モモンガさんはナザリックでスローライフをおくるようです   作:名無しちゃん

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幕間 アルチェル・ニズン・エイク・フォンドールの手記

 ボウロロープ候に呼ばれた。候は言った。

 

『これは私怨ではない。あくまでも王国の為である』と。そして王国領内のトブの大森林にて未知の墳墓が発見され、ラナー王女の提案により蒼の薔薇が調査に派遣される事になったこと、儀典官として同行し蒼の薔薇の邪魔をしてあわよくば成果を横取りすること、を命じられた。

 

 最後にボウロロープ候は重ねて言った。

 

『これは私怨では決してないのだ。すべては王国の為であるのだ』

 

 こうして念を押されなければこの私もてっきり私怨によるラナー王女への嫌がらせととったかもしれぬ。なにしろ先日ボウロロープ候は自分の息子との婚姻をラナー王女に手酷く断られたばかりだったのだから。

 

 ボウロロープ候は更に『成功の暁にはより一層の取り立てをしよう』と約束してくれた。これで張り切らない理由がない。

 

 

 

 今にして思えば不幸の予兆があった。蒼の薔薇とは事情があって城砦都市エ・ランテルで合流する手筈だったのだが、そのエ・ランテルでアレに出会ってしまったのだった。

 

 

 ドッペルケンガーである。

 

 自分とそっくりな姿の他人と出会うと不幸な出来事が起きる。それは時として死を伴う、と。

 

 近道をしようと共同墓地を通ったのが間違いだった。墓地の中でヤツは立っていた。まるで幽霊のように。

 

 ヤツの顔は鏡で見馴れた骨と皮ばかりの死人みたいな姿だった。私が思わず身を固くするとヤツの隣にいたフードを深く被った人物が呟いた。

 

「……行くよ、カジっちゃん」

 

 二人の姿はやがて霧に消えていった。

 

 

 

 

 実の所、個人的にもアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』に興味があった。なにしろ女ばかりで、しかもそれがことごとく比類なき美女ぞろい、という噂をきいていたのだ。

 

 実際には巨漢の逞しい男と怪しい仮面のチビがいたが、確かに美女が三人もいた。特にリーダーだと自己紹介した女の美しさはかの『黄金』と例えられるラナー王女に匹敵する程だった。

 

 だから私は夜の伽を命じたのだったが……

 

 くそ! あの女めッ! あろうことかこの私を殴り付けてきやがった。女とはいえ、アダマンタイト級の冒険者、私はなすすべもなく顔を腫れ上がらせ、更に手足を縛られ猿轡を噛まされて馬車に押し込まれてしまったのだった。

 

 仕方あるまい。よしんば反撃した所で結局は多勢に無勢、同じ結果になったであろう。しかしながら心の中は怒りで煮えくり返っていた。

 

 クソッ! 見ていろ! いつかきっと屈辱を何倍にもして返してやる。そうだ。屈辱に震える姿を肴に酒を飲もう。

 

 あの高慢ちきな女に屈辱的な格好──そうだ。猫耳と猫の尻尾を付けさせてやろう。そして乳房がこぼれそうなイヤらしい衣装……ウヒウヒウヒウヒヒヒヒヒ…………

 

 

 

 その夜、蒼の薔薇は帰ってこなかった。次の夜もその次の夜も帰ってこなかった。

 

 私は身動き出来ないまま、ただ呻くしかなかった。

 

 空腹を彼女達への怒りで押さえつけていたが、それもそろそろ限界になってきていた。

 

 私の中を絶望が満たし始めた頃、『彼』が現れた。

 

 長髪は乱れ、上等に見える鎧は血で汚れていた。手にした槍は酷く粗末に見えたが、その眼光は力強く並々ならぬ強者であると物語っていた。

 

 『彼』の装備は王国のものでも帝国のものでもなかったが、その時の私にとっては些末な事だった。

 

 ──お願いだ……助けてくれ……私を無事に王国へ返してくれ……報酬ならいくらでも出そう……

 

 私は願いを込めて叫ぶ。猿轡のせいでただのヒイヒイという悲鳴にしかならない叫び声だったが……

 

 『彼』は私のもとにやって来た。そして期待を込めた私の視線の中で──

 

 

 

 

 『彼』は鼻をつまんでみせた──

 

 

 

 仕方ないだろう? 縛られて身動き出来ないまま、数日が経過したのだ。当然、小の方だろうが大の方だろうが垂れ流すしかなくなる。私だってすき好んで垂れ流したわけではない。不可抗力だったのだ。

 

 そんな私に侮蔑の目を向けて、『彼』は去っていった。

 

 

 

 

 心が折れた。人間というものは不幸の最中に希望の光を見出だした後、無残にも絶望に追いやられてしまうと、心が簡単に折れてしまうのだ。

 

 

 いつしか私は涙を流していた。神よ。何故、私はこのような仕打ちを受けなくてはならないのですか? 未開な地で、一人汚物にまみれて死んでいかなくてはならない罪を置かしたのでしょうか?

 

 

 どれ程の時間が過ぎたのだろう。もはや息をするだけの体力しか残されていない私の前に神が現れた。神は『死』の姿をしていた。

 

 

 

 

「おや? 生きているみたいだな?」

 

 私は霞む目で神の姿を追う。『死』を象徴する姿の神は私にポーションをかけた。力が甦ってゆく。

 

 

 と、神の背後に数人の姿を見出だした。──なんという事か──神は私の為に私が死ぬ前にどうしても見たかったモノを顕現させてくださったのだ。

 

 それはあの『蒼の薔薇』の恥ずかしい痴態──私は神の奇跡に静かにひざまづくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私は神のしもべとして王都に戻る事になった。神の教えをひろめる為に。更に私は神より新たな名を授かった。私は生まれて初めて自分の存在意義を知ったのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ようやく出ていってくれたか……あの『おもらし』……体を洗わせても臭いが染み付いているんだよな……」

 

「いっそ、恐怖公の眷属の餌にしても良かったでおりんすに……」

 

「シャルティアは駄目ね。何故、モモンガ様が王国に戻らせたかわからないのかしら?」

 

「……え? いや、単に臭かったからなんだけど?」

 

「モモンガ様。なるほど……あの者にオモラシなる名前をお与えになったのも……」

 

「いやいやいや。デミウルゴスさん。そんな名前、つけてませんって」

 

 守護者達と他愛のない会話をしながら俺はあの臭い男の前途を祈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……モモンガ様、失礼致します」

 

 執務室に一人の死の超越者(オーバーロード)が入ってきた。

 

「おお、コッケイウスさん。先程はご苦労様でした」

 

「お褒めに預かりまして恐悦至極にございます。ところでお借りしました衣装をお持ちしましたが……」

 

 俺は彼の前に手を広げて制止する。彼は第十階層の大図書室(アッシュール・バニパル)に所属するコッケイウスである。

 

「持っていて下さい。また、俺の代役を頼むかもしれないので……まだ、死のオーラの切り方がわからないんですよ。実は……」

 

「……なんと……至高御方にも難しい事がお有りでしたか……」

 

「……一度切る事が出来たんですが、また入れたら今度は切れなくなっちゃいまして……」

 

 コッケイウスは恭しくお辞儀をすると退出していった。

 




番外席次「……なんかアンタ臭くない?」

漆黒聖典「……そ、そんなはずは……」


※少し本文を加筆。死のオーラがうまく切れない事にしましたm(__)m
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