遥か東方に生きる   作:NoRAheart

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今回は分割してお送りしています。


戦と穢れ  【第一次人妖大戦 前編】

刀とは何だろうか?

 

 

 

 

 

ふと私は、己が振るった刀を見つめる。

何故このような事を思ったのかは皆目見当もつかないが、とにかくそのような事を思案する。

何を世迷言を。

刀とはただの道具……いや、凶器ではないか。

私はその様に私の疑問を一蹴しかけるが、それでも私の疑問は晴れることは無い。

 

 

「や~」

「げふっ!?」

 

 

もう一度、今度は深く考えてみる。

刀とは刃物。

刃物とは何かを切断する為のものである。

例えば草を刈る鎌然り。

例えば薪を割る鉈然り。

例えば食材をきざむ包丁然り。

 

 

「と~」

「ごふっ!?」

 

 

各々が目的を持って生まれた刃物。

しかし使い様によっては、人を傷つける凶器と成りえる訳だ。

道具と凶器の紙一重な存在。

刃物とはそんな稀有な存在なのである。

 

 

「て~い」

「そまっぷ!?」

 

 

思考が逸れた。

刀とは何だろうか?

一見人を傷つける事だけを目的に生み出されている様にも見える。

ならばこれは道具ではなく凶器と分類すべきなのだろうか?

……否だ。

そんなのは偏見でしかない。

上手く使えば鎌にも鉈にも包丁にも……流石に包丁は無理か。

とにかく、凶器として使うか、道具として使うかは使用者の意思だ。

 

 

「ぬぅわた~ん」

「あべし!?」

 

 

詰まるところ、刀とは何であろうか?

凶器か?道具か?

結局私には、それに対する解を見つけ出す事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事です天照様」

 

 

私の軍神に対する稽古が終わるのを控えて見学していた月夜見が世辞を述べながら私に寄って来る。

しかし表情は……困惑している様だ。

 

 

「その、天照様。あの気の抜けた掛け声は何だったのですか?」

「ふむ……では月夜見、あの掛け声を聞いて貴女は何を思いましたか?」

「失礼ながら、相手を愚弄していると」

「そうですよ」

「へ!?」

 

 

私の言葉に月夜見だけでなく、稽古を受けた軍神達までもが目を丸くしている。

言葉が足りなかったのを自覚して、少し大きな声で説明を加える事にした。

 

 

「そこの貴方」

「わ、私ですか!?」

「私の掛け声と剣を受けてどう感じましたか?」

「思ったより重い剣だと……」

「そうでしょう。結構掛け声一つで剣の重みも変わってくるものですよ」

 

 

言葉に惑わせ、予想よりも重い剣を錯覚させる。

更に、相手の精神をそれで引っかきまわす事が出来たなら上々。

剣技だけでは無く、そういった一つ一つの工夫を出来るようになったら、それは勝ちに繋がっていくものである。

そう説明すると、彼らの反応はそれぞれだった。

それを聞いて納得した者もいれば、卑怯だと思った者もいた。

まあこれは私一個人の意見であるから、今は深く考える必要は無いと付け加えておく。

 

 

「ところで月夜見、私に用事があるのでしょう?」

「あ、はい。西方よりデウス様と大日如来様がお越しになられております」

「む……ではすぐに向かうとしましょう」

 

 

使わなくなった私の神名(元から使っていなかったが)を髭もじゃのおっさんにデウスを、耳長男女に大日如来をそれぞれ与えて、彼らをリーダーとして西方の穢れ討伐に向かわせている。

彼らがここに使いの者を寄越すのではなく直接報告に戻ってきたという事は、何かしらの大きな進展があったのだろう。

私は軍神達に稽古を続ける様に指示を残して、家へと踵を返した。

 

 

 

 

 

 

さて、残された軍神達なのだが、千鶴の指示通りにしっかりと稽古を続けていた……のだが

 

 

「「「や~、と~、て~い、ぬぅわた~ん」」」

 

 

何を勘違いしたのか、抜けた掛け声で剣を振るう軍神達。

そこに偶々通りがかったルーミア、彼らの掛け声を聞いて青筋を立てながら一喝。

 

 

「あなたたちそこに直りなさい。その腐った根性を叩き直してやる!!」

「「「ごめんなさい!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

客の間に入るなり、世辞を述べてくるデウスたち。

世辞はいいって言っているのに。

まあ上下関係の大切さは分からないでもないが、なんか、こう……こそばゆい。

そんな事を思いつつ私は「世辞はよい、本題に入れ」と、彼に要件を急かす。

「それでは」と、デウスは咳を一つ入れて要件に入る。

 

 

「西方における穢れの討伐は以前よりもかなり順調です。天照様が考案した神術は、神々の生存率を大幅に上げておりまする。この調子でいけば、数年で穢れを殲滅できるかと」

「そうですか、それは上々です」

 

 

神術

これは簡単に言うと、私の化学式等を使った自然現象の再現を彼らに合わせて作った物なのだが、彼らに化学や物理学などが理解できた訳では無かった。

授業で試しに化学等の学問を神々に教えてみたのだが、理解できたのは本当に一部の神々である。

このままでは術を教えても、理論を理解できないのなら使う事はできない。

しかし、穢れに対抗する為にはどうしても強力な遠距離攻撃の方法が必要である。

どうするべきか悩んだ末に、私は彼らに無意識の刷り込みを思いついた。

刷り込みって言っても、「脳みそ弄って云々」みたいなことはしていませんよ。

私が考えたのは魔方陣を使った刷り込み。

そう、ファンタジー物でよく見かけるあの魔方陣である。

魔方陣の中に目的の現象を起こす為に必要な化学式、行程、その他諸々を魔方陣にそれらしく書き込んで、それを覚える事で何とか発動する事が出来るようになった。

まあこれは理解しての発動では無く、無意識での発動であるから私のオリジナルの術より数段劣化するのは致し方のない事かもしれないが、穢れを倒す分には申し分ないレベルなのでこれでいいだろう。

ただ魔方陣を考えている時は、中二病を患っているみたいで恥ずかしかったが……

 

 

「ただ残った穢れの多くが東の方に逃げた者もいるので、それが心配ではありますが」

「む、東にだと」

 

 

デウスの言葉を聞いた大日如来が眉を顰める。

因みにデウスの担当はヨーロッパ、アフリカ方面、大日如来は中東、アジア方面である。

そりゃあデウスの担当の穢れが大日如来の担当の地区に大量の穢れが押し寄せると聞いて怒らない方がおかしいだろう。

ただ、その事について怒っている様では無いようだ。

怒りと言うより、焦り?

彼の表情からは明らかに焦りの表情が見て取れた。

 

 

「実は私の方でも、穢れの多くが西から現れた穢れと合流して蝦夷地の逃れていくのを仲間が観測しております」

 

 

何ですと?

えっと……詰まり、西方から逃れてきた穢れが蝦夷地に集まっているという事か。

というかこれらの穢れは本当に逃れて来て集まったモノなのか?

これが偶々集まってきたものなのか、戦略的意図があって集まってきたものか……

最悪の事を想定して考えてみるが、ふと私はある事に気が付く。

これって穢れを一網打尽にするチャンスなんじゃないのか?

流石にこれはあくまで上手くいけばの話ではあるが。

それにもし本当に戦略的意図があったとするのならこちらの犠牲も否めない。

ならば先手を打たせない様に速攻をかけて敵を混乱させるか、それとも防衛を強化して来るべき戦いに備えるべきか……

来るべき戦いに備えて、私は思考を巡らすが

 

 

「ご、ご報告いたします!!」

 

 

転がり込むように部屋に入ってきた神兵。

その神兵は、顔は青ざめ、服は所々破け、生々しい傷跡が目立つ。

私が想定した中で最悪の事態が現実となったようだ。

 

 

「穢れの大軍、約四百万もの穢れが蝦夷より南下しております!!」

 

 

来るべき戦いは、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か対応している者がいるか?」

「東北に穢れの征討に出ている伊弉諾様の遠征軍、約二千名が対応しておりますが、このままでは……」

「すぐに兵を整えられる部隊はおるか?」

「池留荷命様の部隊とルーミア様の部隊等の十個部隊、総数五千程が即応できます」

 

 

それを聞いた私は少ないと感じた。

最近の神々の練度を考えると最低五万程は欲しい。

しかしそれ程の神々を揃えるとなると幻想郷まで進軍を許してしまう。

いくら幻想郷を『クナト』が護っているとはいえ、四百万の穢れの攻撃に耐えきれるとは到底思えない。

しかし誰かがこれを抑えないといけない。

望ましいのは強力な広範囲神術を扱えるもの、単独で大軍に匹敵する能力。

人身御供としてこれが出来るもの。

しかしそんな者がいるのだろうか?

そんな都合の良い人など……

 

 

「いるじゃないの」

 

 

私だ。

私自身が人身御供として向かえばいいのだ。

強力な広範囲神術を使え、中級軍神に匹敵する戦闘力を持つ『破軍』、『護軍』を保有している私なら……

 

 

「大日如来は出来るだけ兵を引き連れて戻ってくるように」

「分かりました」

「デウスは待機、幻想郷に集まった兵をいつでも出せるように調えておくように」

「御意」

「月夜見はこの日の下に散らばっている神を集めるように」

「承りました」

「神兵が四万……いえ、三万程集まったら出陣するように。それ以下の時は何があろうと絶対に出陣しない様に」

 

 

私はそう言い残して部屋を退出し、外に向かう。

今から飛んで、果たして間に合うか?

身体をふわりと浮かせていざ出陣と意気込んでいると、月夜見に呼び止められる。

 

 

「天照様!!」

「月夜見?」

「これから戦という時にどちらに行かれるのですか」

「私はこれより伊弉諾の助勢に向かいます。後の事は任せましたよ」

「お一人で……ですか!?」

「そうです」

「無謀です!!」

「分かっています、私にもしもの事があった時は倉稲魂命を頼りなさい」

「いえ、私も共に参ります!!」

「適材適所です。貴女は貴女のすべき事をしなさい」

「天照様!?」

 

 

頼りにしていますよ

 

 

私はそう言い残して伊弉諾のいる場所を目指して飛んで行く。

四百万もの大軍、この私に防げるか?

いや、防がないといけないんだ!!

少しずつ芽生えていく恐怖心を、私のこれからの責務を自覚する事で抑えながら、私は東北の地を目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天照様……」

 

 

私は一人で助勢に向かわれた天照様の後姿を見えなくなるまで見続けた。

天照様は人身御供になるつもりなんだ。

私の脳裏にふとそのような愚かな考えが過る。

 

 

「不安か?」

 

 

いつの間に立っていたのか、ルーミア様が私にそう問うた。

私は首を横に振ってその問いを否定する。

 

 

「まさか……天照様の実力はよくよく理解しております故。それに一人でいかれたのも、それが最善手と天照様が考えられた為……ならば私は天照様の御心に従って、私の為すべき事をするまでです」

 

 

そう、天照様は人身御供なんかでは無い。

天照様は助勢に行かれたのだ。

そして、そんな事を一瞬でも考えてしまったのは、私に天照様に対する信心が足りないせいだ。

そういう貴女こそ不安なのではないのですか?

私は仕返しに彼女にそう問い返すと、「不安だ」と答えた。

この返しには流石の私も驚いた。

 

 

「意外?」

「ええ」

「無論母さんの実力は私も疑ってはいないわ。神としても、そして彼女一個人としても」

「なら何故?」

 

 

弱気を全く吐かない母さんが、いつか壊れてしまわないか心配なの。

私はルーミア様の言葉に耳を疑う。

天照様が壊れる?

あり得るのか、そんな事が?

そんな私の疑問を感じ取ったのか、ルーミア様はふぅ、とため息を吐かれて空を見上げた。

 

 

「今日も一雨降りそうね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が飛び続けていると、北東の方角に神々しい気と、禍々しい気がぶつかり合うのが感じ取れた。

戦場が近い。

私は方向を修正しつつ、戦いの準備をする。

まず私は信仰のバイパスを開く。

 

 

「神具解放、『裸の王様』」

 

 

次に私の着物に神気を通して、服自体の防御力を底上げし、軍神の着ている鎧に匹敵する防御力を着物に持たせる。

 

 

「右手に集え、我が敵を屠るは『破軍』。左手に集え、我を守護するは『護軍』」

 

 

私の呼びかけに応じて、四次元空間より人形たちが召喚される。

その数、約五千。

これが私の持ち得る全ての人形だ。

私は目を閉じ、それらの人形に意識を開く。

そうする事でいつもの無意識の操作では無く、人形一体一体の見聞きしている事がリアルタイムに感じられ、戦況の様子がよく分かり、反応速度も格段に上昇する。

 

 

「……っ!?」

 

 

激しい頭痛。

五千もの人形が見聞きしている物を意識する事で、私の脳内がパニックを起こす。

そして私の本当の身体が一体どれなのか。

それすらも分からなくなりかける。

 

 

(しっかりしろ、私。こんな所で止まっている暇は無いんだ!!)

 

 

ゆっくりと私の身体に意識を戻す。

そして目を開けば、確かに私の身体である。

指先から伸びる半透明の糸、意識の直結が成功した証拠である。

未だに頭痛が残ってはいるが、戦闘に支障が無いと判断して放置した。

 

 

「見えた!!」

 

 

強化した視力で伊弉諾達と穢れの大軍を確認する。

大軍と言っても報告にあった四百万という数では無く、見える分だけでは三万、所謂先遣隊と言ったところか。

私は一度迂回して、穢れの軍の右翼から突撃してかく乱を図る事にする。

 

 

「『破軍』密集陣形、敵右翼に突撃をかける。『護軍』は結界を張って『破軍』陣形の穴を護れ!!」

 

 

人形に指示を取りつつ、私も四次元空間より獲物、私の背丈よりも長い方天戟を取り出す。

 

 

「『掛かれ』!!『穿て』!!敵を蹴散らせ!!」

 

 

私の言霊がのった『破軍』のランスチャージは思惑通り穢れの軍を引っ掻き回し、混乱を起こす。

そのままの勢いで円弧を描きつつ、伊弉諾の部隊に合流を果たさんとするが、正面にこれまた穢れの密集陣形が行かせはしないと立ちふさがる。

 

 

「タイショウクビダ、ゼッタイニトオスナヨ!!」

「「「オウ!!」」」

 

 

今までの穢れとうって変わって組織的な動きをする穢れの部隊、黒々していてはっきり分からないが、よくよく見るとそれらの部隊の穢れは戦国時代の甲冑の輪郭の様に見えなくもない。

それらの穢れより、絶え間ない弓矢の様なモノが飛んでくるが、私はすぐさま『破軍』と『護軍』の列を入れ替えてそれらを防ぐ。

それに負けじと弓矢の合間を縫って『破軍』より神気を用いた弾幕で応戦するが、あちらも大楯を構えてそれらを防ぎ、膠着状態に成りかけている。

 

 

「ならば……白嶺結界!!」

 

 

私は頭上に箱状の結界を作りだし

 

 

「はぁ!!」

 

 

それを穢れの部隊に投げつける。

結界をぶつけられた前線は確かに打撃を受けるが、すぐさま戦列を入れ替えてしまい思ったより打撃を与えられない。

しかしそれだけでは終わらない。

投げて部隊を通り過ぎた結界を操って再び穢れの部隊を後方から襲う。

これには流石に驚いたのか、慌てて後列の穢れが反転する。

 

 

「飲み込め、軟!!」

 

 

箱状だった結界がまるでアメーバの様に穢れの部隊の大半を呑み込み、「結!!」と唱えて再び箱状に戻す。

そして、その結界の中に『破軍』を転送。

 

 

「恐怖するといい、『殺戮人形の館』!!」

 

 

全方向360度からの『破軍』のランスチャージと弾幕から逃れる術は無く、穢れ達は悲鳴を上げながらハリネズミになるか、灰と化す。

 

 

「オノレ、ヨクモオレノブカヲ!!」

「ここで来ますか、大将!!」

 

 

部下を失った穢れの大将が残った数名の穢れと共に決死の特攻を掛けてくる。

私は慌てず大将以外の穢れを抑えるように人形たちに指示を出して方天戟を構える。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

交わる刹那の一閃。

手ごたえは……この手の中に。

 

 

「ク……アハハハハハハハハ!!」

 

 

しかし私の背後より笑い声が聞こえてくる。

何故?

振り返れば穢れは間違いなく胴体と下半身がさようならをしていた。

それなのに笑い続けるこいつは一体何だ?

 

 

戦場で散るこそ武士の誉……この日この瞬間を我らは待っていた

 

 

そう言い残してその穢れは消え去った。

とても満足そうな声を私の脳裏に残して。

 

 

「……」

 

 

私は今……

 

 

私は慌てて考えそうになった事を、頭を振って払い去る。

 

 

それは今、考えてはいけない

ともかく、今は伊弉諾と合流しないと

そうだ、伊弉諾と合流せねば

 

 

無理やり違う事を考えて、先ほどの思考を頭の隅へと追いやる。

考えてしまえば私はこの場で戦えなくなるから。

 

 

「天照様!!」

 

 

誰かに呼ばれた気がしてハッとする。

戦場でボケっと突っ立っているとは何たる阿呆か。

気を引き締めて周囲を見渡せば、左の方から伊弉諾が彼の部下を連れてこちらに向かっている。

 

 

「伊弉諾……無事だったか」

「ははは、流石にこんな所でくたばったら女房に怒られますよ」

 

 

伊弉諾はそう言って笑って見せるが、着ている鎧がボロボロで擦り傷も目立つ。

よく見れば他の兵たちもボロボロである。

 

 

「よくここまで来れましたね、私はだいぶ敵陣の中にいた筈ですが」

「敵?なんか慌てて撤退しましたよ」

「はい?」

 

 

確かにあたりを見回せば、穢れが人っ子一人もいない。

わお、恥ずかしい。

まあおかげで私がぼ~ってしている時に襲われずに済んだ訳だし結果オーライか。

おそらく大将を討ち取った事で統率が纏まらず、軍が維持できなかったのだろう。

 

 

「しかし、大変な事になりました」

「どういうことですか、天照様?」

「先遣隊三万の軍を「五万です」……はい?」

「一撃離脱の奇襲戦法をとりつつ撤退していたのでここまでで二万は討ち取っています」

 

 

それは凄いな……と言いたいが、これは拙い。

 

 

「少数で大軍を打破できる戦力があると相手が知ったら、我々の準備が調う前に幻想郷を潰そうと躍起になるのは必定」

 

 

できれば伊弉諾らを少し後方に撤退させつつ行軍を遅らせる程度にしたかったが、私が大将を討ち取って、伊弉諾達が二千で二万も討ち取ったと知ったら、奴らは恐らく二千の軍でも全力で潰しに掛かるだろう。

相手がもし孔子の言を知っていたのなら常道通り「十なれば、則ちこれを囲め」と言って全軍で掛かって来るかもしれない。

 

 

「しかし、私たちは止まらなければならないのです」

 

 

ここで引けば、幻想郷に穢れが雪崩れ込んでしまう。

幻想郷は今、神々にとっての聖地の様な場所になっている。

恐らく穢れはその聖地を落とす事で神々の士気を落とす算段なのだろう。

それだけはなんとしても避けたい。

 

 

「我らはここに止まり、出来るだけ時間を稼ぐのです」

 

 

私の言葉に神々は私に跪く。

 

 

「御意、これより我々は死兵となり、ここで敵を止めまする」

 

 

すまない

仕方のない事とはいえ、私は心の中でそう謝罪する事しか彼らに出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散発的に敵を退けつつ後退する事五日。

とうとう私たちの前に押し寄せて来る、天地を埋め尽くす黒、黒、黒。

穢れの大軍が私の視界を埋め尽くしている。

私の予想通り、敵は総力戦を選んできたようだ。

 

 

「天照様」

「どうしましたか、伊弉諾」

「もしもの時は幻想郷までお逃げください。その時は私の部下が血路を開く故」

「馬鹿者」

「いたぁ!?」

 

 

今更抜かした事をほざく伊弉諾の頭を扇子の腹で叩く。

 

 

「まったく……伊弉諾はそんなに私の事が信じられませんか。泣きますよ?」

「そいつは勘弁してくださいよ。そんな事されては月夜見達に殺されます」

 

 

身をブルリと震わせ、さも怯えていますというジェスチャーで答える伊弉諾。

そんな伊弉諾を他の神々が茶化す。

図らずに皆の緊張が解れていくのが私には分かった。

 

彼らの装備は先ほど私が全て直しておいた。

怪我も同様である。

更に彼らの士気も十分に高い。

準備は万端だ。

 

私はふと、遥か昔に見た映画を思い出す。

スパルタ先遣隊三百人とペルシア軍百万人の戦いを描いたテルモピュライの戦いをモデルにしているあれである。

このペルシア軍の兵士の数は歩兵だけでもこれの二倍であったとも、実は翻訳ミスで桁が一つ間違えて本当は十万程であったという意見もあるが、そんな事はどうでもいい。

私が感銘を受けたのは、少ない味方と共に大軍に立ち向かったその勇気だ。

しかしその時の私は、同様の立場に放り出されたら恐らく恐怖で逃げ出すだろうなと思った、思っていたのだ。

 

しかし今の私はどうだろうか。

少なくとも、今この時は恐怖を感じてはいない。

私の周りに控える伊弉諾達、彼らはこう見えても穢れ相手にずっと戦い続けているスペシャリストだ。

なんと頼もしい者たちである事か。

そんな練度も士気も高い彼らと共にいて、どうして私が恐怖など覚えようか?

きっとレオニダス王も同じ心境だったに違いない。

 

 

「傾注」

 

 

私の声に皆が耳を傾ける。

 

 

「まずは全軍でもって制空権を取れ、上を取れれば流石にすぐにやられる事は無いでしょう」

「天照様は?」

「地上の穢れを抑えます」

「お、お一人で?」

「一人ではありませんよ」

 

 

ふわりと私の肩に一体の人形が降り立つ。

私はその人形の頭を撫でた。

 

 

「私には彼らがついていますから」

 

 

ふわりと自身の身体を浮かせて穢れの大軍を見据える。

 

 

「戦端は私が開きます、私の攻撃後に突撃してください」

「「「応!!」」」

 

 

私は脳内に記憶しておいた術式、魔方陣の一つを引っ張り出して行使する。

魔方陣は彼らの神術の行使だけでなく、私の術式の発動の短縮にも役に立った。

既に行程などを魔方陣に書き込んでいるのであとは術を唱えるだけである。

私の後ろで巨大な魔方陣が現れる。

その魔方陣を私は二個、三個と転写、計八個の巨大な魔方陣が光り輝く。

 

 

「略式、多重転写……『エニ・レマ・サヴァクタニ(神よ、何故我らをお見捨てになられたのか)』!!」

 

 

八つの魔方陣より光の暴力が解き放たれる。

盛大な爆音と空気を大きく震わせながら八つの光の柱が天地を埋め尽くす穢れの軍を襲う。

轟音が起こり、多くの穢れが滅されたにも関わらず、穢れの歩みは止まることは無い。

出来れば怯んでくれれば良かったのだけれどもそう簡単にはいかないか。

 

 

「我らの興亡ここにあり……行くぞ、同胞たちよ!!」

「「「応!!」」」

 

 

伊弉諾達は私の指示通り彼らの戦場へと飛び出して行く。

死ぬな。

私は心の中で祈る。

 

 

「ふぅ、ふぅ……もう一度です」

 

 

私の中の神気が溜まるのを待って私はもう一度伊弉諾達を援護するように撃つ。

 

 

「薙ぎ払え!!」

 

 

意図せず巨〇兵を叱咤していたあの人のセリフを言ってしまったが、やはりそれはフラグで、王蟲……じゃなかった、穢れの歩みはやはり止まらない。

穢れがすぐそこまで迫る。

 

 

「『破軍』『護軍』一列に構えよ!!」

 

 

掛かれ

 

 

私の号令と共に突撃する人形たち。

私も方天戟を持って穢れの群の中に飛び込み、腕を振るって一薙ぎ。

それによって、私の目の前の空間が少し開ける。

振るった戟を引き戻し、目の前に迫る穢れを穿つ。

 

払う、穿つ、薙ぐ、突く

 

無心に、本能的に、獣の様に戟を振るう。

ひたすら腕を振るって敵を屠る。

寄らば斬る、寄らねば寄る。

まるでその言葉を体現しているかの様に私は穢れに襲い掛かる。

『破軍』も『護軍』もそんな私に続くように奮戦するが

 

 

「……っ!?」

 

 

今、私の人形の内の一体が喰われた。

そしてその事によって私の脳が焼き切れるような錯覚を起こす。

頭を抱える私を見て、穢れが私に襲い掛かる。

 

 

「イマダ、カカレ!!」

「ちっ!!」

 

 

痛みを我慢し、襲ってくる穢れに方天戟を投げつけて屠る。

しかし私の手に獲物が無い事をチャンスと感じたのか、全方向より穢れが襲い掛かる。

それから逃れるように地面を強く蹴って空へと高く跳躍、四次元空間を開いて数十もの武器をセットし

 

 

「喰らいなさい、『(つわもの)達の墓標』!!」

 

 

下に集う穢れ達に射出した。

 

 

響く絶叫。

間違いなくそれは下にいた穢れ達から発せられた悲鳴だ。

しかし私はその悲鳴に耳を傾けない。

傾けてはいけない。

何となく……何となく穢れがなんであるかが分かったから。

私は耳を傾けない。

 

 

私は着地して地面に刺さっている剣の中から無造作に二振り握る。

再び襲い掛かる穢れ達。

私は二振りの剣をそれぞれ先頭の穢れ二体に投げつける。

その絶命した先頭の一体が倒れる前に接近して掌底で一撃。

それによって吹き飛ばされた穢れによってその後ろにいた穢れ達も吹き飛ばされる。

もう一体の絶命した穢れから剣を引き抜いて振るう。

投げつけ拾う、振るって刃こぼれ、拾って振るう。

 

 

 

 

 

もう何体斬ったのか分からない。

終わることの無い戦いは、徐々に私の身体に疲労を蓄積させる。

 

 

「ムヤミニチカヅクナ、ハナレ、カコミ、ソシテイコロセ(射殺せ)

「!?」

 

 

穢れ達が私の傍から突如離れ、私をぐるりと囲むように鏃を構えている穢れ達が私の目に映る。

そして私が驚く暇も無く、それは放たれた。

 

 

「白嶺結界……くっ」

 

 

咄嗟に張った結界。

そのせいか、強度が十分とは言えずに絶え間ない鏃の弾幕にミシミシと結界が悲鳴をあげる。

しかし結界に向ける意識を逸らして違う術を使えばたちまち結界が壊れてしまう。

このままでは……

次善手で包囲の外にいる人形たちに包囲を攻撃するように指示を出すが、統率された穢れ達が行く手を阻んで崩す事が出来ない。

流石の千鶴も奥の手の使用を覚悟する。

しかし結界が壊れる寸前、包囲の一部の穢れ達が爆発と共に吹き飛ばされた。

 

 

「天照様、ご無事ですか!!」

「月夜見?」

 

 

包囲を破って現れたのは月夜見と鎧を被った一団である。

 

 

「『神術・爆砕』!!」

 

 

私直伝の神術を月夜見が唱えて穢れを一掃。

周囲の安全を確保して私の許に駆け寄る。

 

 

「ご無事ですか、天照様!!」

「助かりました月夜見。それにしても思ったより早かったですね」

「はい、あと数刻もすればゼウス様が本隊四万の軍を引き連れてくるかと」

「本隊?ではあそこにいる者たちは一体……」

「お初にお目にかかりまする、天照様」

 

 

月夜見の傍にいた槍を持った男が跪き、私に声をかけてくる。

男を見て私はすぐに気づいた。

 

 

「お主、人間か……」

「左様でございます」

 

 

神気の代わりに溢れ出す気、この男は一団の中でその気が一番高いのが見てわかる。

この男たちから発せれらているこの気は何だろうか?

その事を月夜見に聴いてみると、その気は霊気というもので、人間が持つ、神が持つ神気の様なモノだそうだ。

 

 

「我々は月夜見様の要請を受け、天照様の身を案じ、助勢に駆け付けた次第で御座います」

「建前は良い、本音は何だ」

 

 

腹に一物も二物も抱えていそうなこの男、それだけの理由でこれだけの人員、ざっと数えて三千人程の人間をポンと動かせるはずがない。

 

 

「穢れを滅することが出来れば、我々は穢れに怯えて生活する事は無くなり……」

「騙し通せるとでも思うたか?」

 

 

嘯く男にイライラしながら問いただす。

男も隠すのを諦めたのか、面をあげて私に告げる。

 

 

「穢れ撲滅は確かに我らの悲願ではありますが、天照様にはその寛大な御心を持って我らに加護と土地を頂きたく」

「綿月、貴様弁えて物を言わないか!!」

 

 

成程、私に彼らの神となって厄災から彼らを護れと。

気持ちは分からないでもないけど、神々がそれを聞いてなんと思うか……

多分月夜見みたいな反応をするのだろう。

 

 

「確約は出来ないが、出来るだけ要望には応えよう」

「天照様!?」

「ありがとうございます」

 

 

しかし神に物おじせずに受け答えできる男の、綿月の気概は、先ほどはイライラしたが認めないでもない。

私は四次元空間より一本の槍を取り出して綿月に差し出す。

 

 

「その槍では役不足だろう、これを使いなさい」

「……有難く」

 

 

槍を受け取った綿月は槍を一振りして頷く。

 

 

「いい槍です……」

「槍活躍、期待していますよ」

「御意、必ずや」

 

 

そう言って戦列に戻っていった綿月、顔が少し嬉しそうだったのは黙っておくことにする。

 

 

「では月夜見らはここに止まり、地上部隊を出来るだけ食い止め、可能ならば伊弉諾の援護を」

「分かりましたが、天照様はどちらに行かれるので?」

「敵の大将らしき者を発見したので、それを討ち取ろうかと」

 

 

人形の何体かを高高度に配置して、ばれない様に敵の動きを観測していたのだが、意外と前の位置に大将と思しき者がいるのを発見したのだ。

というか、よもやそんな位置にいるとは思わなかったので、発見が遅れてしまったのだが。

 

 

「なので月夜見、ここは頼みます」

「かしこまりました」

 

 

頭痛を伴ってしまい、長時間の使用にリスクを伴う『破軍』『護軍』の意識直結を解除して全て四次元空間に引っ込めて、広範囲神術を組む。

先ほどまで余裕が無くて組めなかった術も、月夜見達に守られている事で余裕をもって組む事が出来る。

 

 

「『天地創造・土流葬』!!」

 

 

目の前の穢れの大軍を四方囲むように周囲の大地が隆起していく。

そして50メートル程隆起した大地は、囲まれた穢れに覆いかぶさるように襲い掛かり、穢れ達を生き埋めにした。

これで、何者にも阻まれる事無く大将の下に行けるだろう。

 

 

「月夜見、後は任せましたよ」

「御意」

 

 

私は月夜見らを残し、敵の大将がいるであろう方向に急ぐ。

空は今日もまた黒く、暗く曇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地ノ年16年 雨月

 

綿月クガチ、ツクヨミノ要請受ケ、臣、冷泉ラヲ従へ、穢レ、コレヲ討ツ為二ススム。

アマテラスオオミカミ、之、大イニ感謝ㇱ、綿月クガチ二自ラノ槍ヲ下賜ス。

(中略)オオミカミ、土地ヲ与フ。

 

 

           ○○社歴史教科書P17資料より 『綿月家家録』人妖大戦記録より抜粋

 




ども、bootyです。


パソコン修理に時間が掛かり、更に作っていた今回の話も1から書き直していたので投稿するのが遅れてしまいました。
誠に申し訳ありませんでした。

今回の話は10000文字超えたあたりで「あ、これ終わらね(;´・ω・)」と思いまして分割する事に。
後編はまだ執筆中ですが出来るだけ次回は早めに投稿したいと思っています。




それではまたの日のあとがきで


9月9日 本文訂正
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