた、まさか造語したのか』

『答えてくれ、あなたは何者か?』

『さあな、長き時を生きているが、今の私が何者なのかなど考えもしなかった。創造主と言う言葉はあながち間違ってはいないが、しかし神様では無いとは思う。私が神などおこがましい事だ』

『長い時?どれくらいの時だ?天に昇る炎の塊が地について、その後丸い石ころが、これまた地につく回数が何回ぐらい?』

『お主はわざわざ星の数を数えるか?』

『成程な………それで結局あなたは何者なんだ?』

『世界?』

『は?』

『冗談、正しい言葉が見つからないだけだ』

 

 

正しい言葉が見つからない、これは本当の事だ

生前の私なら「人、しかもただ長く生き過ぎた老害」と答えただろう

しかし生前の私は死んだ

 

ならば今のワタシは何だろうか?

何故今でも私はワタシであるのか?

それ以前にワタシは本当に同一の私なのだろうか?

 

 

ワタシには分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからその竜と何年か共に過ごした。

最初に感じていた疑問も、過ごしていくうちに竜が片手間に話してくれた。

食事は食べないのでは無く、霞を食べるか、何年かに一度だけ大型の獣を捕えるだけのようだ。

本当に霞を食べる奴っていたんだな……

とか思っていると、それも徐々に間隔を空けていき、いずれは食事をしないでも生きられるようになるらしい(って何処の仙人かよ!?

それと、どうも龍神という神様になりたいようで、断食はその一環だそうだ。

縄張りの草食恐竜を助けるのも神になるために必要な事らしい。

侵入してきた肉食恐竜を頭部だけを消し去って遠くに放置するのは、他の肉食恐竜の目を逸らすためのエサであるのと、殺した命が無駄にならないようにするためだという事だそうだ。

竜の息(口からビーム)」の出し方も話してくれたが、それよりも驚いたことは

 

 

 

どうやら彼でなく彼女、つまり雄でなく雌だという事だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、龍神(神になる一歩手前まできているそうなので、暫定的にそう呼んでいる)が神妙な顔もちで外から帰ってきたのを見、私は何事かと問い詰めるが気のない返事が返ってくるばかりであった。

 

本当にどうしたのだろうか?

 

数刻ほど黙り込んでいた彼女を眺めていたのだが、何か彼女からピリピリとした、しかし暖かいものが溢れ出ている事に気が付いた。

 

これは何ぞや?

そう問うと、彼女は気怠そうに神の気だと答えた。

 

気怠そうだなと問いかけると、今は神に生まれ変わるために力を蓄えている状態で、そうして貯めた身体の内にある神の気に当てられて具合が悪い(例えるなら船酔いの様な)状態だそうだ。

 

 

『これから私は神になるために深い眠りにつく訳だが、お前が暇をしないように面白そうな情報を持ってきたぞ』

 

 

彼女のこうした気遣いに涙が出そうである。

彼女が言うには、ここから東にある、少し大陸から離れた少々大きな島に、興味深い小さな白色の生き物がいるらしいという事だ。

どんな生物がいるかは行ってからのお楽しみとのことだった。

 

 

『分かった、早速行ってみようと思う』

『達者でな』

『ああ、さよならだ』

『いや……「また会おう」、龍神』

『ハハ、お前らしいよ。「また会おう」、友よ』

 

 

こうして死後初めてできた友と別れ、東方にあるという小さな白色の生き物を見に行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『行ったか……』

 

 

姿なき友を見送った(?)後、彼女は大きなため息をついた。

 

 

『友か……』

 

 

果たして今の私に彼の友達である資格があるのだろうか?

彼女は自分のしでかした行為に怒りを覚えていた。

 

彼女が気怠くなっていたのは、彼女自身の神気のせいではなかった。

自分の神の気で体調を崩す事などまずない。

成りたて故に、彼女の持つ神気の量などたかがしれているモノである。

原因はすぐ近くに莫大な量の神気を、気づかず源泉かけ流ししていた彼である。

確かに神気は周りの生命によい影響をもたらすが、神気を受けすぎるのもよくない。

 

例えばピースのケーキをたまに食べるのはいいだろうが、何段にも積み重なったウエディングケーキを何個も、しかも毎日食べるだろうか?

 

しかしこの考え方には解決方法があるのに気がついているだろうか?

 

巨大なケーキが食べきれないのなら、細かくカットするなり食べるのを断ればいいだけの話である。

つまり彼に神気の存在を教えて神気の流出を抑えてもらうなり、ある程度離れるなりしてもらえば良かったのではないのか?

無論彼女はそれに気づいている。

それにもかかわらず、彼女はそれを語ることは無かった。

彼は、自身が神であることを初めて出会ったときに強く否定していた。

 

 

 

まるで事実から目を背けるように

 

 

 

彼女の生き方は、恐竜の中ではかなり優しい部類になるのだが今回ばかりはそれが裏目に出た。

指摘できず、自分で自分の首を絞める状態が続いて、耐えきれなくなって、彼を追い出す真似をしたのだった。

 

 

 

結局私の優しさなんて自己満足でしかなかったのだ

 

 

 

そう思い至った彼女は今すぐ彼に謝罪したい衝動に駆られた。

しかしそれを実行する前に、睡魔が彼女を支配する。

どうやら神化が始まったらしい。

 

 

『ああ!?そんな、待って……私は……』

 

 

彼女の意識は彼女の意に反して深い闇へと落ちる。

そうして彼女は一生を終える事となる。

 

 

 

 

 

それからも彼女は彼が再びこの地を訪れるのを待ち続ける事になる。

恐竜が絶滅し、信仰が無くなり、存在が希薄になろうとも、彼に謝罪できるその日まで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

龍神の語った大きな島とは、日本列島の事であった。

それに気づいたのは、生前研究を行っていた建物を見つけてしまった時だった。

まさか今の今まで建物が残っているとは思っていなかった。

それが正直な感想であった。

 

 

『何故残っているし……』

 

 

取り敢えず建物の件はおいおい調べるとして、まずは件の生き物を調べる事にした。

建物の周囲を大きくぐるりと一周。

そして今度はさらに半径を大きくして一周。

そうして戻ってきた彼は首を傾げた。

「何故、獣が一匹としていないのか?」

不思議に思った男はもっと半径を大きくして廻ってみると、遥か遠方に首長竜が駆けているのが見えた。

何事かと近寄ってみると、件の生き物が無数、首長竜に取り付いていた。

やがて首長竜は白いそれらに飲み込まれていき、力尽きたのだった。

さて、いったいあの白い生き物は何なのか?

疑問に思って近寄ると、思いもしないものがそこにはあった。

 

 

 

ナメクジだ

 

 

 

『まさかナメクジとはね』

 

 

研究施設に戻った私は先ほど起きていた事実を思い返していた。

ナメクジが首長竜を倒し……いや、あれは捕食していたのだ。

しかも驚くべきことに、彼らは会話をし、首長竜をばらばらにしたかと思うとそれらをナメクジの集落に持ち帰って、そこにいた雌や子や老いたナメクジに分けるような事までしていたのだ。

 

 

『まさか新しく生まれてきた知的生命体が人ではなくナメクジとは』

 

 

流石に予想していなかった事に、男は頭を抱えた。

何故にナメクジだし……

そんな事ばかりぐるぐると考えていると、研究施設に何者かが入ってきたのが感じられた。

いったい誰なのか………いや考えずとも分かるのだが、取り敢えず男は侵入してきたそれらの相手をしてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだ、ここは……」

 

 

そこに入ったのは、単なる知的好奇心から来るものだった。

里に住んでいる仲間たちや長老たちは、ここには神様が住んでおり、見えない壁によって何人たりともはいる事は出来ないと昔から語っていた。

そんな見えない壁など本当にあるのだろうか?

里の皆には食料を探しに行くと告げて、話の真偽を確かめに行くことにし、何日も道なき道を進み、そしてその壁は確かにあった。

 

 

「本当にあったのね」

 

 

私の本当の目的を話した上でついて来てくれた妻がそう語った。

取り敢えず目的の壁は見ることができたので、そこで一晩を過ごしてさあ帰ろうかと思っていたら、大きな爆発音が壁の内から聞こえてきた。

何事かと妻とそこに見に行くと、昨日確かにそこにあった壁が消えていた。

妻とどうしようかと顔を合わせて、結局進んでみる事にした。

 

ある程度進むと、道が大きく開けた。

それを見て初めに思った感想は、気持ちが悪いだった。

道があまりにも平ら過ぎるのだ。

それは妻も同意見らしく、彼女は顔をしかめていた。

しかし何かに導かれるように、私たちは歩みを止めなかった。

 

道の途中に、見た事のない大きな黒い獣が黒い煙を吐きながら火花を散らしていた。

きっと奴はここを護っている聖獣か何かだろう(いえ、ついさっき壊れたシールド発生装置です)

 

奴の目をかいくぐり、目の前に現れたのは巨大な建造物。

いったいどうやってこれを作ったのだろうか?

疑問は尽きることないが、近い建物から順番に見ていくことにし、そして何度も驚かされる事となる。

今の我々には考えのつかないものがモノが沢山放置され、あれらを全て里に持ち帰ることが出来たら、我々の文明は飛躍的に進歩できるだろう。

しかし残念なことに、多くの書籍が残っていたのにも関わらず、我々がそれらを読むことが出来ない事か。

何日もかけて建物一つ一つを見て回り、最後に訪れたのは天にも届きそうな建物。

覚悟を決めて、入り口を潜ると。

 

 

バンッ

 

 

いきなり入り口が閉じられる。

突然の事に慌てる私たちに追い打ちをかけるように、奥の方より神々しい気が感じ取れた。

それが徐々に我々に近づいてくる。

 

やばい

 

本能でそれを感じ取った私は逃げようと身体を動かそうとするが、金縛りを受けたように動かない。

それは妻も同じようで、顔を真っ青にしていた。

やがて神々しい気は私たちの目の前で止まった。

姿はない。

 

 

『小さきモノらよ、ここへ何しに来た』

 

 

脳に直接響く、厳かな声だった。

「神様……」

そう妻は呟いた。

 

 

『もう一度問うぞ小さきモノらよ、ここへ何しに来たのだ』

 

 

抑揚のない言葉、しかしその言葉の裏には聖域に土足で上がった私たちに対する怒りが感じ取れた。

 

 

殺される

 

 

気づけば私は頭を垂れていた。

 

 

「神よ、どうか矮小なる我らをお許しください!!」

「我らの無礼な行いをお許しください!!」

「私はどうなっても構いません!!」

「妻だけは、どうかお慈悲を!!」

 

 

答えは………無い。

いや、神様は大きなため息を吐かれると

 

 

『くどい』

 

 

そうおっしゃられると、隣にいた妻が苦しみ始める。

神よ、あなたに慈悲の心は無いのか!!

 

 

『騒々しい、そんなにカッカせずとも何ともありゃせん。お前らが答えんから記憶を覗いとるだけだ。少しばかり不快に思うぐらいの………ああ成程、恐怖で感覚が増長しているのか』

 

 

神様が言い終わられると、妻は今あったことが嘘のようにけろりとしていた。

どういうことだ?

 

 

『ついてこい』

 

 

ここは、彼に従った方が得策か。

そう判断した私たちは彼に導かれて奥へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侵入者、ナメクジ二匹を書庫へと私は導く。

 

 

『ここにはありとあらゆる技術が記されたものが保存してある書庫だ』

 

 

奥の果てが見えず天井に届きそうなほどの本棚に彼らは絶句している。

ふふん、どうだ私の書庫は!!

ここは外の空間とは時の流れが違う。

生前の研究の成果の一つ、四次元空間によってここの空間は無限に引き延ばされ、時間の流れをいじくって、いくらでも保存したいものを永遠に保存できるのだ(ナッ、ナンダッテ~!!

分かりにくいなら某猫型なロボットの持っているポケットの大型版だと思ってくれて構わない。

 

 

『これらの知識の果実をお前たちがどうするかはお前たち次第だ、生かすもよし、殺すもよし。私はこれらの果実をどう使おうとも私は一切口を挟むことは無い』

「本当ですか!?」

『ただ……』

「ただ?」

『これらの知識を生み出した前の文明はこれらの知識故に滅んだ。貴様らがそうならない保証はどこにある?』

「ハハハ、見ていてくださいよ。我々はそんな愚かな前文明みたいな事にはなりませんから!!」

 

 

此奴、慢心って言葉を知らないのか?

ほら隣の嫁さん、呆れとるよ~

 

 

『その意気やよし、そんなお主らに名前を付けてやろう』

「名前ですか?」

 

 

さっき記憶を覗いた時に彼らに名前の概念が無い事は分かっている。

そんな彼らにささやかな贈り物(嫌がらせ)だ。

 

 

『雄の方はアダム、雌の方はイブと名乗るがいい』

「おお、神様。我らに名前を授けられた事、心から感謝します!!」

 

 

はいはい、まあ精々がんばれや……

しかし「創世記」に載っている善悪の知識の実を食べた故に楽園を追放された彼らになぞらえてみたのだが、些か安直すぎたか。

まあ此奴の態度を見ているとすぐに技術に溺れて絶滅しそうやな、持って500年ぐらいかな?

そういう意味では楽園(地上での繁栄)からの追放と被っているからいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私の与えた知識を持ち帰ったアダム達はその知識を遺憾なく発揮し、ナメクジ文明(今命名した)を大きく躍進させた。

そして発展したナメクジ達はその技術を世界中のナメクジ達に伝え、ナメクジたちの生活水準、化学水準などが大きく引き上げられた。

それらの要因から、地上の恐竜の九割近くがナメクジ達によって絶滅に追いやられた。

そうしてナメクジ達は大きな外敵がいなくなった事によって、地上で繁栄を極める事になった。

ナメクジ帝国誕生である。

 

地上で繁栄を極めたかに見えたナメクジ帝国、しかし繁栄の裏に大きな影を落としていた事に誰一人(匹)として気づくことはなかった。

別に前文明が滅んだように戦争をしていた訳では無い。

彼らにはそもそも戦争という概念は無いのだ。

しかし彼らは前文明のように発展したにも関わらず、たった600年という短い期間でその歴史を閉じる事となる。

それは何故か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは環境問題である

 

 

彼らは環境問題にあまりにも無頓着過ぎたのだ。

彼らが作った工場や、乗物から排出されたガスにどのような効果があるのか、彼らには興味の無い事であったのだ。

事実、そのガス自体にはナメクジに有毒という訳では無かったが、ガスの中には温室効果ガスが多く含まれており、次第に地球の温度は上昇。

そして地球温暖化が進んでナメクジを取り巻く環境が劇的に変わった。

特に飲み水の問題は深刻的で、温暖化の影響で土地がからからに、果ては砂漠と化す所も多々見受けられた。

しかもそんな状況に陥ったにも関わらずに、温暖化の原因が自分達にあることに気が付かなかったのが致命的となって、そうして水不足を解決することが出来なかった彼らは一匹、また一匹と干からびて、そして絶滅に至るのである。

 

 

 

そして私の目の前には一匹のナメクジが死にかけている。

 

 

「み……水……」

 

 

幸運にもそのナメクジは水を見つけることが出来たのだが、数時間したら干からびる量の水でしかなかった。

 

 

『小さきモノよ、何故そうまでして生きたがる?』

「誰だ!?」

『死ぬ運命にあるお主に教えるまでもないだろう?』

「だ……黙れ、俺は生きるんだ。絶対に生き残ってやる!!」

『何故もがく?ここが生き地獄といまだに理解が出来ていないのか、はたまたバカなのか……』

「うるさい、うるさい、黙れ、黙れ、だまれぇ!!」

『分かった、それでは黙っていよう』

 

 

数時間経つとやはり水は全て蒸発してしまった。

ナメクジも新たな水を探しに向かうが、そろそろ限界のようだ。

 

 

「助けて……」

『今度は助けてとな』

「お願いだ………助け…て」

『ふむ……お主らはこの星の事を顧みたのか?他の動物を顧みたのか?植物を顧みたのか?答えはノーだ。この星には多くの生命が暮らしており、一部のモノが独占するなどあってはならない事だ』

「助…け……て」

『お主らがもたらしたこの星における傷跡のせいでどれ程の生命が被害を……おや、すでに死んだか』

 

 

こうして知能を持ったナメクジ達はあっけない最後を迎える事となった。

 

 

その後、宇宙より多くの隕石が地球に衝突し、ナメクジから逃れて生き残っていた恐竜の生き残りも、この隕石群によって絶滅してしまった。

そして隕石の影響で地球は長い長い氷河期を迎え、男も氷河期の間は深い眠りについて、また新しい生命が誕生するであろう氷河期の終わりを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が徐々に、地球に引っ張られている事も気づかずに

 




ども、bootyです。

まさか一話目からUA100人越えとお気に入り登録者がいるなんて思いもしなかったです。

さて今回のお話ですが、前回8000文字だけででも死にかけたので、今回は短く、読みやすいものにしようと書き始めたら、いつの間にか10000字越え。
何故こうなったorz

話の終盤で出てきたナメクジの話ですが、お気づきの方もいらっしゃるかもしれません。
あれには元ネタがあります。
それは手塚○虫大先生の漫画、「火○鳥」の最終巻で出てきたナメクジです。

もしかしたらアウトを喰らうかもしれませんが、環境問題を書く上で、また個人的にもこの内容を書きたくて、あえて載せました。
後悔はしていません。

さて、ここら辺でプロローグは終了となりますが、次回はようやく東方物で言うところの古代編に入っていくつもりです。
そして次回こそ東方キャラを……出せたらいいな~(おい……

それでは皆さん次のあとがきで会いましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。