友人「凄く……訳わからんです」
私「(;゚Д゚)」
9月10日タイトル変更
戦場には雨が降っていた
強い、横殴りの雨が私の顔にかかり、私の視界を遮る。
思わず雨で濡れきった顔を手で拭った。
寒い……
ずっと動き続けているにもかかわらず、私の身体は冷えきっている。
ギュッと強く刀を握る。
滑って刀を落とさない為に。
寒い……
私の前には穢れの壁が立ちふさがっている。
邪魔だ。
私は刀を水平に構える。
「邪魔をするな」
私の言葉に穢れ達はじりじりと後ずさりはするが、私の前より退こうとはしない。
「そこを退け」
再び私は告げる。
構えた私の刀から、パチパチと威嚇するように電流が迸るのが分かる。
それでも穢れは退いてはくれない。
まあ当然か。
「ならば押通る、『雷切』!!」
ぱぁん、と高圧電流が弾けた時の様な音が周囲に響いた時には、私は穢れの壁を通り過ぎて向こう側に立っていた。
対して技を受けた穢れ達、振り返れば壁として立っていた穢れ全て黒ずみとなっていた。
縮地の応用技『雷切』、刀に高電圧の電流を流して縮地で相手に接近しつつ刀を振るうだけの技なのだが、生物という電気伝導体相手に使えば問答無用に感電するし、今日の様な雨の時に使えば……うん、後は分かると思う。
それはさておき、あれから大量の穢れに阻まれて時間を思ったより喰ったが、漸く穢れの大将の所に来られた訳だ。
眼に垂れて視界を遮る前髪を掻き揚げて前を見ると、床几に座った小柄の穢れがぽつんと一人でこちらを見つめている。
これが穢れの大将か……
思っていたよりも案外普通だな。
穢れの大将と言うくらいだから、私はてっきり巨大な化け物みたいなものを想像していたのだが。
「
老いて掠れた様な声が私の耳に届いた。
其も方って、古風な……
「ヨク……ヨクココマデ来ラレタ、神々ガ長ヨ。大シタモテナシハ出来マセヌガ、ユルリトナサレヨ」
床几から立ち上がった彼は、腰に差していた刀をゆったりと抜刀する。
おもてなしってそっちですか。
私は内心でそんなツッコミを入れつつ気を引き締める。
こいつを討ち取れればおそらく私たちの勝ちである。
この大軍を指揮できるブレインがまた別にいるのなら話は別だが、観測した中でそんな動きを見せた個体はいなかった。
まあいたとしても、その時は総大将を討たれたことで敵軍の士気を大分削る事が出来るだろう。
「物騒ですね。そんなモノを取り出しながら「ゆるりと」なんてできませんよ?」
「コレハ失敬。生憎
「そうです……か!?」
強烈な殺気。
気づけば彼はいつの間にか私の前で刀を構えていた。
彼との間合いは十メートル以上もあった筈なのに、彼が私の懐に入り込むのに気付けなかった事に私は驚いた。
振るった刀は間違いなく私を捕えている。
慌てて私は身体を後ろ……いや前に飛んで彼と身体を密着させた。
身体を密着させることで、私は彼の刀を振るう事の出来る空間を殺す。
彼もそれには驚いたのか、「ホウ……」と声が漏れたかと思ったら私の身体は彼の掌底で後ろに突き飛ばされた。
受け身を取ってすぐに立ち上がる私は咳き込みながら彼を睨み付けた。
「ヨモヤ……ヨモヤ一ノ太刀デ仕留メラレヌトハ」
素直に感心した声が聞こえる。
ああそうですか、と内心ふて腐れながら刀を構えた。
彼の縮地を視認できなかった事が、千鶴のプライドに火をつける。
「ソレナラ新タナ一ノ太刀ヲ入レルマデ」
彼が構える。
見事な上段の構えだ。
構えただけなのに、それだけなのに、千鶴は彼に気圧された。
まるで山を見上げるような、そんな錯覚を彼に対して覚える。
いけない、いけないと千鶴は頸を振った。
全く……今ここで自分の腕を信じないでどうするか。
「ふっ!!」
相手が動く瞬間に合わせてこちらも縮地。
狙うは胴。
しかしその太刀は、彼に弾かれる。
響く金属音。
刀を返して袈裟斬。
それもまた合わせられる。
逆袈裟。
今度は鍔迫り合いになる。
私は彼に押し負けない様に、彼を押し倒す為にグッと刀を握る手に体重をのせる。
しかし彼はそれを押し返そうとしないどころか私の手を、柄の端を持つ薬指と小指を握って
バキッ
私のそれを折ったのである。
「ちっ」
舌打ちしながら私は一度距離を取る為に彼を蹴り飛ばす。
そして折られた私の指を見れば、それらはあらぬ方向に曲がっていた。
ため息を吐きつつ私はそれを無理やり元に戻す。
痛みはあったがそれだけだ。
ニギニギと、指を開閉して違和感がないかを確かめる。
動かす事には、刀を握る事には支障は無いようで助かった。
すぐにでも治療を行いたいが、今ここで彼から意識を逸らすと一瞬で斬られそうなので止めておく。
もう一度彼の全身を隈なく見る。
洗練された構え。
やはり一切の隙を感じられない。
しかし攻めないと現状は何も変わらない。
隙が無いなら作るまでだ。
攻めきれない事なんてない。
行け。
攻めろ。
相手を叩き斬れ。
強いのは私だ!!
私は彼を斬る為に果敢に攻める。
「はああぁぁぁあぁあぁぁぁぁああぁあ!!」
「フン!!」
「ぐはっ!?」
ヤーラーレーター、ドサッ
アホー、アホー……………
「っ!?」
私が斬られて殺されるデジャヴを見て、踏み込みそうになった私の脚を慌てて止める。
何だ、今の阿呆なイメージは……
奴の妖術か何かか?
「其モ方ドウシタ、我ラヲジット見テ?」
うん、どうやら違うなこれは。
何はともあれ、踏み出さないで正解だったな。
多分踏み込んでいたら先ほどのイメージが現実になっていたかもしれない。
焦って蛮勇をする必要は無い。
さてどう攻めるか?
いや、ここは待ちの一手でも良いかもしれない。
態々こちらから死地に飛び込む事はないのだ。
「来ナイナラ我ラカラ行クゾ」
痺れを切らしてやはり斬りかかって来る彼。
脳内の処理速度を加速させて体感速度を遅らせる。
今度は剣筋がはっきりと見えている。
斬り合う
ヒュンヒュン、と風を切る音が耳を掠める。
頬が切れる。
服が裂ける。
それでも私は気にせず打合う。
何だ、落ち着いて斬り結べばちゃんと打合えるじゃないか。
私たちはそのまま十合、二十合と打合い、そして三十合に差し掛かる寸前
バキンッ
「えっ?」
「ムッ?」
二人の刀が同時に折れた。
私はすぐさまその場から跳躍して離れ、四次元空間より新たな刀を取り出して抜刀する。
「?」
新たに握った刀に私は違和感を覚えた。
疑問に思って、私は刀を振ってみる。
ヒュン
「ん?」
ブォン、ブォン
「おっ」
太刀筋が以前よりずっと良くなっている。
手に刀が良く馴染む。
刀は羽毛の様に軽く、己が手先と一体化しみたいな感覚。
振りたい所に、止めたい所に刀がよく動く。
「其モ方ノ刀……イヤ、其モ方ト言ウ刀ハ未ダ完成シテイナイ。故二鍛レバ鍛エルホドヨリ鋭ク、美シク輝ク。ソシテ其モ方ノ在リ様ハ、マルデ血ヲ求メル冷タイ抜身ノ刀ソノ物」
私が振るっているのを邪魔せず見ていた彼は、私をそう評価した。
「抜身の刀……」
「刀ハタダ人ヲ斬ル為ニダケニ在ル刃物、刀ハ刀ヲヤメル事ハ出来ヌ」
彼が折れた刀を構えると、ビデオの逆再生を見ているかのように刀が元通りになる。
「私は……」
「サテ其モ方、ソロソロ
彼の言葉が遠く聞こえる。
只々、グルグルと彼の言葉を脳内で反芻する。
私が刀を握る意味。
私が戦う意味。
私は、私は一体何の為に剣を振るっているのだ?
幻想郷を、世界を護る為か?
違う。
何かが違う、しっくりしない。
私が、私が戦う意味は……
「若イナ」
俯いたまま動かぬ彼女。
今我らが斬りかかれば確かに斬り伏せる事が出来るが、それではつまらん。
花を摘むのは満開の時に限る。
「あ……うあ」
そうだ、花開け。
そして我らを越えてみせろ。
「う……ULAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
彼女が天に向かって吠えている。
狼が遠吠えするかのように。
何かを吐き出す様に。
そうだ。
見せてみろ、其も方の内なる獣を引き出してみろ。
そうして本能がまま刀を振るうがよい。
「AAAAAAAAAAAAAAAA、げほっ、げほっ……ふうっ、叫ぶとすっきりしました」
「ハ?」
彼女から闘気が消えていく。
獣に堕ちるかと思われた彼女、「おや、どうしましたか?」と言ってクスクスと笑いながら我らを見ている。
「気ヅイタノダロウ、己ガ本能二……ナラバ其モ方ハ何上平然トシテオラレルカ?」
「ええ気づきましたよ、己が本能に、そして稚拙な我執に。そして私は戦うのが、斬り合うのが大好きですよ!!」
天に両腕を挙げて宣言する彼女。
ならば何故だ?
我らと其も方とは一体何が違うというのだ。
「私は俗物。己が矮小さを改めて思うと、クク……本当に笑いが止まりませんよ」
「ソウカ」
とんだ期待外れだった。
彼女は自らの獣を侮蔑して、押さえつけて、理性を取り戻したのか。
なんとつまらないものか。
「ツマラン、ツマランナア」
怒り
我らの内より怒りがふつふつと湧き上がる。
こんな奴に期待した我らが間違いだったのか。
「つまらない?私は楽しいですよ」
「ナニ?」
「どれだけ強いか計り知れない。己の全てをぶつけても勝てるかどうかーーーーーーーーそんな相手だけがまだ見ぬ自分を引きずり出してくれる。そんな相手に漸く会えたのだから」
「其モ方……」
「千年……千年振るってきた私の刀。漸く見つけた私の全力の太刀をぶつけられる貴方は、私にとって宝の様に見えます」
彼女は言い終わると刀にそっと手を添えた。
「天照大御神、白嶺千鶴と申します。いざ尋常に」
消えていた彼女の闘志が再び湧き上がる。
先ほどよりも大きな闘志、それを見て我らの身体がブルリと震える。
無論武者震いだ。
訂正しよう。
彼女が我らを宝と言うように、我らにとって彼女は宝だ。
「我ラニ名ハ無イ。我ラハ全デアリ1デアル……ガ、アエテ名乗ルノナラバ
名乗り合い。
武士として一騎打ちを行う時の礼儀の一。
平然を装いながら、心の中で喚起する。
当然だ。
我らも、私もこういう死合をずっと望んでいたのだから。
「デハ、ヤルカ」
我ら……私の言葉に彼女が駆けだす。
「ホウ!!」
何故だ!?
彼女が獣にしか見えない!!
いや成程、理性で内なる獣を押さえつけたと思っていたがその実、己が内の獣を受け入れて飼い慣らしたか!!
見事だ白嶺殿。
理性と本能の融和。
それが出来る者が如何ほどいるか。
彼女は我執と呼んでいたのは強さの優劣の事を指しているのだろうが……見ろ
彼女の顔には何の色も無いではないか!!
彼女の言っている我執に囚われているのならそんな顔出来る訳も無く、そんなモノ既に遥か後方に置き去りにしてしまっているではないか、嘘つきめ。
斬る為に刀を振るうのではなく、刀に振るわれるのでもなく、彼女は全身全霊でただ斬る事の裡に在る。
命の奪い合いである筈の今この瞬間に、よもや白嶺殿がそのような悟りに至るとは思いもしなかった。
だが、惜しい
まだその一太刀……浅いかな
まだ幼さが残るその太刀では我らを捕える事はできん
名残惜しや、白嶺殿
上段からの一太刀。
私はクッと足を止め、鼻先でその太刀を躱す。
獲った
そう確信した私の視線の先に白嶺殿の目が映る。
じっと私の顔を無表情で見つめる視線に私は驚く。
だからだろうか。
白嶺殿の振るった刀が手元でクルリと返されている事に気づく事が遅れたのは。
本命はこっちか!!
「ぐっ……」
痛みと共に、本能気味に傾いていた私の意識を覚醒していく。
そしてザックリと彼が振るった刀が私の肩に食い込んでいる事に今更気づく。
思わず二歩、三歩と後ずさって肩を抑える。
私は負けたのか?
「オ、オオオォォォオオォオォォォォオオオォオ!?」
私の疑問に答えるような悲鳴。
穢れの大将、上田左衛門左勝信は下腹部から頭にかけてまで真っ二つとなっていた。
「勝った……」
私は勝った。
それなのに何故だろう……ちっとも嬉しくない。
むしろ悲しいとさえ思える。
「オ、己ガ……己ガキ、キ、斬ラレタノハ……躱ソウナドト、ウ、ウ、上手クヤロウトシタ結果……ツマリ、過信カ」
「……上田殿」
「ヨイ、ヨイノダ白嶺殿……」
我らを斬ってくれて有難う
「……」
上田殿はそう言い残して私の前から消えてしまった。
私はその言葉の意味を理解して思った。
私は今、何を斬った?
「うっ……!?」
私は吐いた
私が今まで斬っていた穢れの事を思い出して嘔吐く。
穢れとは、死んだ生きとし生けるものの恨み、辛みが集まってできたモノである。
そんな感情を抱く生き物は数限られている。
人だ
ならば私が今まで斬って捨ててきた今までの穢れ達は全て……
「そんな」
本来は気に病む事ではないのだろう。
寧ろ彼らの言葉の通り、穢れという存在に囚われている彼らを斬って解放する事は褒められた事なのだろう。
それでも、私は……
「「「オオオオオオオ!!」」」
「っ!?」
弱っている私を見てチャンスと思った穢れ達が私に襲い掛かる。
未だ立ち直れていない私は身体に鞭打って、フラフラと立ち上がって刀を構えるが
「『ミットナイトバード』!!」
「『パーフェクトフリーズ』!!」
闇と氷の暴力が私を囲っていた穢れを襲う。
それを見て私は安堵のため息を漏らした。
本隊が、ルーミア達が間に合ったのである。
「母さん、無事ですか!?」
「千鶴姉ぇ大丈夫!?」
「なんとか生きています。チルノ、ルーミア、よく来てくれました」
「一先ず母さんは下がって頂戴。これ以上は母さんが持たないわ」
「ええ、ありがとうルーミア」
確かにこれ以上の戦闘の継続は肉体的にも精神的にも無理だろう。
私はルーミアの言葉に甘えて下がる事にする。
ああ、その前に……
「ルーミア」
「なに?」
「私は泣いていますか?」
私のおかしな質問に目を丸くするルーミア。
彼女はじっと私を見て首を横に振った。
「そうですか……」
こんな時に泣くことも出来ないなんて私はなんて薄情なのだろうか。
そんな事を考えていたからだろうか、ルーミアが心配そうに私を見つめていた。
「母さん……」
「心配しなくてもちゃんと下がりますよ。やる事やってからね」
刀を振り上げ、私は後続に続く神々に届くように声を張り上げた。
「穢れが大将上田左衛門左勝信、この天照が討ち取った!!鬨を上げよ!!敵が大将、討ち取ったぞ!!」
私の声が戦場に木霊し、戦況は変化する。
神々は歓喜し、士気が上がった。
穢れ達はブレインを失った事で混乱し、士気が下がった。
「天照様が、敵が大将討ち取った!!」
「穢れが大将は死んだぞ!!」
「今が好機、すわ掛かれ!!」
「「「おおおお!!」」」
ここまで広まれば充分だろう。
私はすぐに踵を返して後方に下がる事にする。
ふと、私は空を見上げる。
そこには未だにやむ事を知らない雨。
「雨よ、どうか私の代わりに泣いてくれ」
私は空に向かってそう呟くのだった。
穢れの大軍はあの後、ブレインを失った事で統率を失って散り散りになって逃げていった。
それを見た私は、逃げていく穢れを遠距離からの殲滅に徹底するよう指示を出して後はゼウス達に任せる事にした。
遠距離からの殲滅を命じたのは窮鼠猫を噛むという言葉があるからであるが、だからと言ってここで一網打尽のチャンスを逃すのは拙い。
そして接近戦を避けさせるのは、距離が取れて回避のしやすい遠距離の方が兵の消耗を減らせるからである。
それと私と共に突撃した伊弉諾の部隊、生き残って帰ってこられたのは伊弉諾を含めて二百名もいなかった。
その二百名も命に係わる重症の者が大半だったが、私の治療によって何とか事なきを得る事が出来た。
しかし帰ってくることが出来なかった千八百名の神々。
彼らを殺したのは間違いなく私だ。
しかし、だからと言って彼らに謝罪するのは恐らく間違っているのであろう。
だから私は彼らの冷たくなってしまった身体に頭を下げて感謝した。
「戦ってくれてありがとう」と。
すると彼らの身体は光の粒子となって天に昇っていった。
その時に、彼らが私に笑いかけてきたのはきっと気のせいではないだろう。
そして恐らく、この時の私は身体も精神も限界が来ていたのだろう。
私の意識はそこで途切れた。
「ごめんなさい」
暗闇の中、私は懺悔した。
今更許される事ではないのかもしれない。
それでも私は彼らに懺悔する事しか出来なかった。
「ごめんなさい」
何度目か分からない
暗闇の中で私は膝を抱えたまま呟く。
「なあ、いつまでそこにいるのさねぇ?」
暗闇の向こうから男の声が聞こえてくる。
私は唐突に投げかけられたその声に驚く。
懐かしいその声、間違いない。
「久しいですね、ワタシ」
「そうだな」
「何か用で?」
「何も……まあ強いて言うならば、世間話にでも聴きに来たのさ」
「本当に?」
「私に嘘ついてどうする?」
「そう……ですね」
本当は何しに来たのか。
疑問に思いこそすれ、私はそれを彼に聞くことは無かった。
それから私は、生まれ変わってから私の身辺で起こった事をぽつぽつと話し出す。
対して聞き手のワタシは本当に聞いているだけで、たまに「そう」とか「ふーん」とか相槌を打つだけで何も言ってこなかった。
しかしそれはそれで気が楽だった。
只々一方的に話して、一方的にそれを聞く。
長時間そんな関係が成立するのは私であり、ワタシである故か。
ひとしきり話し終えた私はふうっ、とため息を吐いた。
「ありがとうございます、幾分か楽になりました」
「そうか、そいつは上々」
沈黙
本当に彼は話を聞きに来ただけだろうか?
試しに私は少し面を上げて、ワタシに問いを投げかける事にした。
「……私はどうするべきだったのでしょうか?」
「いくらなんでも唐突過ぎるだろ。まあいいや……よし、おじさんが無い知恵絞って答えようじゃねえの」
そんな私のセリフに思わず吹き出しそうになる。
確かに私が生前言っていたセリフではあるが改めて聞くと……ぷっ
「笑うなよ、泣くぞ」
「そこで拗ねるところなんて本当に懐かしいですね」
「そうかい……そろそろ本題に入っていいかね?」
「ええどうぞ」
「穢れの正体を知らずに討っていた事だが、はっきり言ってお前さんが悪い」
「っ、言ってくれますね」
「私だからな……穢れの正体を知らずに討伐した事は、ちゃんと彼らの正体を知った上で、調査した上で討伐すればよかったものだ。完全にお前に非がある」
「うっ」
「相手の事を何も知らずに相手を嫌う事は
そうだ。
私はいつの間に忘れていたのだろうか?
「そんなスタンスさえ忘れていたのですね、私は」
「いいんじゃないの?」
「へ?」
「あのなぁ、いつまでもこんな所でウジウジしているんじゃねぇよ。全ては終わった事なんだ。やり直す事は出来ないのさ」
「しかし私は……」
「まあ反省するなとは言わないけどさ、いつまでも下ばかり見て前に進まないのは失敗を恐れる臆病者だ」
「それは……そうですね」
「確かに私が今までやってきた事が許される事かと問われたら、
そんな彼の冗談に私は首を横に振る。
ここで責任を取って自害。
そんな事は逃げでしかないのだ。
「そうだ、それは逃げだ。肝要なのはそれを如何にして次に繋げる事だ」
「次に……」
「失敗しない人間なんていない、人は誰でも大なり小なりの失敗はしているものだ」
ただ真っ直ぐに、一本の道を進む者はそりゃあ美しいだろうな
でもさ、誰だってそんな綺麗な道を通れる筈がねぇんだ
皆、迷って、間違って、転んで、回り道しているんだ
それでいい
不安だったら試しに振り返ってみるといい
あっちにぶつかって、こっちにぶつかって迷いに迷ったお前の道は
きっと誰よりも広がっているさ
「……」
「柄にもない事言ったな。笑っていいんだぜ」
「ふっ」
「鼻で笑った!?」
彼の言葉を聞いて、私の心はスッと楽になる。
例え私の罪が許される事が無いとしても、私は彼の言葉を免罪符として生きていこう。
私は暗闇の中で立ち上がり、一歩前へ。
そして暗闇など邪魔だとばかりにそれを払うと、辺りは一変して白一色になった。
そしてそんな私の前には若かりし頃のワタシが立っていた。
「よ、気分はどうだい?」
「ええ、頗るいいですよ」
「そいつは上々」
そう言って笑いながら私に背を向けるワタシ。
どうやら時間の様だ。
「行くのですか?」
「ああ、皆が待っているからねぇ。これ以上留まっていると輪廻転生の輪にのれなくなっちまう」
「そうですか」
「これからはお前の人生だ、どう生きようと、考えようと、感じようとお前の勝手。今回は最初で最後のお節介だと思ってくれ」
ゆったりと私から離れていくワタシ。
そのまま行ってしまうかと思っていた彼は急に思い出したように「ああ、それと」と言って私に振り返った。
「あの穢れの大将、上田某の言っていた事は気にするな。どうしても不安なら、お前を収める事の出来る鞘を探せ」
「他人を頼れと……ワタシに出来なかった事を今更私に押し付ける気ですか?」
「は、違いないな。まあ取り敢えず……」
そう言い残して世界に溶けていくワタシ。
そんな彼の後姿を只々私は見送るだけだった。
気づいた時には私は布団の上で横になっていた。
はて、いつの間に私は眠っていたのか?
そんな疑問を抱きつつ、私はやけに重い身体を起こした。
辺りを見渡せば確かに私の家の部屋である。
「誰か、誰かある!!」
一先ずあの後どうなったのかを知らないといけないだろう。
そう考えていると、どたどたと廊下を走る音が響いたかと思うと、部屋の襖が盛大に開かれた。
「千鶴姉ぇ!!」
「にゅ!?」
勢いよく私に抱き付いてくるチルノ。
そのせいで私の首が締まって思わずおかしな声が漏れる。
ミシッ
あ、今背中からアカン音なってもうた。
一先ずチルノには落ち着いて私から離れる様に言っておく。
「千鶴さん!!」
次に部屋に飛び込んできたのはウカノ。
私を見るなりそこにへたり込んで涙を浮かべる。
「よかった、本当によかった……」
「ご心配をおかけしました」
「本当ですよ、もう目覚めないものかと……一か月も眠ったままで、心配したんですからね!!」
マジか。
確かにそれは眠り過ぎだろう。
まあそれにも理由があったらしく、穢れの大軍の中心で無双乱舞していたせいで穢れの死体から発せられる瘴気を吸い過ぎ、私の身体に害を及ぼし、今の今まで昏睡していたという事らしい。
「そういえばルーミアは……」
「そういえば……ルーミアはずっと千鶴さんの看病をしていた筈なのですが」
「母さん」
「「「!?」」」
何故か私の寝ている布団からルーミアの声が聞こえてきた。
そっと私は布団の中を捲ってみると、ルーミアは確かにいた。
目の下に隈を作って、髪もボサボサになって。
「母さん、母さんなの?」
「ええルーミア、私はここにいますよ」
「母さん……」
ギュッと私をつかんで離さないルーミア。
そんなに心配してくれていたのか。
有難く思いつつも、ここまで彼女を追いつめてしまった私の至らなさを恥じた。
私は謝罪の意味を込めて、彼女の髪を撫でた。
「よかった……私の心配が杞憂で終わって」
「何の話ですか?」
「ううん、何でもないわ」
そう言ってそのまま瞼を閉じるルーミア。
今まで寝ずに私の看病をしていたのだから限界が来ていたのだろう。
私も体力が回復しきっていないので、今暫し眠る事をウカノ達に伝えて退出してもらった。
私は隣で眠るルーミアの髪を撫でながら、ふと立て掛けてあった私の刀が目に入った。
刀
私にとって刀とは何だろう?
敵を屠る為の只の凶器か?
護りたいものを護る為の道具か?
「分からない」
そして今日もそれに対する解を見つける事が出来ずに今は只、己が睡魔に身を委ねるだけであった。
ども、bootyです
今回は難産+訳わからない回になってしまいましたが、これも作者の文章力が無いせいでありまして……はい、すいません。
できるだけ次回からは読みやすい物を書こうとは思っていますので暖かい目で見守っていてください。
次回は一旦幕間を挟もうかと思っているのでえーりんはまだ出せませんがこれからもこの小説を宜しくお願いします。
本編補足
・穢れ
死んだ生きとし生ける者達の恨み、辛み、それらが集まって出来たのが穢れであって、追々出てくる妖怪とは根本から成り立ちが違う存在となります。
穢れを構成しているのは色々な生物の意思ですが、知的生命体であり、自我のある人が主として表に現れているので幾ばくかの知能があってかなり手強いです。
まあ、パワーバランス的には神々>>穢れ≧霊力を持つ人間なのですがね。
・上田左衛門左勝信
穢れの大将の人格の一つ。
大将を構成する者たちは皆刀に生きた侍であり、それぞれ不名誉な切腹をさせられた、腕は立つがそれを振るう機会が無かった、若しくは鉄砲で撃たれて死んだ等で無念を残して死んでしまった者たちです。
その中で上田は最も腕が立ち、軍略にも長けていたので主の人格として表れていた訳です。
・ルーミアの杞憂
確かに千鶴は己の罪に押しつぶされて壊れてしまう可能性はありましたが、生前の彼との邂逅を経て、立ち直る事が出来た事で、壊れる事無く目覚める事が出来た訳です。
一応補足しておくと、千鶴を取り巻いていた暗闇は穢れの瘴気という位置づけです。
それでは、またの日のあとがきで……